第三話
黄昏迫る頃、セントリノ・シティで一番大きな通りが夕焼け色に染まっていきます。行き交う人々。走り抜ける馬車。子供のはしゃぐ声や商店の呼び込み。遠くの街灯に灯がともり始めました。
「はぐれないように、手ぇ繋いどこうか」
「あ、はい」
サニーさんと手を繋いで歩きます。別に繋がなくてもはぐれることはないのですが、せっかくの申し出を断る理由もありません。ちなみにラファードさんは宿を取りにいっています。荷物まで運んでくれているので、こういうときに男の人がいるありがたみを感じますよね。
「ところで、買い物って? 何を買いにいくの?」
「護身用の剣です。私、魔術師ですけれど、色々物騒なので」
家を出る時に持って出たショートソードがあったのですが、途中の山で巨大な落石を砕いたときに折れてしまいました。六歳の誕生日にもらった思い出の品だったのですけれど、やはり子供用だったのですね。
通りに人は多いですが、私たちはぶつかることなく店を探して歩きます。美少女ですので、周囲の人が道を空けてくれるんですよね。ですから、ほら、角で軽く人詰まりが起きるんです。罪ですね、美しいって。
「ところで、サニーさんはどうして旅をしてるんですか? あと、ラファードさんも」
「アタシ?」
何とはなしに尋ねると、サニーさんは瞳を瞬かせて首を傾げました。
「別に、ラファードと旅してたわけじゃないんだけれどね」
苦笑まじりに言って、少し視線を外します。言いにくい理由だったのでしょうか。考えてみれば南の大陸の民族の特徴を持つサニーさんが、東の大陸であるここ、アントレッグにいるわけですから。ひょっとしたら人には言えない理由があるのかもしれません。
「武術が好きでさー、色々な国の格闘技を見たかったのが旅に出たきっかけ。今は色々極めちゃったから、世界中の美少女を見たくてー」
「……見られるといいですね」
あまり言わなくていい理由でした。私が反応に困っていると、軽く手を引かれて腕と腕を絡められました。私より頭二つは大きいでしょうか。私が少女であることを差し引いても、なかなか長身です。頭に当たる柔らかい感触が、少し不愉快です。
「ラファードさんとは、えっと、どういうご関係なんですか?」
「……元、恋人。若気の至りってやつねー……驚いた?」
「ちょっと、驚きました」
少しだけそんな予感もしましたが、まさか本当にそうだとは思いませんでした。私は少女なので、どういう言葉を返せばいいかわからなくて、ちょっと混乱します。
そんな私の心中を見抜いたのか、サニーさんは笑って手を振ります。
「だからって気にしなくていいよ。腐れ縁ってやつで、何でかよく会うんだよねー。だから、今でも時々一緒に行動することがあるの。今回みたいにね」
よく会うって……それってもしかして。
私は口から出かかった言葉をぐっと飲み込みました。年頃の乙女としては気になるところでしたが、親しき仲にも礼儀ありです。ましてや出会って間もない私が尋ねることではありません。
……凄く興味はありますが。
「……リリィはかわいいなー!」
「にゃっ!?」
いきなり抱きしめられました。いったい何がサニーさんの琴線に触れたのかはわかりませんが、凄く好意を持たれたみたいです。
好いてくださるのは構わないのですが、道の真ん中で美少女が抱きしめられているというのは非常に目立ちます。あ、ちょっと、そこは触っては駄目です!
「ほ、ほら、武器のお店ありましたからっ!」
「かわいぇぇぅ……今日は一緒にお風呂して、一緒に寝ようねー」
なんでしょう。身の危険をギリギリ感じさせない雰囲気が、逆に恐ろしい人です。
でもなんだか、嫌な感じもしません。
私は一人っ子なのでよくわからないのですが……姉がいれば、こんな感じなのでしょうか。




