第二話
さて、ここはドラゴンの襲撃場所から少し北にあるそれなりに大きな街。名前は……えーっと、セントリノ・シティって書いてますね。そういえば昔、お父さんと来たことがあります。
私たちは、勇敢なる騎士と魔術師……改め、役立たず達を病院に預け、近くのレストランに入りました。美形二人と美少女の来店に、店内が騒がしくなります。美少女は大変です。
「ふーん……じゃあ、リリィはバルバレインを目指してるんだ?」
「はい。そこにいる自称魔王が国王に脅迫状を出したらしくて」
適当に注文してから、簡単に事情を説明します。一応、魔王の存在はまだ公けにはされていません。いたずらに国民を不安にさせる必要はないという国王のお考えです。だからといって隠せとも言われていませんから話しても問題はないでしょう。
「そうなのか。でも、なんでリリィちゃんが魔王討伐に行くことになったんだい?」
「……私が勇者だからですけれど?」
「ぶっ!」
汚いです。お二人は私の言葉に飲んでいたアイスティーを吹き出しました。私にかからなかったからよかったですけれど、万が一私の顔にでもかかろうものなら命に関わるところでした。お二人の。
「ゆ、勇者って……リリィ、随分可愛いけれど……今、何歳?」
「今年、十四になりました」
「……ちなみに、お父さんの名前、聞いてもいいかな?」
「ダグド・コールウェルです。あ、でも『ハウリング・スラッシュ』の通り名の方が有名ですね」
お二人はテーブルの上を拭きながら交互に質問してきます。その表情はどこか呆けたような顔で、せっかくの美形が台無しです。まだまだ修行が足りないようです。
あ、『ハウリング・スラッシュ』はお父さんの芸名みたいなもので、斬撃の太刀筋が全く見えずに空気と剣の摩擦の音だけが響くところから名づけられたそうです。家ではお母さんに頭が上がらないお父さんですが、その強さをこっそり尊敬していたりします。こっそりなのは思春期だからです。乙女ですし。
「はぁ……でも困りました。国王が付けてくださった護衛は倒れてしまいましたし、私一人ではどうしたらいいか」
「……っ」
次々と運ばれてくる大量の料理を前に、私の口からは溜め息が零れるばかり。あ、これは嘘溜め息なので幸せは逃げません。目を伏せて、少し涙ぐんでみました。美少女には涙は必需品なのだとお母さんから伝授された嘘泣きの技です。
ちらりと二人を盗み見ると、ラファードさんは心配そうにこちらを見ていて、サニーさんは……何だか嬉しそうというか、悦に入っているというか、若干の身の危険を感じる視線を私に向けています。
「困って涙ぐんでいる美少女……ライス十皿はいける……っ!」
しかも小声で怖いことを言っていました。どうやら変態さんのようです。何かに秀でている人というのは総じて常人とは異なる部分があるそうですが、このお二人はその代表みたいです。
あ。私の異なる部分はもちろん容姿ですのであしからず。
「そうか……リリィちゃんはハウリング・スラッシュの娘さんだったんだね」
大きなテーブルを埋め尽くす大量の料理を食べながら、ラファードさんがつぶやきました。
「いくらキミが勇者の娘さんとはいえ、一人で旅をするのは危険だ……よし、俺も一緒に行ってあげるよ」
ラファードさんが爽やかな笑顔で言いました。美形なのでなかなかの威力です。普通の女の子ならイチコロだと思われます。
「いいんですか? あ、で、でも、危険ですし、これ以上ご迷惑おかけするわけには……」
私は一度喜んで見せてから、申し訳なさそうに遠慮してみせます。こういうちょっとしたことが重要なのです。
「じゃあ、アタシも行くよ。ラファードと二人じゃかえって危険だ。おねーさんが守ってあげるよ」
「おい、どういう意味だ?」
「言葉通りだよ、色欲剣士」
「お前と一緒の方が危ないだろうが、好色格闘家」
「アタシは、可愛いコが好きなだけだ。オマエみたいな無節操とは違うね」
「俺は女性を平等に愛してるだけだ……おっと、お前は除くけどな?」
……子供がいます。
この二人、どうやら似たもの同士のようです。同属嫌悪というやつでしょうか。
見ている分には面白いので、食事の邪魔にならなければ楽しめるのでしょうが、それはまたの機会にすることにして。
「えと、あの、ありがとうございます!」
「え!? あ、いや、大丈夫」
「う、うん! 全然オッケー?」
私が感極まった表情で割り込んだので、二人はよくわからない返事をしながら手を振ります。
「未熟者なので至らないことも多々あるとおもいますが、これからよろしくお願いしますね、ラファードさん。サニーさん!」
「うん。よろしくね、リリィちゃん」
「おねーさんに任せなさい」
……お人好しです。そういうところまで似てるみたいです。
「よーし、んじゃ、まぁ、ラファードと一緒っていうのがアレだけれど、出会いを祝して乾杯しましょっか」
「俺も、サニーと一緒なのはアレだけれど、仕方ないから乾杯するか」
二人はそう言って顔を見合わせて苦笑しました。あれ。思ったよりも親密な空気が流れています。意外とひょっとするのかもしれません。そういう意味でも、この二人と旅をするのはよさそうです。退屈しなさそうで。
「じゃあ、かんぱーい!」
サニーさんの声に合わせてグラスを合わせます。なんだか胸が高鳴りました。
……どうやら私、こういうのも嫌いじゃないようです。




