第十一話
「な……何でそんな老人口調なんですか、ヨキさん」
「おぬし、いくらなんでも身も蓋もなさすぎやせんか?」
私の素直な質問に、少女は呆れた表情と声で返してきます。
「ふむ……まぁ、確かに偉大なる人生の先達者が色々小細工……もとい、趣向を凝らして歓迎してくださったのに、今の反応はちょっと失礼でしたね。では、あらためて……コホン」
私は咳ばらい一つ。眼前の少女へと杖を構えて、警戒の表情を浮かべます。
「あ、あなたは何者なんですかっ!?」
「……いや、そこまでされると、馬鹿にされているようにしか思えぬから。変な気を使うな」
「あら、そうですか。初めまして、黒賢者ヨキさん。御存知かと思いますが、ダグド・コールウェルの娘、リリィ・コールウェルと申します」
何とも言えない……まぁ、強いて言うなら苦虫を噛み潰したような顔をしている少女に、私は丁寧に礼をして見せます。お父さんのご友人に失礼があってはいけませんからね。
「あー、うん。おぬし等が黒賢者と呼ぶ、カレン・ヨキじゃ」
「え、あー、はい。お父さんからお話はよくきいてました。お父さん、カレンさんとお呼びしていたので、黒賢者と私の中で一致してませんでした。そーですかー……貴女が、お父さんの最初の旅のお仲間のカレンさんだったのですねー……」
「ま、まぁ、そうじゃの。ダグドが一体どういう風な話をしていたのかは知らんが」
にっこりと言う私に、ヨキさん。もといカレンさんは複雑そうな表情で答えます。
うーん、それにしても、こうして改めてみても、私と同い年か少し上くらいにしか見えません。なんという若作りなんでしょう。
「不老不死という話を聞きましたけれど、本当なんですね。実際はもう百歳近いはずなのに、すごく若作り……すごくお若く見えますし」
「正確には古代魔術で肉体時間を凍結させておるのじゃが……お前、リリィ。母親似と言われるじゃろう」
「そうですか? 目元は父に似ていると言われますけれど」
「いや、性格がのぉ……どうもあの性悪……もとい、サティを彷彿とさせる」
サティ。それはお母さんの名前です。お母さんもお父さんと旅をしていたので、お互い知らぬ仲というわけではないでしょう。しかも……今の感じだと、どうもお母さんとは決して仲が良かったわけではないようです。
「今さらじゃが、一応聞かせてくれるか? どうしてワシが黒賢者だと思った」
「どうしてって、確かに私はまだまだ若輩者ですが、そこまで馬鹿ではないのですよ? ……人の立ち入らない森にいる少女。狙ったように襲いくるカオスドラゴン。まぁ、そこで丸焼けになってるトカゲは偶然ですけれど、普通に考えれば少女が仕組んだことだってわかりますよ」
私は肩をすくめながらそう言って、辺りを見回します。
「まぁ、この森に入った時から、こちらの存在は把握してたんでしょうし、おおかたアンデッドが襲ってきたところあたりで、ドラゴンとかを準備してたんでしょう?」
「その通りじゃ。しかし、そこまで解っておったのなら、何故始めから言わなかった?」
「何故って……まぁ、あのお二人の力量を測るのにちょうどいいかなっと」
「うわぁ」
真顔で答える私を見て、カレンさんは露骨に顔を歪めました。私、そこまで変なこと言いましたか?
「っと、そうですよ。早く戻らないと、お二人がドラゴンを倒してしまいます。ささ、戻りましょう、カレンさん」
「……ダグド……何故あの女と結ばれてしまったのじゃ……」
私は何故かがっくりとうな垂れているカレンさんを促しながら、来た道を引き返し始めたのでした。