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第一話

第一章 美少女は常に得をする



 こんにちわ。私は、リリィ・コールウェルと申します。美少女な十四歳です。

 どれくらい美少女かというと、男の人が好きな男の人まで、すれ違えば振り返ってしまうくらいの美少女です。気をつけないと、私の顔を見た人が失神してしまうので、いつもは若干表情を変えて生活しています。美少女も大変なんですよ。凡人の皆様もそれなりの苦労をされていることと存じますが、美少女はもっと大変なんです。その辺り、よく考えるようにしてくださいね。顔が不憫な方は特に、容姿を身体や頭脳で補う努力をしなければ、存在意義がなくなってしまいますから。

 あ、ちなみに、勇者をやっております。

 代々、私の家系は勇者の血を引いておりまして、自分のことを『魔王』だとか言ってしまう残念な方を抹殺するのが宿命なのです。本当に面倒ですよね。そういう人は早い段階での対処をするべきなんです。親御さんはどういった教育をなされたのか、本当に不愉快です。土下座しながら土下座するべきですよ。

 え、あ、すみません。その『魔王』が現れてしまったせいで、友人と泊りがけで遊びに行く予定が潰れてしまったものですから、苛立っておりまして。せっかく苦労して手に入れたサーカスのチケットが無駄になってしまったんですよ。しかも公演場所である港町アルエータは観光地としても有名で、海の幸が美味しく、大変風光明媚な街で、貿易も盛んですから異国の服やアクセサリーもたくさん売っているんです。美少女は身に纏う物にも気を配らなければいけませんから。

 ……ああ、それでですね、国王から『魔王討伐』を命じられたわけです。先代の勇者である父はまだまだ現役で、先日も古代の封印から目覚めた邪神竜を討伐した最強の勇者だったのですが、さすがにもう四十路ですから、ビジュアル的にアウトになってしまったんです。額が拡がっていくのが娘としては涙を禁じ得ません。加齢臭もちょっと切ないですし。

 そんなこんなで世界最大の大陸『アルファンド』の最奥、古代都市『バルバレイン』を拠点としている魔王討伐の旅に出たのですが、従者として国王が付けてくださった騎士と魔術師の方がですね、今、私の足元に転がっておりまして。息はありますが、まさに虫の息といった様子です。

 王国最強の騎士と魔術師といえども、悲しい一般人です。役立たずと呼ばないであげてください。存在を否定しないであげてください。彼らなりに精一杯生きているんですから。

 私はため息を一つ吐いて、目の前の巨体を見上げました。

 一つの身体に五つの頭を持つカイザードラゴンです。

 それぞれの口から、炎、冷気、毒、石化、麻痺のブレスを吐く上に、その鱗は四大精霊の力を無効にし、強度も鋼鉄を上回るという、カオスドラゴンと並んで最強と謳われるドラゴンです。一般人が敵う相手ではありません。本来『ドラゴンの巣』と呼ばれる山奥に住んでいるカイザードラゴンが、何故街からも近い街道に現れたのかは分かりませんが、王国最強の騎士と魔術師がこのありさまでは、人里に下りれば間違いなく壊滅することになるでしょう。仕方ありません。ここで仕留めることにしましょう。

 カイザードラゴンは私を十の瞳で睨んでいます。本能的に察しているのでしょう。私が地面に這いつくばっている役立たず……もとい、勇敢なる戦士よりも数十倍の戦闘力を有していることを。

 しかし困りました。

 私、勇者ですが基本的には魔術師です。しかも、四大精霊を主とした『精霊魔術』を得意としております。いくら私が勇者といえども、属性を無効にされてはお手上げです。

「……不本意ですが」

 また溜め息が出てしまいます。幸せがどんどんと逃げていきます。このペースで溜め息を連発していては、素敵な男性と巡り合うことができなくなるのではと不安になります。乙女ですから。

 私は陰鬱な気持ちになりながら、手にしていた先端に真紅の宝玉のついた杖を両手で握ります。できればこれは避けたかったのですが、背に腹は変えられません。

 すると私の気配を察したのでしょう。カイザードラゴンは慌てたように五種類のブレスを吐き出しました。さすがは皇帝の名を冠するドラゴン。避けられない軌道でブレスが迫ります。

「危ないっ!」

「……え?」

 一陣の風。マントを構えていた私の眼前に飛び込んできた人物は気合一閃、抜刀した剣圧だけでブレスを霧散させてしまいました。何という技量。さすがの私も驚きを隠せません。

「大丈夫だったかい、美しいお嬢さん」

 分かってらっしゃいます。

 短い金髪と透き通る碧眼の男性は、自然に私の手を握りました。かなり慣れてらっしゃるようです。端正な顔立ちに引き締まった身体。長身でありながら線の細さを感じさせない、いわゆるハンサムさんです。白い鎧とマントをに身を包んだ姿は、王子といった感じです。

「ナンパは後にしなさいよね、変態ナルシーっ!」

「誰が変態だ、痴女モンク」

 どうやら、変な人のようです。

 木陰から飛び出してきた一人の女性が、叫びながらドラゴンに向かいます。速い。そのスピードにドラゴンですら反応できません。女性はそのままの勢いでドラゴンに手刀を振ると、ドラゴンの首が二つ宙に舞いました。

 もう一度言っておきますが、カイザードラゴンの鱗は鋼鉄より硬いです。

 と、カイザードラゴンは危険を察知して、一目散に飛び去って行きました。とりあえず、一件落着です。

「ちょっと、手を放しなさいよラファード……もう大丈夫だからね?」

 女性は私に駆け寄ると、ラファードと呼ばれた男性の手に踵落としを決めてから、私の両肩に手を置きました。黒目黒髪は南の大陸の民族の特徴です。その髪をポニーテールにした、こちらもかなりの美女です。私には遠くおよびませんが、十分に美女を名乗れるレベルです。女性にしては長身で、先程の動きからも分かるとおり引き締まった身体をしています。胸が大きいのが若干気に障りますが、笑顔の素敵な人です。麻やなめし革を使った動きやすそうな服装をしています。

 二人とも、私より少し年上でしょうか。

「えーっと……ありがとうございました」

 私は一応お礼を言います。美少女は礼儀も欠かしません。例え余計なお世話だったとしても礼や社交辞令を欠かさないようにと、お母さんによく言われています。

「どういたしまして。俺はラファード。旅の剣士だよ」

「アタシはサニーレイン。サニーでいいからね」

「私は、リリィ・コールウェルと申します……ええと、とりあえず、死にそうな人がいるので、先に治療させてくださいね」

 簡単に自己紹介を済ませると、私は忘れかけていた倒れている二人に歩み寄り、魔術による治療を始めました。

 ……それにしても、私の日頃の行いの良さがよくわかります。私はサニーさんとラファードさんをちらりと見ました。どちらも、達人クラスの能力の持ち主です。そんな人を……お供にできるなんて。

 私はついつい浮かんでしまいそうになる笑みを必死に抑えながら、できるだけ心配そうな表情で、役立たず二人を治療したのでした。


腹黒い美少女勇者リリィを、よろしくお願いいたします。

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