表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/50

三つ目の死神

 

 照彦の鎌は壊れたので、修理しにいかなければならない。照彦達は、緑が深い山を登っていく。

 フェムトによると、ここに『火山屋』という鍛冶屋があるらしい。だが、この山を見るとどうもそれがあるような雰囲気はない。

「本当にあるの?」

「でも、この地図ではそうなんだし…」

照彦達が、不安になりながらも山を歩いていると、茂みから何者かが飛び出した。


 髪の毛と目は水色で、腕には生傷と海豚(いるか)の入れ墨が着いている。ひょっとして、先程馬主が言っていた不良死神というものだろうか。

「おいおい、無断で俺の縄張りに入りやがって、それはないだろ?」

「水の死神なのに、どうして山を縄張りっていうんだよ」

照彦がそう問うと、不良死神はやれやれと言って腕を組んだ。

「ここは、俺の仲間が支配してた山だ。あいつが消えてから俺がその後を継いでるって訳だよ。

不良死神は、水で造った鎌を取り出して、照彦に向けた。

「俺の名はドルフィン、荒海の奏者だ。この先を通りたいなら、俺を倒してからだな!」

照彦は、鎌を取り出そうとしたが、鎌を直すためにここに来たので、今は壊れている。


 とりあえず、鎌が無い状態で今は凌ぐしかない。

「お前、鎌は?」

「今は持ってない!」

「お前、それでも死神か?まぁ、行くぜ!」

 ドルフィンが鎌を地面に突き刺すと、地面が水のようになった。ドルフィンは、その上を波に乗るように進んでいく。照彦は、一瞬の出来事に戸惑いながらも、ドルフィンに向かって行った。

「俺、照彦の手助けをする!」

 すると、寒月が照彦の前に現れ、照彦の足元を凍らせた。足場が出来た照彦は飛び上がり、ドルフィンに向かって攻撃を放った。

「『閃光の矢』!」

「『荒海の刃』!」

ドルフィンは、照彦の矢を弾こうとしたが、ほとんどが当たってしまった。

「お前、何の属性なんだ?その力が感じられない…」

ドルフィンが、照彦の力に戸惑っていると、背後から何かが刺さった。だが、それは照彦ではない。


 照彦がドルフィンの横を見ると、そこには、先程と同じ蠍の怪が居たのだ。

「あいつ、俺達を追い掛けてきたのか?!」

ドルフィンは蠍に向かうが、身体が痺れてその場に倒れる。

「あいつの毒は強力だ!気をつけろよ…」

「ドルフィンさん?!」

毒が回ったのか、ドルフィンはもう戦える状態ではなかった。ドルフィンは青褪め、刺された傷は紫色になっている。


 ドルフィンとの勝負は諦めて、照彦達はこの蠍の怪を退けなくてはならない。

 今まで遠くから寒月の様子を見ていたペグルが、照彦の横に来た。

「ここから僕も戦うよ」

「ペグル、何かあるのか?」

ペグルは杖を取り出した。

「この技が使えるかな、『転壊(チェンジダウン)』!」

ペグルが杖を振ると、蠍の周囲が青色のオーラに包まれた。

「これで蠍の能力を下げたよ」

蠍の動きは鈍っている。この隙に一気に畳み掛けたい照彦と寒月は、同時に攻撃を放った。

「『光の矢』!」

「『氷柱の雨』!」

ところが、二人の集中攻撃を受けても、蠍は倒れないどころか、元気になって二人に襲い掛かってくる。

 照彦は、攻撃を防ごうと、光で壁を造った。

「『光の壁』!」

だが、蠍はその壁を簡単に打ち砕き、寒月に毒針を刺した。寒月はその場に倒れ、苦しみ出す。

「寒月!」

「うっ…、ペグル…」

ペグルは寒月を抱え、蠍の前を離れる。

 そして、蠍は照彦一人を狙い、毒針を構える。照彦は、次はどうすればいいか分からなくなった。

「『炎石の痕』!」

 その時、燃え盛る鎌が蠍を貫き、蠍はその場から消えてしまった。突然現れた女性は、鎌を下ろすと、照彦達とドルフィンを見つめる。

「来てみたらこんな事になって…、みんな、大丈夫?」 

「ええ…、まぁ」

 女性はたっつけ袴を着て、御札が付いた笠を着けている。また、身長は高く、ドルフィンと同じくらいはある。

「あなたは不良死神なの?」  

「俺はコークスから言われた事を守ってるだけだよ」

「コークス…?」

女性は息を呑んだ。

「あらやだ、コークスってうちの旦那さんと同じ名前じゃない」

「同じ名前…?」

女性はそれを不思議に思いながらも、ドルフィンの傷を見てはっとした。

「とにかくこの傷を直さなきゃ、家まで来てくれる?」

「これくらいの傷、三途の川に浸せば治る!」

ドルフィンは傷を抑えて立ち上がり、走り去ってしまった。


 絢音がようやく戦いが終わったと、ほっと胸を撫で下ろすと、地面から風船が割れるような音が聞こえた。

「うわっ!な、何か踏んだ…」

絢音が恐る恐る足元を見ると、そこには、潰れた目玉が落ちていた。周囲には、液体が飛び散っている。 

 絢音が悲鳴を上げると、慌てて女性が駆け寄った。

「これは私の目だわ。ごめんね、驚かせて」

 絢音は恐る恐る女性を見た。その目は二つ着いたままだ。それなのに、自分の目だというのはどういう事だろうか。

「え、えぇ…。あれ?ちゃんと着いてる」

女性は中腰になって、絢音をそっと撫でた。


 そして後ろを向く。女性の首元には藍色のマフラーが巻かれている。だが、先の戦いでそれが解いてしまった。緩くなったマフラーの隙間から、光るものがあった。


 よく見ると、それは目玉だった。フォルシアは、背後を向きながらも、絢音の事をじっと見つめている。絢音はまた悲鳴を上げた。それに気づいた女性は慌ててマフラーを巻き直す。

「あ、まただ…ごめんね」

「うっ…」

女性はまた絢音の元へ駆けつけ、絢音を慰めた。


 一方、照彦とペグルは、毒に侵された寒月を見て、気を揉んでいた。

「寒月の傷…、直さなきゃな」

すると、女性が傷ついた寒月を抱え上げた。

「私が治してあげるわ、家まで来て」

「でも、俺達は火山屋っていうとこに行かなきゃいけなくて…」

焦る照彦を見て、女性はクスリと笑った。

「私はフォルシア、火山屋なら今から行くわよ、私はマグマ師匠の弟子なのよ」

「フォルシアさんも、鍛冶なんですか?」

フォルシアは、笑って頷いた。




 そして照彦達はフォルシアの案内で、火山屋にやって来た。火山屋は山奥にある小さな二つの小屋で、薪がうず高く積み上げられてある。


 恐らく、ドルフィンを倒してこのまま行っても、ここには辿り着かなかっただろう。偶然とはいえ、照彦はフォルシアと出会えて良かったと思った。

「着いたわ、ここよ」

 フォルシアが扉を開けると、待ってましたと言わんばかりに二人の小さな子供が、フォルシアに駆け寄って来た。二人とも、絢音と同じくらいの身長で、女の子の方はフォルシアによく似ている。

「白い着物の女の子がパミス、黒い着物の男の子がスコリアよ。二人とも私の子供なの」

 パミスとスコリアは、騒いでフォルシアにしがみつく。照彦はフォルシアに自分の名を名乗ってない事を思い出した。

「あっ、申し遅れましたね。俺は風見照彦です」

「風見って、ひょっとして昴様のお孫さんなの?」

照彦が頷くと、フォルシアが二人の子供にこう言った。

「二人とも、あなた達の従兄弟が来たわよ!」 

「従兄弟ってどういう事ですか?」

パミスとスコリアはフォルシアから離れ、照彦にしがみついた。

「アクス叔父さんって分かる?私はその娘なの」

「そうなると、フォルシアさんは叔母さんって事ですか?」

「そうなるわね」

 すると、向こうの小屋から、黒い着物を着た男性と、マグマ師匠らしき老爺がやって来た。

「おいおい、騒がしいぞ?」

フォルシアは寒月をひょいと持って、コークスに手渡した。

「コークス、この子を治してほしいの」

「子供の妖か、ちょっと待っとれ」

コークスは古傷だらけの腕で、寒月を持ち上げる。

「大人しいな、ホントに…」

コークスは、薬箱から薬を取り出して、毒を抜いて、傷を直した。

 その間、寒月は毒が回っていないのにブルブルと震えていた。コークスから発する気に押されて、身体を動かそうにも動かせなかった。


 照彦達が一度扉を開けると、空が夕暮れに染まっていた。もうすぐ一日が終わる。

「今日はここで泊まっていきなさい。照彦君の鎌は明日直すわ」

「ありがとうございます!」

「夕ご飯作って来るわね」

照彦達は荷物を置いて、パミスとスコリアと一緒に夕飯を待った。

 

 その日の夕飯は、麦飯と山菜の味噌汁だった。どうやら、ここでは毎日のようにそういうものが出るらしい。照彦は、絢音とペグルに冥界の食事が合うかどうか分からなかったが、二人は完食していた。


 その日の晩、照彦達は火山屋に泊まった。この一日だけで、色んな事があった。興奮してみんな眠れないかと思いきや、疲れ果てたのかすぐに眠ってしまった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ