この世界を守る為、戦い抜く
昴は、神魔と化した夢前の目の前に立ち、指を指してこう言い放った。
「夢前蒼汰、お前に俺の冥界を渡す訳にはいかないな!」
昴は照彦に貰った七水晶の輪を高々と掲げた。
「七つの光よ、その力を放て、『神化』!!!」
昴がそう叫ぶと、七水晶の輪はくるくる回りながら宙に浮いた。その光は昴に集まり、星のように輝き出す。
そして、その光が止むと、昴の法衣が変化していた。七つの水晶の力を宿した昴の新たな姿だった。
「冥府七星・昴、ここに降臨!」
昴はそう叫びながら、鎌を宙に投げた。すると、鎌は七水晶が着いたものへと変化し、昴の手元に戻って来た。
その様子をグルーチョと真由とビガラスは遠くで見つめていた。
「これが昴様の新たな姿、そうなる為に水晶を集めていたのですか…?」
「お祖父ちゃん格好いい!」
「あの人は何処までも強くなっていくのですか…?」
「ええ…、それが昴様ですから」
グルーチョは変化した主の姿を見て頷いた。
「さあ、いくぜ!」
昴はたった一人で巨大な夢前に向かって行った。
それと同じ頃、コークス達は白蛇の怪に立ち向かっていた。なりふり構わず暴れる白蛇を止める為に、死神達は必死に戦っているが、中々止まりそうにない。
そんな中、コークスと共に戦っていたドルフィンが、何かに気づいてはっと声を上げた。
「ドルフィン、どうしたんだ?」
ドルフィンは背後を振り向いて、何かの気配を感じていた。
「三途の川が大変な事になってる、そんな気がするんだ」
ドルフィンはそう言うと、鎌をしまって走り出した。
「悪い!後は任せた!」
そして、ドルフィンはコークスを置いて、大急ぎで川の方へ向かって行った。
三途の川は普段よりも流れが急で、水が濁っていた。その側では、誰かが網を持って何かをしている。
その人物は、ドルフィンの父親のホエールだった。三途の川岸で小さな食堂を営んでいたホエールは、大急ぎで魂喰虫達を川から網ですくい、食堂の中の生簀の中に入れていた。
「来たか、息子よ」
「父さん、何やってるんだよ?」
「こいつらを助けてやるんだよ」
ホエールは黒い髭をモゴモゴ動かしながら、必死に魂喰虫達を救おうとしていた。ドルフィンも慌てて網を持ち出し、魂喰虫達をすくい上げる。
ドルフィンがここに来たのには、三途の川の異変を感じたのと、もう一つ理由があった。それは、ホエールにこの食堂を継ぐ事を伝える為だった。
元々コークスと共に不良死神として暴れていたドルフィン、だが、コークスは不良死神を止めて、家業を継いでいる。
それを見てドルフィンも、いつか家業を継がなければならないと思い、それを父親に伝えなければならないと考えていた。
ドルフィンは、意を決してそれを伝える事をした。
「父さん、俺…」
「言わなくても分かる、だからとっとと黙ってやれ」
無口な父親を見て、相変わらずだなと思ったドルフィンは、口を動かすのを止めて、手を動かした。
ホエールはドルフィンが決意する日をずっと待っていた。言葉や顔には表さなくとも、ようやくその日が来たと思い、本当は心の底から嬉しく思っていた。
そう考えていたホエールは、ドルフィンには見えないように、髭の奥の口元を緩めた。
ドルフィンが去った後、死神達はコークスとフォルシアを筆頭に白蛇の怪と戦いを続けた。神化をしているはずの真莉奈や朝日の力を持ってしても、白蛇を止める事は出来ない。
そんな中、フォルシアが本気を出そうとマフラーに手を掛けようとしたその時、背後で死神達が騒ぐ声が聞こえた。
「あれは…、何だ?!」
フォルシアが白蛇から少し離れた先を見ると、少女が上空から落ちていくのが見えた。少女は意識を失っているのか、慌てている様子はない。
「誰がが落ちてる、助けなきゃ!」
フォルシアは鎌から手を離し、大急ぎでそこに向かって走り、落ちてきた少女を両腕で拾い上げた。
そして、フォルシアは少女を白蛇から離れた所に置きに行った。森の中の切り株の上に少女を寝かせると、フォルシアの中の疲れがどっと押し寄せて来た。
すると、フォルシアの先輩のシオナがフォルシアの所にやって来て、大声を上げた。
「エメルダさん?!どうしてここに?」
「シオナさん?」
シオナはその少女、エメルダと面識があるらしく、慌ててエメルダに駆け寄った。
「エメルダさんは氷の純系の死神…、それなのにどうしてこんな所に居るのでしょうか」
そう言いながらシオナはエメルダを氷漬けにした。エメルダと属性が同じであるシオナの力なら、エメルダを回復させる事が出来るかも知れない。
「私がエメルダさんを見ておきます、フォルシアさんは白蛇の所へ向かって下さい!」
「分かりました!」
フォルシアは、エメルダの事をシオナに任せて、白蛇の所に向かった。シオナにエメルダの事に任せている以上、自分が疲れたという訳にはいかない。フォルシアは自分を奮い立たせながら、白蛇の所へ向かって行った。
白蛇の所に着いたフォルシアは早速、首元のマフラーを外して首にある第三の目を開眼させた。
「みんな、下がってて!」
能力が完全に覚醒したフォルシアは、白蛇の動きを完全に読んで、攻撃を繰り出す。その様子を見て、他の死神達は驚き、声が漏れる。フォルシアはそれを気にせず戦っていた。
すると、その中に混じっていたコークスが、人混みの中を掻き分け、頭の布巾を外しながら近づいて来た。
「コークス!」
「フォルシアが戦っているのに、俺が見逃す訳ないだろ?」
「…ありがとう」
フォルシアは、コークスに聞こえるか聞こえないか分からないくらいの声でそう呟くと、白蛇に向かって走って行った。
フォルシアとコークスは白蛇を挟んで向かい合わせに立った。
まず、コークスが白蛇の周囲を炎で包む。白蛇は巨体で掻き消そうとするが、消えそうにない。
「お前の力は俺が封じた、もう勝ち目は無い」
そして、フォルシアがその炎の中に飛び込み、白蛇に向かって鎌を打ち付けた。
「『多々良の呪』!」
融けた鉄を身体に打ち込まれた白蛇は、叫びながら燃えていった。
そして、未練がましく巨体の亡骸を残して、白蛇は尽きていった。
死神達が白蛇との戦いに釘付けになっていた時、神化した昴は夢前の前に一人立っていた。それを真由とビガラス、そしてグルーチョが見守っていた。
昴はまず周囲で様々な攻撃を繰り出す。七水晶の力を手に入れた昴は、自分の力に加え、神化した真莉奈や朝日、太一の力を、更には夢前に迫る程の夢の力を手にしていた。
元の力以上の力を見て、夢前は最初は付いてきていたが、翻弄されていった。
それに気づいた昴は、無の力の斬撃で夢前を
斬り付け、鎌を突きつけた。
「お前はこの世界には必要ない存在なんだよ」
そう言いながら昴は、無水晶を夢前の身体に埋め込むと、七色の光を纏った斬撃で夢前を貫いた。
「『七星斬破』!!!」
強大な力を持っていたはずの夢前は、新たな昴の力によって呆気なく消滅してしまった。
それによって、暴走していた怪達は我に返り、帰って行ってしまった。戦いに参加していた死神達も、自分の持ち場に帰って行く。
昴は冥府の死神達が戻ってきたのを見て一安心した。だが、その中の一人であるはずのエメルダが居ない事に気づき、声を上げる。
「エメルダ!」
「昴様、こちらです!」
昴の気配に気づいたシオナが、大声で呼んでいる。声は深い森の方から聞こえた。それに気づいた昴は、そこに向かって走って行った。
森の中に入った昴は、走り回ってシオナを探した。すると、奥の方から氷の気を感じる。
それを辿りながら歩いていると、切り株の上に寝かされたエメルダと、それを見ていたシオナが居た。
あれから時間は経ったが、エメルダはシオナによって氷漬けにされたままだった。意識を失ったままだったが、死んではいないようだった。
「エメルダ…、無事だったのか」
昴はエメルダの横に駆け寄り、炎の刃で氷を溶かした。そして、エメルダを背負うと王宮まで歩いて行った。
激しい戦いが終わった後も、エメルダの目は覚ましそうになかった。




