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白蛇の中で


 白蛇が造り出した精神世界は、エメルダの思い出と混じってだんだんはっきりとしていった。エメルダの目の前には、幼かった頃のエメルダが背中を向いている。その前には、兄のジンが居た。



 裕福だか厳格な家庭に育ったエメルダは、常に親戚達に見張られ、不自由な生活を送っていた。もちろん、食事は与えられたし、生活面では不便な事も不自由な事も一切なかった。だが、心は常に縛り付けられ、自分で考え、大人達に意見を言う事を許されていなかった。


 更にエメルダは、死神達の中でも最高峰の教育を受けさせられた。幼い頃から机に向かい、親戚達によって医学の事や一族の歴史を教わった。

 最も、エメルダがそうする事を望んだ訳ではなかったが、大人達は与えられるもの全てをエメルダやジンに与えてくれた。




 身体は飢えることなく満たされていたが、心は常に渇いていた。そんな中、エメルダの心に寄り添ってくれたのは兄だけだった。ジンと二人きりになって遊べる限られた時間が何よりも嬉しかった。

 だが、それが終わると大人達がやって来て、エメルダとジンを家に連れて帰ってしまう。エメルダは、同年代の子供達と一緒に、同じように遊ぶ事も許されていなかった。



 温かいとは到底言えない家の中で、兄と共に暮らした日々。その中でエメルダにとって、一番の理解者は兄だった。顔を見せない両親や親戚達よりも、顔を合わせてくれるジンにエメルダは本当の気持ちを打ち明けた。


 みんなを助ける医者になりたい事、早く家を出て冥界の色々な場所に行きたい事、冥界の事を何より大切に思っている事、小さな事も大きな事も全部全部、あるがままにジンに伝えた。



 だが、ジンは大人になって医者になった瞬間、エメルダを見捨てるように家から出て行ってしまった。取り残されたエメルダは、親戚達によって役人に育て上げられ、大人になった瞬間に冥府に送り出された。




 白蛇はエメルダの過去を全て見た後、背後に立ってこう言った。

「お前は何を憎んでいるんだ?職を奪った兄か?愛してくれなかった両親か?自由を奪った親戚の大人達が?」

「違う…」 

エメルダは静かに、ただはっきりとした声でそう言う。

「私が憎んでいるのは自分自身よ…。私はただ与えられるものを受けるだけで、自分から何かをする事も、誰かに与える事も出来てない…」

エメルダは、自分の意志で行動した試しがない。全て親戚の大人達に言われるがままだ。冥府でも積極的に意見を出しているが、果たしてそれが自分のものかどうかも分からない。

「使えなければ捨てられてしまう空っぽの存在、それがお前という訳だな?」

「それじゃあ、白蛇はどうなの…?」

白蛇は一瞬驚いた顔をすると、頭を下げてエメルダの目の前に顔を持って行って、こう言った。

「私もそうだ…、自分自身の生を生きた事がない…」

白蛇は心なしか、悲しそうな顔をしていた。そして、身体を小さくして、エメルダの手の平に乗り、話を始めた。




 白蛇は元々、鬼界の怪だったが、そこを出て現世の夢原に棲み着くようになった。夢原は、妖達が棲む里が近くにあり、怪である白蛇にとっては住心地が悪かった。

 その中で白蛇は隠れて暮らしていたが、妖を使役する夢守が現れると、ひたすら暴れ回った。自覚はなかったが、白蛇は夢守達や使役される妖以上の力を持っていた。


 そんな日々が続いたある日、妖を使役しない夢守が白蛇の前に現れた。夢前と名乗るその夢守の一族は、荒れ狂う白蛇を止めると、仲間にしたいと言った。


 それ以降、白蛇は夢前の一族に使役される事になった。白蛇はその指示を受けて、無心で暴れた。ところが、そうする度に夢前以外の人々や、妖達が自分から離れていくのを感じる。それでも白蛇は、夢前の人々が自分から離れていかないように、ただ指示に従った。



 夢前の一族が滅びた後、白蛇は霧山の一族によって封印されてしまった。せっかく人と分かり合えたような気がしたのに、自分がした事はただ敵を造っただけだった。 

 その後、夢の中で生きていた蒼汰によって復活させられ、指示を受けて今もこうして暴れている。


 誰も白蛇自身の声を聞かず、心も分かってくれなかった。本当は、暴れたくなかった。夢前の一族も自分の事を理解してくれると思いきや、もののように使うだけで、一つの生として白蛇と向き合ってくれなかった。

「私は…、誰にも嫌われる事なく穏やかに暮らしたかった。だが、誰も声を聞いてくれなかった」

「白蛇…」

白蛇はエメルダの手から降りて、背中を向けた。


 すると、白蛇の幻影の中に、小さく光るものが見えた。エメルダはそれに向かって手を伸ばし、掴み取る。それは白蛇の中にある無垢な心だった。それに気づいた白蛇は慌てる。

「何やってるんだ!今すぐ止めろ!止めてくれ!」

「似た者同士だね、私達…」

エメルダは、暴れる白蛇を引き寄せ、抱き締めた。エメルダの目にも白蛇の涙が浮かんでいる。



 そして、白蛇の幻影はエメルダの目の前から消えてしまった。白蛇の空間は破け、眼下には冥界の空が広がる。そこに放り出されたエメルダは、何処かに向かって落ちていった。


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