いつも隣で
少年は夢前の目の前に立つと、照彦の方を向いて無邪気に笑った。夢に出てきた幼い少年が、何故此処に居るのだろう。
そういえば此処は夢界、夢の中で出会った人が居てもおかしくはない。照彦は改めて少年に質問した。
「というかお前は誰なんだよ?どうして俺の事を知ってるんだ?」
そう問い詰める照彦の背後で、絢音が少年の事を指差した。
「もしかして…、小魂ちゃん?」
「どうして分かったの?」
少年は、いや、小魂は驚いた様子で絢音を見つめる。
「だって…、尻尾があったから、それにヒレがオレンジ色だし…」
絢音の一言を聞いて改めて見ると、魂喰虫の特徴である炎が着いた尻尾と、ヒレが着いている。それはどちらも小魂と同じものだった。
「小魂、別れたはずなのにどうしてここが分かったんだ?それに…、どうしてこの姿になっている?」
小魂は少し考える仕草をする。
「誰かに呼ばれたら、此処に居たんだ」
そして、小魂は照彦の前に横に出て、こう言う。
「僕はいつも照彦の隣に居て、一緒に戦ってきた。僕だって照彦と一緒に夢前に立ち向かいたい!」
小魂の目は決意に満ち溢れてて、光輝いていた。
結界の力を取り戻すまでは時間が掛かる。その間、照彦は一旦絢音を後ろの方へ避難させた。
小魂と照彦は向かい合わせに立って、夢前の方を見た。夢前は今も我を失って暴れている。
「小魂、あいつを倒すにはどうすればいいんだ?」
「憎しみを憎しみによって制すれば、新しい憎しみが産まれるだけだよ」
照彦は、以前あの声が言っていたのと同じ事を、小魂が言った事に驚いた。
「どうしてその言葉を?」
「僕にも聞こえたんだ、その声」
小魂はそう言いながら、照彦の胸に手を当てる。
「照彦の力は清らかな心が原動力なんだ、邪な心に囚われてしまったら使えない。相手を倒そうと思う心は邪な心だよ、そうなったら照彦は戦えない」
「それであの人は夢前を倒そうとは思わないようにって、言ったのか…」
「あの人って…?」
照彦にしか聞こえない声、ひょっとしてその声は小魂にも聞こえていたのだろうか。照彦は自分の胸に手を当てる。
「今も俺の事を見守ってくれてるかな…」
照彦はもう一度鎌を手に持ち、夢前に向けた。
そして、照彦と小魂は一緒に戦った。まず、小魂が光の弾を繰り出して夢前の動きを封じる。次に、照彦が光を纏った鎌で夢前に斬りかかる。
二人で戦うのは初めてだったが、共に日々を過ごした二人は、それが分からない程息が合っていた。
それを見て、戦う気力を取り戻したペグルは、背後で見ていた寒月と夢叶に声を掛けた。
「寒月、夢叶、僕達も続こう!」
寒月はペグルの横に立って、夢前に向かって行った。
照彦達が夢前を囲む中、夢前はペグルと夢叶を狙って攻撃している。自らの全てを怪に食わせても、二人に、そして妖に対する憎しみは残っているという事だろうか。
そんな中、照彦は夢前の黒い身体の中に一筋の光を見つけた。それは、夢前の闇に負けないように輝いている。
「あれは?」
その光は、照彦が夢湧の井戸で見たものと同じだった。
ひょっとして、あの中に照彦が救おうとしている夢前の魂が入っているのかも知れない。照彦はそこに向かって走って行った。
「もしかして…、夢前の魂が!」
「僕の力で取れないかな?」
一人で突き進もうとした照彦の前に小魂が立ち、そう言った。
小魂は魂喰虫、魂を扱う事は生まれつき慣れていた。夢前の魂がある部分は高い所にあり、照彦の身長だけでは届きそうにない。それなら、照彦より小さくても飛べる力がある小魂に任せた方が賢明だろう。
そう考えた照彦は、小魂に魂を抜く事を頼み、攻撃を続けた。すると、後ろで避難していた絢音が何かに気づいて叫んだ。
「ねぇ、あれを見て!」
絢音の目線の先では、夢前の魂が、身体の闇に呑まれようとしていた。光は必死に抵抗しているが、闇は強大な力で夢前の全てを支配しようとしている。
夢前の中にあった一筋の光が失われようとしている。そうなる前に魂を拾い出さなければ、救う事は叶わない。
小魂は夢前に向かって、飛んで行った。夢前の闇は容赦なく小魂を襲う。それでも、小魂は、照彦の想いに応えようと、必死になって闇の中に手を伸ばした。
「届いて…!」
小魂は手探りで闇の中から、夢前の魂を取り出した。そして、大切に抱えて戻って来た。
暴れまわっていた夢前と戦っていた照彦達は、それを見て一安心した。
魂が抜かれた後も、夢前は暴れていたが、以前に比べると動きが鈍くなっていた。それだけ効いているという事だろうか。
だが、夢前を止めるには決定的な一撃が必要だった。今の照彦達の技ではそうする事が出来ない。夢前を倒そうと必死になっているペグルと夢叶は、攻撃を続けるが全く効いていなかった。
そんな中、照彦は一度攻撃を止めて夢前の前に立った。それを見て思わず、ペグルと夢叶も手を止める。
照彦は、少しずつ歩み寄って夢前に近づいていった。
「今まで、ずっと苦しかったのか…?」
夢前は、照彦に向かって闇を纏わせた触手をのばしたが、照彦はそれを難なく全て避けた。
照彦の身体には薄く光を纏っていて、何かに護られているようだった。その状態で、照彦は更にこう続ける。
「あなたにだって、夢はあった。俺にだって、夢はあった。誰よりも強くなりたいって思っていた。でも、それだけじゃだめだったんだ、強さの先にあるものが大事だったんだ!」
「ダマレ…」
照彦は醜い姿を露わにした夢前に対しても、一人の人と接するかのように話した。
「苦しんでいる魂を、人を救う、それは死神である俺の使命だ、あなたと出会えた事で改めてそれに気づけた」
夢前は一瞬止まったが、照彦の全てを否定するかのように闇雲に攻撃する。そして、照彦を闇で包もうとしたが、照彦はそれを全て跳ね除けた。
「俺はあなたと違って、もう夢を諦める事はしない!夢よ、もう一度俺の所へ!」
照彦がそう叫んだ時、照彦のポケットの中の何かが光った。照彦はその光を取り出して見る。
それは、照彦の胸の中から産まれた霊水晶だった。最初に産まれた霊水晶は輪の中に入ったが、この水晶は残っていた。
「これは俺の胸から産まれた霊水晶…、もしかして」
昴や朝日が神化する時、水晶を手に掲げていた。自分に神化する力があるのか、それに耐えられる程の器があるのかは、自分にも分からない。
それでも、これでさらなる力が手に入るのなら、やってみる価値はあるのだろう。
照彦は、父や祖父がやっていた時と同じように、自分の霊水晶を空へ掲げた。光は更に強くなり、照彦を一気に包み込む。
それが弾けた瞬間、照彦は光輝く法衣を纏い、手には太陽の装飾が着いた金の鎌を持っていた。




