夢想神魔、覚醒
昴は夢前から離れると、照彦達に一度近づいてこう言った。
「お前ら、大丈夫か?」
照彦は昴を見て頷いた。
「うん、大丈夫だよ」
「まさか昴様も夢界に訪れるとは…」
昴は荒れ狂う夢前の姿を見て、こう言った。
「今のあいつは、怪を超えた存在…、神魔だ。神力を持ったおぞましい存在、夢想神魔ってとこだな」
昴は蘇芳の話で神魔の存在は知っていた。
神魔とは、神力やその他の力を吸収して巨大化した怪の事だ。神魔の気に触れると、他の怪も暴走してしまうという。通常の力では倒せない危険な存在で、現世の伝承にある厄災の原因の一つとされていた。
夢前は、人間としての命を終えた後も、夢の中で生きていた。そして、怪の身体を手にし、妖達の力を奪って肥大化していった。その成れの果ての姿が、今の夢想神魔だというのだ。
その話を終えた後、昴は照彦に左手を差し出した。
「照彦、悪いが七水晶の輪を貸してくれないか?」
照彦は、戸惑いながらも、ポケットの中から水晶の輪を取り出して、昴に手渡した。
「もうすぐあいつは冥界にも現れる、俺はそのあいつを止めてくる。お前達はこっちのあいつを倒してくれないか?」
「お祖父ちゃん…?」
「それじゃあ、任せた」
昴は七水晶の輪だけ持って、風のように立ち去ってしまった。
残された照彦達は、もう一度夢前の方を見た。夢前は黒い炎を噴いて、夢原の町を焼いている。夢だから現実世界には影響が及ばないが、夢前の能力があれば話は別だ。その力を使えば、現実世界の夢原も壊滅してしまう。
「絶対に止めなきゃね!」
照彦達は一旦立ち直して、もう一度夢前に向かい、再び一斉攻撃を放った。
だが、照彦達の攻撃は全て撥ね返された。そして、夢前は触手をペグルに巻きつけ、一気に叩きつける。自らの全てを怪に蝕ませても、ペグルへの憎しみは残っているようだ。
夢前の攻撃は容赦なく全てペグルに当たった。ペグルの身体は蝕まれ、生気が奪われていく。その度に、ペグルは少しずつ透明になっていった。身体がある感覚が無くなっていく。
精神世界なので、普通は意識のみが夢界に居るはずだが、鐘の力で移動しているので、身体ごと夢界に移動しているはずだ。ところが、夢前の力でそれが失われていく。
ペグルは、神界でルピナスに言われた事を思い出した。
ルピナスの話によると、ペグルは仙人と人間の性質を併せ持った不安定な存在だった。ペグルは少しの衝撃で現世に居られなくなってしまう。
鐘の力は現世の力だ。だが、ペグルは完全な現世の存在ではない。以前力を奪われた事で、鐘の力は半減し、なおかつ夢前の力に侵されている為、ペグルは現世と夢界に存在出来なくなりつつある。
現世と夢界の自分が失われれば、ペグルは夢守としての使命を果たせなくなる。それなら死んで仙人になるしかないのだが、夢前の悪しき力に侵されてしまっては、そうなる事も叶わないだろう。
「もしかして…、最初からそれが狙いだったのかもな」
照彦は、ペグルがそうなる事を想定して、夢前が策を立てたのだと思った。
照彦はペグルを襲っていた触手を断ち切り、妖水晶の力を鎌に込めて夢前に向かって振るった。
「夢前の狙いは僕だったんだ!みんなまで巻き込む訳にはいかない!」
「ペグルを放って逃げたくないよ!」
照彦はペグルの手を掴み、一緒に攻撃から逃げた。だが、夢前はペグルを狙ってくる。
「やっぱり、許せない」
夢前がペグルを付け狙うのを見て、照彦の心の中にドロドロとした黒い何かが現れ、広がってきた。その状態で照彦は、妖水晶の力を鎌に込めて、再び振るう。
だが、夢前は妖水晶の力を吸収し続けている。同じように妖の力である寒月と夢叶の攻撃も同様だ。夢前の闇は更に広がり、照彦達の体内に入っていく。
照彦が妖水晶を使うのを止め、光の力を使おうとしても、鎌は何も反応しない。夢前の闇は照彦を蝕んでいく。
「照彦君!」
照彦は絢音の呼び掛けに応えられない程弱ってしまった。光の属性を持った照彦は、闇に蝕まれるとそうなってしまう。
更に照彦は、夢前に憎しみを抱いてしまった。相手を倒そうとするという心は負の感情、それに支配されてしまった照彦は本来の力を発揮出来ない。
照彦達は戦えなくなり、残ったのは結界によって守られていた絢音だけだった。その結界も、照彦が戦えなくなってしまった事で割れてしまう。夢前に狙われるようになってしまった絢音は、どうすればいいのか分からなくなってしまった。
その時、何者かが絢音の前に現れ、光の壁を造った。夢前はそれに驚き、攻撃を外す。
「大丈夫?」
光の壁を造っていたのは、照彦が夢の中で出会った白髪の小さな少年だった。それに気付いた照彦は、正気に戻ってその少年に近づく。
「君は…、どうしてここに居るんだ?」
「照彦が心配だから、来たんだよ」
少年は光の球を放ってペグルと夢叶、寒月に当てた。それによってペグル達は元に戻る。その光は、照彦が以前使っていたものによく似ていた。




