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狙われたエメルダ


 智と別れた後、エメルダは煮えきれない思いでいっぱいだった。何故、純系の死神であろう智がそこまで現世に思い入れがあるのだろう。冥界に住まう者なら冥界の方が大切なはずだ。


 そうエメルダが思うのは、家族がそう教えてくれたからだ。先程の智の言葉を借りるとすれば、現世は穢れた世界で、実務に関わる者以外は行くべきではない。生きている者と死神は交わるべきではないと教えられた。


 実は、エメルダは智に憧れていた。純系で、

様々な死神に慕われる智のようになりたいと思っていた。それなのに、智は一族に教われた事と反する事ばかりして、それを正しいと言う。一族の教えが何よりも正しいと考えていたエメルダは、そんな智を見て苛立ちを覚えていた。



 そんな事を思い出しながら、エメルダは一度王宮を出た。すると、遠くの方で白蛇の怪が暴れているのが見える。エメルダは、周囲の地面を凍らせ、靴に氷の刃を着けて、スケートのように滑りながらそこに向かった。



 白蛇の怪の近くに来ると、既にフォルシアとコークスが戦っている。エメルダは、鎌を持って白蛇に向かった。

「『凍傷結』!」

エメルダは、自らが発生させた氷を裂いて、白蛇を地面に落とそうとした。ところが、白蛇は巨体に似合わす素早く飛び、毒矢を放つ。

 エメルダは氷の壁でそれを防ぎ、押し返した。だが、白蛇はそれを避ける。

「良い闇を持ってるな?」

白蛇は素早くエメルダの背後に立つと、一瞬にでエメルダを飲み込んだ。抵抗する暇もなくエメルダは、白蛇の体内に入ってしまった。フォルシアもコークスもそれを止める事は出来なかった。




 白蛇の中は海底のように暗く、時々鈍い音が聞こえた。エメルダは、最初白蛇に食われたのかと思っていたが、そうではないようだ。どうやら白蛇が造り出した空間のようだった。

「お前は今憎しみの念に囚われている、それは一体誰に対するものだ?」

白蛇はエメルダに過去の幻影を見せた。エメルダは、それを見ながらかつての自分を思い出した。


 


 エメルダの一族は、冥府神皇月輪の末娘、氷姫の子孫で、代々医者の家系だった。その為エメルダも、兄のジンも幼い頃から一族ぐるみの教育を受けていた。

 両親は居るものの、可愛がってくれた覚えはない。思い出そうとしても顔すら覚えておらず、仮面を着けた親戚達の姿ばかり覚えている。学校にも行く事がなく、王宮に来るまで一族以外の死神と関わった事がなかった。


 エメルダは、死神の病の他に、現世の事、死神の在り方についても教わった。エメルダは元々医者になりたかったが、ジンがその仕事を継いだ為、エメルダは冥府の役人になったのだ。


 本当はエメルダも医者を継ぎたかったが、一族がそう決めたのなら仕方がない。エメルダは、生き方すらも自分で決められず、一族の為に身を捧げていた。

 それもあって、純系であるはずの智が、自分の生き方を自由に決めていた事に腹が立ったのかもしれない。


 果たして自分は何の為に、誰の為に生きているのだろう。氷姫の血を絶やさない為か、冥界の為か、それとも一族の為だろうか。


 それと同じ事を、一番最初に王宮に来た時に昴に聞かれた。厳格な家庭のエメルダは、他人と出会う時は仮面を着けるように教われていた。ところが、昴はその仮面を無理矢理外したのだ。冥府神皇は厳格な者だと思いこんでいたエメルダは、驚きの余り声が出なかった。

「俺の祖父さんは仮面を外してから世界が広がったって言ってた。それで、お前は何の為に此処に来たんだ?」

エメルダはそれに答える事が出来なかった。だが、無理に役人にされたとは言えず、自信に満ち溢れた様子で積極的に仕事をしていた。




 そんなエメルダだったが、一つだけ確かだと思うものがあった。それは、冥界を何よりも大切だと思う気持ちだった。生まれ育った冥界を守る事が、役人である自分の役目である事はよく分かっていた。それはきっと他の役人達もそうだろう。

 ところが、昴は何を思ったのか突然冥界を出て旅立ってしまった。冥府神皇は冥府を束ねる者で、それ以外の世界に関わってはならないと考えていたエメルダは憤慨してしまった。それ以降、昴の祖父である智に強く当たってしまうようになった。それ程、自分に余裕が無くなっているという事だろうか。



 過去の映像から目を離せなくなったエメルダの横で、白蛇が囁いた。

「お前はこの世界を何よりも大切にしている。この冥界だけは破壊しないよ。その代わり、それ以外の世界を我々が跡形もなく破壊するよ」

エメルダの目からは光が消え、白蛇以外の声が聞こえなくなった。




 

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