ペグルを救え!
照彦は、妖と怪が争っている渦中を走り抜け、ペグルと小魂を探した。鬼界に入った影響か、怪達は目が光り、凶暴になって暴れている。中には、理性を失った者も居た。
照彦はその中から小魂の姿を探したが、何処にも居ない。すると、向こうから夢叶が走って照彦の所に向かって来た。
「照彦さん!ペグルさんの様子が…」
夢叶は照彦の手を掴んで、ペグルの所へ走って向かった。
ペグルは一人で小魂を一方的に攻撃していた。杖の先からは光線や光の弾が容赦なく発射して、小魂を襲う。小魂は、浄化こそはされなかったが、傷だらけになって動けなくなっていた。
そうなっても尚、ペグルは小魂を攻撃し続ける。ペグルと別行動をしていた寒月は、それに気づいてペグルの前に立った。
「ペグル!どうして小魂を攻撃するんだ?!」
寒月は小魂を庇うが、ペグルに蹴り飛ばされた。
「寒月、君こそどうして怪なんか庇うんだよ?怪は妖にとって敵のはずだろう?」
ペグルは相棒であるはずの寒月をまるで他人のもののように冷たく見つめる。
「やめるっピ!ペグルは…、ぼくのともだちじゃなかったっピ?!」
小魂は涙目でペグルに訴えたが、ペグルは全く聞かず、攻撃を続けた。
その様子を見て、照彦と夢叶は呆気にとられていた。
「いつものペグルと違う…」
「ええ、合戦の時から様子がおかしいのです」
「何者かの干渉を受けてるのか?それとも、これがペグル本来の姿なのか?」
照彦は骨突を持って、ペグルの周囲の『風』を読んだ。
すると、ペグルの『風』以外に、別の者の『風』がある。しかもそれは、ペグルの中に積極的に入り込んでいた。その『風』は黒く、ペグルの霊力を取り込み、更に強くなっている。
それを夢叶に伝えると、たいそう驚き、焦った表情を見せた。
「ペグルさんが別の者の霊力に?!このままじゃ、ペグルさんはその力に呑まれます。そうなったら、私にも少なからず影響が…」
「ペグルを止めないと!」
照彦は、骨突からいつもの鎌に持ち替えて、ペグルへ向かった。そして、小魂を拾い上げると、照彦はペグルに向かって一直線に走って行く。
それと同じ頃、暴走した怪達を止める為にフォルシアは奔走していた。どれだけ倒しても怪達は起き上がり、襲ってくる。
「このままじゃきりがないわ」
フォルシアは一度怪から離れ、マフラーに手をかける。それに気づいたコークスがフォルシアの腕を掴んだ。
「無理するな、ここは俺が食い止める」
「コークス…」
フォルシアはもう片方の手でマフラーに手を掛けた。
「私…、本気出すね」
フォルシアは、コークスの手を振り解いて、マフラーを外した。
フォルシアの目は第三の目と同じように黄色く光り、充血している。怪達はそんなフォルシアに一瞬恐れを感じながらも向かっていく。だが、がむしゃらに襲う怪の動きをフォルシアは読み、全て避けて反撃した。
これが、フォルシアが覚りの力を完全に開放した状態だった。同時に様々な人の動きや心を読める代わりに、力の消耗が激しい。フォルシア自身も、あまり使いたくないものだった。
コークスの完全な封印をされる前は、封印の術が不完全であった為に、よく暴走する事があった。力をある程度は自分の意志で制御する事は出来るものの、いつ暴走するか、止まってしまうか分からない恐怖はある。
そう思いながらも、使っている最中はそういった感情はなくなるのだ。フォルシアは、無我夢中で怪達を倒していった。
突然やって来た照彦に、ペグルは驚く事なく杖を向けた。
「驚いたね、怪の味方をするなんて…。そんな奴は、許す訳にはいかないね」
ペグルは照彦に向かって光の弾を繰り出した。それに鏡合わせになるように照彦も光の弾を繰り出す。二人の攻撃はお互いにぶつかり、打ち消し合った。
「僕も君も天の光の力を使う存在、それなのにどうして照彦君は怪の味方なんかするんだ?」
「小魂は俺の友達だよ、ペグルにとってもそうだっただろ?」
ペグルは、照彦の問に答える事なく技を繰り出す。
「『仙術・白霞』!」
照彦は照彦の術を避ける事なく自ら当たに行き、更にこう続ける。
「俺は怪や妖だからっていう差別や区別をしたくない。人々を襲うならどっちだって容赦はしないし、もし友達になれるならどっちだってなるよ」
照彦は、ペグルの技を集め、大きな矛を造り出し、ペグルに向かって投げた。
「『光の矛』!」
矛はペグルの胸に突き刺さり、ペグルはその場に倒れた。ペグルに刺さっていた矢は浄化され、砂のように流れていく。
照彦は倒れたペグルに手を差し伸べた。
「もうやめよう、本当はペグルと戦いたくなんかない」
ペグルは照彦に付けられた傷を抑えながら、立ち上がった。
「友達を守る為なら容赦しないんだね、照彦君…」
ペグルの目には光が戻り、態度も普段通りになった。そして、照彦の手を掴み、立ち上がる。
照彦と小魂、それから夢叶は、元に戻ったペグルを見て、戦場に居る事も忘れて笑いあった。
ようやくペグルを救った照彦だったが、戦いは収まる気配を見せなかった。コークスやフォルシア、ドルフィンは疲れ果て、息が乱れている。もうこれ以上戦っても、お互い身を滅ぼすだけだ。それを妖や怪達にどう伝えれば良いのだろう。
照彦は戦っている妖と怪に向かって大声でこう語りかけた。
「本当にみんなはこの戦いを望んでるの?」
妖と怪達は冷静になってお互いを見合わせた。
「こんな戦い、勝っても負けても虚しいだけだよね?!」
ペグルのその一言で、妖と怪達は我に返った。
確かに、こうして戦っても一体何が残るというのだろう。妖と怪達は、振りかざそうとした腕を下ろし、散らばって合戦場から離れようとした。戦いは一気に収束したように見える。
その時、フォルシアの第三の目に矢が刺さった。目は潰れ、血が流れている。コークスは慌てて駆け寄って抱えた。
通常の覚りと同様、身体に着いている状態なら、第三の目は心臓に直結している重要な部位だ。フォルシアも、目を身体から取っている状態なら踏まれたり食われたりしても再生するが、着いている状態なら致命傷になる。
フォルシアを刺したのは誰かとコークスが探した時、合戦場の中心に黒い竜巻が現れた。黒い竜巻は妖や怪達を一気に巻き上げ、毒に冒していく。
風が止むと、そこに夢前が立っていた。夢前は弓を持ち、矢をつがえている。
だが、今まで照彦達が見た夢前と様子が違った。夢前の身体には蝙蝠のような翅と、蠍の尾が着いている。その姿に人間だったころの面影は感じられず、姿だけはよく似た悪魔のように思えた。
先程まで氷牙と共に妖軍として戦っていた晴哉が、照彦の元にやって来た。晴哉は突然の夢前の登場に驚き、目を疑う。自分で話をしたものの、本当に夢前がまだこの世に居る事が信じられなかったからだ。
照彦達は一斉に並んで夢前の方へ向かう。夢前は、矢を放ち、雨のように振らせた。矢は無差別に妖と怪に刺さっていく。矢を刺された者は、夢遊病のように我を失いながら、暴れ始めた。
それに気づいた朝日は、緑丸に絢音の事を任せ、照彦達の元へやって来た。
その中の一つが太一に刺さり、その場に倒れた。朝日は太一に駆け寄り、矢を抜こうとするが、矢は解けながら身体の中に入っていく。
「太一!」
矢は太一を蝕み、戒めである封印を解いていく。そして、封印が完全に解かれた太一の身体は黒化し、鬼の形相になる。太一の面影は全くと言っていい程残っていない。
「くっ…、止めなきゃ」
理性を失い、暴走する太一に、朝日は鎌を向ける。
すると、二人の間に蘇芳が割り込んできた。蘇芳は太一の攻撃を受け止め、朝日にこう言う。
「ここは俺に任せろ、鬼を止めるのは鬼の役目だ」
「蘇芳…」
朝日は蘇芳に太一の事を任せ、照彦の所に戻った。
一旦収束したように思えた妖と怪の戦乱、だが、今までの事は全て、夢前の手の中で起こっていた事だった。




