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戦いの中で芽生える思い

 

 照彦と絢音は合戦場から外れ、崖の下に落ちてしまった。真上では怪や妖達が争う音と声が聞こえる。二人が落ちた穴は小さく、大きな怪達は入り込めなかった。


 絢音は落ちた後ずっと足を抑えている。どうやら、落ちた時に足を挫いたようだった。

「大丈夫か?」 

「うん…」

絢音は立ち上がろうとしたが、足は思いの外痛いらしく、立ち上がれない。

「大丈夫だよ、照彦君…」

そう言いながらも絢音は、本当に動けないようだった。それに気づいた照彦は、絢音に一歩近づいて背中を向けてしゃがみ込む。

「何かあったらダメだ、俺が背負う」

「いいの…?」

絢音は恐る恐る照彦の身体に乗り、肩を持った。


 照彦は絢音を背負い、岩の壁に触れた。岩は所々崩れてはいるが、足場を考えればなんとか登れそうだ。

「しっかり捕まってろ、手を離したら寧ろ危ない」

「う、うん」

照彦は、岩を掴み、別の岩を足場にして、崖を登って行った。

 照彦は今までの人生のなかで、こんな崖を登った試しがない。命綱も無い中、照彦は絢音を背負って少しずつ登っていく。

 照彦の手には酷く汗をかき、滑りやすくなっている。照彦は、いつ崖から手を離してしまうか、ヒヤヒヤしながら登っていた。

 


 昔の自分だったら、絢音がもし背後に居なければきっと、今手を離してもおかしくなかった。

 かつての照彦なら、こんな苦しくて辛い事を自分から背負い込む事は絶対にしなかった。変化をしない日々を好み、辛くもないけど楽しくもない日々を送っていた。


 ところが、絢音と出会って、夢前を追うようになってから、照彦の日々は劇的に変わった。楽しくもありながらも、絢音の事で戸惑い、辛くなる事もあった。喧嘩をした時は、照彦もどうすればいいのか分からなくなった。


 また、今まで考えるのを先延ばしにしていた、自分の生き方についても考えされられた。自分の事も、絢音の事もまだ分からない。死神の役目を果たすと言いながらも、本当にそれでいいのかまだ迷っている。

 仲間の為に強くなりたいが、まだ自分は未熟なんだと思い知らされた。だが、少しずつでも強くならなければならない。




 絢音や他の仲間から頼りにされていると思うと、自分の苦しみがちっぽけなものだと思ってしまう。照彦は、絢音と一緒に戻ろうと必死に崖を登っていった。

 その時、後ろに居る絢音がこんな事を言った。

「私ね、照彦君が居ない間、ずっと考えてたんだ。照彦君は私のなんだろうって」

照彦は、自分と同じ事を絢音も同じ時に考えていた事に驚いた。

「それは…、俺もだ」

照彦は、絢音と初めて会った時の事を思い出した。

「思えば一目惚れだったな…、自分から話し掛けたくても出来なくて、初めて声を掛けてくれた時、嬉しくてしょうがなかった。あの時から絢音には他のみんなとは違う気持ちを感じてたんだ。」

「そうなの?」

「でも、あの時の気持ちと今の気持ちは違う」

照彦はようやく崖を登りきり、地上に出た。



 

 地上に出ると照彦は、絢音を地面に立たせ、強く抱き締めた。

 久々の二人の空間だった。照彦は今までみんなと一緒に居たから抑えていた気持ちが、噴き上がって止まらなくなる。

「絢音…、好きだ。お前は家族や他の友達よりも特別な存在なんだよ」

 絢音は、照彦が自分の気持ちを伝えてくれた事が、これ以上無い程うれしかった。絢音は頷き、抱き締め返す。

「うん…、でも、何で今この場で言うの?」

「えっ?」

照彦が下を見ると足場は二人がようやく立てるくらいの大きさだった。そこも地盤が脆くなっている。


 すると、足場にヒビが入って二人は真っ逆さまに落ちていった。せっかく時間を掛けて登った崖が、あっという間に照彦の目の前を通り過ぎていく。

「あぶないっピ!」

すると、巨大化した小魂が飛んできて、二人を背中で拾った。

 小魂は二人の姿を見て一安心すると、戦場に向かって行った。



 絢音は、小魂が無事だった事に一安心すると、先程の話の続きを始めた。

「私も同じ気持ちだよ、照彦君が家族や友達に負けないくらい特別な存在なんだって、今なら言える」

「そうなのか?」

「でも、ホントに私で良いの?他の誰かの方がいいかもしれないのに…」

「他の誰とかじゃない、絢音じゃなきゃダメなんだよ!」

照彦の大声に絢音は驚いたが、自分が照彦にとって大事な存在だとここまで強く言ってくれたと思うと、胸がじんわりと温かくなった。

「そっか…、ありがとう」

その後、絢音は照彦と一緒に遠くの戦場を見つめていた。




 照彦達が戦場に辿りつくと、突然遠くから地響きのような音がした。空を見ると、青かった空に突然黒い煙のようなものが現れ、渦を巻きながら広がっていく。


 そして何度か地面が揺れ、赤い炎が噴き出した。黒く禍々しい空が広がり、怪達の唸り声か至る所から聞こえる。先程までの妖界とは様子が一気に様子が変わってしまった。


 すると、先程まで元気だった絢音の顔が突然青褪めた。むせるような咳が止まらなくなり、頭を押さえている。

「うっ…、苦しい」

「大丈夫か?!」

照彦は絢音を胸の中に寄せ、背中を擦った。以前、呪われた時と同じように痙攣していて、呼吸が苦しそうである。

 だが、他者の霊力を感じないので、呪われている訳ではないようだ。それなのに、絢音の容体が崩れたというのは、どういう事だろうか。


 照彦が原因を探していると、八咫烏の姿になった緑丸が照彦の目の前に飛んできた。

「照彦様!朝日様がお呼びです!」

「お父さんが?!どうしたんだろう…」

照彦は、小魂の背中を叩いて妖の本拠地に急いで向かうように指示した。

 小魂は全速力を出して朝日の所へ向かう。照彦は、苦しむ絢音を抱えて、無事を祈った。 



 その時、照彦の胸の中に誰かの声が響いてきた。以前聞いた声は、心にそっと語り掛けるようなものだったが、今の声は大地が唸るような低く、凄みを感じるものだった。

「『汝は仲間を守る為に何が出来る?』」

照彦はその声に答えようと、目を閉じて考える。

「俺は…、一刻も早くみんなの所に行きたい」

照彦は絢音を胸に押し寄せ、前を向いた。

「絢音…、死ぬなよ」

小魂は照彦の気持ちに応えるように、真っ直ぐ朝日の所に向かった。 

 



 朝日が居る妖の本拠地に辿り着いた頃には、絢音はぐったりとしていて、言葉一つ発する元気も無くなっていた。

 小魂は絢音の事よりも、先程まで別行動をしていた仲間のペグルの事がどうしても気になるらしく、照彦と絢音を下ろすと先に行ってしまった。

 


 照彦は、絢音を背負って朝日の前に連れて来た。朝日は絢音の容体を驚き、両肩を掴んだ。

「マズイな…、瘴気に侵されてる」

「瘴気?でも、ここは妖界のはずじゃ…」

照彦が振り向くと、景色が先程までと一変していた。



 地面からは溶岩が吹き上がり、大気は黒い瘴気に覆われている。それは、以前太一が教えてくれた鬼界の様子と同じだった。

「合戦場ごと鬼界に移動したようだな…、怪達が凶暴になってる。それを伝えたくて呼んだんだ」

朝日は絢音を自分の椅子に座らせ、自身が着ている上着を羽織らせた。

「あくまで応急処置だが、この大妖魔の羽衣を掛けておけばある程度は瘴気から免れる。それと、照彦、今霊水晶の瓶を持ってないか?」

照彦は鎖に巻きつけてある瓶に目を向けた。瓶には夢前の魂が入っていて、自分の霊力は溜まっていない。照彦は首を振って絢音の方を見た。

「今は絢音に瓶の中身を飲ませられない…、絢音、今自分の瓶を持ってなかったか?」

朝日は、絢音のポケットの中を漁ると、絢音の小瓶が出てきた。朝日がそれを飲ませると、絢音は少し落ち着いたらしく、顔に血の気が少し戻った。

 


 その時遠くから、ペグルの所に向かったはずの小魂の叫び声が聞こえた。照彦はそこに向かおうとするが、絢音の事が心配でその場から動けない。それに気づいた朝日が、照彦の背中を後押しした。

「照彦、ペグルの所に行ってこい!絢音は俺が見ておくから…」

照彦は、絢音と朝日の顔を交互に見た後、小魂がいる方を向いた。

「お父さん…、行ってきます!」

照彦は振り向かず、小魂とペグルが居る方へ、一直線に走って行った。


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