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妖達の戦乱


 寒月達が入った森は、先程の森よりも緑が一層濃く深く見えた。木々の間には人魂のようなものが浮かび上がり、不気味な印象を与える。また、真夏なのに鳥肌が立つ程寒く感じた。

 

 そこに着くと、寒月と氷牙は人型の姿に変化した。そして、木々の間にある小さな家の扉を一つずつ開ける。

 寒月は家の中に入って誰か居るか見て回ったが、どの家にも誰も居らず、一度外に出た。

「里の者たちは既に戦場に向かったようだ、私達も向かわなければならない」

「あの、ここは一体何なのですか?」

「ここは夢原の裏にある亜空間だ。妖が造り出した亜空間の事を俺達は妖界って呼んでる」

氷牙はそう言って妖界を見渡した。



 この妖界には、かつて夢原の人々と共に暮らした妖達が大勢居た。ところが、そのほとんどが夢前に連れ去られ、命を落とした者も少なくない。だが、霧山家に居た氷牙と寒月、隠れていた一部の妖達は無事だった。 


 この空間は夢原に直接繋がっていて、妖達は簡単に行き来する事が出来る。だが、その妖達が少なくなってから、夢原には怪が侵入する事になってしまった。

 そんな中晴哉は、老体に鞭を打って、氷牙と共に怪達から人々を守っていた。

「久が亡くなってから、私は晴哉さんに付いて共に夢原を守っていた」 

氷牙は、晴哉の横に立って森の向こうにある夢原を見つめていた。

 

 晴哉は、氷牙の父で寒月の祖父にあたる雪華と共に夢守をしていた。雪狼の中でも寒月の一族は、代々霧山家の妖になる事が決められていたのだ。

 


 夢原の妖達は、数は少なくなりながらもここで平和に暮らしていたはずだ。それなのに何故、突然争うような事になってしまったのだろう。それは、ここの妖達の長のような存在である夢叶にも分からなかった。

「妖達は怪と無理に干渉するのは望んでないはず、それなのにどうして…」   

夢叶は、長年夢原を離れていたせいで、今の状況が全く飲み込めていなかった。今の夢叶は全く当てにならない。


 そこで、他にこの事を知っている者が居ないか考えてみた。

「妖や怪の長に話を聞いてみようよ!」

妖の長、冥府神妖である朝日、怪の長、冥府神鬼である太一、二人とも風見の一族で照彦はよく知っていた。

「二人とも知ってるけど、今何処に居るんだろ…」

すると、絢音がポケットの中から緑色の数珠を取り出した。

「朝日さんの数珠、今持ってるよ!」

 絢音が数珠を左手に持って掲げると、数珠が光を放って道を造った。



 照彦達はそれを通って妖界の奥地へ向かった。森は更に深くなり、辺りは暗くなっていく。周囲の人魂は多くなり、暗い森を照らしていた。

 光の道が途切れると、大きな社が見えた。中に入ると、部屋が広がっていて、奥には玉座が見える。その部屋に、朝日と太一が居た。

「お父さん、太一さん!」

照彦は二人に近づき、話し掛ける。

「妖と怪が戦うって本当なの?」

朝日はどうしようもないと思い、首を振った。

「ああ…、残念だが本当だ」

「僕も、魔帝様も説得したんだけど、怪のみんなは話を聞いてくれなくて…」

朝日も太一も、自分の力で仲間達を止められなかった事を悔いていた。

 怪達は、太一よりも位が高く、本来逆らえないはずの魔帝も逆らって戦をしようとしているのだ。



 妖と怪は現世、いわゆる人間界に戦乱に巻き起こっている時に争い合うという。

 夢叶が夢原に居た時は、各地で人間同士と、妖と怪の戦乱が起こっていた。夢叶はそれを止め、夢原の人々が穏やかに暮らせるように守っていた。

「私はよく妖と怪の戦乱を止めていました。なのに、どうして今戦乱が起こっているのでしょう…」

「夢叶は悪くないよ、きっと」

ペグルは一人考え込む夢叶をなだめた。


 朝日は照彦達の顔を、一人ずつ目を合わせた。

「俺達だけではどうも止められない、呼んでいる人も居るんだが、照彦達も参加してくれないか?」

照彦達は頷いた。

「その代わり、命の危険を感じたらすぐ逃げるんだぞ?」

「お父さん、頑張ってみるよ!」

朝日は、今までの旅で照彦が成長しているのだと感じた。今の照彦達ならきっとこの戦乱を止めてくれるに違いない。




 朝日と太一は、照彦達を合戦場へと案内した。人魂達は灯籠のように並び、道を照らす。

 その頃、ペグルの背後に人影があった。人影は、音もなく木陰からペグルに近づくと、黒い弓でペグルを射抜いた。

 ペグルはそれには気づいていない。だが、矢はペグルの身体に溶け込むと、じんわりと影のように侵食していった。



 照彦も絢音も、朝日も太一もそれに気づかない。ペグルの異変を感じないまま、話を始める。

「水晶を集めているんだろ?この合戦を止める事が出来たなら、俺からは妖水晶を、太一から魔水晶をやるよ。二つともただの水晶じゃない、それぞれの始祖の魂が結晶化したものだ」

「そんな貴重なもの、いいんですか?!」

朝日は仕方ないと言ってこう続ける。

「まぁ、父さんの頼みだからな…。俺達が守ってたんだが、譲ってもいいかなって思ってる」

「昴さんは更なる力を求めてらっしゃるのですね」

照彦は、ただでさえ強い昴が更なる力を求めている事に驚いた。


 昴は冥府神皇として認められる為に、更に強い相手を打ち破る為に強くなっていった。神化する事が出来ないと悔いている照彦と違い、昴は何度も神化し、強くなり続けている。そんな昴が自分の祖父である事を、照彦は自分の事のはずなのに一番信じられなかった。




 そんな事を考えいると、照彦達は合戦場に辿り着いた。

 そこには既に大小様々な異形の妖や怪達が大勢集まっている。妖も怪も秩序はあるのか、まだ争っている様子ではなく、何かを待っていた。


 どれも照彦達が見た事がない者ばかりだったが、その中に知る人が居た。


 照彦達だけでなく、真由とビガラス、智、それからコークスとフォルシアまで居る。照彦は、みんなが集まっている所にやって来た。

「真由姉ちゃん!」

「朝日さんに呼ばれてさ、どうしてもって事でやって来たんだよ」

真由は初めて見る真由の姿に驚き、手を掴んだ。

「それで、君が照彦君のガールフレンドなの?」

グイグイ近づく真由に、絢音は少し引き気味で答えた。

「ええ、まぁ、お世話になってます…」

絢音は苦笑いを浮かべて真由から目を反らした。


 フォルシアとコークスは、火山屋で出会った以来に照彦

「フォルシアさんにコークスさん、また会えましたね」   

「ええ、みんな元気にしてて良かったわ」

フォルシアは今日笠を被っていない。一体どういう事だろうと思うと、コークスが頭に巻いている布巾を外した。

「久々に暴れるからな、俺達も本気でやるよ」

どうやら、コークスの布巾もフォルシアの笠と同じように封印の役割を果たしているらしい。 

 フォルシアと同様コークスも、能力で封じなければならない程の強大な力を秘めていているようだ。



 次に照彦は智の横に来た。すると、智の横に少女の姿をした怪が居た。絢音とほとんど変わらない身長で、智の影でじっとしている。照彦はその怪を見た事がなかった。

「お前は…、悪魔なのか?」

照彦は、チルと出会うのは初めてだった。同じ怪とはいえ、悪魔と間違えられたチルは怒った。

「悪魔とは失礼な!私はチル、コウモリの怪です!」

チルは照彦に向かって頬を膨らませると、照彦は悪かったと思ってチルをなだめた。

「それで、照彦はどっちで戦うんだ?」

「えっ…?」

照彦が智の質問に戸惑っていると、照彦の肩に乗っていた小魂がヒレを上げた。どうやら、怪達と一緒に戦いたいらしい。

「俺達は怪軍かな、ペグルや夢叶は妖軍だよね?」

ペグルと夢叶は頷き、朝日の横に立った。


 すると、向こうの空から緑丸が飛んできた。

「朝日様、準備が出来ました!」

「おお、そうか、みんな待ってるなら行かなきゃな!」

緑丸は、朝日の横にチルが居るのに気づいた。怪であるチルは恐らく、怪軍で戦うのだろう。

 せっかくお互いの事が分かり合えたのに、争う事なんて本当はしたくなかった。だが、自分の立場上仕方ない。緑丸は、妖軍の本拠地に向かって飛んでいった。




 その頃、怪軍の本拠地では、鬼界の鬼や悪魔達が集まり、話をしていた。

 それとは外れ、獄炎の輩の長である蘇芳は、手下である八咫烏の紅丸と真白と話をしていた。

「俺達はどうしても妖軍で戦いたいのです」

蘇芳は二人の瞳をじっと見て、迷う事なくこう答えた。

「ああ…、行ってこい!」

「宜しいのですか?」

「その代わり、俺が相手だからって手加減するなよ?その時は本気で潰してやるからな!」

二人は蘇芳に深々とお辞儀をして、妖軍の本気に向かった。

「蘇芳様、行って参ります!」

蘇芳は手を振って、鬼達の所に行った。


 

 照彦達は定位置に付いた。そして、遠くから法螺貝が鳴り、両軍は堰が外された川のように一気に流れ出す。

 妖と怪の仁義なき戦いが、今、火蓋を切った。

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