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夢前の真相


 そして、晴哉は町外れにある一軒家で足を止めた。霧山家に比べて手入れがされておらず、ところどころ傷んでいるが、家の形は残されている。

 照彦は門にある表札を見た。雨に濡れて傷んでいるが、そこには『夢前』と彫られてあるのがかろうじて読める。どうやら、ここはかつて夢前の家族が住んでいた家だそうだ。

「入りなさい」

「でも、ここ人の家じゃない?」

「この家の主はもうこの世には居ない」

晴哉は持ってきていた木の箱から古びた鍵を取り出すと、扉を開けて中に入った。


 主が居なくなった家は、ところどころ錆びついていて、柱や床は傷んでいる。これだけの状態になって取り壊されないのは、何か理由があるのだろうか。柱の中には御札が貼られたものもあり、禍々しい気を発している。

 照彦は、この家の中に怪の気配を感じたが、今は怪は居ないようだった。


 晴哉は、居間らしき部屋の押入れの中から、巻物を取り出した。中を開くと、絵巻物になっていて、白蛇の怪が描かれてある。その横には、複数の人間が描かれている。

「これは白蛇の怪を使役していた夢前の一族を描いた巻物だ」

白蛇の怪は暴れ回り、人々は必死に止めているようだった。

 それを見ながら、晴哉はかつての夢原の話を、夢前家の話を始めた。



 現在は霧山のみが現存しているが、かつては様々な一族が夢守を務めていた。大抵の夢守は、夢叶と繋がりのある妖を使役していたが、夢前家だけは違った。  

 夢前家は、鬼界の怪を使役して戦っていたのだ。その為、他の夢守の一族よりも強く、それに敵うのは霧山家のみとされていた程だ。

 だが、怪を扱うという事で人々に禍々しい印象を与え、夢原の民はおろか、他の夢守からも煙たがれ、孤立していた。

 そんな夢前家に産まれたのが、蒼汰だった。



 蒼汰は、幼い頃から白蛇の怪やその他様々な怪を使役する事が出来た。また、夢で起きた事を現実に、現実で起きた事を夢に変えるという強大な能力を持っていて、一族は期待していた。その頃の夢前は、ただ強さだけを求めていた。


 ところが、蒼汰は、自分や夢前家の人々が夢原で酷く扱われている事を知ってから、すっかり人が変わってしまった。夢前はまず、その他の夢守達を夢の中に封じ込め、皆殺しにした。

 また、使役していた妖達を夢原から追放して、妖達が夢原を行き来出来なくさせてしまった。

 蒼汰の怒りは、夢前家をぞんざいに扱う他人に向けるばかりでは収まらず、夢前家にも向けられた。そして、蒼汰の両親を含めた夢前家を夢の中に封じ込め、魂もろとも二度と現世に帰れなくしてしまった。


 霧山家の夢守は、蒼汰を止める事が出来ず、一度夢原を離れる。その隙を見て蒼汰は、夢原役場、夢界でいう時計塔を占拠する。そして、夢界と現世を強制的に行き来するという力を自分の力にしてしまった。



 その後、蒼汰は夢原と夢界を荒らした大罪人とみなされ、夢湧の井戸の中に葬り去られる。蒼汰の力は更に強くなっていて、井戸に連れて行くだけでも霧山家の夢守が難儀したようだった。

 蒼汰の身体は井戸の中で朽ち果て、魂は冥府の裁きによって消滅させられた。また、蒼汰が使役していた怪達はこの屋敷に封印された。怪の気配が残っているのは恐らくその為だろう。




 本来なら、こうして蒼汰の一件は集結したはずだった。だが、魂も、肉体も消失したはずの蒼汰が、何故今居るのだろう。それは、晴哉にも分からなかった。

「やっぱり、夢前は死んでたんだ」

ペグルがそう言うと、夢叶はその時の事を思い出して考え込んだ。

「あの時もう少し私が頑張っていればそんな事にはならなかったのに、申し訳ありません…。実は晴哉さん、絢音さんに助けてもらう前まで、私は蒼汰に捕らわれていました」

「なんと!それはお気の毒に」

「私を凌ぐ程の力を持っているのは存じ上げておりましたが、何故今私を捕らえたのでしょう…」

夢叶はついこの間まですぐ側に居たのに、夢前の意図が全く持って掴めなかった。何故自分を捕らえたのかも、捨てたのかも分からない。


 続いてペグルが、晴哉にこう尋ねた。

「夢前蒼汰が生きていたのはだいたいどれくらい前なのですか?」

「おおよそ二百年前だな、あまりもの惨劇に詳しい記録は残されていないが…」

晴哉は、絵巻物を更に広げたが、詳しい事は書かれていなかった。

 照彦は、夢前が既にこの世には居ないと知って、改めて考えてみた。

「身体は井戸の中に入れられて、魂は何者かに葬り去られたんだろ?じゃあ、今俺達が見ている夢前は何なんだよ」

絢音は絵巻物の続きを見た。すると、夢守の手で亡くなったはずの人が、実は生きていたという状況が、描かれてある。

「夢前蒼汰は、夢を現実に、現実を夢に出来るんでしょ?もしかしたら、自分が死んだ事を夢にしようとしてるんじゃない?」

「そうだとしても、死んでる事には変わりないよ」

「もしかしたら、魂が消滅しきっていないのかも…」

照彦はペグルの言葉を聞いて、身体中に静電気のような衝撃が走った。



 先程助けた魂は、もしかしたら夢前の魂かも知れない。そう考えた照彦は、無意識に自分の瓶を震える手で押さえていた。

 何故、今敵対しているしている人物の魂を救おうとしているのか。時間の無駄になる事は辞めて、再びこれを井戸の中に戻すべきだろうか。

 いや、そうすれば照彦は、自分が言う死神の勤めを果たせない。自分から言い出して、それをやらないなら、勤めを果たす権利はない。

 照彦は、この魂が誰のものであろうと、言い出したからには送らなければならないのだ。



 照彦は誰にも気づかれないように深呼吸をして、みんなの方を見た。照彦以外は絵巻物を夢中で見ている。その中で、小魂は絵巻物の中の白蛇の怪をじっと見つめていた。

「ねぇてるひこ、怪ってそんなにわるいやつなんっピ?」

「えっ…?」

「怪は使役するのが難しいんだ。それに、人間に危害を加える事もある」

「ぼくは人間のこと、現世のこと、人間や死神のこと、あやかしの事だって、もっともっとしりたいっピ!」

小魂は晴哉にしがみついてこう訴えるが、晴哉は苦い顔をした。

「そうか…、でも、怪は妖と違って人と上手くやり合えない。怪は凶暴で悪い奴だからな」

「いくら怪だからと言って、小魂は悪い奴じゃない!俺達の友達だよ!」

照彦が小魂を晴哉から離して頭の上に乗せた。


 照彦は小魂と仲良くする事が出来た。それと同じように、他の怪だってきっと人間と分かり合えるに違いない。だが、それでも晴哉の意見は揺るがなかった。

「夢原に妖が居なくなってから、怪が蔓延るようになってしまった。私がずっと退治しているが、追いつかない」

それから晴哉は、夢原で長年起きている怪と妖の対立の話をした。



 怪と妖は長年対立関係にある。それは、死神である照彦も、夢守であるペグルも分かっていた。どちらも人に危害を加える存在であるが、友好的なものも時々居る。何れにしろ、力のあるものが妖や怪をコントロールしなければならないのだ。

「照彦君、長年培ってきたイメージは中々覆る事はないよ」

「小魂を見て思うんだ。怪ってさ、無垢な心を持っている。そして、理性もあるけど本能のままに行動してる。妖が人間に友好的なものもそうでないものも居るのと同じように、怪だってきっと人間と仲良くしたい奴が居るかも知れないじゃん!」

小魂は照彦の言葉に動かされて、手の平に乗って、腹を向けた。


 魂喰虫にとって、常に地面に向けている腹は弱点だ。仲間同士でさえ、見せる事はない。腹を強く叩かれたり、切ったり噛まれたりするだけで、魂喰虫はあっという間に死んでしまう。

 そんな腹を照彦に向けているという事は、それだけ小魂は照彦を信頼しているという証だった。



 晴哉は、照彦と小魂の話を半ば信じる事が出来なかった。そして、その後も話を聞かずに立ち上がって夢前家を出る。

 すると、二匹の雪狼が出てくるのを待ち構えるように玄関に立っていた。そのうちの一匹は、ペグルが使役する寒月だった。寒月は雪狼の里に挨拶に行ったはずだが、どういう事だろう。

「寒月さん、氷牙さん、どうされましたか?」

夢叶がそう言うと、寒月が慌てたようにこう言った。

「妖と怪の戦いが勃発した、すぐに向かわないと!」

寒月と氷牙は、ペグルを置いて走り去って走り去って行く。照彦達は、それを追い掛ける。


 寒月は森の奥地へ走って行く。夢原を囲う森は深く、何処までも続いているように見えた。

 しばらく走っていると、空間が歪み、森の様子が変わった。その森が開けると、照彦達は先程の夢原とは様子が違う別の場所に着いていた。

  

 




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