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夢の中の男


 その日の夜、照彦は夢を見た。周囲は真っ暗なのに、なぜか自分の姿だけは見える。照彦は、不思議に思った。

 何処なのかも分からないその場所を、照彦は歩いていく。すると、背後から声が聞こえた。

「お前…、奴の事を知ってるのだろう?」

「誰だ?!」

照彦が振り向いた刹那、苦内が飛んできた。照彦は反射でそれを避ける。

 照彦の背後には、男が立っていた。身長は高く、赤い肩パットをした白いジャージを着ている。

 その目は橙だが、瞳孔は紺色で、黄色や青緑色も混じっていた。

 照彦は、その男が人間ではない事だけは分かった。

「どうして俺を…」

「とぼけるな、お前が奴を知っているのは知っている」

男は、苦内を投げた。苦内は照彦の胸を目掛けて真っ直ぐに飛ぶ。

「くっ…、やるしかないのか?!」

照彦は、鎌を取り出して、男に向けた。

「どれだけ足掻いても無駄だ」

「『冥道裂斬』!」

照彦は鎌を持って男に向かって行った。

「お前に術を使うまでもない」

 男は、向かって来た照彦に動じず、苦内を胸に突き刺した。照彦は血を流し、その場に倒れた。 

 照彦を倒しても男は、表情一つ変えなかった。

そして、冷たい声でこう言う。

「お前にとって、これは夢か現実か、どっちだろうな…」

男は闇の中に消えていった。



 そして、朝が来た。照彦はベッドから転げ落ちる。 

「痛っ?!」

夢で刺されたはずなのに、目覚めても、胸に何かが刺さったような痛みがあった。

 それに、ベッドから落ちた衝撃が加わって、身体全体が痛い。

「あれ、何だったんだ…?」

照彦は、着替えて一階に降りて行った。



 一階では、朝日と、照彦の母親の雪花が、朝食を取っていた。普段よりも遅く起きてきた照彦を、二人は心配している。

「夢を見た?」

「うん、人間じゃない男に殺される夢を見たんだ…」

「きっと疲れているだけよ」

雪花は、照彦の目の前に朝食を置いた。今日は、パンと目玉焼きに、味噌汁というメニューだった。

「そう、かな…」

 照彦は、雪花が用意してくれた朝食を食べた。だが、先程の悪夢のせいで、思うように喉を通らない。食欲はあるのだが、身体が受け付けない。



 照彦は家を出て行った。照彦の不安を映すかのように空はどんよりと曇っていて、ぬるい風で草木が揺れている。

 少し歩いた所にある公園で、絢音が待っていた。

「おはよう、照彦君」

「ああ、おはよう…」

「元気ないね?どうしたの?」

絢音は、元気なさそうな照彦を心配していた。

「ああ…、変な夢を見たんだ。謎の男によって殺される夢…」

「私も、男の人の夢見たよ」

「絢音も?」

「うん…、奴か、妖の頭領を知らないか、って聞かれたんだけど…」

「そうか…」

 絢音が見た男と、照彦が見た男が同じ人物かは分からない。だが、同じように不気味な感じがした。



 そんな照彦と絢音を、屋根の上から誰かが見下ろしていた。照彦が夢で見たあの男だった。その横には、紫色の獏の妖が居る。獏は、男にこう聞いた。

「いいんですか?二人を放っておいて」

「まあ、焦るな。そう一日二日で解決するものでもない」

男は、獏を連れて何処かに連れて行った。



 

 冥界では、智が三途の川の畔で休んでいた。川は何人もの船頭達が行き来し、魂を乗せている。智は、その様子をずっと眺めていた。

 すると、智の近くの水面が泡立ち、魚人が顔を覗かせた。それは、智の知り合いのカイルだった。

「よっ、智」

「カイル…、どうしたんだ?」

「最近三途の川の様子がおかしくてよ…、それを察してか魂喰虫(たまくいむし)達も暴れだして…」

「魂喰虫が?」

 魂喰虫は、三途の川に棲む怪の一種だ。魂の流れに乗せられない古い魂を食べる性質がある。

 怪は死神にとって討伐の対象になるが、魂喰虫は、古くから死神と共存関係になっていた。

 また、魂喰虫は、食料にもなる。死神達は、刺し身や唐揚げにして食べている。


 また、魂喰虫は怪にとっても美味しいのか、他の怪にも狙われる事が多かった。

「そういや、もうすぐ子供達が魂喰虫を釣る時期だよなぁ」

「魂喰虫を釣る?」

 すると、智の友人の死神であるシェイルが、智の元へとやって来た。

「懐かしいな、魂喰虫の観察日記。小学生の時やったよ」

「シェイル?」

シェイルはカイルの前に立った。

「観察日記をするのか?」

「そっか…、智は現世の小学校に通ってたからやってないのだな」

「面白いのか?それ」

「まぁ…、一ヶ月かけてもあまり変化はないのだけれどもな」

シェイルは、智の横に座って、三途の川を眺めていた。




 その日の夜、照彦はまた夢を見た。今度は、見知らぬ町で一人歩いている。すると、何処かから声が聞こえた。

「照彦君、だよね?」

その声は、ペグルの声だった。ペグルは、何処か高い所から喋っている。

「時計塔に来て、話があるんだ」

「時計塔…?」

照彦は真上を見上げた。時計がある高い建物がある。それが、ペグルが言う時計塔なのだろうか。

「僕は時計塔の番人をしてるんだ、こっちに来てくれない?」

「分かった、すぐ行く」

照彦は、時計塔に向かって走って行った。夢はそこで途切れ、照彦の記憶もここまでだった。



 そして、朝が来た。照彦は着替えて朝食を食べ、家を出る。空は今日も曇っていて、人気もあまりなかった。

 今日は絢音は先に行ったらしく、公園には居なかった。落ち込んでいる照彦の横から、ペグルが声を掛ける。

「おはよう、照彦君」

照彦はペグルの方を見て驚き、挨拶を返すのを忘れてこう言った。

「おい、ペグル…、どうしたんだ?」

 ペグルの姿は、以前会った時と大きく変わっていた。黒かった目と髪の毛は白くなり、一部が水色になっている。

 照彦は、自分の目がおかしいのかと何度も目を擦ったが、ペグルの姿は変わらなかった。

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