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夢原へ


 それから、しばらく経った。夏休みに入った頃、照彦達は電車に乗って夢原へ向かった。電車は白浜町の町並みを抜け、隣の町、そして隣の県に入っていく。電車が幾つも駅を通る度に、人は少なくなり、景色も山ばかりになった。


 ペグルは、祖父母に会うと同時に、父親の久の墓参りをする為に一族の故郷に向かうのだ。それに、照彦と絢音、寒月と小魂、夢叶は一緒に行く事になった。


 照彦が夢原に行きたかったのは、夢前について詳しく知りたかったからだ。霧山と同じ夢守である夢前、夢守の故郷である夢原に行けばきっと有力な手掛かりが掴めるはずだ。



 

 トンネルを抜け、幾つも山を超えたその先、白浜町があるH県の隣であるN県R市に夢原町はあった。


 照彦は、電車でこんなに遠くに行ったのは初めてだった。風見の故郷である死出山は、今は町が滅び、建物は跡形もなく崩れ去っている。照彦は話こそは聞いた事あったが、そこまで向かった事は無い。

 照彦は、一族の故郷に行けるペグルが少しだけ羨ましかった。




 照彦達は夢原駅を降りて、ペグルの実家に向かった。ところが、実家には鍵が掛かっていて開ける事が出来ない。

「お祖母ちゃん達出掛けてるね、先に何処かに行かない?」

ペグルは、重たい荷物を背負い直して、何処かに向かっていった。

「何処かって…、まず父さんの墓参りに行かなきゃいけないだろ?」

「それもそうだけど、案内したいところはいっぱいあるよ」

ペグルは、家の門を出て裏山に入った。そこには、霧山と書かれた墓標が幾つも並んでいる。


 その中に、久の墓標があった。誰かがお供えしたのか、花と水が既に置かれてある。ペグルは、そこに更に自分が用意した花を供え、手を合わせた。

「神界で父さんに会っただろ?」

「そうだけど、一応こっちでも挨拶しておこうと思って」 

ペグルは、自分が持ってきていた水と、先に供えられていた水を交換して、墓前から立ち上がった。

「さっ、次の場所に行こう」 

ペグルは荷物を再び背負い直して、裏山を出た。



 そして、照彦達は町中に出た。町と言っても青波台の駅前程栄えていない寂しい所だった。だが、人気はそこそこあり、これから駅に向かう人も居る。

 ペグルは、幾つもある建物の中から、一つ目立つ建物を指さした。それは、石造りの建物で、上には時計が付いている。門にある表札を見ると夢原町役場と書かれていた。


 照彦は、以前夢で見た時計塔と、この役場がそっくりである事に気がついた。

「これ、俺がペグルの夢を見たときに見た時計塔に似ているよね?」

「そうだよ、この役場は夢界(むかい)にも存在するんだ。僕は夢界の時計塔の番人をしているよ」

照彦と絢音が、ペグルの話を意味が分からないまま聞いていると、夢叶が補足の説明をした。

「この時計塔は明治の代に建設されました。時計塔は夢界と現世を繫ぐ役割を果たしていて、夢守が守っているのです」

「ペグルは、時計塔を守る夢守だったんだな」

ペグルは、役場の中に入っていった。照彦達も、一緒にその中に入っていく。



 文化財とも言えるべき役場の建物は、今も明治時代に建設された当初のように綺麗に使われていた。また、設備は最新のものが用意されていて、使いやすくなっている。照彦は、初めて見るものに驚き、興奮していた。

 だが、ペグルは、役場の中には目も暮れず、階段を使って上に登っていく。そして、最上階に着くと、ポケットから鍵を取り出して、扉を開けた。

 扉の向こうには、時計塔があった。巨大な機械と鐘があって、今も動いている。


 屋上は、役場の職員も入れない程厳重に警備されていた。入れるのは、鍵を持っている夢守のみ。今は、時計塔の番人である霧山家の人しか持っていなかった。

「この鐘には不思議な力があってね、夢と現実を強制的に移動する事が出来るんだ」

照彦は、恐る恐るそれに触れようとしたが、ペグルに止められた。照彦は鳴らすのを諦め、観察する事にする。

 鐘には、見たことない文字で何かが書かれている。日本語でも英語でも、はたまた他の文字でもない特殊な記号である。

 照彦はその文字をどこかで見た事があるような気がしたが、何処かまでは思い出せなかった。 


 

 そして、照彦達は役場を出て夢原神社に向かった。神社は役場よりも更に山沿いにある。照彦達はそこまで歩いて向かう。役場の周りは多かった人も、山に近づくにつれ少なくなっていく。


 照彦達は、神社の鳥居の所で足を止めた。石造りの鳥居はかろうじて残ってはいたものの、それ以外の堂や灯籠は跡形もなく焼かれ、狛犬も壊されていた。

 夢叶が持って行ったお陰で、宝物は焼かれなかったものの、棲んでいた建物は焼かれたので、今は到底ここに戻れそうにない。

「このお堂は夢原の人々と妖達が協力して建てたもの、それをいとも容易く焼かれてしまった…」

夢叶は焼けた本堂に手を触れ、俯いた。すると、ペグルが夢叶の側に来て、そっと手を握る。

「夢前との戦いが終わったら一緒に建て直そう。僕も夢原のみんなも、夢叶を必要としている」

「そう、かな…」

夢叶は、ペグルの顔を見て、きっとそうだと思うようにした。



 神社から出ると、突然寒月がペグルの前に姿を現した。

「ペグル、父さんの所に挨拶に行っていい?」

「僕達は城に行ってから家に帰るよ。終わったら来てね」

「分かった!」

寒月は、ペグルから離れて走り去ってしまった。


 照彦達は山を登って行く。次に向かうのは夢原城、夢原にある山城だ。

「私の神社が足利の世に出来て、この城は戦国の世に建設されたものでしたっけ」

「夢叶さんってどれくらい生きてるのですか…?」

「神社が出来る少し前ですね」

夢叶は、慣れた足でどんどん山を登って行った。照彦もペグルも絢音もそんな夢叶に付いて行く。



 しばらく歩いて、ようやく照彦達は城の中に入った。城は山の頂上に経っていて、天守閣からは周囲が広く見渡せるようになっている。


 照彦達は敷地の中に入った。ペグルは天守閣ではなく、庭にある井戸を指差した。

「これは夢湧の井戸っていう井戸だよ」

ペグルは、井戸の釣瓶を引っ張ったが、桶の中には水が一滴も入っていなかった。



 夢湧の井戸は、どれだけ掘っても水が沸かない井戸だった。底は深く、何処までも続いて見える。

 照彦はそこをじっと覗いた。井戸の底には水はないが、キラキラと光る何かが見える。照彦は井戸から顔を覗き込み、それに向かって手を伸ばした。

「照彦君!危ないよ!」

「ここに何かあるんだよ!」

照彦は井戸に体を乗り出してそれを必死に掴もうとした。すると、照彦の姿勢が崩れ、真っ逆さまに落ちていく。

 絢音達は照彦を助けようと手を伸ばしたが間に合わず、照彦はあっという間に井戸の中に入ってしまった。


 



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