目覚めた神妖
照彦とペグルは一歩前に出て、ほぼ同時に頭を下げた。
「絢音…、この前はごめん!絢音にもう少し詳しく説明しておけばこんな事にはならなかったのに、自分の事で手一杯だった。」
「僕も、もう少しじっくりと絢音ちゃんと話しておくべきだった、ごめんよ!僕たちは、決して絢音ちゃんを仲間外れにしようとは、そんな事は思ってないから!」
「そ、そんな…」
絢音は、二人に一斉に謝られて、自分はどう答えればいいのか分からず、困り果てた。
すると、ペグルが夢叶が絢音の後ろに居るのに気づき、声を掛けた。
「夢叶?どうしてこんな所に居るの?」
夢叶は絢音の側から一歩前に出た。
「ペグルさん、寒月さんを置いて何処に行ってたのですか?」
「仙人になった父さんに会う為に、神界に行ってたんだ」
夢叶はペグルの方をじっと見つめた後、絢音の方を見た。
「もしかして、二人が神界に行くと知って、自分だけ仲間外れになっていると思ったんですか?」
「そうだけど…」
「神界は、神でも強大な力を持つ者しか行き着く事が出来ない場所ですよ。私も行った事はございませんし…。人間の絢音さんでしたら、近づく事すらままならないですよ」
夢叶の説明を聞いて、ようやく絢音は、照彦とペグルが自分を神界に連れて行かなかった理由を飲み込めた。
「そうだったんだ…、何か勝手に早とちりしてみたい…、私の方こそごめんね」
「いや、分かって貰えたらそれで良いんだよ」
照彦とペグルは絢音を見て頷いた。
そして絢音は、照彦とペグルを一度自分の部屋に入れた。部屋の中に入ると夢叶は、絢音のベッドで寝転がる。どうやら、早くも力を使い果たしたようだ。
「そうだ!妖や怪って霊力を糧にして生きてるんでしょ?私の霊力で夢叶さんは回復したんだ。もしかしたら、照彦君やペグル君の霊力を飲んだら、夢叶さんの神力が復活するかも!」
照彦は乗り気ではなかったが、ペグルは、神妖の夢叶を復活させようと奮起している。
「そうだね!やってみよう!」
ペグルは、自分の瓶を取り出して夢叶に手渡した。照彦も、仕方なく自分の瓶を取り出して夢叶に手渡す。
夢叶はそれを一気に飲み干した。すると、身体が光を放つ。そして、夢叶は少し背丈が高くなり、紫色と桃色の羽織袴を着た姿になった。獏の尻尾と耳は消え、頭には冠がある。
「ありがとうございます、これで神力を取り戻しました」
「夢叶、良かったね」
ペグルと寒月は、復活した夢叶を見て喜んでいた。
その一方で、照彦は、自分の瓶を見つめていた。
「(しばらく、この瓶は使えないな…)」
夢叶が飲んだ照彦の瓶は空っぽになっていて、しばらくは霊力が溜まらないようだった。
照彦の力は強力で、それに耐えられるように特注の瓶を使っている。だが、その瓶は霊力を一度空にすると、再び溜まるのに時間が掛かるのだ。照彦は、その瓶を鎖にぶら下げて、収納した。
照彦の霊力が、人や妖、怪達の傷を癒やし、力を回復させる力があるというのはよく分かったが、それを使い続けているという事に、照彦は不安を抱えている。
朝日を父に、昴を祖父に持つ照彦だが、父や祖父のように自分は神化出来ず、これ以上強くなれない。また、誰かを従える事も出来ない。自分は風見の死神として産まれながらも、人並みの死神だとばかり思っていた。
ところが、照彦が持つ光の力というのは、自分が思っている以上に大きいものだった。何故自分がこの力を持っているのか、この力を使いこなせるのか、自分の事なのに自分が一番分からない。
それに、これだけ強大な力なら、代償があってもおかしくない。照彦は、無闇にその力を使いたくなかった。
だが、照彦の力のお陰で、今まで小魂やペグル、絢音や夢叶が助かったのは事実だ。それは照彦も納得している。だが、それをずっと使い続ければ、自分はどうなってしまうのか分からない。照彦は、改めて自分の力の大きさに驚いていた。
神力が復活した夢叶の前に、小魂が飛んできた。小魂は、姿が変わった夢叶を見てびっくりしたが、感激した様子で、くるくると周囲を回った。
「そういえば…、急に小魂ちゃんが興奮して外に飛んでいってしまったの。そして、倒れた夢叶さんを見つけたんだ」
「小魂が興奮した?」
「そんな事があるなんて…、珍しいね」
照彦は一度立ち上がると、本棚にある古い本を取り出した。
それは、クリスから金魚鉢を貰った時に、一緒に貰った本だった。そこには、魂喰虫の生態がこと細かく書かれていて、飼い方の参考になった。
照彦は、その本を捲ってある所で止めた。そこには、かつて魂喰虫が鬼界で生まれていた頃の事が描かれている。
魂喰虫は古来、死にかけた生物の魂を抜き取り、喰らう存在だった。魂を抜かれた生物は眠ったように倒れ、自分が死んだ事を意識しないまま死んでしまうのだと言われている。
その為魂喰虫は、魂が抜ける時に発する匂いに敏感だと言われている。
それは、魂喰虫が冥界で産まれ、三途の川に住んで古い魂を喰うようになった今でも、生態の一部として残されているというのだ。
夢叶はそれを聞いて、自分が魂が抜けるほど弱まっていた事を知った。小魂がその匂いを察して、駆け付けてくれた事と、他の怪に魂を喰われなかった事に安堵している。
「そうだったのですか…、小魂さん、助けてくれてありがとうございます」
夢叶がそうお礼を言うと、小魂は照れ隠しにヒレで頭を掻いた。
そして、小魂は照彦の胸の中に飛び込んだ。
「もとはといえば、てるひこのおかげっピ」
小魂は、小さな声でそう言う。それは、小さな子が喋るようにたどたどしい言葉だったが、照彦は小魂が初めて言葉を発した事に驚いた。
「小魂…」
「てるひこが、ぼくをたすけてくれたからっピ」
小魂は照彦から離れ、みんなを見つめた。
「てるひこ、あやね、ぺぐる、ゆめか、かんげつ、みんなにあえて…、うれしいっピ!」
小魂は頬を赤く染めて、満面の笑顔でそう言った。
その後、小魂は照彦の胸の中に帰った。絢音は、夢叶に先程の話の続きをする。
「夢叶さんは、夢原に帰りたいっていってたよね?」
「はい…、夢原の人々がきっと私の事を心配しておりますので…」
「夢原は僕達霧山家の故郷だよ、夏休みになったらお祖母ちゃんに会おうと思ってたんだけど…」
「それじゃあ、ペグル君に付いて行けば帰れるね」
「ペグルの故郷ってどんな所なんだろう…」
「夢原に行くの、私も付いて行っていい?」
二人がそう聞くと、ペグルは快く頷いた。
「もちろんいいよ!それに、夢原に行ったらお祖父ちゃんに聞きたい事があるんだ」
「何だ?」
「夢前蒼汰の事、何か知ってるんじゃないかと思って」
その名を聞いて、夢叶は血の気が引くような顔になった。
「夢前蒼汰…、絢音さんに拾われる前、私はずっとその方の側に居ました」
「えっ…?!」
ペグルは驚き、齧り付くように夢叶をじっと見つめる。
「神社を焼いて、仲間の妖を監禁してずっと悪夢を見させ続けていたのです。私はずっと力を奪われて身動きがとれませんでした」
「そうだったのか…」
「夢前の一族は、夢守では珍しく怪を使役する一族でした。その強さの前に霧山以外の夢守は絶滅したといわれております。夢前の一族は、妖を敵視しているとは以前から知っておりましたが、まさかこれ程とは…」
すると、ペグルは夢叶の手を掴んでこう言う。
「もう夢叶をこんな目には遭わせないから」
「ペグルさん…」
夢叶は顔を赤く染めて、頷いた。
照彦は、夢前もペグルと同じ夢守であった事を妙に納得していた。夢前も、ペグルと寒月と同じように、目の紋様がある怪、ナイトメアを使役している。
だが、本来夢叶と協力して夢を守る存在であるはずの夢守が、何故夢叶の力を奪うのか分からなかった。
「夢叶、夢前の狙いが何か分かるか?」
夢叶は首を傾げた後、それを横に振った。
すると、ペグルが立ち上がり、みんなにこう言う。
「夢原、夢前と僕達の一族の故郷に行こう、そうすれば答えが分かるかもしれないから」
「そうだな…」
照彦達も同じように立ち上がって、頷いた。




