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拾われた神


 照彦が神界に行っている間、青波台は冷たい雨が降り続いていた。休日なのに辺りはしんとしていて、窓から外を見ても人通りはほとんどない。


 絢音はその間、家から一歩も出ず、小魂と寒月の世話をしていた。

 小魂は、絢音の事が心配なのか、起きてずっと絢音の周りをくるくる回っているが、寒月は主不在の中ずっと眠っていた。


 絢音は、照彦達が居なくなってからもしばらくの間は腹を立てていたが、急に心の中が空っぽになったような気持ちになった。喋り相手が居なくなって、不安になる。



 絢音は、昔から一人で過ごす事が多かった。共働きの両親の間に産まれ、留守番をする事も多かった。 

 絢音は、意識はしていないものの、人とずれた言動や行動をとることがある。そのせいで、絢音は、両親からも友達からもあまり相手されなかった。

 昔から、人には見えないものが見えるというのも、絢音から人が離れていった理由だった。


 絢音は、一人は慣れているつもりだった。ところが、気が合う照彦やペグルと出会って、みんなと過ごすのも少しずつだが良いと思っていた。

 ところが、照彦達が絢音を置いて出掛けるというのを聞いて、やはり、自分は必要とされていない存在だと感じて、急に怒りが湧いてきた。そして、怒りに任せて照彦とペグルを見捨てて逃げていった。

 

 照彦は居なくなった。また元々の自分に戻っただけだと、絢音は納得させていた。ところが、それなら何故小魂を奪ってまでも連れて来たのか、寒月を家に招き入れているのか、自分でもよく分からない。


 絢音が部屋の隅でしゃがんでいると、小魂が寄ってきて、頭の上に乗った。

「ピュ〜…」

「小魂ちゃん…」

絢音は、小魂をそっと手の平に載せた。小魂は、絢音の顔を見て安心したのか、ぐっすり眠った。絢音は、そんな小魂の頭をそっと撫でた。




 しばらく寝ていた小魂だったが、突然驚いた顔で目を覚ました。そして、興奮した様子で大声で鳴いて部屋を何周も回り、目にも止まらぬ速さで家を飛び出す。


 小魂は雨の中何処かに向かって飛んで行った。絢音は、慌てて小魂を追い掛け、雨の中傘を持たずに町へ飛び出す。

 小魂はしばらく飛び続けると、再び大声を出した。そして、地面に急降下して、あるものにぶつかる。



 それは、紫色の毛布が丸まったようなもので全く動いていない。

 ところが、よく見てみると、目と鼻のようなものがあって、微かに息をしている。そして、身体は、絞れそうな程雨に濡れていた。


 絢音は、それをゆっくりと抱え上げてみた。紫色のそれは、獏のような見た目をしていて、パジャマを着ている。

 絢音は、最初ぬいぐるみが濡れたまま置かれていると思っていたが、よく耳を済ますと、鼓動が聞こえた。

 


 絢音は最初、何故獏がこんな所に居るのかと不思議に思った。ところが、獏はただの生き物ではないようで、獏の尻尾は小魂と同じように炎が燃えている。ところが、その炎は消えかけていた。

「妖…?もしかしたら怪かもしれないけど…、とにかく、助けないと!」

絢音は、獏を抱えて雨の中走り、家の中に戻って行った。

 


 絢音は獏を温かいお湯で洗うと、水気をタオルで拭き取った。

 そして、ベッドで寝かせると、絢音の瓶の中身を飲ませた。疲れていたのか、獏はしばらく眠っていたが、意識が戻り、ようやく目を覚ました。

「ああ…、私は何故、こんな所に居るのでしょうか…」

獏はベッドから起き上がり、宙に浮いた状態で絢音に近づいた。

「無事で良かった」

絢音がそう言うと、獏は鼻を垂れて深々とお辞儀をする。

「助けて頂いてありがとうございます」

獏は、自分が無事だったのを確認すると、ほっとして、床に座った。



 すると、ずっと眠っていた寒月が目を覚まし、獏に近づいた。

夢叶(ゆめか)さん?」

寒月は獏を知っているのか、嬉しそうに見つめる。

「久々にその名前で呼ばれたような気がします」

夢叶は、寒月を見て嬉しそうに笑う。

「まさかこんな所で寒月さんに出会えるとは、思いもしませんでした」

「知り合いなの?」

「小さい頃からずっとお世話になってるんだ」

夢叶は、改めて絢音達の方を向いた。

「あなた達は、寒月さんの知り合いの方なのですか?」

「私は日岡絢音、こっちは魂喰虫の小魂ちゃんだよ。小魂ちゃんがあなたの事に気づいてくれたみたいなんだ」

夢叶は小魂の方を見た。魂喰虫は冥界の怪であるはずだが、妖である自分に敵意を持たず、じっとこちらを向いている。

「あなたが、私に気づいてくれたのですね」  

「ピッ!」

小魂は、夢叶の周りをくるくる回ると、ヒレで夢叶の腕を掴んで、そっと握った。



 そして、夢叶は絢音にあるお願いをした。

「あの、絢音さんにお願いがあるのです。一度眠っていただけませんか?」

「私、眠くないんだけど…」

時計を見ると、今は二時を少し回った頃、雨で外が暗いとはいえ、昼間なのには変わりない。 

 そんな時間にすぐ眠れと言うなんて、お願いとはいえ絢音は困り果てた。



 仕方なく、絢音はパジャマに着替えて、ベッドの中に入った。すると、夢叶が絢音の目の前に現れて、何やら術をかける。絢音は、しばらく夢叶の事を見ていたが、眠気がして、いつの間にか眠ってしまった。


 


 そして絢音は、照彦とペグル、それから小魂と寒月と仲良く遊ぶ夢を見た。

 長らく夢を見ていないのと、夢前の事があったので、夢を敬遠していたが、その夢は楽しく、ずっと続いてほしいと思った。


 絢音はその夢の中でも、照彦と喧嘩していた事を引っ張っていた。夢の中の照彦は笑っている。

 だが、現実の照彦はどうなのだろうか。そう考えると、絢音は喧嘩した事を後悔するのだ。何とかして、照彦にあのときの事を謝らなければならない。だが、何をどう謝ればいいのか、自分でもよく分からなかった。




 夢は煙のように目の前から消えて、絢音は現実に帰った。そこでは、夢叶が絢音と同じくらいの背丈の少女の姿になって、目の前に居る。

「ありがとうございます、お陰様でお腹いっぱいになりました」

夢叶は、絢音が眠っている間、小魂をずっと抱えていた。

「私は、実は妖から成り上がった神なのです。しかし、今は力を奪われて妖の状態なのですが…」

「そうだったんだ…」

夢叶は、寒月と小魂を自分の所に寄せて、話を始めた。



 夢叶は、元々ただの夢喰獏だった。ところが、人々や妖の夢を食べてその意味を伝えていくうちに、慕われるようになった。

 獏を慕った人々は、獏に夢叶という名前を与え、小さな社に祀った。その後、小さな社は改築を重ねて大きくなり、遠くからも人々が訪れるようになった。


 ただの妖だった夢叶は、人々に祭り上げられたお陰で力が増し、神妖という存在に格上げされた。神妖になった夢叶は、他の妖達からも慕われ、夢叶をきっかけに森の妖達は、里の人間達に友好的になり、共生するようになった。


 そして、夢叶の神社、夢原神社がある地域を夢原村と呼ぶようになった。

 更に、夢叶と繋がる力がある霊能者を夢守と呼び、夢を守るようになった。夢守は、自身の力だけではなく、妖や怪と共にするのが特徴で、そうしたのは、夢叶と繋がりやすくする為だった。

 夢叶は、夢守が使役する妖達とも仲良くしていて、寒月が居る雪狼の一族とも親しくしていた。

 

 その後、夢原には人口が増え、城も建てられる程の町になった。

 明治時代には大きな役場も建てられる。現在、人口は減少しているが、その遺跡は今も残されていて、それを求める観光客で町は賑わっていた。

 

 ところがある時、夢原神社が焼かれ、夢叶は夢前に連れ去られてしまう。更に、妖達は夢前に監禁され、夢の中に封じられてしまった。夢原の地は、夢叶の加護が無くなったせいで、力が弱まってしまったのだ。



 夢叶は、神社を復興させて、再び妖と人々が共に暮らす夢原を復活させるのを夢見ていた。 

 ところが、今の自分には力がない。絢音の霊力と夢のお陰で回復はしたものの、神としての力は失ったままだ。

 このままでは、神社を復興させる事と、神として君臨する事も出来ない。夢叶は、今の無力な自分を責めた。

「このままでは、私は夢原に帰れない…」

「夢叶さん…」

絢音は、そんな夢叶の横に来た。

「今の私を見て、夢原の皆さんはどう思うのでしょうか…」

「夢叶さんは、夢原に帰りたいの?」

「帰りたいですよ!でも、このままじゃ…」

「夢叶さんが妖だろうと神であろうと、夢原の皆さんは、きっと夢叶さんを待っていると思うよ」

絢音のその言葉で、夢叶の気持は落ち着いた。

「私を待ってる…?」

夢叶は、目を白黒させて絢音を見た。



 夢叶は、自分の話を止めて絢音に質問した。

「絢音さんって、ペグルさんと、もう一人の男の子…、その人と仲がよろしいのですか?」

「私の夢見てたんだ…。うん、風見照彦君って言ってね、仲良くしてたんだ」

「やっぱり、どちらかをお好きになられているのでしょうか?」

それを聞くと、絢音はとんでもないと思い、首を振った。

「そ、そんな事ないよ!ペグル君は普通に友達なだけだし、照彦君も…」

絢音は照彦の事を考えて、胸が詰まるような気持ちになった。


 果たして、照彦はペグルや小魂と同じように友達と言うべきだろうか。

 恋人、という考えも浮かんだが、恋や男女の仲をよく分からない自分が勝手にそう思っていいのだろうか。

「照彦君は私の…、何だろう」

絢音は、照彦の存在がここまで大きくなっていたのだと思い知らされた。だが、今目の前に居ない照彦の事を考えてもしょうがない。



 絢音は照彦の事を一旦置いて、真横にいる夢叶と話をした。

「女の子の友達出来た事ないからかな…、妖とはいえ、女の子同士で話すの、変な感じ…。」

「私も、ずっとあの人と居ましたから、こうして話すのは久し振りです」

「そっか…」

絢音は、夢叶と一緒に壁に寄りかかって天井を見上げた。

 こうして、新たな出会いがあるのも良いものだなと絢音は思う。照彦と旅した冥界も、様々な出会いがあった。これからも、様々な出会いや別れがあるのだろう。


  

 そう考えると、せっかく出会えた照彦と、仲違いをしてそのままである事を絢音は悔いた。

 すると、玄関のチャイムがなる音が聞こえた。絢音と夢叶、それから寒月と小魂は一階に駆け下りる。


 玄関では、照彦とペグルが申し訳なさそうな顔をして、こちらを向いていた。

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