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神に捨てられた神


 照彦達が神界に行っていた頃、青波台では冷たい雨が降り続いていた。人気は少なく、駅周辺もやたら静かに感じる。

 夢前が棲んでいるアパートでは、雨漏りしていた。夢喰獏は、集められるだけのタライや瓶を用意して、雨を集める。


 そういえば、獏が以前暮らしていた神社でも、雨漏りが続いた時があった。その時は、妖達や人々の協力で、すぐに屋根を修理してもらった。

 だが、今このアパートを直してくれる人は果たして居るのだろうか。今、獏の味方をしてくれる者は誰も居なかった。


 あれから、夢前はアパートを出ていったまま、帰って来ない。何か用があるのだろうか、普段は夜になれば帰ってくるが、出ていってから間もなく一週間になる。獏は、その間空腹と脱力感でこの部屋から一歩も動いていなかった。


 いつもは夢前が出ていって、少し安心した気持ちになっていた獏だが、今回は違った。何故帰って来ないのだろう、夢前は何をしているのだろうと心配になる。夢前の仲間になったつもりはないのに、何故かこのような気持ちが湧いてくる。

「あの人は、何処に居るのでしょうか…」

獏は一度座布団から起き上がって、襖を開けた。


 その中には、夢前が奪った神社の中の宝物が入っていた。獏はそれを見て、自分が神だった頃を思い出す。慕ってくれた人々は、今の落ちぶれた自分を見てどう思うのだろう。何故、自分はこのような目に遭っているのだろう。そう考えた獏の目からは涙が出ていた。


 宝物の中には、自分の事をこと細かく書き記した巻物や、獏の力を蓄えた墨絵、夢守がくれた首輪がある。どれも、獏を神として慕ってくれた人々が神社に奉納してくれたものだった。



 獏は、泣きながら宝物を全て掻き集めると、またあの座布団に寝そべった。神社で暮らしていた事を考えると、温かい気持ちになる。


 その時、背後から音もなく何かが刺さった。獏が刺された方を見ると、そこには毒矢が刺さっている。

 獏が玄関の方を向くと、そこでは、夢前が弓をつがえていた。

「新しい武器だが、上手くいったようだな」

夢前は、獏を冷たい目で見下ろすと、尻尾を掴んで傘を差さずに外に出た。



 外は、冷たい雨が今も降り続いていた。夢前は、路地裏の雨がしのげない場所に獏を置く。

 獏は、矢に含まれていた毒と呪いの影響を受けて、動けなくなっていた。

「どうして…、私を…?」

「本当はここで殺したかったんだが、それだけではここまで生かした意味がないからな…。夢を喰う力を奪った、もうお前に価値はない」

夢前は、表情一つ変えずにこう言う。

「ここで野垂れ死するのがお前に相応しい」

 夢前は、至近距離でもう一本矢を獏に突き刺して、雨の中に消えて行った。



 獏は、二本の矢によって力を奪われていった。身体は痙攣し、悪夢を食わされた以上の吐き気が襲う。


 獏は死ぬ前に仲間にも出会えず、故郷にも帰れず、無慈悲な夢前の矢の毒を受けて寂しく死んでしまうのだろうか。力を奪われた獏は、神はおろかただの妖以下の存在だ。そのような状態で故郷に帰っても、人々は受け入れてくれるのだろうか。

 そのような疑問が現れては消えていった。何れにしろ、このまま動けないのなら、ここで朽ち果てていくという事は変わらない。

 

 獏は、懐に入っていた宝物を眺めた。どれも獏にとって大切だったものだ。だが、力を失った自分が持っていても意味がない。



 獏は助けを呼ぶ力も残されていなかった。だが、もし助けを呼んでも、誰が自分を助けてくれるのだろう。見知った者が居ないこの町で、誰が自分を救ってくれるのだろうか。そうなる見込みはない。自分は、夢前の言う通り、ここで寂しく命を落とすのだろう。獏は一人、町の中で雨に打たれていた。

 


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