二人のけんか
翌日、教室で照彦は、朝早くから絢音とではなくペグルと話していた。
「神界に行くの?」
「ああ、ペグルのお父さんも呼んでるし、ひょっとしたら、俺が探している水晶もあるかもしれない」
「父さんが、呼んでる…?」
ペグルは、亡くなる前日に父親と顔を合わせていない事を思い出した。当たり前だが、あれからずっと話していない。
ペグルは、自分の父親の死因も、遺言も知らないままなのだ。
「父さんは何を僕に伝えたいんだろ…」
「俺の事を誰かが呼んでたし、何としてでも行きたいんだよ」
照彦がそう言うと、横に座っていた絢音が、照彦の方を向いてこう言った。
「私も神界に連れてってよ!」
照彦とペグルはお互いの顔を合わせた後、絢音の方を向いた。
「絢音ちゃんは連れて行けないよ」
「冥界ならまだしも、神界は神の位を持つ者しか行けない神聖な場所だ。生身の人間である絢音を連れて行く訳には行かない」
「そこを何とか!二人の力で行けないの…?」
そう言ってせがむ絢音に対して、二人は首を振り続けた。
「せっかく今まで旅してきたのに…、どうして!」
絢音は、二人が話している内容も聞かされずに、自分だけが仲間外れにされていると思った。絢音は顔を赤くし、冷静さを失って感情的になっている。
「絢音!それはわがままだ」
「自分の気持ちを素直に言うのはわがままじゃないって言ったの照彦君じゃない!」
照彦は、自分の言葉で胸を締め付けられた気持ちになった。だが、絢音を神界に連れて行く訳にはいかない。
照彦は絢音の両肩を持って諭すようにこう言った。
「それとこれとは違う」
「ヒドい!」
絢音は、照彦の腕を振り解いて、フードの中で休んでいた小魂を奪うように抜き取り、自分の胸元で抱き締めた。
「どうして、絢音ちゃんは小魂を照彦君から奪ったの?」
「まぁ、小魂も神界には連れて行けないもんなぁ…」
「どうせ私なんて照彦君の旅にはいらない存在なんだ!いいよもう!」
絢音は涙を溜めた目で照彦とペグルを睨み付けると、机に伏せて二度と顔を合わさなかった。
その後絢音は、休み時間も帰り道も照彦とペグルと口を聞かなかった。照彦とペグルは、謝って、絢音が次の旅に行けない理由を説明しようとするが、絢音は全く耳を貸さないのだ。
絢音と照彦は隣同士の席だが、その席が教室の中で一番離れている席のように感じる。授業中も、休み時間も、二人はお互いと顔を合わさず、そっぽを向いていた。
小魂はその間、家も学校でも絢音と一緒に居た。小魂は自分の鉢と霊水晶を絢音の家に持って来ていたのだ。小魂は照彦の元に居ても良かったが、絢音の事が心配でそのまま居るのだ。
絢音は家にいる間、小魂に愚痴と泣き言をぶつけていた。
「本当酷いよね?!私と小魂ちゃんだけ行けないって言って除け者扱いされるなんて!」
「ピッ、ピピッ!」
小魂は、絢音の周りをクルクル回って、膝の上に乗った。絢音は顔を伏せて小魂とも顔を合わせてくれない。小魂は、絢音を見上げて、細い声で泣いた。
「小魂ちゃんも、私の事心配しなくていいからね!」
「ピュ〜……」
小魂は絢音の頭に乗って、溜息を吐いた。
小魂は、照彦にも言い分があると必死に伝えたが、言葉を発せないのと、絢音が小魂に心を開かないせいで、ただ鳴いているようにしか聞こえない。
小魂は、絢音と一緒に学校に居る間、照彦の事を心配そうに見つめるが、絢音の事もあるのか、近寄って来なかった。
そんな日々が週の終わりまで続き、結局、照彦とペグルが神界へ行くという日までに、仲直りする事は出来なかった。
小魂は、仲が悪い三人を見たくはなかった。だが、迂闊に照彦とペグルに近づけば、絢音に何を言われるか分からない。家に居る間、小魂は鉢の中で静かに泣いていた。




