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仲間を失った神

 

 その日の夜の事だった。夢前は、青波台の住宅街に現れ、何かを探している。だが、それは見つからず、諦めていた。

「気配が消えたのは感じていたが…、まさか本当に消えたとはな」

 夢前は、目の前にあった蜘蛛の糸を拾った。夢前の仲間である蜘蛛の怪が産み出したものだった。だが、蜘蛛の糸は灰のようになり、夢前の手の平で散り散りになる。どうやら、蜘蛛の怪は消滅してしまったようだった。



 突然仲間を失った夢前の前に、獏が現れた。

「仲間を失った気持ちはどうですか?」

夢前は獏を睨み付けた。

「私もあなたに仲間を奪われた時、そういう気持ちでした」

「黙れ…」

夢前は、獏の尻尾を掴み、地面に叩きつけた。獏はその場から動けなくなり、ぐったりとする。

「まぁ、あいつが居なくなっても別の奴が居るから良いんだがな」

「仲間が居なくなって、悲しくないんですか?」

夢前は、苦内を獏に向け、黙らせた。

「悲しい?人間の感情などとうの昔に捨てた」

「例えあなたが人間じゃなくて神だったとしても、怪であったとしても、感情はあるのではないのでしょうか?」

獏の言葉を夢前は聞く耳を持たなかった。



 夢前は、獏の尻尾を引っ張って、住処の古アパートに向かった。アパートに着くと、夢前はまず白い袋を獏に差し出す。

「獏、今日の飯だ。くれるだけマシだと思えよ」

 獏が袋の中を開けると、そこには青い結晶のようなものが入っていた。普段は悪夢ばかり食べさせる夢前だが、今回はそうではないらしい。

「あいつらが悲しい夢を見ていたらしい。何を悲しんでいたかは知らんがな」

獏は早速その夢を食べた。悲しい夢は、死海よりもしょっぱい味がした。

 ずっと同じような味だったので、食べきるのは苦しかったが、夢喰獏は夢を食べないと生きていけない。獏はそれを食べ終わると、ボロボロの座布団で休んだ。


 


 夢前に捕らえられる前、獏は人間や妖達の様々な夢を食べていた。楽しい夢、悲しい夢、何かを思い出した夢、それぞれの夢には意味があって、味も全て異なった。


 獏は人々の夢を食べて、その意味を伝えていた。すると、人々は感謝し、次第に崇め、祭り上げられた。獏の為に社も建てられ、獏はそこで暮らすようになった。そして、獏には名前が与えられ、獏はその地の民に慕われる存在になった。

 また、妖達も、獏の事を慕い、獏の為と言って人々の為に役立とうとした。彼女は、その地に妖と人間が共生する為の架け橋をつくってくれたのだ。



 だが、今の獏には神として崇められていた時の面影はほとんど残っていない。人々の夢を食べてつけた力は、夢前に奪われてしまった。獏は、ただの妖以下の存在になってしまったのだ。

 獏と共に暮していた妖達も、一人残らず夢前に捕らえられ、一部は怪に食われてしまった。そして、夢前は妖達を夢の中に監禁し、悪夢を見させ続けている。



 獏は、夢前の前で何も出来ない自分を責めた。今、自分に神の力があれば、仲間達を救い出せるかもしれない。だが、今の自分には何も出来ない。獏は、座布団からゆっくり顔を起こした。

「あなたは仲間を失っても、悲しくないのですか…?」

夢前は何も答えなかった。そして、玄関先に立ってこう言う。

「出掛けてくる。ここから出ようと思うんじゃないぞ」

獏は、そこから起き上がる力すら無かった。ここから出ようにも、獏の背後には夢前が使役する怪が目を光らせている。

 

 獏は寝返りを打って天井を眺めた。埃とカビだらけの天井だった。獏は、自分がかつて住んでいた神社の方が天井がキレイだったと思った。

 だが、獏の神社は壊されてしまったのだ。もし、ここから出れたとしても、今の獏には帰る場所がない。それに、住んでた場所に帰れる程の力も残されていなかった。


 獏は、この後自分の身はどうなってしまうのだろうかと、いつも怯えながら過ごしていた。夢前は、獏の事をどうしたいのか、獏には見当がつかない。

 獏はボロボロの座布団に寝そべって、夢前が帰ってくるまでの空っぽの時間を過ごしていた。


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