妖と怪の出会い
昴は、グルーチョとともに、旅を続けている。今は、妖達が造り出した亜空間に居た。
その亜空間は妖界と呼ばれ、世界の一つに分類される事もあるが、他の世界よりも規模が小さいという事で、あまりそうされない。
昴は、その中にある玉座の前に立った。そこには、昴の息子である朝日が居る。日中、朝日は死神としての業務をこなしながら、ここに向かい、妖達の頭領として君臨していた。朝日は、緑丸を肩に乗せてこう言う。
「父さん、こんな所でどうしたんだ?」
「朝日、突然の事ですまないんだが、夢前の事を追ってほしいんだ」
「夢前?誰だよその人は」
朝日は、夢前の事について何も知らなかった。そこで、昴が夢前の事を説明すると、朝日は他人事のようにこう答えた。
「父さんが追ってるならそれで良いんじゃないか?」
「それじゃあ駄目なんだよ…」
「それって、僕もですか?」
二人の横から、冥府神鬼の太一が現れた。
「太一、怪を従えてるなら、ナイトメアの事も知ってるだろ?」
「いえ…、鬼界の怪じゃないから存じません」
太一は、鬼界の怪の一部を従えている存在だったが、それでもその事を存じないと答えた。
「そうか…、すまないな」
昴は、朝日と太一と別れて、何処かに飛んで行った。
そして、再び冥界の上空に出た。昴は、夢前、そしてナイトメアの怪達をいかにして倒すのかずっと考えていた。
「あいつらを倒すには、俺と、俺以外の神化する三人の力が必要なんだ」
「左様でございますか」
「後は…、照彦が集めてくれるであろう水晶の力だ」
昴は、桜弥から奪った能力で、照彦の事をずっと見守っていた。昴は、照彦にも旅をさせて、夢前の事を一緒に追わせていた。
昴は、照彦の事はあまり心配していなかった。その一方で、気を揉んでいたのは朝日の方だった。
「朝日が自分の事と受け止めないとは…、これは不味い事になるぞ」
昴は、朝日が居た方を振り向いた。
「昴様にも親心というのはあるのですね」
「当たり前だろ?さぁ行くぞ?」
昴は、グルーチョを置いて先に進んで行った。
親心、朝日を心配する思いはそれから来ているものだと昴は思った。
昴は、あまり親らしい事は出来ていないと思っていた。だが、それでも朝日が自分の息子である事には変わりない。成人し、親になった今でも、昴は朝日を心配している。
夢前は怪を従えている。それなら、妖の事は気に入らないはずだ。それなら、妖の長である朝日の事は狙っているであろう。昴は、朝日が夢前にいつ襲われるか、心配だった。
昴は、夢前の手掛かりを追えそうな所は行き尽くしたと考えていた。他にあるとすれば、今まで行った事のないような場所だ。
「そういえば…、夢前って元々は人間だったよな?」
「そうだと思います」
「夢前の故郷に…、行ってみるか」
昴とグルーチョは、冥界の上空を抜け、現世に向かった。
その日の夜更けの事、智の屋敷の窓を誰かが叩く音がした。起きていたチルが、そこに向かうと、そこには緑目の八咫烏が居る。朝日の使いである緑丸だった。
チルは、窓の鍵を開け、緑丸を入れた。
「ありがとう、智さんに会いに来たんだけど、何処に居るんだ?」
「智さんは眠ってますよ?知り合いの方なんですか?」
緑丸は、残念だという顔をして、窓から立ち去ろうとした。チルはそれを羽で止める。
「話でしたら私が聞きますよ?」
「そうか…、僕は緑丸、冥府神妖朝日様に仕える八咫烏だ」
「そうですか、私はチル、コウモリの怪です。えっと…、八咫烏って何ですか?」
「八咫烏っていうのは、神に仕える事を生業とする妖の種族さ」
「へぇ…、妖なんですか?初めて見ました!」
今まで妖に会いたがっていたチルは、緑丸の所にグッと顔を近づけて、目を輝かせた。
緑丸は、怪にそのような態度を取られるとは思わず、困惑していた。それと、智が怪と一緒に生活しているとは、知らなかったし、朝日から何も聞かされてないのだ。
怪と妖は敵対関係である事は、緑丸は幼い頃から知っていて、また実感していた。
ただ、八咫烏は妖の中でも異質な存在で、鬼神と呼ばれる怪に仕える事もある。緑丸の兄である紅丸は、獄炎の輩の長である蘇芳に仕えていた。また、自身も獄炎の輩の一人である濡烏に剣術を学ぶ為に弟子入りした事がある。
緑丸は、他の妖よりは怪の事は分かっていると自負していた。
緑丸は、恐らくチルも自分のように智に仕えているのだと考えた。
「チルは智さんに飼われているのか?それとも主として仕えているのか?」
「そんな事はないです!ただの友達ですよ!」
チルは、智はずっと友達だと考えていた。自分は智に飼われているとも、主として従えられているとも思っていない。
緑丸は、突然怒るチルに戸惑いながらも、話を続けた。
「えっと…、僕はナイトメアの事を聞きに来たんだ。チルは何か知ってる事はないか?」
「私、ナイトメアの一人の黒蝙蝠の怪に襲われた事があります…」
「怪が怪を襲うなんて…、信じられないな」
「それ、智さんも仰ってました。やっぱり、信じられない事なんですか?」
「ああ…、怪が自ら同じ仲間であるはずの怪を襲う訳がないと思うんだけどな…」
チルは、窓辺から降りて人間の姿になった。
「私は、緑丸さんが敵だとは思えません」
「えっ…?」
「どうして妖と怪は敵同士なんですか?」
緑丸は人間の姿になってチルの横に立った。
緑丸は、烏天狗を思わせるような緑色の山伏の装束を身に着けていて、腰には刀を差している。耳は尖っていて、烏の尾が出ていた。
緑丸は、チルと一緒に座って話を始めた。窓辺の月が、二人を照らしている。
「妖って一括に言うけど、色んなものが居る。友好的な態度を取るもの、全てを敵対してるもの、人にとって利益を与えるものや、害を与えるものも居るんだ」
「それは…、怪もそうかもしれませんね。私はそうでもないですけど、凶暴な怪も居ましたもん」
「そうか…」
緑丸は、チルはあまり怪らしくないなと思った。ひょっとして、怪も妖と同じで一括に言うが、蓋を開ければ色んなものが居るのかもしれない。
妖の先入観が無いチルは、敵意を持たず、無垢な目で緑丸を見ている。緑丸も、今まで持っていた怪のイメージ、先入観を捨てればそのままのチルが見えるかもしれない。
緑丸は、チルとの間に微妙な距離感を感じている。そこで、チルにこんな頼み事をした。
「とりあえず僕に対して丁寧な言葉で喋るのやめてくれない?僕も主には出来ない口調で喋ってるから…」
「ふぇ?」
チルは、その頼まれ事に一瞬躊躇いがあったが、受け入れる事にした。
「ここからは、個人的な話なんだが…、チルには、兄弟は居る?」
「私は幻影花から産まれたから…、居るかも知れないけど、私は何も知らないなぁ」
「僕にはね、兄さんが居るんだ。八咫烏の中でも一目置かれてて、獄炎の輩の長である蘇芳に仕えてる。凄い八咫烏だよ、美人な奥さんも貰ったし、実力もある」
「緑丸は凄くないの?」
「僕は…、剣術は誰にも負けないって自信があるけど後は…」
緑丸がそう自信なさげに言うと、チルはそんな事無いと首を振った。
「主の為に戦える緑丸は凄いと思う!私も、智さんの為に何か役立ちたいなぁ…」
「ハハハ、頑張れ」
緑丸は、笑いながら黒い羽根を広げて窓辺に立つ。
「そろそろ主の所に戻らなくては、またな」
そして、日が昇るのと同時に、飛び立って行った。
チルは、智を起こしに行こうと思ったが、夜中ずっと起きていたので眠たくなり、コウモリの姿に戻ってそのまま眠ってしまった。




