封じられた存在、白蛇の怪
照彦が家に帰ると、そこには朝日と雪花、それから杏が居た。朝日達は、まず照彦が魂喰虫を連れて帰った事に驚いている。
「何持って帰って来たの?!」
「魂喰虫の小魂だよ、ここで飼っていい?」
雪花は一瞬躊躇ったが、照彦が飼う以外に、これをどうすればいいか分からない。
「まぁ…、良いわよ、でも、全部自己責任でね?」
「やったっ!」
照彦と小魂は、二人でここで暮らせると喜び、ヒレと手を合わせた。
「冥界に行くのは知ってたけど、まさか生き物まで持って帰って来るとはな…」
すると、杏が照彦の方を向いた。
「そうだ…、冥界に行ったなら、昴に会った?」
「お祖父ちゃんは…、今旅に出てるんだって」
「そう…」
杏は、一言呟いて、窓の外を見上げた。
杏は、しばらく昴に会っていない。昴も忙しいんだろうと思っているが、時々は顔を合わせてほしいと思っている。
それに、昴は死なないが、杏は残り僅かな自分の命を案じていた。せめて、死ぬ前に顔を合わせてくれないだろうか。杏は、杏の花の髪飾りを外して見つめていた。
夕飯を食べ終わった照彦は、風呂に入りに行った。すると、小魂が小さなタオルを持って、付いて来る。どうやら一緒に入りたいようだ。
「風呂に入るのか?」
「ピッ!」
「しょうがないな、一緒に入ってやるよ」
照彦と一緒に風呂場に入った小魂は、タオルを頭に乗せ、お湯が入った洗面器に浸かった。小魂の頬は赤くなり、温かい身体は、更に温かくなる。
「小魂、身体洗わなくて良いのか?」
照彦は、小魂の身体のように白い石鹸を取り出して見せた。
「ピッ?」
小魂は、それを何に使うのか分からなかったが、とりあえずヒレで持ってみた。すると、石鹸はヒレから滑り、床に落ちる。小魂はその音に驚いたが、また石鹸を掴んだ。
石鹸は、床の上をツルツルと滑った。小魂は、その上に乗って遊んでいる。初めての触感に小魂は驚き、楽しんだ。
「小魂、楽しそうだな?」
照彦はそんな小魂をじっと見ていた。すると、小魂は激しく転び、石鹸からヒレを離して宙に舞う、そして、照彦が入っていた浴槽に突っ込んでしまった。
照彦は驚いたが、小魂と顔を合わせて笑い合った。
翌日、照彦は小魂と一緒に学校に向かった。本当は、置いて行くつもりだったが、小魂がどうしてもと言うので、連れて来たのだ。
照彦は絢音とペグルと一緒に学校に向かう。小魂は、また三人と一緒に居られて嬉しそうだった。
「そういえば…、小魂って他の人には見えるのかな?」
照彦は、試しにクラスメートの一人の室伏真希に声を掛けてみた。
「おはよう!」
真希は、照彦に声を掛けられた事に驚きながらも、挨拶を返した。
「俺、何か変わった事ない?」
真希は首を傾げた後、それを横に振った。
照彦は小魂を隠す事なく肩に載せている。それに真希が気づいていないという事は、見えていないという事だろうか。
「特に、無いよ?」
「そっか…、ありがと」
照彦は、ランドセルを揺らして走り去って行った。
そして、照彦達は学校に着いた。今日は体育の授業がある。照彦達は、体操服に着替えて、運動場に出て行った。
そこに小魂を連れて行く訳にはいかないので、照彦は、お道具箱の中に入れて行った。小魂は、しばらくじっとしていたが、みんなが居なくなった事を確認すると、お道具箱から出て、窓の外を見る。
窓の外では、照彦達がバスケットボールをしていた。小魂は興味津々でそれをじっと見つめ、照彦の姿を追っていた。
すると、教頭先生が教室を通り掛かった。
教頭先生には小魂の姿が見えたので、思わず驚き、悲鳴を上げた。
「ひいっ!化け物〜!」
「ピッ?」
教頭先生は、持っていた書類をばら撒いて、逃げ去ってしまった。小魂は、何故自分の姿を見て驚いたのか分からなかった。
そして、ばら撒かれた書類を見た小魂は、ヒレを器用に使って、それを積み上げ始めた。
「本当に居たんですよ!白くてフヨフヨした化け物が!」
教頭が別の先生を連れて戻ってくる。小魂はびっくりして慌てて隠れた。そして、積み上げられた書類を持って帰るまでじっとしていた。
小魂は、現世では照彦達以外の人間の前では、なるべく隠れた方が良いなと思った。
その後、照彦達と小魂は一緒に帰った。朝晴れていた空は、昼過ぎから暗くなった。今日は夕焼けは見れないだろう。
照彦がそんな空の下歩いていると、背後から何かが被さった。
「えっ…?」
恐る恐る振り向くと、三人と一匹を巨大な白蛇が見下ろしていた。
「白蛇の怪…?」
白蛇の怪には、目の紋様が付いている。ナイトメアの証だ。
「その怪は僕の一族が封じたはずなのに、どうして!」
「ペグル…?」
「寒月、行ける?」
ペグルの声で寒月は姿を現した。そして、前に出て冷気を吹き付ける。
だが、白蛇はそれには目向きもせず、尾でペグルを襲った。
「ペグル!」
「どうして…、僕を襲うの…?」
寒月を使役して戦うペグルだが、自分から攻撃する事は出来ない。ペグルは、白蛇が何故攻撃をする寒月ではなく、自分をここまで襲うのか分からなかった。
痛めつけられるペグルを見て、心が傷んだ寒月は、すぐにでも白蛇を退けたかった。
「いい加減さっさと蹴りをつけるよ!照彦も来て!」
「分かった!」
照彦は、鎌を持って寒月の横に立った。寒月は半獣の姿になると、手から爪を出す。
「『氷の爪』!」
「『冥道裂斬』!」
だが、二人の攻撃は全く効いていないようだった。
白蛇は巨体をうねらせ、二人を一気に踏み潰す。見た目に反して動きは素早く、また一撃が重かった。
照彦達は、白蛇になす術も無く倒れた。白蛇は、それを見てその場から何事も無かったように消えていった。
ペグルは、白蛇の攻撃を一身に受けたせいで、傷だらけになっていた。照彦と絢音、それから小魂と寒月は、心配して近づく。
「ペグル君、大丈夫?」
その時、照彦の鎌から光の雫が滴り落ちた。それは、ペグルの傷に落ち、みるみる治っていく。
「凄いね…、それ、照彦君の力なの?」
「えっ…?」
照彦は鎌を見つめた。鎌はフォルシアに一度直されたが、以前と変わった事はない。
「小魂ちゃんの時もそうだったよね?どういう事だろう…」
照彦は、自分にそんな力があるとは考えられなかった。
ペグルは起き上がり、照彦達を見つめた。
「ありがとう、照彦君」
「あっ、無事で良かったよ、ペグル」
ペグルは、白蛇が消えた先をじっと見つめていた。
「あの怪は、霧山家が夢に封じたはずなのに…」
「封印されたはずの怪が、復活したのか?」
「多分そうだよ…、でも、どうしてそんな事が?」
考え込むペグルを、不安そうに寒月が見つめた。
「まぁ、考えてもしょうがないよ。あいつ、強かったよな…」
「そうだね…」
ペグルは、暗い顔をしながら、ランドセルを背負って帰ってしまった。
その様子を、真上から夢前が眺めていた。その横には、先程の白蛇の怪が居る。白蛇は、獲物を狙うように、ペグルの事をじっと睨み付けていた。




