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夢喰獏の夢


 夢前は、人気のないアパートの中に入っていった。どうやら、今はそこを住処にしているらしい。

 中に入ると、夢喰獏がボロボロの座布団で寝転がっていた。夢前は、そんな獏の横に悪夢が詰まった白い袋を置いた。

「獏、今日の飯だ」

獏は、その悪夢を食べた。夢喰獏は、どんな夢も食べる事が出来るが、悪夢ばかりを食べ続けると力が弱ってしまう。

 しかも、夢にもそれぞれ味があって、悪夢は吐き気をもよおす程に不味かった。だが、食べるものはこれしかないので仕方がない。

 獏はそれを食べ終わって、また座布団の上で休んだ。


 

 そして、獏は夢を見ていた。獏は真っ暗な洞窟の中に居る。その洞窟の中には、牢の中に閉じ込められた多種多様な妖達が居た。

「みんな!」

獏はその妖達に駆け寄って、様子を見た。だが、妖達は皆目を覚まさない。

「みんな私を慕ってくれたのに…、どうして…」

 その妖達は獏の仲間だった。獏の事を慕い、困った時には助けてくれた存在だった。獏よりも小さな妖も、大きな妖も、知能が高いのも、そうでないものも、皆、彼女を敬ってくれた。


 妖達が閉じ込められている牢の奥には、頭に目の紋様がある怪達が居た。しばらくすれば、彼等の餌になるのだろう。

 今、妖達は悪夢に魘されて、苦しんでいる。その悪夢を、今度は獏が苦しみながら食べるのだ。


 本当は、こんな事は耐えられなかった。だが、今の自分のままでは何も出来ない。獏は、夢前に力を奪われた事を思い出した。  


 今、かつてあった力があれば、仲間達を救い出せるかもしれない。だが、獏は夢前に居場所も、力も、仲間も、全て奪われてしまった。命だけは奪われなかったのが、せめてもの救いだった。



 目が覚めた獏は小さな少女のような姿になった。だが、獏の尻尾と耳はそのままである。

「どうした、獏」

獏は、紫の髪の毛に、藍色の目をしていた。

 夢前は、何故、突然獏が人間の姿になったのかと疑問に思ったが、敢えて聞かなかった。獏は、パジャマ姿で夢前に近づく。

「どうして、私は殺さないのですか?」 

夢前は口だけを動かしてこう答える。

「簡単な話だ、使えるからだ」

「そうですか…」

獏は元の姿に戻って、また寝転がった。

 力が弱くなった獏は、人間の姿になるのも精一杯なのだ。姿を変えるのは、力の消耗が激しい。

 以前はそんな事はなかった。何もかも、夢前のせいだ。本当は、獏は夢前なんかの味方をしたくないし、側にも居たくない。だが、今はそうするしかない。


 夢前は立ち上がって獏にこう言った。

「出掛けて来る、くれぐれもあいつらに食われるなよ?」

夢前はアパートの扉を開けて何処かに行ってしまった。

 残された獏は、寝転がりながら背後を見た。そこには、目の紋様が付いた怪達が目を光らせている。

 獏は、今すぐそこから逃げ出したかった。だが、それは浅はかな夢にしか過ぎなかった。


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