相反する世界
照彦達が夢前の手掛かりを追って冥界に行っていた頃、昴は神界に居た。昴もまた、夢前の事を追っている者の一人だ。神界は、常に青空が広がり、足元はガラスのようになっていて、自分の姿が映る。
昴は、神界の最深部に向かおうと、どんどん天に向かって飛んでいく。奥地に近づけば近づく程、光の槍が飛んでいく。恐らく、昴を外敵と思って、行く手を阻んでいるのだろう。
昴とグルーチョは、それを避けて、どんどん奥地に向かっていく。
昴が何故奥地に向かうのか、それは神界の主である天帝に会う為だった。自分より格上の存在に会うのは気が引けるが、夢前の手掛かりを掴む為なら、仕方がない。
しばらく進んでいると、天帝の臣下である天使達が飛んでいる事に気づいた。昴は立ち止まって天使を呼んだ。
「天使か、お〜い!」
昴に気づいた二人の天使は、昴に近づいた。天使の一人は女性で、青色の髪に羽耳をしている。もう一人は男性で、金髪に天使の輪をしていた。
「私はルピナス、そちらはオリフィスと申します。それで、下界の者がこちらにどのような件で伺ったのですか?」
「俺は天帝に会いに来たんだよ、それで何処に居るんだ?」
二人の天使は、飛んで昴達を案内した。
昴とグルーチョは天帝の元へ辿り着いた。天帝が居る空間は、空に浮かぶ透明な球体の中にあって、周囲からは隔離されている。先程の天使達も、すぐ近くまで案内したが、ここまでは来なかった。
天帝は、巨体の青年で、昴の視線からは、顔を伺う事が出来ない。髪の毛は長く、銀色をしている事は分かる。だが、それ以外の特徴は、残念ながら昴は見つける事が出来なかった。
「下界の者が自ら此処を訪ねるとは、何百年振りだろうか」
天帝は昴を見下ろしてこう言った。
「単刀直入に言う、夢前蒼汰の事を知らないか?」
天帝はゆっくりと腕を組んで、こう答えた。
「大罪、禁忌を犯して魂を滅ぼされたとは…汝の業ではないのか?」
「俺はその時魂を滅ぼしてない、産まれてないからな」
天帝は、昴を見下ろしたままだ。
「用はそれだけか?」
「ああ、それだけだ」
「汝の事を未だ認める事はない」
天帝は、最後にそう言って昴を睨みつけた。
そして、昴とグルーチョはその空間を出て、神界を降りて行った。
次に行ったのは、鬼界だった。火山が常に噴火し、怪が湧き出るといわれる禍々しい場所。神界とは正反対の世界だった。
昴はそこでも最深部に向かう。今度は、魔帝に会いに行く為にそこに向かうのだ。
「グルーチョは久々だろ?」
「魔帝様にまたお目にかかれるとは…、思いもしませんでした」
グルーチョは、かつて墨竜と呼ばれ、鬼と混じって獄炎の輩の重鎮をしていた。鬼界の中でも地位が高く、墨竜を慕う怪も多かったそうだ。
昴は、グルーチョとともに鬼界の下へ下へと降りて行く。すると、二人の行く手を阻むように黒い矢が向かってくる。二人はそれを避けながら進んで行った。
すると、昴の近くに真っ赤な髪をした鬼が現れた。獄炎の輩の頭である蘇芳だ。
「よっ、こんな所でどうしたんだ、冥王様?」
「魔帝に話を聞きに来たんだよ」
「ふ〜ん…」
蘇芳の横には、黒と白の烏が居る。黒い烏は赤い目をしていた。
「お前も使いを持ち始めたのか?」
「あぁ…、紅丸と真白だ。俺の使いの八咫烏だよ」
「そうか…」
昴は蘇芳を置いて、先へ進んで行った。
魔帝は、鬼界の最深部にある洞窟の中に居る。昴はその中に入って行く。
魔帝は、大きな黒い影のような姿をしていて、頭には角が付いていたが、昴の視線からはその顔を伺う事は出来ない。
「魔帝、単刀直入に言う。夢前蒼汰について何か知ってる事はないか?」
魔帝は、ゆっくりと腕を組んで、こう答えた。
「夢前蒼汰…、あいつか、怪を使役していたな。そして、封印されたはずの凶悪な怪を復活させた」
「怪を復活させた?どういう事だ?」
魔帝はその質問には答えず、こう続ける。
「奴は人間の心を持ってないと思った方がいいな。まだお前の方が人間らしい」
「そうか…」
「我もあまり夢前の事を存じない、だが、気をつけろ。奴は危険だ」
そして、魔帝はグルーチョの方を向いた。
「墨竜、奴の側になるべく居ろ、何があるか分からぬからな。お前が冥王である事を未だ認める気はない。」
「御意、魔帝様」
昴とグルーチョは、魔帝の元を後にして、鬼界から出ていった。
昴とグルーチョは、地の果ての世界の上空にやって来た。天帝と魔帝に話を伺っても、新たな有力な情報は出て来ない。
昴は先程の二人と同じように腕を組んで考えた。
「魂を滅ぼされたって言うのが気になるんだよなぁ…。俺も月輪も居ない中、誰が魂を滅ぼしたんだよ…」
昴は、一瞬グルーチョを睨みつけた。
「それにしても、何であいつらは未だ俺の事を認めてくれないんだ?」
「それは、昴様の態度が横暴だからではないでしょうか?」
「はぁ?!俺の何処が横暴だって言うんだよ!」
「そういうところですよ」
苛立つ昴に対して、グルーチョは冷静である。
「ちぇ〜っ…」
昴は頭を掻いて、大欠伸をした。
「昴様、これからどうしますか?」
「どうするもこうするも、夢前の事を突き止めるしかないだろ?」
「左様にございます」
昴とグルーチョは、地の果ての世界にそびえ立つ『天空の塔』を数周回って、次の場所に飛び立ってしまった。




