表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希望の星  作者: 蓮見庸
4/16

希望を乗せるもの

「次はヒトを送りだすカプセルとそれを運ぶ宇宙船の話です。これは技術者のユキトさんからお話ししていただきます。ユキトさんお願いします」

「はい。ユキトです。それでは、カプセルの話に入ります。技術的な話になるので、ごく簡単に説明します。まずは設計図をご覧ください」

 スクリーンにはまん丸な形のカプセルの設計図が、前、横、後ろの視点から描かれ、内部がわかるように外側を省略した図も描かれている。

「まず外観ですが、ご覧のようにほぼ完全な球体をしています。この形が一番壊れにくく、大気圏への突入、そして着陸の際にも合理的で都合がいいんです。黒い窓のようなものがあるのが前方、ハッチの切れ込みのある方が後ろです。材質はこの惑星にごく普通に存在する金属のラニクストがメインになっています。これほど丈夫で加工しやすい金属は近隣の惑星を見回してみてもとても珍しいものなのですが、幸いこの星には埋蔵量が多く、まだまだたくさんありますので、カプセルの量産は可能です。ただ今回はあまり時間がありませんので、すでに精錬されたものを再加工して使っています。

 このようにカプセルはひじょうにシンプルな作りなので、見た目は多少ちゃちな感じを受けるかもしれませんが、設計上では、これまで作られたどんな宇宙船よりも安全で、壊れることはまずありえません。

 推進力は、頭頂部にひとつと、下部両脇にふたつある計3つのエンジンがすべてです。燃料は極力使わず、恒星の引力を利用して進みます。そのためスピードはあまり出ませんが、目的の惑星には間違いなくたどり着けるよう設計してあります。また今回使用したプログラムはかなり原始的なものを使いましたので、ソフト面でエラーが出ることはありません。カプセル内部にはレーダーや各種観測機器、計測装置が取り付けられ、カプセルの殻を通してここで得られるデータをもとに進路を補正しながら、すべて自動制御で目的地を目指します。

 カプセルの内部は計測機器が前方にまとめて配置され、後方にコールドスリープ用の冬眠装置がお互い向かい合うように左右に並べられます。またその下には植物の種を入れるポッドが置かれ、種は着陸時にばらまかれるようになっています

 カプセル内部の電力には、宇宙線から得られるエネルギーを変換して使うため、エネルギー不足で計測機器が動かなくなったり、コールドスリープが停止してしまうということもありえません」

 ユキトはひと通り説明を終えると、みんなの方を向いていった。

「カプセルの設計図はほぼ完成していますが、まだ多少の改良と修正が必要です。設計図を完成させ、原型さえできてしまえば、すぐにでも量産体制に入れます」

 ユキトは手元の端末を操作し、次の話に移った。

「さて、ここからはカプセルを運ぶ宇宙船の話に入ります。周知のことですが、例の大戦以降、宇宙船はひとつも建造されていません。ましてや、かつてのように恒星間を移動するなどという余力も残っていません。ではどうするのか。みなさん、大戦までに使われていた宇宙船がいくつか残っているのをご存知でしょうか」

 誰も身動きせず、ユキトの次の言葉を待っている。

「大半のものは解体されて別のものに形を変えてしまいましたが、再利用する価値のなかったもの、例えばこの写真を見てください」

 スクリーンにはホコリをかぶってところどころ錆びついた一隻の宇宙船が映し出された。とても無骨でシンプルな作りをしているようにみえる。前に立つヒトと比べるとその大きさがよくわかる。

「これは鉱物運搬用の宇宙船ですが、こういったものが思っていた以上に残されていました。その数ざっと150隻。解体されてパーツに分けられているものや、建造途中のようなものもありますが、もとの宇宙船の姿を保ったまま、しかもかなり丈夫に作られているものもいくつかありました。これらに手を加えれば、カプセルを宇宙空間まで飛ばすくらい、なんてことないでしょう。そしてすでに宇宙船のいくつかは改修作業を始めています」

 スクリーンには先ほどのものと同じように、錆びた宇宙船や、それらを改修している様子が映し出されていた。

「今の時代、宇宙船を実際に飛ばしたことはありませんが、過去のデータは残っていますし、観測用の衛星は定期的に打ち上げているので、その技術を応用すればほとんど問題ないでしょう。わたしからの説明はざっとこんなところです」

 ヨシアキが後ろを振り向き口を開いた。

「何か質問はありますか? どうですか? よろしいでしょうか。ユキトさん有難うございました。それでは最後に、今日の話に関して、全体的に何か質問があればお願いします。はいどうぞ」

 縞柄のネクタイをした男が質問する。

「そもそもの話になりますが、いまのわれわれとまったく違う姿かたちをした生物を生きながらえさせることに、意味があるのでしょうか」

 ヨシアキが答える。

「先ほどハルさんから話がありましたように、見た目は植物と動物、まったく違いますが、生物としては同一の遺伝子をもったものです。そのため長い時間と偶然でふたたび今の我々と同じ姿になる可能性はあります。ならない可能性ももちろんあります。そちらのほうが確率としてはだんぜん高いでしょう。ただ、何をもって同じ生物とするかという話もあると思います。環境に適応した結果、そこで生きるのに最適な姿に進化し、その姿が今の我々とかけ離れているからといって、それははたして我々と違う生物なのでしょうか、同じ生物なのでしょうか。これは哲学的な話でしかありませんが、我々と同じ遺伝子をもった生物であり、しかも今の我々に進化する可能性があるなら、今回の計画を遂行する意味はあるのではないかと思っています。また、単に彼らが生きながらえるだけではなく、わたしたちはその先の繁栄まで願っています。ほかに質問があれば…」

 部屋の中は静まり返っていた。よどんだ空気と熱気だけが充満していた。

「ないようでしたら、このあたりで終わりにします。みなさん、今日は長い時間お疲れさまでした。これからそれぞれの現場でご苦労されることと思いますが、どうぞよろしくお願いします」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ