Saho 02
いつも、いつも
あなたのとなりは私のものだった
「ねぇようちゃん、傘忘れちゃった」
「忘れちゃったというか持ってくる気がないでしょ」
「いつもありがとね」
「その代わり宿題写させて」
「わたしの宿題ばっかり写してるとばかになるよ」
「大丈夫試験前に勉強するから」
「その試験前の勉強に付き合うのもわたしなんだけど」
雨の日に差し出される、夕焼け色の傘。よく忘れるわたしのために、彼が持ち歩くようになったそれが
、なんだか隣に居ていいと言われているみたいで、いつしか傘を持ってくる気すらなくなって
あの頃のわたしたちは、お互いがお互いに甘えていたのに、甘えていたことにすら気づかなかった。
… … …
久々に見るその色に、ほんの少しだけ目を細めて、小さく、首を横にふる。
「傘を持ってないわけじゃないんだ。
もう少し止んでからの方が、濡れないかなと思ってただけで。」
私が取りだした空色の傘に
彼が少し気まずそうな表情を見せる。
「一緒に帰る?」
気まずさを払拭するようにかけた言葉は、きっと彼と同じように、どこかぴんとはりつめていて、緊張したものだったと思う。彼はおどろいたようにめを丸くしたあと、じんわりと細めて、懐かしそうに、嬉しそうに笑った。