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Saho 01
たくさんの水が落ちる音。
湿った匂い。
濡れた靴下。
暗い空を見上げて、ただ雨が止むのを待つ私に、大きな手が差し出された。
あの頃と違う、大きくがっしりとした手の中には、あの頃のように、夕焼け色の折り畳み傘が握られている
「傘、持ってなかったら、使って」
声が、降ってくる。
低くなったね。
腕も、太くなったかな。
背、高くなったね。
でも、そのやさしさは変わってないね。
ゆっくりと視線を挙げた先には、見慣れた、だけどどこか見慣れない彼の顔がある。
笑顔が多い彼が、ほんの少し眉を下げて、伺うようにこちらを見つめている。唇をきゅっと結んでいるのは、相手の反応を怖がっている時の癖。
変わってないなぁ。
じんわりと胸が熱くなる音がした。