71 お隣さんトーナメント・後編
お隣さん家の広大なリビング。
そこで聖騎士マリベルと真祖吸血鬼ハイジアが向き合っていた。
対峙したふたりの間を緊迫した空気が流れる。
俺はその様子を眺めてから、大家さんに顔を向ける。
「なぁ大家さん。どっちが勝つと思う?」
「さっぱり見当がつかないよ! どっちにしろ楽しみだねえ!」
大家さんは興奮した様子を隠そうともしない。
鼻息を荒くして、手に持った缶ビールをぐびぐびと美味そうに煽っている。
「アイタタタ……」
気絶していたフレアが起き出してきた。
「まったくマリベルったら、力一杯叩いてくれちゃって……」
彼女は上体を起こして、一回戦でマリベルに叩かれたおでこをさすっている。
「大丈夫かい、フレア殿?」
「アタタ……。ええ、もう大丈夫よおハゲさん」
シャルルとルゼルはまだ気絶したままだ。
フレアが赤くなったおでこをさすりながら、つば広の魔女帽を被りなおしてこちらへとやってきた。
「それで、なになに、その食べ物?」
「おう、こいつは4種のチーズピザだ! フレアもこっちに座って食えよ!」
「あ、いいの? じゃあ早速いっただっきまーす!」
フレアがピザをひと切れ手に取る。
するとまだ熱を保ったままのピザから、チーズがビローンと伸びた。
顔を上に向けて、伸びたチーズごとパクッと頬張る。
「んー、美味しいわねぇ! チーズのコク深さ!」
「だろ? つかビールも飲むか?」
「ええ、頂くわ。ありがとう、お兄さん」
クーラーボックスからキンキンに冷えた缶ビールをとりだしてフレアに差し出す。
彼女は嬉しそうな顔をしてそれを受け取った。
「それはそうと、マリベル殿もハイジアちゃんも、さっきから全然動かないねぇ」
「隙を伺いあってるんじゃないかしら?」
「つか動き出すにも、何かきっかけが必要なのかもしんねぇなぁ」
「そうねぇ。それならあたしが……」
フレアが缶ビールを頭上に掲げた。
睨み合ったまま膠着するふたりに向けて、声を張り上げる。
「ちょっとマリベルにハイジアー!」
ふたりが振り向いた。
その間も互いに隙を探りあったままだ。
「いまからあたしが、この缶ビールを開けるわ! 貴女たちは、それを合図にして戦い始めなさいな!」
「……ふ。よかろう」
「望むところなのじゃ!」
フレアが指を缶ビールに乗せる。
プルタブを爪で浮かせて、指を引っ掛けた。
「じゃあいくわよー! レディ――」
「うはぁ始まるね! わくわくするよ!」
「おう! つか落ち着け大家さん!」
諸手を上げて飛び跳ねる大家さんを座らせる。
隣で勢いよくプルタブが引き上げられた。
「ゴー!」
カコンッと小気味の良い音がリビングに鳴り渡った。
シュワッとビールが泡を立てる。
それを合図にして、超人ふたりの戦いの火蓋が切って落とされた。
先に飛び出したのはハイジアだ。
地を這うように小さな体を床へと沈め、弾丸の如き速度でマリベルに襲いかかる。
「死ねえい!」
「し、死ねだと!? 物騒なことを言うな!」
ハイジアの繰り出すパンチをマリベルが聖剣の刃で受け止めた。
キンと硬質な音が響く。
剣と拳が交わったとは思えない金属的な響きだ。
見ればハイジアの拳は黒いオーラを纏っている。
「はッ!」
今度はマリベルの剣がハイジアを襲う。
大きく一歩を踏み出しての袈裟斬りから始まり、平突きからの横薙ぎ。
更に一歩踏み出して、大上段からの振り下ろしに強引に体を捻っての逆袈裟斬りと、猛攻撃を仕掛ける。
目にも留まらぬ速さの連続攻撃だ。
「なんのこれしき!」
しかしハイジアはこれらの攻撃を、時には身を逸らし、時には拳で迎撃し、また時にはその身を霧へと変じさせて躱していく。
「食らうのじゃ!」
「ッ、あまい!」
ハイジアが繰り出した大振りのパンチをヒラリと躱したマリベルが、脇腹に蹴りを見舞おうとする。
だがハイジアもそれに合わせて蹴りを繰り出し、ふたりの脚が激しくぶつかり合った。
「くはぁッ!?」
「痛いのじゃ!」
双方ともに吹き飛ばされ、互いの間に距離があく。
「――凍てつく氷の刃よ、敵を切り裂け―― 氷刃!」
「ふん! 闇よ……」
ハイジアの体が闇色にドロリと溶け出した。
闇そのものとなった彼女は、氷の刃を飲み込み、そのままマリベルへと襲いかかる。
「聖剣デュランダルよ! 闇を打ち払え!」
頭上高くに掲げ上げられた聖剣が、眩い光を放つ。
「はぁ!」
マリベルが光輝を纏う聖剣で、闇となったハイジアを薙ぎ払う。
すると暗く沈んだ闇が晴れ、そこからハイジアが姿を現した。
「チッ、マリベルめ! なかなかやりおるのじゃ!」
「ふ……。お前こそな、ハイジア!」
ふたりの戦いは徐々にギアをあげ、白熱していく。
「うっひょー! 見たかい?! 見たかい黒王号!!」
「ブルッフ、ヒヒィイーン!」
興奮した大家さんがバシバシと平手で黒王号の巨体を叩く。
楽しそうにはしゃぐ大家さんをみる黒王号は、なんだか嬉しそうだ。
ほんと仲良いな、この人馬は。
「つか……本気ですごいな、アイツら」
もはや人智を超えたせめぎ合いだ。
俺なんか例えマシンガンを持っていても、こんな超人どもにはまったく敵う気がしない。
「あの子たちの強さは、あっちの世界でも本当に頂点クラスだからねぇ」
そんなことを何となく呟きながら、フレアがゴクゴクと缶ビールを煽る。
「んくんく、ぷはぁー!」
豪快にそれを飲み干してから、次の一本に手を伸ばした。
「ねえねえ、お兄さん」
「おう。どうした?」
「ピザも美味しいんだけど、他には何か肴はないのかしら?」
「つか、そういえば……」
思い出した。
ピザを出前するとき、一緒にサイドメニューも注文したんだった。
「ちょっと待ってろよー」
袋をゴソゴソとやって、あるものを取り出す。
「おう、まだ熱々だ! ほらよフレア。これを食え!」
「なになに? なんなのそれは?」
「こいつはなぁ。『ココナッツシュリンプ』だ!」
ココナッツシュリンプ。
それはパン粉の代わりにココナッツ粉末をまぶして揚げた海老フライみたいなもんだ。
南国風味のこの肴は、ハワイなんかではビールのアテとしても結構メジャーな料理である。
「ちょっと美味しそうじゃない!」
フレアが早速箸を伸ばしてココナッツシュリンプをひとつ摘み上げた。
ひと口サイズの小ぶりな海老に衣をまぶしてカリッと揚げたそれを、パクッと口に放り込む。
サクッと衣を噛む音が聞こえてきた。
ムグムグと咀嚼している。
そのまま彼女は手に取った新しい缶ビールのプルタブを引き起こし、ぐびぐびと白い喉を鳴らしていく。
「んくんくんく、ぷはー!! 美味っしいー!!」
頰を酒気に赤く染めて、実に美味そうだ。
「ははは。うめえだろー?」
その顔を満足気に眺めてから、俺もココナッツシュリンプをひとつ摘まみ上げる。
鼻先へとそれを近づけると、ココナッツのふんわりとして甘い風味が鼻腔をくすぐった。
「これこれ! つかこの香りだよなぁ!」
そのまま齧り付く。
カリッと揚がったサクサクの衣が堪らない。
奥歯で噛み締めると少しの抵抗があった後に、プリッと海老の身が弾けた。
衣からしみ出す熱々の油も最高だ。
噛むごとに甘い風味と海老の旨味が次から次へと湧いてきて、俺の舌を楽しませてくれる。
「くぁー! やっぱうんまいねぇ! じゃあお次は……」
俺はもうひとつココナッツシュリンプを摘んで、今度は添えられていたスパイシータルタルを衣に絡めた。
チリソースが混ぜられた、少し辛めのタルタルソースだ。
「おう! うまそうじゃねーか!」
パクッと頬張る。
途端にタルタルソースの舌を刺すような酸味と、チリソースの辛味が口内で暴れ回る。
そのまま噛むとソースのマイルドな味と海老の旨味がまざった優しい味わいが、少し尖った酸味や辛味を和らげていく。
「んくんくんく、ぷっはぁー! うんめー!」
堪らん。
ビールで口のなかのものを喉の奥に流し込んで、熱い息を吐いた。
「おいしそうなのを食べてるじゃないか、虎太朗くん!」
「おう! マジでうまいっすよ!」
「私も頂いて構わないかい?」
「あたしも! あたしも、もうひとつ!」
「もちろんだ! つかジャンジャン食ってくれ!」
俺たちはピザとココナッツシュリンプを肴に、ビールを楽しんだ。
マリベルとハイジアの模擬戦に意識を戻す。
すると双方まったく引かず、互角に繰り広げられていた戦いに変化が訪れていた。
徐々にハイジアが押され始めたのだ。
「どうしたハイジア! 勢いがなくなっているぞ!」
「や、やかましいのじゃ!」
最早ハイジアは防戦一方だ。
だが剣技に氷の魔法を織り交ぜ、ときには回復魔法で自己を回復しながら戦うマリベルに、衰えは見えない。
「そら! 脇があまいぞ!」
「ぐあッ」
「今度は足元が疎かになっているぞ!」
「ぐえッ」
ハイジアのピンチである。
「おう、どうしたんだハイジアのやつは?」
マリベルとハイジアの実力は拮抗していたはずだ。
こんなに一方的な展開になるとは、誰が予想しただろうか。
疑問に思って首を捻っていると、大家さんが口を開いた。
「きっと、一回戦の差が如実に現れたんだよ」
したり顔である。
漫画の説明キャラみたいなおっさんだ。
一回戦ではマリベルはフレア・シャルルのコンビに余裕の勝利を収めた。
一方のハイジアは悪魔王ルゼルを下すために、相当な激戦を繰り広げていた。
ガチンコの殴り合いを長時間に渡ってだ。
「きっとおハゲさんの言う通りね」
割って入ってきたフレアは、ココナッツシュリンプをムシャムシャと食んでいる。
「このままだとマリベルの勝ちは揺るがないわ。さて、ハイジアはどう動くのかしら?」
楽しそうだ。
大家さんとフレアが、視線を戦うふたりに向ける。
俺もそれに倣って顔を向けた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「くぅッ! このままでは不味いのじゃ……」
縦横無尽に襲い来るマリベルの攻撃をなんとか凌ぎながら、妾は打開策を考える。
こやつの攻撃は徐々に激しさを増してきておる。
ギアが上がって来たのじゃろう。
煩わしいことこの上ない。
一方の妾はさっきからもう、膝がカクカクと笑ってしまっている。
「あッ――」
考えたそばから膝がカクンと崩れてしまった。
力が入らない。
「隙あり!」
「ぐはぁッ!」
すかさず懐に潜り込んできたマリベルに吹き飛ばされる。
バウンドしながら床を転がった。
おのれ……。
「お、おう。大丈夫かハイジア?」
吹き飛ばされた先は、コタローたちが酒を飲んでいる場所だった。
見ればピザのほかにも、うまそうな肴が追加されている。
……こやつら。
ちゃんと妾のぶんも残しておるんじゃろうな。
「あんまり無理すんじゃねーぞ? 模擬戦なんざ、怪我してまでやるこっちゃねえんだからよ?」
模擬戦もなにもない。
やるからには勝つのじゃ。
コタローの言葉には答えずに辺りを見回した。
なにかこの状況を打開するためのヒントはあるまいか。
「……あッ!? これなのじゃ!」
いいものを見つけた。
一目散に駆けよって担ぎ上げる。
「は、はえ?! な、なんなのですか!?」
気を失っていたそやつが目を覚ました。
「ふはははは! 貴様も来るのじゃ、シャルル!」
「ハ、ハイジアさん!? ほええ!?」
まだ状況が掴めていないシャルルを抱えて、妾は戦いの場へと舞い戻った。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
高笑いをしながらハイジアがシャルルを攫っていった。
「お、おう。何だったんだいまの?」
「さぁ? シャルルちゃんを連れて行って、どうするつもりなんだろうねぇ?」
「……あたしは何だか想像がつくわ。まったく……」
再びマリベルと対峙したハイジアが、シャルルの襟首を掴んで前に突き出す。
「ふははははは! 『シャルルの盾』なのじゃ!」
口に含んだビールをブッと吹き出した。
つかなんだよ、シャルルの盾って!
「は、はええ!? なんなのですかぁ!?」
「ええい、大人しくするのじゃ!」
「んあッ!? お前、それは卑怯だぞ!!」
ジタバタするシャルルを無理やり押さえ込んだハイジアに、マリベルが抗議の声を上げる。
「卑怯もヘッタクレもないわ! 勝てば良かろうなのじゃあああ!」
「くッ――、この悪の吸血鬼め!」
「だいたい妾は素手じゃというのに、貴様は剣を持っているじゃろうが! 妾が盾を携えて何が悪いのじゃ!」
「むッ、言われてみればたしかに……」
マリベルが納得仕掛けている。
相変わらずアホだ。
「マリベルー! 騙されんなぁ! シャルルは盾じゃねえぞー!」
マリベルがハッとした。
「そ、そうだ! シャルルは我が妹! 断じて盾ではない!」
「問答無用なのじゃ!」
ハイジアが勢いよく飛び掛かった。
マリベルが剣を振って迎撃しようとす。
「くははは! これが目に入らぬのかえ?!」
「お姉ちゃん!」
「んあッ!?」
ハイジアがシャルルの盾をかざす。
マリベルの聖剣は振り抜かれることはなく、ピタッと動きを止めた。
「隙ありなのじゃー! とぁあッ!!」
「んぁあッ!?」
マリベルが殴り飛ばされた。
その後もハイジアは彼女が振るう剣に合わせて、シャルルの盾を突き出す。
「お姉ちゃん! わたしごと斬り捨てて鬼畜ハイジアさんを退治して欲しいのです!」
「そ、そのような真似が出来るか!」
「ほーれ、ほれ、どうした貴様! 手も足も出んようじゃのう? ふはははは!」
ここに形勢は逆転した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「くッ、どうすれば――」
私は防戦に回りながら考えを巡らせる。
シャルルの盾は完璧だ。
その絶対的防御を打ち崩す術が、どうあがいても今の私には思い浮かばない。
「ほれほれー! 斬れるものなら斬ってみるのじゃー!」
「お姉ちゃーん!」
ハイジアは乗りに乗っている。
完全に受けに回った私をいたぶるように、致命的にならない手加減した攻撃を加えてくる。
多分さきほどまでの鬱憤ばらしだろう。
なんて心の狭い吸血鬼だ。
「んぁあ……」
このままでは負けてしまう。
そうなっては優勝商品たる『満寿泉、生貴醸酒』を味わうことが叶わなくなってしまう。
そんなことは断じて許せん!
「思い出して下さい、お姉ちゃん!」
盾が何かを訴えかけてきた。
「わたしとヘルハウンドの戦いを! 活路はきっとそこにあるのです!」
シャルルとヘルハウンドの戦い。
言葉に従ってそれを思い出す。
たしかシャルルがヘルハウンドを圧倒して、一度はヘルハウンドを叩きのめした。
しかし、かの魔物はまだ死んではおらず――
「はッ!?」
それだ!
活路が見えた!
私は素早く勝利までの道筋を脳裏に思い浮かべ、即座に実行に移した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「くらえマリベル! ハイジアローリングクラァァッシュー!」
「んああー(棒)」
「お姉ちゃーん(棒)」
ハイジアの攻撃を受けたマリベルがパタリと倒れた。
そのままピクリとも動かない。
「あ、あれ? もう倒れたのかえ?」
ハイジアが不思議そうに首を捻る。
まだトドメを刺すつもりはなかったのだろう。
マリベルを倒した手ごたえを感じないのだ。
「う、うむむ……おかしいのじゃ」
「ハイジアさん、ハイジアさん」
「なんじゃ、シャルルよ?」
「ハイジアさんの勝ちなのです。だからそろそろ離して欲しいのです」
「う、うむ……」
合点のいかない様子ながら、ハイジアがシャルルの盾を手離した。
途端にシャルルの目がキランと輝く。
「今なのです、お姉ちゃん!」
シャルルがハイジアの足に組み付いた。
「よくやったぞ、シャルル!」
「な、なにぃ!? 死んだふりじゃとぉ!?」
ガバッと起き上がったマリベルが、ハイジアに襲い掛かった。
「き、貴様ずるいのじゃッ!!」
「お前に言われたくはないわ!」
「それでも聖騎士なのかえ!?」
「ふん! 『勝てば良かろう』なのだろうが!」
マリベルが聖剣デュランダルを振り上げる。
「やっちゃうです、お姉ちゃん!」
「ま、待て! 待つのじゃー!!」
「待たん! チェストォォー!!」
――ゴチイィィィィン……!!
聖剣の腹がハイジアの脳天をしたたかに打ち据えた。
「む、無念なのじゃ……」
頭からプスプスと煙を出したハイジアが崩れ落ちていく。
「ふふ! 勝ったぞ! 私の勝利だ!」
「さすがお姉ちゃんなのです!」
姉妹騎士はふたりで肩を抱き合い盛り上がっている。
「うひょー! 優勝はマリベル殿だああああ!!」
その光景を目にした大家さんはピョンピョンと跳びはねて、ふたりの戦いを讃えている。
フレアは途中から我関せずと、赤ワインを飲み出していた。
戦い終えたマリベルが、床にハイジアを引きずりながら戻ってきた。
「コタロー、私の優勝だ! さぁ、貴醸酒を寄越――んあ? それは何を飲んでいる?」
マリベルが懐疑そうな目を向けてきた。
俺は妖精姫アロマと向き合って『満寿泉、生貴醸酒』を酌み交わしていた。
「ふわぁ……ヒト族のあなた。これは甘くて、とても良いお酒ですね」
「だろ? 貴醸酒っていうんだぜ?」
「貴醸酒……覚えました。褒めて差し上げます。さぁもう一杯お注ぎなさい」
「おう! 飲め飲め!」
妖精サイズの小さなグラスに貴醸酒をトクトクと注ぐ。
グラスはすぐにいっぱいに満たされた。
「お、おいコタロー? そ、それは優勝商品ではないのか?」
「ん? おう、たしかにそうだが、あんな模擬戦はノーカンだ、ノーカン!」
「な、なにぃ!?」
マリベルが驚愕に目を見開く。
「つか何だよ人質とったり、死んだふりしたり!」
「ぐッ……。そ、それは……」
マリベルが言葉に詰まった。
「で、では……貴醸酒の贈呈は?」
「おう! んなもん無しだ無し!」
「んあッ!? そ、そんなぁ……」
マリベルががっくりと項垂れた。
本気で残念そうだ。
その様子を見て少し可哀想になってくる。
まあ経過はどうあれ頑張って戦ったのは事実だしなぁ。
「まったく……。つかしゃあねえなぁ」
ため息をひとつついてから、項垂れるマリベルに声を掛けた。
「おうマリベル。気絶してるやつらも起こしちまえよ! みんなで飲もうぜ!」
マリベルがバッと顔を起こす。
必死の形相だ。
「コ、コタロー! では私も貴醸酒を味わえるのだな!?」
「おう! 飲め飲め!」
貴醸酒はみんなで楽しむことにするとしよう。
それが一番だ。
結局最後にはまた、お隣さんたち全員をまじえてどんちゃん騒ぎが始まった。
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