68 お隣さんとじゃこ天
「んくんくんく、ぷはぁッ!」
キレの良いビールを喉の奥に流し込んでいく。
ここはお隣さん家の飲み会部屋。
俺はマリベルにシャルル、ルゼルなんかと一緒に、だらだらと酒を酌み交わしている。
「よい飲みっぷりではないか、コタロー。どれ私も。んく、んく……」
マリベルが缶ビールを傾けた。
「……ぷはぁ! うまい!」
このところ明け方なんかは涼しくなってきたが、日中はまだまだ暑い日が続いている。
今日だって、部屋でジッとしていても汗ばんでくるほどの蒸し暑さだ。
キンと冷えたビールが五臓六腑に染み渡る。
「……私もビール飲みたい」
俺の肩にしな垂れかかったルゼルが、テーブルの缶ビールに手を伸ばした。
動いた拍子に、頭の角が頬に突き刺さって痛い。
「はいはいはーい! わたしも頂きたいのです!」
シャルルも元気に声を上げた。
みんな揃って、ゴクゴクと冷たいビールで喉を潤していたそのとき――
――ガチャ。
部屋のドアが開かれた。
「なんじゃ、朝っぱらから騒がしいのう」
「おう、ハイジア! つか朝からって、もう昼だ……か……んなぁ……?」
いきなり大きな胸が、網膜に飛び込んできた。
誰だこの爆乳女は。
銀糸のように艶やかな銀髪に、黒を基調としたゴスロリ衣装。
切れ長の鋭利な眼差しだ。
スラリと細長い手足を遊ばせた、モデルのように高身長の女である。
「お、おう? つか誰だアンタ?」
醸し出す雰囲気から一瞬ハイジアかと思ったが、全然違う。
というか、ハイジアは色々とこんなに大きくない。
ドアを開けて入ってきたのは見慣れた吸血少女ではなく、大人の色気をグラマラスな体からむんむんと漂わせた、絶世の美女だった。
「ふはッ、ふはははは! 妾じゃコタロー! 分からんのかえ? 妾は夜魔の森の女王、真祖吸血鬼ハイジアなるぞ!」
美女が高笑いをしながら、こちらまで歩いてくる。
そして目の前で立ち止まって、ドスンと腰を下ろした。
座った拍子に爆発的なサイズの胸が、ぷる、ぷるるんと縦に揺れる。
「退くのじゃ、蝿女!」
「……あうッ」
ルゼルが女に突き飛ばされた。
「ふふん! どうじゃコタロー? 見よ! 蝿女なぞとは比べものにならぬ乳であろ?」
「お、おぱ!? ――はッ!? つかアンタ、ハイジアじゃねーだろ! ハイジアはそんなに、お、おっきくねーっつの!」
焦って女の胸から目を逸らした。
心臓がバクバクと早鐘を打ち始める。
なんつー色気だ。
目の前の女性は何が楽しいのか、視線を外した俺の横顔を眺めてニヤニヤとしている。
彼女は重量感のある胸を下から掬うように両腕で持ち上げたかと思うと、ゆさゆさと揺らして、見せつけてきた。
「く、くくく……。ほーれほれほれ! よく見るのじゃコタロー! 眼福じゃぞー?」
「――ッ!? だだ、だから、誰なんだよアンタは!」
シャルルが突然の爆乳闖入者に、口をパクパクと開けて唖然としている。
マリベルは驚きながらも、若干ムスッとした表情でこちらを見ている。
突き飛ばされたルゼルは、寝転んだままビールを飲み始めた。
相変わらずの我関せずだ。
「……その子。本当にハイジアなのよ、お兄さん」
続いてフレアが、そう口にしながら顔を出した。
彼女は困ったもんだと眉間に皺を寄せて、「はぁ」とため息をつく。
「お、おうフレア? つまり……どういうことだってばよ?」
焦りのあまり変な言葉遣いになってしまう。
「えっとね。その子ってば、あたしの開発中のポーションを勝手に飲んじゃったのよ……」
「うりうりうり。おっぱい攻撃じゃ。どうじゃコタロー! ふはははは!」
「ええい! アンタは近寄らないでくれ! つか開発中のポーションって?」
「成長促進ポーションよ……」
成長促進……。
なんだか少し状況が飲み込めてきた。
つまり目の前の妖しい美しさの乳女は、ハイジアが成長した姿ってわけか。
そういわれてみれば、たしかに面影がある。
「な、なんだ……。つか焦って損したぜ……」
ハイジアとわかったら、なんだか気持ちが落ち着いてきた。
(だってなぁ……)
いくらたゆんたゆんの豊満ボディといえども、中身があのお子様吸血鬼じゃあアンバランスだ。
まったく似合わない。
「おう、さっさと離れろ!」
腕にまとわりつくハイジアを、ペッと引き剥がした。
すると彼女は唇を尖らせてツーンとむくれた。
「なんじゃ、つまらぬのう。もっと醜態を晒しても良いのじゃぞ?」
「しゅ、醜態なんて晒してねーし!」
「……十分醜態を晒していたぞ。まったく、鼻の下を伸ばしよってからに!」
マリベルがぷいっとそっぽを向いた。
まったく酷い言い草だ。
誰だって見知らぬ美女の爆乳を目の前にしたら、多少なり視線を奪われる。
それが男心ってもんだろう。
つかむしろ中身がハイジアとわかって直ぐに正気を取り戻した俺を、褒めてほしいくらいなもんだ。
「それよりフレア。ハイジアは元に戻れるのか?」
「ええ。半日もすれば効果も切れて、元に戻るはずよ」
「なんじゃ、つまらぬのう。妾はずっとこのままでも良いのじゃがなー」
ハイジアは手のひらで自分の胸を持ち上げて、もてあそんでいる。
そんな妖艶な吸血鬼を、シャルルが指を咥えて羨ましげに眺めていた。
「フレアさん! そのポーションまだあるのですか!? どんなのですかッ!?」
「ええ、あるわよ。目立つ赤いポーションだから直ぐにわか――」
シャルルが駆けだした。
「わたしもそのポーション、いただくのです!」
「あッ!? 待ちなさい! だからまだ開発中だって――」
シャルルは制止の声も聞かずに、脱兎の如く部屋を飛び出していった。
「じゃじゃーん! なのです!」
シャルルが戻ってきた。
ちんまかった彼女が、なんとすっかり成長している。
まるで姉のマリベルを見ているようだ。
「お、おう……。シャルル、デカくなったなぁ……」
シャルルは澄ました顔でアゴを上に向けて、気取った態度を取っている。
確かに美人だ。
明るく煌めく金の髪。
背筋に一本芯の通った、凜とした立ち姿の、楚々とした女騎士である。
「うっふーん! なのです! どうですか、コタローさん!」
シャルルがフローリングに横座りになってにじり寄ってきた。
クネクネと上体を揺らしているが、これは多分色気をアピールしているつもりなのだろう。
だが正直なところ、まったく色っぽくない。
なぜなら……。
「く、くくく……シャルルよ、なんじゃその乳は!」
「はえ……?」
「ふはッ。確かに形は大きくなっておる。じゃが、乳は残念なままじゃったのう!」
ハイジアの指摘通りである。
大きくなったシャルルの胸は、相変わらず薄いままだった。
「はッ、はええええ!? どうして!? ぺぺ、ぺったんこなのですよー!?」
「ふはははは! それが貴様の限界よ! 見よ、妾のこの乳を! 見事な爆乳なのじゃ!」
ハイジアがたっぷりと脂肪の詰まった胸を、シャルルの頭にズシリと置いた。
シャルルが頭上の胸をバシッと叩いて打ち払う。
「あいた! 痛いじゃろうが貴様! おっぱいは大切に扱え! ……といっても貴様にはわからぬ痛みか。なにせ貴様には備わってないものじゃからのう! ふはははは!」
「酷いッ! ハイジアさんが酷いのです! うわああーーん!!」
シャルルが泣きながらマリベルの胸に飛び込んだ。
「……よしよし、シャルル。そんなに泣くな」
マリベルは傷心の妹を慰めるべく、そっとシャルルを包み込むように抱き止めた。
両腕を彼女の頭に添えて、ムギュッと抱きしめる。
シャルルの顔がマリベルの豊満な胸に埋まった。
「――んぎゅ!? このおっぱいは!?」
「ん……? どうした、シャルル?」
「敵ッ! お姉ちゃんは敵なのです! ええい、こんなものッ!」
シャルルがマリベルの胸をバシッと叩いた。
「――んあッ!? な、なにをする!?」
「うわああーーん! ルゼルさーん!!」
再び泣き出した彼女が、今度はルゼルに飛びついた。
しかし圧倒的質量を伴うルゼルの胸に、ぼよよんと跳ね返される。
「――ッひう!? こ、こんなものッ!!」
シャルルがルゼルの胸をバシリと叩いた。
「……痛い」
「うわああーーん! フレアさ……ってこっちも敵なのです!」
シャルルの目がつり上がった。
腕を振り上げて、フレアの胸に襲いかかる。
「ちょッ!? ちょっとシャルル! 落ち着きなさい、貴女!!」
「ま、待てシャルル! いいから止まれ!」
俺は間一髪シャルルの足元に飛びついた。
「――あぶふッ」
変な声を出して顔面からフローリングに倒れ込んだ彼女は、そのままシクシクと泣き出した。
「だ、大丈夫かシャルル?」
マリベルが突っ伏したシャルルに、心配そうに手を伸ばす。
「う、うう……。敵なのです。ここは敵だらけなのです」
「ふはははは! ぺちゃぱいは貴様だけじゃからのう、シャルルよ! ふはははは!」
「つか、ハイジア! アンタも煽るのを止めろ!」
「う、うぅ……」
飲み会部屋に、シャルルの泣きべそが響いた。
翌日、シャルルが俺ん家にやってきた。
ポーションの効果が切れて元に戻っている。
玄関口に膝を揃えてちょこんと座った彼女は、折り目正しく頭を下げる。
「……おう。どうした?」
問いかけるもシャルルは応えない。
キュッと下唇を結んで肩を震わせている。
「どうしたシャルル? 黙ってちゃ分かんねーぞ?」
優しく問いかけ直す。
するとシャルルは、喉の奥から震えた声を絞り出した。
「……コタローさん。お願いがあるのです」
黙って彼女の話に耳を傾ける。
「わ、わたしは……。わたしは悔しいのです……」
「……おう。つか、昨日のことだな?」
シャルルが無言でコクリと頷いた。
「あのおっぱい魔人どもに、目にもの見せてやりたいのですッ。……コタローさん。どうか! どうか育乳のお手伝いをっ!」
育乳。
それはバストを大きく育てることである。
「わたしに……あの人たちに負けないような、おっぱいを授けて欲しいのですッ!」
黙って考える。
正直、昨日のシャルルは可哀想だった。
というか、ぶっちゃけハイジアのヤツの外道ぶりが際立っていた。
ここはなんとか力になってやりたい。
「おう……。顔を上げろシャルル」
シャルルがゆっくりと頭を起こして、俺の目を見つめる。
見つめ返したその瞳には、うっすらと涙が浮かんでいた。
そんな彼女の様子に、俺の覚悟も固まる。
「コタローさん……どうか……」
「おう! つか任せとけ! この俺がシャルルを、立派な乳――レディに育ててやる! あいつらをぎゃふんと言わせてやろうぜ!」
涙に濡れたシャルルの顔が、ぱぁっと華やいだ。
その日から特訓が始まった。
「コタローさん。おっぱいを大きくするためにはどうすればいいのでしょう?」
「とにかく先ずは牛乳だな! カルシウム食品もいいってきくぞ」
冷蔵庫から紙パックの牛乳を取り出した。
1リットルサイズのデッカいやつだ。
ついでに俺にはキンキンに冷えた缶ビールを取り出す。
「おう! 毎日これを飲め!」
「こ、これを毎日、丸々1本も飲むのですかッ!?」
「ははは! つか、そんな訳ねーだろ!」
シャルルがホッと胸を撫で下ろす。
「……1日3本だ」
「はッ、はえええッ!?」
「おう! この程度で何を驚いている! つか、本気で育乳する気はあるのか!」
叱責を受けて、シャルルの顔がキッと引き締まった。
本気の表情だ。
「や、やるのです! やってやるのです!」
「その意気だ! つか『じゃこ天』もあるぞ! こいつはカルシウムたっぷりで胸にもいいかんな!」
このじゃこ天は愛媛のほうの郷土料理だ。
興味があったから、通販で取り寄せた。
薩摩揚げに似たような見た目なのだが、なんでも食べてみると結構違うらしい。
「さぁシャルル! ぐいっと飲め!」
「はいなのですッ! ……いざッ!」
気合いの入った掛け声とともにシャルルが紙パックのミルクを傾けていく。
それを満足げに眺めながら、俺も缶ビールを開けた。
「んくんくんく、……ぷはぁ! 効くぅ!」
うまい。
この暑い季節。
キンキンに冷えたビールがありがたい。
舌に感じるホップの苦みと、喉の奥をくすぐるキレ味。
ビールの旨みを堪能しながら、肴のじゃこ天に箸を伸ばした。
狐色というよりは少しグレーに近いその肴を、ひと切れ口に放り込んで、むぐむぐと咀嚼する。
肉厚な魚のすり身のぷるんとした噛みごたえと、シャリシャリとした珍しい歯触りの組み合わせ。
その食感を楽しんでいると口いっぱいに広がってくる、濃厚な魚の旨み。
「ほう……。これは……」
もっと淡い味わいかと思いきや、かなり主張の強い旨みだ。
これは単体で食べても美味いとは思うが、酒の肴にしてこそ輝くものではないだろうか。
「んくんくんく、……ぷはぁ! げふぅ……」
口に残ったじゃこ天を、ビールでゴクゴクと胃に流し込んでいく。
たまった息を吐き出すと、堪らない満足感が胸を満たし始めた。
「わたしも! わたしもじゃこ天食べるのです!」
「おう! どんどん食えよ! つか、そうだ。ちょっと待ってろ!」
そういえばもうひとつ、いいもんがあった。
キッチンに立ち、手早く揚げ油を温めて、お目当ての逸品を投入する。
ジュワッと心躍る揚げ物の音が鳴り、からっと揚がったそれを揚げ鍋から取り出して油を切る。
「ほらシャルル! これ食ってみろ!」
「はいなのです! それでこれは、なんなのですか?」
「おう! こいつはなぁ……。『じゃこカツ』だ!」
シャルルが紙パックをテーブルに置いて、じゃこカツに齧り付いた。
彼女の小さな口が、サクッと小気味の良い音を届けてくる。
そのままシャルルは目を閉じて、んぐんぐと咀嚼したあと、ゴクリと喉を動かしてそれを飲み込んだ。
「どうだシャルル。……うまいか?」
シャルルがクワッと目を見開いた。
「お、美味しいのです! カラッと熱々に揚がった衣のサクサクとした食感! そして不思議な噛みごたえの中身! これはお肉なのですか? 違う、お肉じゃない! これは魚なのです! でもまるでお肉を食べているような濃厚な味わいと満足感! 衣の油とすり身の調和! これはビールが欲しくなる肴なのです!」
「お、おう。そうか。……でもシャルルは牛乳な」
「そ、そんな……ッ!?」
育乳の道は険しい。
酒を飲む暇も惜しんで牛乳を飲まなければいけない。
恨めしそうにこちらを見るシャルルをよそ目に、俺はサクサクのじゃこカツに齧り付き、ビールを喉に流し込んだ。
お隣さん家の飲み会部屋。
そこでシャルルがひとり正座をし、瞑想していた。
「おい、シャルル。お前は何をやっているのだ?」
手酌で酒を飲みながら、マリベルが声を掛けた。
シャルルはその問いかけにチラッと薄目を開いたものの、視界に入った姉の豊満な胸に小さく舌打ちをして、ぷいっと顔を背けた。
はたから見ると、かなり態度が悪い。
「お、おい。シャルル?」
「ふーん! なのです!」
「んあぁ……」
みんながシャルルの態度を不審がる。
いま、この部屋にはハイジア以外のお隣さん全員が集まっていた。
「……シャルル。いい子いい子する?」
「いらないのです!」
「この子ってばどうしちゃったのかしら? ねえ、お兄さんはなにか知ってるかしら?」
「お、おう……。つかそっとしておいてやってくれ」
――ガチャリ。
そのとき、部屋のドアが外側から開かれた。
寝起きのハイジアがまぶたを擦りながら入ってくる。
「まったくなんじゃ。朝っぱらから騒々しいのう」
「いや。つか、もう昼過ぎだかんな」
瞑想をしていたシャルルの瞳がカッと見開かれた。
「待っていたのです、ハイジアさんッ!!」
「な、なんじゃ?」
ハイジアはいきなり大声を出したシャルルにビクッと身を竦ませる。
シャルルが懐から赤いポーションをふたつ取り出した。
「あッ!? それはあたしの成長促進ポーション! いつのまにッ!?」
「これを飲んでくださいハイジアさん! 勝負なのです!」
「勝負じゃと? いったいなんの話じゃ?」
「おっぱい勝負なのです! 特訓の成果を見せてやるのですよ!」
あの日から数日。
来る日も来る日もシャルルは、俺ん家で特訓に明け暮れた。
俺が美味い肴に舌鼓を打ち、酒や焼酎、ビールをたらふく搔っ食らう隣で、シャルルはただひたすら牛乳を飲み続けた。
一滴も酒を飲まず、牛乳を飲み続ける毎日。
さぞや辛い日々だったはずだ。
ぶっちゃけ俺には無理だ。
シャルルの頬を汗が伝う。
そんな彼女の緊張の面持ちを前に、ハイジアは余裕の態度でふんっと鼻をならした。
「く、くくく……。よかろう! 格の違いを見せつけてくれるのじゃ!」
「わ、わたしは負けないのです!」
「ふははは! かかってくるが良いのじゃ、ぺちゃぱい!」
睨み合うシャルルとハイジア。
小さな女騎士と小さな吸血鬼が、同時に赤いポーションを飲み下していく。
「だからそれは、開発中のポーションだって――」
フレアの叫びなど、もうふたりには届いていない。
俺たちの見守るなか、小柄なふたりの体がみるみる育っていく。
むくむくと背が伸び、幼さの勝っていた顔立ちが、美麗なものへと変化していく。
――たゆん。
おっぱいが揺れた。
「ふはッ、ふはははは! 見るのじゃ! これが妾のおっぱい力! これなるは夜魔の森を統べる、真なるおっぱいなるぞ!」
ハイジアが勝ち誇って胸を張る。
シャルルが驚きの表情でその胸部を見遣る。
「つ、つかハイジア……。それは一体……」
「なんじゃコタロー? 貴様はまたしても妾のおっぱいに、目を奪われたのかえ? 妾も罪作りな女よのう。ふははははは!」
高笑いが部屋に響き渡る。
だが俺はその笑い声に戸惑いの言葉を返した。
「……お、おう。……つか、自分の胸を見てみろ」
「んん? なんじゃ? 妾の爆乳がどうかしたの……か、……え……?」
視線を下げてハイジアがようやく気付いた。
そこに視界を遮るものはなにもなく、あるのは草原のように開けた洗濯板だということに――
「バッ、バカな!? 妾のおっぱいが、ないじゃとぉッ!?」
「ふ、ふふふ……」
「たしかにッ!? たしかに先ほど、たゆゆんとおっぱいの揺れる気配がしたはずじゃ!!」
「――それは、ここなのですッ!」
勝ち誇ったシャルルが高らかに声を上げた。
腰に佩いた氷剣ミストルティンをシャキーンと抜き放ち、天高く掲げる。
切っ先が天井に刺さった。
「みよ! 我がおっぱいを! ついに我、怨敵ハイジアさんを討ち取ったのですッ!!」
シャルルの胸部。
そこには爆弾のような巨乳が備わっていた。
メロンでも詰まっているのかと見紛うほどである。
「やった! やったのです! ハイジアさんよりおっきいのです! やったぁ!!」
「ぐぬぬ……。なぜじゃ!?」
「いえーい! ハイジアさんのおっぱいなんて目じゃないのです! ぷるるーん! ぷるるーん!」
「こ、このような筈が……」
ハイジアががっくりと膝をつく。
その周りをシャルルが楽しそうにクルクルとはしゃぎ回り、囃し立てる。
「ひゃっほー! ハイジアさんのぺったんこー! 洗濯板ー! いえーい!」
「解せぬ……。妾のおっぱいはどこに……」
ふたりを眺めながらフレアが小さく嘆息する。
「ふぅ……。だから開発中だっていってるのに。全然聞いてないんだから……」
項垂れるハイジア。
飲み会部屋に、シャルルの勝ち誇った声が響き続けた。
そろそろ動物園の三章のほうも始めようと思います!
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