66 お隣さんと秋刀魚とコスプレ
トクトクと、小皿に日本酒を注いでいく。
丸くて、少しばかり深さのある小皿だ。
「とっとっと。こんなもんか」
テーブルを滑らせるように、ずいとその小皿を差し出す。
するとそこにちょこんと座っていたニコが、待ってましたとばかりに、皿に舌を伸ばし始めた。
ペロペロと、小さな舌で掬うようにして酒を飲むニコは、今日も可愛い。
ここはお隣さん家の飲み会部屋。
俺はケットシーのニコと差し向かい、ひとりと1匹で酒を楽しんでいた。
「どうだニコ? うまいか?」
「ンニャーン」
どうやらお気に召して頂けたようである。
今日の酒は、八海山の普通酒。
この日本酒は普通酒といいながらも精米歩合は60%まで贅沢に磨いてある。
しっかりした旨みと、するりと喉を通る飲みやすさで、普段飲みに適した旨い酒なのである。
ちなみにコンビニでも売られているので、入手も簡単だ。
「……ぷはぁ、うまい!」
ニコに倣って酒を飲む。
ほのかに香る吟醸香を楽しみながら、すっと透明な雫を口に含むと、舌先に感じる微かな甘みと、口内を満たす米の旨み。
やはり、日本酒は旨い。
「っても、肴がねえな……」
「ゴロニャーン」
「おう! つかニコもなんか食いてえか。なんかねーか冷蔵庫をみてみるわ。んじゃちょっと待ってろよ」
腰を浮かせる。
するとそのとき、ピンポーンと玄関チャイムが鳴った。
「やあ、虎太朗くん。お邪魔するよー」
「お邪魔しまーす! って虎太朗さんだけなんですか?」
顔を見せたのは、大家さんと杏子だ。
遠慮なく上がり込んできたふたりは、テーブルに並んで、早速よいしょと腰を下ろす。
「ニャモーン!」
「あ、ごめんなさい。ニコもいましたねー」
「おう! よくきたな、ふたりとも!」
「うん、こんにちは。今日はマリベル殿たちはいないのかい?」
「つか、出掛けてるみたいだな。ハイジアとかルゼルあたりは、まだ寝てんだろうけど」
時刻は昼過ぎ。
俺が顔を出したときには、もうマリベルはいなかった。
だから取りあえず勝手に上がり込んで、適当に飲んでいるというわけである。
「じゃあ私、着替えてきますねー」
「おう、着替えるってコスプレか? つか、なんだかそれも久しぶりだな」
「そうです! コスプレですよー。えへへー。見て下さいよこの衣装! じゃーん!」
大きなバッグから衣装を取り出して見せつけてくる。
広げて見せたのは、色鮮やかな何着ものコスプレ衣装だ。
「おー! いっぱい持ってきたじゃねーか」
「今度参加するコスプレイベント用に、たくさん衣装を作ったんです! ――あッ!?」
そのとき一着の衣装が杏子の腕からこぼれ落ちた。
「はわわッ。こ、これは違うやつ! 無理なやつ!」
そそくさと落ちた衣装を拾って、いそいそとバッグに仕舞っている。
「おう? つか、どうしたんだ?」
「な、なんでもないです! 友だちのが混ざってて。あはは。気にしないでください!」
杏子はバックの奥に衣装を突っ込んでから、額の汗を拭うような仕草を見せた。
小さく息を吐く。
そして気を取り直して、続きを話し始めた。
「そうそうコスプレイベント! せっかくなんで、その本番前にお披露目しようと、何着か持ってきました!」
「おう、そっか!」
「よければ感想を聞かせてください、虎太朗さん!」
さっきの態度は気になるが、どうも突っ込まれたくないみたいだ。
流してやろう。
そう考えて、杏子の話に乗ってやることにした。
「じゃあ今日は、杏子ちゃんのファッションショーが肴だな!」
「えへへ。乞うご期待ですよ!」
杏子が一着の衣装を抱えてトイレに消えていった。
「……つか、さっき落っことしたのは、なんだったんだろうなぁ。大家さん、なんか知ってるっすか?」
「さてねぇ。それより肴は杏子の衣装の他にもあるんだよ! じゃーん!」
今度は大家さんが手に提げた袋を見せつけてきた。
その仕草はさっきの杏子とそっくりだ。
見た目全然似てなくてもやっぱり親娘なんだなぁ。
「ニャッ!? ンニャニャーッ!!」
のんびりくつろいでいたニコが、ギラリと目を輝かせた。
大家さんの掲げた袋に、その目が釘付けになっている。
「お。やっぱりニコは食いついてきたね!」
「おう、大家さん。つか、その袋はなんだ?」
「これはね。……秋の味覚、秋刀魚だよ!」
キッチンに立った俺は、3枚におろした秋刀魚をぶつ切りにして、包丁の背でぶっ叩いていく。
味噌や酒、刻んだ生姜やネギと一緒くたに、ドンドン、ドンドン。
「うし! こんなもんか!」
最後にすだちを絞って出来上がりだ。
酒を飲みながら料理を待っている大家さんとニコの元に戻った。
「よ! 待ってたよ、虎太朗くん!」
「ゴマニャーン!」
「おう! お待たせ!」
ドンと大皿を置く。
「『秋刀魚のなめろう』一丁上がりだ!」
テーブルがパッと華やいだ。
やっぱり、宴の席に酒瓶だけってのは寂しい。
肴があってこその宴会である。
「うわぁ、美味しそうななめろうですねー!」
ちょうどタイミングよく、杏子も着替えて戻ってきた。
「じゃじゃーん! 『うまー娘』から『サイレントシズカ』ちゃんですよー!」
見せつける様に、その場で一回転してみせる。
「おう! 可愛いじゃねーか、杏子ちゃん!」
「もう、違いますよ虎太朗さん! シズカって呼んでください!」
「お、おう? シ、シズカ……ちゃん?」
杏子は頭につけた馬の耳を、チョイチョイと手で動かしている。
ちょっと俺にはよくわからん世界ではあるが、なるほど、これはなかなか可愛らしい。
「えへへ。似合ってますかぁ?」
「おう、可愛いぜ! つか、馬子にも衣装ってやつだな!」
「うまー娘だけに――ッて、なんですか、それはー!」
一頻り杏子とじゃれ合う。
すると隣では、大家さんが秋刀魚のなめろうを前にして、もう待ちきれないとソワソワしていた。
「さぁ。じゃあ早速頂こうかな!」
大家さんの箸が伸びた。
大量に作ったなめろうをごっそりとって、甘口のたまり醤油にトポンと浸してからパクッと頬張る。
「んんッ!? これは、……旨いッ!」
パァッと大家さんの顔が輝いた。
実に幸せそうな表情で、はげ頭まで一緒に光っているように見える。
「あー!? お父さんずるーい! 私もいただきまーす!」
「おう! なくなったらまた作ってやっから、じゃんじゃん食ってくれ!」
杏子も美味しそうに、なめろうを食べ始めた。
膨らませた頬に手を添えて、日本酒となめろうを交互に味わっている。
「ニャー!」
「わあってるって。ほら、ニコのぶんだ!」
取り分けてやると、ニコも皿に顔を埋めて、夢中になって食べ始めた。
みんなを眺めながら、俺もなめろうに手を伸ばす。
箸で摘んだそれを、とろっとして濃度の高いたまり醤油に浸してから、パクッとひと口。
途端にすだちの酸味と刻み生姜の辛さが、口内を駆け巡った。
「……っぅ」
刺激的な味である。
だがその味が引いたあと、次に感じられたのは甘さだ。
新鮮な秋刀魚の脂と、たまり醤油の甘み。
それが秋刀魚自体が持つ濃厚な旨みと混じりあって、堪らないあじわいを醸し出している。
「んく、んく、……ぷはぁ。……うまい」
舌に残った秋刀魚の旨みを、日本酒の芳醇な旨みで洗い流していく。
そうすると次はまた、なめろうの甘さと旨みが恋しくなる。
最高の連鎖だ。
酒がすすんで仕方がない。
眺めれば大家さんも杏子もニコも、みんなパクパクとなめろうを摘まみ、カパカパと酒を煽っていた。
「うぃー、ヒック。じゃあまた私ぃ、着替えて、きますねぇ。……ウィック」
「おーう。いってらー」
ほのかに顔を赤くした杏子が、また別の衣装を抱えてトイレに消えていった。
「っと、虎太朗くん。なめろうがもう、なくなっちゃったよ」
「ニャニャーン」
結構たくさん作ったのにあっという間だ。
こんだけパクパク食ってくれると作り甲斐がある。
「つか秋刀魚はまだまだあるな。んじゃもう一回なめろう作ってくるわ」
「あ、ちょっと待ってくれないかい?」
最後のひと口を食べていた大家さんが、何やら考えている。
「もう1度なめろうもいいんだけど、今度はまた、別の食べ方でもいいんじゃないかなぁ?」
「別の食べ方か……。おう! それならいい食い方があんぞ!」
丸々と肥えた秋刀魚を数尾もって、再びキッチンに立つ。
3枚におろしてからぶつ切りにして、今度はフライパンで甘辛い醤油と一緒に煮詰めていく。
最後にごまを振って出来上がりだ。
「おう、お待たせ!」
「よ! 待ってました!」
「ゴマニャーン!」
「今度のも、うんまいぞー? ほら、『秋刀魚の蒲焼き』だ!」
早速大家さんの箸が伸びた。
蒲焼きをひと切れ摘まみ上げて、豪快にパクッと口に放り込む。
「うひょーッ! これもおいしいねー!」
「ほれ、ニコの分だぜ!」
「ウルニャー、ゴニャーン!」
ニコも顔を赤くして上機嫌だ。
旨そうに蒲焼きをはぐはぐしている。
相変わらずこの猫は、反則的に可愛い。
「んじゃ、俺もっと」
蒲焼きを頬張った。
ふっくらとして脂の乗った身が、食べ応え満点だ。
甘辛い味付けが、これまた酒をすすませる。
「んくんく、ぷはぁ! つかこいつもやべえな! 酒がとまらん!」
バクバク飲み食いしていると、トテ、トテテと不規則で怪しげな足音が聞こえてきた。
杏子だ。
もう結構足取りが怪しい。
ふらふらと廊下を歩いて戻ってきた。
「うぃっぷ。……んえ? みなさんってばぁ、また先にぃ、食べちゃってるぅ!」
酔ってはいても、しっかりと着替えはしてきたようである。
今度の格好は頭に2本の角を生やした白い衣装で、背中には黒い羽。
「えっと……そうそう。虎太朗さまぁん。この格好はどうですかぁ?」
「おう! 今度のはなんか色っぽいじゃねーか」
「うふーん。『アルペド』さまですよぉ。虎太朗さまぁ……ヒック」
杏子が隣に座って酒を注いできた。
かと思ったら、自分のグラスに手酌で注いで、またカパカパと飲み始めた。
かなりの勢いである。
「お、おい。……大丈夫か、杏子ちゃん?」
「うふふーん。アルペドってぇ、呼んで下さぁい。虎太朗さまぁん。キャハ!」
キャハ?
いま『キャハ』と笑ったか。
これはやばい兆候だ。
杏子がこんな風にうざい感じで笑い始めたら、だいぶ酔っている証拠だ。
「なあ杏子ちゃん? すこしペース落とさねぇか?」
「だぁかぁらぁ! アルペドだってぇ、言ってるじゃないですかー! キャハハハ!」
「お、おう……」
うん、ダメだな。
もう手遅れだった。
「んもうー。虎太朗さまったらぁ、キャハ!」
「つかさっきからその『虎太朗さま』って、なに言ってんだ?」
「それはね、虎太朗くん。キャラクターになりきってるんだよ。杏子はこうなるともう、放っておくしかないんだよねぇ」
口を挟んできた大家さんは、ニコと一緒に酒を楽しんでいる。
なんか楽しそうだ。
俺もこっちで絡まれるより、あっちに混ざって飲みたいなぁ。
杏子は俺の肩にしなだれかかり、アルペドとやらの真似をしながらキャハキャハと笑っている。
そして、俺が止めるのも聞かずにひっきりなしに酒を煽り続けた。
「それじゃあ、虎太朗さまぁ。わらしぃ、また着替えてきますねぇ。キャハ!」
「お、おう。大丈夫か? なんならもう休んだほうが――」
「だぁいじょうぶれすって! キャハハハ!」
杏子はもう真っ赤だ。
酒臭い息を振りまきながら、ふらふらと立ち上がった。
「ほぉらニコぉ? 今度はぁ、どの衣装がいいれすかぁ?」
「……ゴロニャー」
ニコが迷惑そうな顔で杏子のバッグに歩み寄り、適当に衣装を咥えて引っ張り出した。
「……ンニャー」
「キャハハ! どれどれぇ……って、はううう!? これはぁあ!?」
杏子がニコから衣装をひったくった。
ふらふらしながらもバッグに戻そうとして、……少し考えてから、その手を止めた。
「くふふ……。そういえばぁ、ヒック、この衣装がありましたねぇ……」
悪戯っぽい表情だ。
ニヤリと笑った杏子は、そのまま衣装を隠すように抱きしめて、トイレへと消えていった。
「つか、あれ。絶対良からぬことを考えてるだろ……」
正直もう、悪い予感しかしない。
思わずポツンと呟いた。
すると大家さんも同調してため息をつく。
「杏子はねぇ……ヒック。昔っから、悪戯っぽいところがあるからねぇ」
そういえばそうだな。
たしか前に、タコ焼きに鬼のような量のデスソースをぶちこまれたこともあったか。
つか忘れた頃に、悪戯を仕掛けてきやがるなぁ。
「まぁ、ひとが嫌がるような悪戯はしない子だから、放っておくといいよ。それより虎太朗くん。蒲焼きがなくなっちゃったねぇ……ヒック」
「おう。んじゃ次はお待ちかねの、アレ作るか!」
空になった大皿を持って立ち上がる。
「んくんく、ぷはぁ。アレ? アレってなんだい?」
「まぁ慌てんなって大家さん。実はさっき、蒲焼き作ったときに仕込んでたんだよ」
今から作ろうとしている肴。
それは『秋刀魚の塩焼き』だ。
やっぱり秋刀魚と言えば、塩焼きだろう。
これは外せない。
「すぐに焼いてくっからな! ちょっと待っててくれ!」
本日3度目のキッチン。
下拵えをして、塩を馴染ませておいた秋刀魚を取り出す。
サッと秋刀魚を拭いて、2度目の塩を軽く振ったあと、グリルに突っ込んだ。
パチパチと軽快な音がなり、秋刀魚の焼ける良い匂いが漂ってくる。
そして、待つことしばし。
「よし! 焼き加減もばっちりだ!」
すだちと大根おろしをたっぷり添えて出来上がり。
「おう、お待たせ! 『秋刀魚の塩焼き』だ!」
「うひょー! これこれこれ、これー!」
「フニャーゴ!」
「秋刀魚つったら、やっぱ、これを食わなきゃ締まらんだろ!」
みんなで一斉に食い始めた。
箸を伸ばして、こんがりと焼き色の着いた皮に触れる。
するとパリッと小気味の良い音を鳴らして皮が裂け、中からほかほかと湯気を立てる白い身が姿を現した。
「くぅー! つかこれだよこれ!」
すだちの酸味に程よい塩気。
脂の乗った秋刀魚の、ジューシーな旨みがストレートに伝わってくる。
「やっぱり、秋刀魚は塩焼きだねぇ! 焼き加減も絶妙だ!」
大家さんにも好評のようだ。
酒がすすむことこの上ない。
日本酒をぐいぐい煽りながら、季節の味覚を堪能していると、部屋のドアがバタンと開かれて、杏子が勢いよく飛び込んできた。
「おう! おかえり杏子ちゃん。んく、んく――」
「虎太朗せーんぱい! キャハハ!」
「――ぶッ!?」
思わず口に含んだ酒を吹き出した。
「あ、杏子ッ!? その格好はッ!?」
目を白黒させる大家さん。
部屋に飛び込んできた杏子が、それを横目にして俺に抱きついてくる。
「キャハハハ! 虎太朗せーんぱい! エッチしましょー!」
着替えてきたはず杏子は、すっぽんぽんだった。
「ちょ、ちょま!? ちょま!! 服をきき着ろ! ふふふ服を着ろ、杏子ちゃん!!」
「ああああ杏子!? 私は杏子を、そんなふしだらな娘に育てた覚えはないよ!?」
ふたりして焦りまくりだ。
とにかく俺は、何とかして杏子を引き離そうと必死になって手を伸ばす。
「キャハハハッ、騙されましたねぇ! じゃじゃーん!」
杏子がバッと俺から離れた。
両手を広げて、素っ裸のその姿を見せつけてこようとする。
「残念でしたー! キャハッ! 裸じゃありませーん! キャハハハ!」
「はッ、はぁ!?」
「こぉれぇはぁ! 『姉さえ』の『蝦那由他』ちゃんの全裸コス! 全身肌色タイツですよー!」
よく見れば杏子は、確かに服……というかタイツを着ていた。
俺はホッと胸を撫で下ろす。
「そ、それでもダメだよ杏子! すぐに着替えてきなさい!」
「そ、そうだぞ杏子ちゃん! んなの、年頃の娘さんがやるこっちゃねーぞ!」
「ええー!? いいじゃないですかー? キャハ!」
ふらふらと危なげな足取りの杏子が唇を尖らせる。
これ、絶対しらふに戻ったら、激しく後悔する類いのやらかし方だろう。
「いいから、着替えてくるんだ!」
酔いも吹っ飛んだ様子の大家さんが、杏子の背中を無理やり押した。
だが杏子はするりと大家さんの腕を躱して、俺の胸に飛び込んできた。
「せーんぱい! エッチしましょー!」
「おわッ!? なんだよそのアホ丸出しのセリフは! つかこっち来んな!」
慌てて逃げまわったそのとき――
――バタン!
ふたたび部屋のドアが開かれた。
「んあ!? コ、ココ、コタロー! お前ッ!?」
現れたのは金髪碧眼の女騎士。
彼女は手に持ったスーパーの買い物袋を、ドサッと落とした。
「コ、コタローさん!? ふ、不潔なのです!」
「あらあら、お兄さんったら、まあ!?」
続いてシャルルやフレアも部屋に入ってきた。
マリベルは眼前で繰り広げられるあまりもの痴態に、わなわなと震えている。
シャルルは目に手を当てて見えないようにしているが、しっかりと指の隙間から俺たちを見ている。
フレアはなんだか楽しそうにケラケラ笑っていた。
「キャハハハ! コタローせーんぱい! エッチしましょー!」
「だからこれ以上事態をややこしくすんな!」
杏子から逃げる。
「不潔、不潔なのです! 汚物は消毒なのですッ!」
「いいから、早く着替えてくるんだ杏子!」
「うふふ。お兄さんったら、案外男だったのねぇ。隅に置けないわね!」
「お、おのれ…………」
マリベルが震えた手のひらを、腰に佩いた聖剣に伸ばした。
「コ、コタロー……。よもやお前が、そのように恥知らずな男だったとは……」
「ま、待てマリベル! つかこれは違うんだ!」
「だまれ! 問答無用だ! エッチなのはダメだと、最初に言っただろう!」
シャキーンと聖剣デュランダルが抜き放たれた。
「キャハハハ! 虎太朗せんぱぁい!」
「い、いいから離れろ、杏子ちゃん!」
「覚悟しろ、コタロー!」
「だから、誤解だっつってんだろーが-!!」
お隣さん家に俺の叫び声が木霊した。
――翌日。
素面にかえった杏子は、床に頭を擦り付けて、
「どどどうか、昨日のことは忘れてくださいぃ!!」
と、必死になって何度も頭を下げた。
秋刀魚が豊漁ですよ!ヽ(*´∀`)
注釈追記です。
作中の杏子は『裸タイツ』ではなくて、『全身肌色タイツ』ですのでー!




