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64 お隣さんと純米吟醸(辛口)

 お隣さん家の飲み会部屋。

 そこに見慣れない面子がひとり混ざっていた。


「な、なんだ? 僕の顔になにかついてるのか?」


 見た目は中学生くらいの女の子だ。

 側頭部から山羊の巻き角をくるりと生やした、目つきの鋭い少女である。

 褐色の肌にボーイッシュな白髪のショートヘア。

 大胆に太ももを露出したショートパンツ姿のその女の子は、見ようによっては男の子に見えないこともない。

 だがその中性的な容姿に相反して、ほどよく膨らんだ胸が、この子が女の子であることを主張していた。


「ジ、ジロジロみるな」


 彼女がキッとした目つきで睨んできた。

 とはいえ、その瞳はどこか怯えをはらんで……つーかぶっちゃけ、ちょっとキョドっている。


「いや、なんつーか……さっきの恐ろしげな姿からは、想像もつかねぇなぁと思ってな」


 そういやルゼルも、最初はデッカい蝿の姿で現れたんだよなぁ。

 そんなことをぼんやりと考えながら、赤いラベルの日本酒、東洋美人を煽る。


「んく、んく……かぁ、うめえッ」


 喉を潤すさっぱりとした飲み口が心地よい。


「……コタロー。私にも頂戴」


 横から差し出されてきたグラスに酒を注ぐ。

 ルゼルは俺の隣に座って肩にしな垂れかかり、酒を煽りながら角で頬をグイグイ突いてくる。

 そんな彼女のなにげない挙動に、新顔の女の子がビクッと体を震わせる。


「ん、どうしたんだい? バフォメット殿」

「バ、バフォメット殿? なんだ、それは? ぼぼ僕のことか?」


 大家さんがうんうんと頷いた。

 バフォメットと呼ばれた少女は、大家さんと話しながらも、ルゼルをチラチラと横目で気にしている。


「そ、それは数多ある僕の姿のひとつに過ぎない。それに僕にはサタンという名前がある! 七つの大罪の一つ『憤怒』を司りし大悪魔。欺瞞に満ちた世界を惑わす神の敵対者。七大悪魔王が筆頭にして黙示録の赤き竜。それがこの僕、悪魔王サタンだ!」

「お、おう……そうか」


 こいつもかぁ……。

 俺は若干引き気味に応えた。




「っと、酒がなくなっちまったなぁ……」


 東洋美人の赤いラベルを逆さにして振る。

 そして、空になったその瓶を部屋の隅に置いてから、辺りを見回す。

 するとそこは、もはや死屍累々の有り様だった。


 赤ら顔をして幸せそうに呆けて眠るマリベル。

 そんな彼女に後ろから抱きついて、だらしなく頰を緩めながら眠っているフレア。

 きっとコイツらの状況からして、フレアが酔ったマリベルにセクハラを仕掛けて、そのまま寝てしまったのだろう。


 シャルルも脚をハの字にしてぺたんとお尻から座り、壁におでこを押し当てて寝息をたてている。

 なんとも器用な眠り方だ。

 ちなみにハイジアは無理を押してバフォメットと戦ったせいで、二日酔いが悪化したらしく、いまは寝室に引き籠もってしまっている。


「お? あった、あった」


 部屋を見渡してから、マリベルが抱いている一升瓶に目をとめた。

 美しい銀のラベルに『川鶴light』と書かれた一升瓶である。

 たしか以前、この酔いどれ女騎士が美味いと褒めていた辛口の純米吟醸だ。

 なんでも結構なお手頃価格で、リピートしたくなる高品質だとかなんとか……。

 見れば瓶の中身もまだまだたっぷりと残っている。


「おう、マリベル。その酒、ちっと貰うぜー」


 口を半開きにして眠る彼女に近づいて、一升瓶を取り上げようとした。


「……んあッ」


 だが案の定、酒瓶を離しやがらない。


「ちッ、やっぱりか」


 強引に引っ張って無理やり酒を取り上げようとする。


「んあッ! んあッ!」

「いいから離せ、この酔っ払いめ! なんで毎回毎回、寝てんのに酒を離さねーんだよ!」

「あ、虎太朗くん。私も手伝うよ」


 大家さんと2人掛かりで日本酒を引っ張る。

 だがマリベルは床を引きずられながらも目を覚まさず、一升瓶にしがみついたまま離さない。


「んぁあッ! んぁあッ!」

「つか、なんちゅう執念だよ……。こいつもう、酒抜きじゃ生きていけねえんじゃねーの?」

「あははは。マリベル殿は完全にアル中の一歩手前だよねぇ」


 一歩手前?

 ちょっと物申したいところもあるが、それは置いといて、どうやってマリベルから酒を取り上げるかを考える。

 いつもならこういうときは、ハイジアが喉チョップでコイツを沈めてくれるんだが……。


「あ、そうだッ」


 思いついた。

 ハイジアがいなくてもルゼルがいるじゃねえか。


「なぁルゼル、ちょっと頼めるか? 軽くマリベルを気絶させてくれ」

「……ん。わかった」


 ルゼルが座ったままずりずりとマリベルに近寄り、手を振り上げた。


「…………えい」


 そのまま軽く一声発して、彼女の額にゴスンとチョップを振り下ろす。


「――――ん゛あ゛ッ!?」

「ヒッ、ヒィイッッ!?」


 額からプスプスと煙を上げながら、マリベルが床に沈んでいく。

 と同時にサタンが何やら青い顔をして震え出した。


「お、おう? どうしたんだ、アンタ?」

「ル、ルゼルがッ!? こいつがまた暴力を振るった……あうあうあ」


 なんかよく分からんやつだなぁ。

 首を捻りながらも、取りあえず気絶したマリベルから酒瓶を取り上げた。




 透き通った清い水のような『川鶴light』を、とくとくとグラスに注いでいく。

 すると控えめだが、ふんわりと豊かな吟醸香が鼻をくすぐってくる。


「とっとっと……」


 注ぎたてのそれを口から迎えるために、顔を寄せてグラスの淵に下唇を添えた。

 スッと啜ると口当たりはさっぱりで、舌に感じる甘みはそこそこ。

 けれども口内に感じる旨みはどの酒に比べても一際強い。

 今度はグラスを持ち上げてしっかりと煽る。


「んく、んく、ぷはぁぁ……」


 すっぱりとキレの良い後味。

 絶妙な辛口でドシッとくる旨みだけを感じさせて、甘さは舌に残さない。


「くぅぅッ……うめえ! 堪んねえなッ!」


 美味い酒の味に満足しながら、目を回して気絶している女騎士を眺めた。

 なるほどこれはマリベルも絶賛するわけだ。


「おい、お前! そこの人間! ……ヒック」

「ん? おう、なんだサタンちゃん」

「僕にももう一杯寄越せ! ほらッ……ヒック」


 差し出されたグラスに酒を注いでやる。

 どうやらこの新顔も結構酒はイケるクチらしい。

 さっきからもう何杯もカパカパと飲んでいる。


「んく、んく、んく、ぷはぁ……ヒック。もう一杯ら!」


 だがちょっとペースが速い。

 褐色の肌を赤く染めて、新顔の悪魔王サタンはもうすでに酔い始めている。


「お、おうアンタ……もうちょっとペース落としたほうがいいんじゃねーか?」

「ぅるさいッ! なんらぁ? 僕に飲ませる酒はないっていうのかぁ? ヒック」

「つか、そういうわけじゃねーけどよ」

「じゃあ、どういう訳なんらッ! ……ヒック」


 うわぁ……絡み上戸だコイツ。

 普通なら間違いなく、飲み会で敬遠されるタイプだぞ。


 とはいえ俺はそんじょそこらの酒飲みではない。

 つか俺の名は虎太朗、いわば虎。

 どんな相手とでも酒を思い切り楽しめる、真の酒飲みだ。

 差し出されたグラスにとくとくと酒を注いでいく。


「おう、分かった! 面倒はみてやるから、ほら、どんどん飲め!」

「わぁればいいんだ、わぁれば……ヒック」


 まぁ飲み潰れたたら、あとで介抱してやればいいだろう。

 俺は遠慮なくサタンに酒を飲ませた。




「まったくどいつもこいつも……いっつも僕をないがしろにして!」


 唐突に愚痴が始まった。

 前触れもなく始まった彼女の愚痴に、ちょっと面食らう。

 つかストレスでも溜まってるんだろうか。


「おう、なんか辛いことあったのか、サタンちゃん? 俺でよければ聞いてやるぜ?」

「なんなら、私も聞くよ?」

「ん……お前らち、人間のクセに出来たやつらだなぁ。それに比べてあの悪魔王どもときたら……」


 サタンの口から次々と愚痴が零れ出す。


「ベルフェゴールのヤツは寝てばかりで言うことを全然聞かないし、アスモデウスのやつは何かと言えばすぐに色目を使ってきやがるし……ヒック」


 グラスをグッと煽り、タンッとテーブルに叩きつける。

 褐色の細い肩を震わせて、彼女は次第にヒートアップしていく。


「聞いているのか人間!」

「お、おう。聞いてんぞ、サタンちゃん」

「まま、もういっぱいどうだい、サタンちゃん」

「あ、うん……すまんな。どうもありがとう」


 大家さんが荒ぶる褐色肌の少女に酒を注ぐ。


「んくんく、ぷはぁ! 僕は七大悪魔王の筆頭、大悪魔サタンなんらぞ!」


 酔った彼女は顔を赤くしながら、拳を握りしめて力説している。

 その姿は本人が語るような大悪魔のものには到底見えない。

 なんというか小さな見た目も相俟(あいま)って、子どもが背伸びをしているみたいな可愛いらしさが先に立つのだ。


「大体、そこでぐうたらしているベルゼブル……ルゼルにしてもそうだ! こいつはいっつも食っちゃ寝食っちゃ寝してばかりで、全く悪いことをしようとしない!」

「お、おう、そうなのか? でも悪いことはしちゃダメなんじゃねぇか?」

「悪いことをしてなにが悪い! 僕たちは悪魔なんだぞ! ……ヒック」


 もうだいぶ酔いが回ってきているようだ。

 酒臭い息を振りまいて、サタンが訳の分からない持論を力説する。

 こいつは相当の絡み上戸だ。


「ルゼルのヤツはッ、……ルゼルのヤツは、本当に、いつもいつもッ」


 愚痴のターゲットが悪魔王全般からルゼルに移る。

 すると、俺にしな垂れかかって酒を楽しんでいたルゼルが、面倒くさそうに動き出した。


「…………サタンちゃん、うるさい」

「ッ、ヒィ!?」


 のそりと動き出したルゼルが、腰を上げてサタンに近づいていく。

 それと同時に気色ばんでいた彼女の顔色が青く変化していく。


「な、なんだ!? またぶつのか!? お前はいっつもそうやって、暴力で人のことを黙らせようとして――」

「…………サタンちゃん、うるさい」


 スッと振り上げた拳が、ゴスンとサタンの頭に落ちた。

 衝撃でマンションがゴゴゴと揺れる。


「い、痛ッ!? やめろ! やめないと酷いぞ!!」

「…………まだ足りない?」


 再びルゼルの拳がゴスンと振るわれた。


「だから痛いって言ってるだろ! や、やるっていうのか!? 僕がなにをしたっていうんだ、この悪魔め!」

「…………悪魔が悪いことをして、なにが悪いの?」


 ルゼルがまたもスッと拳を振り上げる。


「ッ、ヒ、ヒィィッ!? わかった! わかったからその手を下ろせ! 酷い目にあわせるぞ!」


 三度ルゼルの拳がサタンちゃんの頭に落ちた。


「――ッ、(いっつ)ぅ……! も、もうやめてよぉ……、やだぁ……」


 サタンが泣き始めた。

 グズグズと鼻を啜る彼女の頭にルゼルが手を置いて、いい子いい子する。


「…………サタンちゃん。もう泣いちゃったの?」

「ひぅッ!?」

「…………泣き虫だね?」

「う、うえええッ……うええええええ」


 サタンは体面もはばからずに泣き出した。

 完全にルゼルにビビっているようだ。


「……いや、泣き虫っつか……それは、アンタが泣かせたんじぇねえのか?」

「……うるさくしたら、こうすると黙るから」

「もの凄いゲンコツだったね! タンコブになってるんじゃないかい?」

「……大丈夫。昔からこうやって躾けてきた」


 昔からって……。

 俺はズビビと鼻を啜りあげ、大粒の涙を流しながらわんわん泣くサタンが、ちょっと不憫になってしまった。




 泣きじゃくるサタンにティッシュと日本酒を差し出す。


「ほら、鼻かめ。そんで日本酒飲んで落ち着け、な?」

「グズッ……どうもありがとう。お前いいヤツだな、人間」

「虎太朗だ。ちなみに『こ』は『虎』な?」

「あ、ちなみに私は大家だよ?」

「うん……グズッ……ありがとう、コタロー、大家」


 俺はサタンとルゼルの間に割って入った。


「ルゼルも暴力を振るうのはやめとけ。可哀想だろ」

「…………でもサタンちゃん、酔うとうるさいから」

「それでもだ!」

「…………ん。善処する」


 見た感じだと別にルゼルもサタンのことを嫌っている風にはみえない。

 付き合い長いみたいだしな。

 多分、子どもが好きな子を苛めたくなるアレみたいなもんだろう。

 とはいえ、殴られるほうのサタンは堪ったもんじゃないだろうからなぁ。


「しかし、大丈夫かねぇ……」


 コイツは地獄から来たのか?

 それが何処にあるかも分からんが、とにかく帰るにしても、次に召還陣が使えるようになるまでサタンはこっちに居ることになる。

 なのにこんなんで一緒に住めんのかねぇ。


「おうルゼル! アンタ、サタンちゃんが帰るまで一緒に寝泊まりしても平気か?」

「……ん。平気。サタンちゃんは可愛い」

「じゃあサタンちゃん! アンタはどうだ?」

「ぼぼぼ僕は絶対にイヤだぞ!? ルゼルと一緒だなんて!? そんなの、命がいくつあっても足りないじゃないか!」


 まぁこうなるわなぁ。


「うーん、困ったなぁ。大家さん家も無理っすよねぇ」

「ちょっと無理かなぁ。妻がね、怒っちゃいそうだよ」

「つかそりゃそうだわな。といっても俺ん家に女の子住まわせるわけにもいかねーし」


 頭を悩ませる。

 しばらくどっかのビジネスホテルにでも泊まってもらうか?

 でも、常識を弁えてるかも分からん悪魔をひとりにするのも問題がありそうだ。


「…………うん? 女の子って僕のことか?」


 うんうん唸っているとサタンが首を傾げながら尋ねてきた。


「おう、アンタのことだぜ?」

「それなら少し間違ってるぞ? 僕は男でも女でもない。いわば両方……雌雄同体だ」


 言うなりサタンの体が変化し始めた。

 程よく育った胸が、徐々に平たくなっていく。

 丸みを帯びていたお尻も、みるみる内に変化してキュッと引き締まった。


「……という具合にどっちにもなれる」

「うわぁ! すっごい! すっごいねぇ、サタンちゃん!」


 目の前で女の子が男の子に変わった。

 大家さんは大はしゃぎだ。

 サタンは大家さんに持ち上げられて、得意げに鼻を伸ばしている。


「……お、おう。そうか」


 また奇っ怪な現象を目の当たりにした俺は、引き気味にそう呟いた。




「つか、どうすっかねぇ」


 頬杖をつきながら男の子になったサタンを眺める。

 褐色で白髪。

 可愛らしい顔はそのままに体つきだけ少年のそれになった、ちょっと小生意気そうな男の子だ。

 ショートパンツから晒した素足がまぶしい。


 というか、これはいわゆるアレだな。

 どこからどうみても、――ショタ、だな。


 まぁこの姿でいることを前提とするなら、うちに泊めてやってもいい。

 だがその場合でも問題は発生する。

 年がら年中飲んでるように思えても、こう見えて俺も社会人だ。

 働いている。

 週に三日ほどだが、確かに働いているのだ。

 だからうちにサタンを泊めた場合、当然俺が仕事に出掛けている間はコイツをひとりにすることになる。

 やはりそれは避けたい。


「うぬぬぬぬ……どうしたもんかねぇ」


 酒が入ってボーッとする頭で頑張って考える。


 ――ピンポーン


 ちょっと考えるのも億劫になってきたところで、お隣さん家の玄関チャイムが鳴った。


「こんにちはぁ、虎太朗先輩こっち来ていますか?」


 顔を出したのは小都だ。

 小都は俺たちの招きに応じ、飲み会部屋へと上がってくる。


「やっぱりこっちにいたんですね、虎太朗先輩」

「おう、小都!」

「やぁ、いらっしゃい!」


 大家さんと2人して挨拶をかわす。


「ちょっとお料理作りすぎちゃったんで、持ってきたんですけど……」


 言葉の途中で小都が固まった。

 手に持ったタッパーを取り落とすも、ルゼルがシュパッと動いてキャッチする。


「お、おう、小都? つかどうした?」

「あ、あう、あうう……」


 小都の様子がおかしい。

 部屋に入ってきたと思ったら、ある一点を凝視して固まってしまったのだ。

 その足元ではタッパーのふたを開けたルゼルが、煮物をひとつ取り出してパクッと摘まんでいる。


「あううう、ああうう……」

「な、なんだこの女は? ぼ、僕の顔に何かついているのか?」


 真っ直ぐなその視線を受けて、サタンがキョドりだした。


「こ、ここ、虎太朗先輩?」

「お、おう。なんだ?」

「こ、ここ、この子は一体?」


 小都が見つめるその先には、小生意気なショーパン姿のショタ悪魔がいた。


「おう! そいつはサタンちゃんだ!」

「サ、サタンちゃん!? かかかか、かわいいいいいいいいいいいッ!!」


 小都が壊れた。

 俺と大家さんが見守る目の前で、猛然とサタンちゃんに飛びつき、頬ずりを始める。


「うわッ! なんだ、おい! やめろ人間!」

「かかかか、かわ、かわかわッ、かわいいいいいいい!!」


 取り乱したその姿に俺はどん引きだ。

 けれども大家さんは、うんうんと頷きながらしたり顔である。


「つ、つか、大家さん。小都のヤツどうしたんだ?」

「虎太朗くん。妙齢の女性はね、みんな可愛い男の子が大好きなんだよ」

「お、おう……」


 よく分からんが、取りあえず頷いておく。

 そしてピコンと閃いた。


「あ、そうだ! おう、小都!」

「かわッ、かわいいいいいい! かわいいいいッ!」

「離せ! やめろ! くっつくな人間!」

「つか無視すんな! おい、小都!」


 無理やり小都をサタンから引き離す。

 すると不満げに小都が俺の顔を見上げてきた。

 その抗議の視線を意識的にスルーして尋ねる。


「なぁ、小都。在宅ワークでいまひとり暮らししてんだよな?」

「そうですよ。って邪魔しないでください、虎太朗先輩!」

「つかお前、そんなキャラだったか?」

「……ッ、そ、それは!」


 小都が俺からスッと目を逸らす。

 沈黙が舞い降りた。

 ルゼルが煮物をもぐもぐする音だけが響くその部屋で、大家さんがポツリと呟く。


「…………隠れオタクだったんだね?」


 小都の顔がカアッと赤く染まった。

 耳まで真っ赤だ。


「ほ、放っておいてください! いいじゃないですか、少しくらい趣味を隠したって!」

「いやいや、大いに結構なことじゃないか! 隠れオタクは最早属性だよ、属性!」


 大家さんと小都が何やら訳の分からない話で盛り上がっている。

 取りあえずそれは置いといて、俺は閃いたことを尋ねてみた。


「なあ、小都。ちょっとの間、小都ん家でサタンちゃんの面倒みてやってくんねぇか?」


 こうしてサタンちゃんは、ホクホク顔の小都に引き取られていった。




更新遅くなってすみません。

書籍のほうを頑張ってモリモリ書いていました。

でもそっちの作業も多分すこし落ち着いたので、また元のペースで更新できたらなぁと思います。


と言っても、もともと週一更新くらいでした……

遅筆ですが今後ともよろしくお願いします。

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