55 お隣さんと新たまねぎ
ここはお隣さん家のリビング。
そこにできた妖精郷。
俺は桂花陳酒の瓶を片手に、妖精たちの住まう聖樹のふもとへと足を運ぶ。
「おう! 酒もってきたぞー!」
妖精たちが蝶の羽をパタパタと羽ばたかせて近づいてくる。
相変わらず人形みたいにちんまいヤツらだ。
近づいてきた一団のなかから、一際立派な羽をもつひとりの妖精さんが歩み出てきた。
「よく来ましたね、ヒト族のあなた」
近衛の妖精たちを引き連れ悠然と歩むその人物――妖精郷デ=オードランドに燦然と輝く生ける宝石、明けの光、妖精姫アロマだ。
アロマの両脇にはいつものように妖精族十英傑に名を連ねるふたりの妖精、樹術剣士オードリュクスと旋風のハピネスが控えている。
「おう、アロマ。約束の酒、今日の分を持ってきてやったぞ」
「――貴様ッ、またしてもアロマ様を呼び捨てにッ! まったくなんど言えば貴様は理解できるのだ!」
「良いのですよ、オードリュクス」
「しっ、しかしアロマ様、ヒト族ごときがアロマ様のご尊名を呼び捨てるなど……」
「納得がいきませんか? ならこうお考えなさい。耳元をうるさく飛び回る蚊とんぼやハエに、わたくしの尊さが理解できると思いますか?」
「……そうは思いませんが、それとこれとは――」
「同じことなのですよ。オードリュクス」
いきり立つオードリュクスをアロマが諫める。
それでもまだオードリュクスは納得がいかぬという表情だ。
けれども主たるアロマの言葉に従って、オードリュクスは渋々と引き下がった。
(しかしまぁ、相変わらず酷ぇ言いぐさだぜ)
今回は蚊とんぼにハエ扱いだ。
それでもなんというか不思議とまったく腹は立ってこない。
なんでだろう。
もしかすると、アロマがあまりにも自然体かつ嫌みのない態度で見下してきやがるからかもしれんな。
ちっこいし。
「おう、つかそろそろいいか?」
「ええ、お待たせしましたね、ヒト族のあなた」
「別にそんな待ってもねーから構わねえんだが……それより、ほら、約束の酒だ」
手に持った桂花陳酒を差し出した。
「ふふふ、約束を違えぬその有り様。所詮はヒト族といえども、あなたには僅かばかりの見所があります。褒めて差し上げましょう」
「へーへー、左様でございますか、お姫様」
「ッ、貴様! またそのような態度で――」
「良いのですよ、オードリュクス」
再び歩み出ようとするオードリュクスをアロマが押しとどめた。
「それよりも……ハピネス」
「はいッ!」
名を呼ばれたハピネスが元気にビシッと敬礼をする。
「そこなヒト族からその手の献上物を受け取りなさい。そして対価に『聖樹の葉』を」
「りょーかい、しましたー!」
ハピネスがぴょんと浮かび上がって聖樹の葉っぱを一枚むしる。
ハピネスはそのままパタパタとこちらに向かって飛んできて、俺の肩へと腰を下ろした。
「はい、ヒト族のお兄さん」
葉っぱを差し出してくる。
俺は「おう」と応えて交換に酒を差し出す。
ハピネスはめっちゃ重そうにして瓶を受け取る。
「まいど……つかこの『聖樹の葉』ってアレだったか?」
「ん、しょっと。なぁに?」
「たしか煎じて飲めば、どんな怪我も病気も治るっつー話だったっけか?」
「ええ、そうよ。ヒト族のお兄さん」
すげぇもんだなぁ。
受け取ったその葉っぱを手元で玩びながら繁々と眺める。
見た目は普通の葉っぱだ。
つか、そんな大したもんには見えねーんだが世の中は不思議なもんだ。
「おう! ともかく、あんがとよ!」
そういって俺は聖樹の葉をポケットに突っ込んだ。
――カンッ、――キンッ
遠くで剣戟の音が鳴り響く。
「ヒヒィーーン!」
「ブルルフゥー!」
二頭の馬がいななき合う声もする。
目の前の、少し離れたその先で激しくぶつかり合う二頭の馬たち。
「キタ、キタ、キタ、キターーーー!!」
さっきリビングの妖精郷にやってきたばかりの大家さんは大はしゃぎだ。
二騎の騎馬の影。
片方は額から立派な一本角を生やした穢れなき純白のシルエット、一角獣のユニだ。
騎乗するは小さな女騎士シャルル。
相対するは首のない影のように真っ黒な馬。
その馬からは、首もないのにいななく声だけははっきりと響いてくる。
その不可思議な馬に騎乗するのは、小脇に自身の首を抱え込み、闇色の鎧をまとった幽鬼のような騎士――首なし騎士のデュラハンだ。
「はッ! てえい!」
「シャルルちゃーん! そこでッ、大・地・斬ーーッ!」
シャルルとデュラハンは馬上で並びあい、激しく剣を打ち合わせる。
「とッ! はぁッ!」
「いっけーーッ! シャルルちゃーーん! 海・波・斬ーーッ!」
このデュラハンはついさっきリビングの召還陣からやってきた怪物。
そして今回の怪物退治はたまたまそこに居合わせたシャルルの番、というわけである。
「やッ! はッ! てぃやー!」
「うひょーッ! 私がついてるぞーーッ! 空・烈・斬んんッ!」
シャルルとデュラハンは卓越した剣技を互いにぶつけ合っている。
このデュラハン、なかなかの難敵のようだ。
あと、大家さんがさっきから耳元で騒いでうるさいことこの上ない。
「んく、んく、んく……ぷはぁ!」
「ふふふ、良い飲みっぷりですねヒト族のあなた。褒めて差し上げましょう」
「おう、あんがとよ! それよりほらアロマ、ご返杯だ。グラスだせ!」
アロマがすまし顔で差し出す小さな盃を、桂花陳酒で満たす。
飲兵衛の妖精姫はコクコクと喉をならして桂花陳酒を飲み干し、ぷはぁと熱い息を吐いた。
「うはははは! つかアンタこそいい飲みっぷりじゃねぇか、アロマ!」
「そうでしょうか? それよりもヒト族のあなた、わたくしのグラスがもう空になっているのが見えませんか?」
「おう、もう一杯つーこったな?」
「ええ、注がせて差し上げます。光栄に思うのですよ?」
もう一杯酒を注いでやる。
トクトクと盃を満たすと。あたりに金木犀の甘い香りが漂いはじめた。
しかしまぁよく飲む姫さんだ。
こんな人形みたいに小さな体のどこに酒が消えていくんだか。
つか今度は杏露酒でも飲ませてやるのもいいかもしんねぇな。
ちなみにアロマは桂花陳酒だが、俺は日本酒を楽しんでいる。
――キンッ、――コン、カンッ
目の前ではなおも白熱した戦いが繰り広げられていた。
妖精族の剣士オードリュクスの見立てでは、デュラハンは相当な手練れらしい。
シャルルもなかなかに手こずっている様子だ。
オードリュクスは戦いをじっと眺めながら「むう……」とは「ほう!」とか言って唸っている。
「おう、シャルル! 大丈夫か? 黒王号にも手伝ってもらうかー?」
ちょっと心配になって声をかけた。
「もちろん、わたしも手伝うよッ!」
「つか、大家さんはいいから座ってろ」
隣では大家さんとその愛馬、二角獣の黒王号がソワソワと心配げにユニとシャルルを見守っている。
つか、黒王号はよくユニにケツを角で突かれていびられてるっつーのに、それでも心配そうにユニを見守るあたり、すげぇ健気な馬なのかもしれん。
まるで恋する乙女みたいな馬だ。
「だ、大丈夫なのです!」
「つか、無理はすんなよー?」
「わ、わかっているのです! ひとりでなんとかなるのですよー!」
うーん、本当かねぇ。
桂花陳酒をチビチビとやりながらシャルルの戦いを見守る。
「あ、そうだ。 おう、アロマ! こんな肴用意したんだが食うか?」
「ふふ、まだ献上物があるのですね。見上げたヒト族です。いいでしょう。お出しなさい」
「へえへえ」
俺は持参したタッパーから肴を皿に小分けにする。
「で、それは何という食べ物なのですか?」
「おう! こいつはなぁ……『新たまねぎの甘酢漬け』だ!」
新たまねぎの甘酢漬け。
これはこの春から初夏にかけて旬の食材、新たまねぎを、甘酢でキュッと漬け込んだ肴だ。
こいつはややこしい調理の手順は一切なし。
旬の新たまねぎの甘みと酢のすっぱさだけで十分旨い。
そんなこの時期限定の、ある意味贅沢な肴だ。
「ほらよ、アンタのぶんだ。さ、食ってみろ!」
小さな小さな小皿に取り分ける。
「ふふふ、よい心がけです。……では早速」
アロマがパクリと甘酢漬けを頬張った。
「――ん゛はッ!?」
と思ったら吐き出した。
妖精族の姫ともあろうもんが、なんつーお行儀の悪い。
「こ、これはッ!? す、すっぱいィィーーッ!!」
「おう! うんめーだろ!」
「ッ、かはっ! そ、そんなわけがある筈ないでしょう!」
なんでだかアロマが涙目になっている。
「うぇぇ、すっぱいー! すっぱいー……」
そのままアロマは泣きべそを掻きながら、どこかへ飛んでいってしまった。
「お、おう……アロマ?」
アロマの飛び去った方角に中途半端に手を伸ばす。
「つか、なんか悪りぃことしたな……」
すっぱいのダメだったのか。
覚えておこう。
「んじゃ、今度は自分でっと」
気を取り直して甘酢漬けを頬張る。
途端に口腔に広がる酸味。
されど確かに感じる絶妙な甘み。
「んー、うまいッ!」
シャキシャキとした食感がたまらん。
噛んでるだけでなんか楽しい。
次から次へと食べたくなる。
いわゆるアレだ。
やめられないとまらない、だ。
「んく、んく、んく、ぷはーッ!」
確かな満足感とともに、俺は口腔に残った酸っぱさを日本酒で洗い流した。
騎士たちの戦いはまだ続いている。
「――はッ!」
シャルルが巧みに一角獣を操り、デュラハンに刺突を繰り出した。
しかしデュラハンは身を捻ってこの突きを躱すと、大上段からシャルルの脳天めがけて、その手にもった両刃の大剣を振り下ろす。
「――ふッ!」
しかしながらシャルルも然るもの。
突き出した剣を引き戻すことはせず、一角獣ごとデュラハンに体当たりを仕掛ける。
「――――ッ!?」
デュラハンが体勢を崩した。
「ッ、いま! チャンスなのです!」
シャルルが猛然とした勢いでデュラハンへと攻撃を仕掛ける。
素早く振りかぶってからの袈裟斬り、大上段からの兜割、たたらを踏み無理な体勢から反撃を繰り出すデュラハンの剣を躱しながらの逆袈裟斬り――
デュラハンはもう防戦一方だ。
「ていッ、てやッ、たあーッ!」
「いっけー! いけいけー、シャルルちゃああんッ!」
「お、おおう。つええなシャルルは、……つかあんなに強かったっけ、シャルルのヤツ」
あまりの迫力にちょっとたじろぐ。
なんかシャルルって前まではもっとこう、色んな敵に圧倒されて苦戦しがちだったような。
あと大家さんがうるさい。
「……シャルルはいままさに、急速に成長している最中だからな」
背後から声がかけられた。
「おう、マリベルじゃねーか」
その声に振り返れば、いつのまにかマリベルがそばまで近づいてきていた。
見ればマリベルはその手に日本酒の一升瓶とグラスを抱えている。
まったく剣より酒瓶の似合う女騎士である。
マリベルはそのまま俺の隣、聖樹のふもとへと腰を下ろした。
「っとっと……んく、んく、ぷはー」
「おう、いいの飲んでんじゃねーか」
「うむ、『八海山』だ。うまいな、この酒は」
女騎士が手酌で一杯やり始める。
「やあああッ!!」
「アバーーーン――」
シャルルがデュラハンの剣を刎ねあげた。
返す刀で首なし騎士に斬りかかる。
「てやああッ!!」
「――ストラーーーーッシュ!!」
シャルルの大技が決まった。
あと大家さんが耳元でうるさい。
「…………ああ、私も戦いたいなぁ」
「シャルルはもともと最初からな、才能だけを語るのならば群をぬいていたからな」
「……そうなのか?」
「ああ、んく、んく、ぷはぁ! いまはまだ、体と技術がついてきていないが、ぷはぁ! そのセンス――天性の剣の冴えは……正直なところ、私以上だろう」
「…………ちょっと私いってくるよ」
マリベル以上って、そりゃ大概だな。
大家さんがなんか言ってるけどどうせ大したことじゃねーだろ。
スルーだ。
隣で黒王号が「ぶひひん」といななく。
「ともかくシャルルは体さえ出来上がれば、どんな相手にもそうそう遅れはとらなくなるだろうな」
「はぁー、そりゃ頼もしいもんだなぁ。つかガチムキのシャルルかぁ……」
筋肉ゴリラみたいになったシャルルを想像して、俺は戦慄した。
「ほら、それよりも、もうそろそろ決着だぞ」
マリベルの言葉に促され、視線をシャルルに向ける。
するとちょうど、後ろ脚で大きく立ち上がった一角獣に跨がったシャルルが、大きく振りかぶったその剣をデュラハンに振り下ろすところだった。
「……ふふふ、シャルルも成長したものだ。私もこうして見守りながらも、安心して酒を煽れるというものだ」
マリベルがグラスを傾けて「んくんく……」と日本酒を煽った。
シャルルの剣が振り下ろされる。
「ッ、てやぁあーーーーッ!!」
剣はデュラハンの肩口に吸い込まれる。
激しい斬撃の音を立てて剣が叩き込まれ――
――――ガッ
根元からポキンとたたき折れた。
「――――ブファッ!?」
マリベルが日本酒を吹き出す。
「おおおお、おう! マ、マリベル! シャルルの剣、たたた、たたき折れたぞ!?」
「――ゴホッ、ゲハッ!!」
「あああ、あれ大丈夫なんだよなマリベル! つか、剣なしでもいけるのか!?」
見ればシャルルは折れた剣を見つめて、真っ青な顔をしている。
あわわと慌てる様子が、遠く離れた俺たちの元までダイレクトに伝わってくる。
「や、ややややや、やばいのです! つ、つつつつるぎ、つるぎが――」
デュラハンの小脇に抱えられた頭部がニヤリと笑った。
「コッ、コタロー! はわわ、どうしよう! どうすれば――」
酒を吹き出したマリベルも、立ち上がってあわあわ慌て出す。
その様子には余裕など微塵もない。
デュラハンが体勢を立て直し、シャルルに向き合う。
やばい。
これはまじでヤバイ。
マリベルが慌てる。
――――デュラハンが迫る。
――――シャルルが青ざめる。
――――絶対絶命……
そのときデュラハンの背後に、黒く大きな影が覆い被さった。
「あ、あれはッ!?」
俺は思わず叫んだ。
「ギガッ、ブレェェイクーーーッ!」
「ブルゥ! ヒヒヒイイイーーーン!」
黒い影がデュラハンへと猛烈な体当たりを仕掛けた。
いままさにシャルルに襲いかからんとしていたデュラハンも、これにはたまらず大きく吹き飛ばされる。
その黒い影――それはいつの間にか、シャルルたちを助けに駆けだしていた大家さんと黒王号だ。
「デュラハンめッ! この私が相手だ! シャルルちゃんはやらせやしないッ!」
ハゲた中年オヤジが叫ぶ。
わずかに頭部に残った髪が風にたなびく。
大家さんを背に乗せた黒王号が、シャルルとユニをその大きな背に庇った。
「は、はぁッ!? つか、な、なにやってんだ、アンター!?」
俺は仰天した。
シャルルの目と鼻の先で、デュラハンと大家さんが揉みくちゃになりながら争っている。
つか実際に戦っているのは黒王号なわけだが、大家さんは振り落とされまいと必死だ。
「――あッ!?」
黒王号が大家さんごとデュラハンに吹き飛ばされた。
――っと、そうだ!
俺は思いついた。
「ッ、おう、マリベルッ! お前の腰に提げている剣をッ、その剣を、シャルルに貸してやれ!」
「――ハッ!? そうかッ!」
マリベルが鞘から剣を抜き放ち、放り投げる。
「受け取れシャルルーーッ!!」
剣はグルグルと回転しながらシャルルに向けて猛スピードで一直線に飛んでいく。
シャルルは飛んでくる剣を馬上で器用に掴み取る。
「こ、これは! お姉ちゃんの聖剣『デュランダル』!? ――これならッ」
大家さんと黒王号が派手にぶっ飛ぶ。
シャルルはデュラハンに顔を向け、キッと見据える。
「うおおおおおッ、なのですッ!」
シャルルがユニの背を踏み台にして大きく飛び上がった。
「てえええええいやああああッ!!」
落下の勢いそのまま、渾身の力を込めて聖剣デュランダルを叩きつける。
「――――――――――ッッッ!?!?」
声にならない声が爆発する。
デュラハンの闇色の体が真っ二つに引き裂かれたのだ。
「…………ふぅ、あぶなかったのです」
リビングに着地をしたシャルルは、呟きながら聖剣デュランダルをシレッと自分の剣の鞘にしまった。
聖樹のふもと、俺たちは新たまねぎを肴に改めて一杯やっていた。
肴は『オニオンスライス』と『新たまねぎのレンジ蒸し』だ。
オニオンスライスにはポン酢を回しかけて、たっぷりの鰹節を振りかけてある。
シャキシャキとした食感がたまらない。
ホクホクに蒸し上がった新たまねぎのレンジ蒸しも、調味料をなにもつけずに食べてもほんのりと甘い。
というかぶっちゃけ、この時期の新たまねぎはどうやって食っても旨い。
「んく、んく、んく、ぷはぁ! つか、一時はどうなることかと思ったぜ!」
「ほんとなのですよー! お姉ちゃんがこの剣をくれなかったら、どうなっていたことかー」
「……い、いや、シャルル? やらんぞ? か、貸しただけだからな」
「みんな! 私の活躍も忘れないでおくれよッ?」
デュラハンと戦った大家さんはすげぇ上機嫌だ。
めっちゃ楽しそうにビールを煽っている。
「はいなのです! ありがとうなのです、大家さん!」
「んく、んく、ぷはー! どういたしまして、シャルルちゃん!」
「……とはいえ大家殿。さすがに毎回あれでは、いつか本当に死んでしまうぞ?」
「大丈夫だよ、マリベル殿。じゃ、じゃーん!」
大家さんはポケットから何かを取り出した。
聖樹の葉だ。
「これさえあれば怪我してもすぐに元気いっぱい!」
「まぁそうなんだが、……つか即死しないように注意すんだぜ?」
死んだらさすがに生き返れんだろうしな。
ため息を吐きながら、俺も大家さんに倣ってビールを煽る。
「んく、んく、んく、ぷはーッ!」
ひと騒動あったあとのビールはやっぱりうまい。
喉を通って胃に落ちる感覚。
五臓六腑に染み渡る旨さだ。
まさに格別だ。
っとそういえば――
「おう、今回は黒王号も大活躍だったな!」
「そうなのです! 助かりました。ありがとうなのです、黒王号!」
黒王号を振り返る。
その黒い巨馬は、俺たちから少し離れた位置に立っている。
その隣には聖樹の樹に体をもたれかけるようにして体を休めているユニがいた。
ユニは相変わらずその額の一本角で、黒王号のケツを突き回して遊んでいる。
「ブルヒンッ!?」
黒王号は突かれて今日も涙目だ。
「おう、ユニ! 今日くらいは黒王号に優しくしてやったらどうだ?」
「ブルルッフ!」
ユニがツーンとそっぽを向く。
まったくしょうがねぇやつだ。
「ほんともう、ユニー! ちゃんとあとで、黒王号にお礼を言っておくのですよー」
俺たちは再び二頭に背を向けて酒盛りの続きを始める。
黒王号は「ブルフーン……」と声を漏らしてしょげ返った――そのとき。
「ブルフン……チュッ」
「――!? ブルッフ!? ヒッ、ヒヒヒーーーンッ!」
ユニがチュッと黒王号のほっぺたに口づけて、またすぐにソッポを向いた。
第六回ネット小説大賞、受賞いたしました!
双葉社さまから書籍化されます。
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