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40 お隣さんと海鮮アヒージョ

 ――ピンポーン


 天気の良い休日のお昼前。

 俺ん家の呼び鈴が鳴った。


「はい、はーい。どちらさんですかね」


 俺は料理をする手を一旦止めて玄関に向かう。

 ドアを開けるとそこには、手に荷物をぶら下げた大家さんがいた。


「おう、大家さんじゃねーか。ちわっす!」

「うん、虎太朗くん、こんにちは」

「今日はどうしたんすか?」

「いやね、今日は家内も出かけてるし杏子(あんず)もアルバイトに行ってしまって、私一人で家にいても退屈だから、虎太朗くんとお酒でも楽しめないかと思ってね」


 そう言って大家さんは荷物を掲げる。

 どうやら飲みのお誘いのようだ。

 そういう事なら俺に否やは無い。

 俺は大家さんの持ってきたその荷物を覗き込む。


「お、『水曜日のネコ』じゃないっすか」

「うん、このビール、結構好きなんだよ、私」

「へー、つか俺もこれ、たまにコンビニで買って飲むんすよ」


 大家さんが土産にもってきた酒は『水曜日のネコ』というビールだった。

 缶に描かれているシュールな猫の絵が可愛らしい。


「確かこれ、ホワイトエールでしたっけ?」

「うん、そうだね。コクは控え目だけど、フルーティーでスッキリと飲めるビールだよ。休みの日に昼から飲むには丁度良いビールだと思わないかい?」


 なるほど確かにそうだな。

 さすがビール党の大家さんだ。

 ビール選びには一家言(いっかげん)あるらしい。


「おう! じゃあ、お隣さん誘ってみんなでどうすか?」

「うん、そうしよう! ……というか実はね、最初からそのつもりだったんだ」


 そう言いながら大家さんがニカッとした笑顔を見せた。

 今日も楽しい飲み会になりそうだ。

 よし!

 大家さんが酒を買って来たのなら、俺は肴を提供しよう。


「丁度いま肴を、作ってたトコなんすよ。出来たら持って行くから、大家さんは先にお隣さん家で始めててくれ!」


 俺はそう言って大家さんを玄関から送り出し、肴を仕上げる為にキッチンへと戻った。




「おう、邪魔すんぞー!」


 俺はそう声を掛けてお隣さん家のコタツ部屋にお邪魔する。

 コタツ部屋には大家さんの他に、お隣さん家の面々が勢揃いしていた。


「虎太朗くん、早かったねー」

「よく来たコタロー! 待っていたぞ!」


 俺はみんなと「よう」と挨拶を交わしてから、炬燵に座った。


「つか、昼前だっつーのに、ハイジアが起きてるなんて珍しいじゃねーか」

「……シャルルに叩き起こされたのじゃ」

「えっとですね、ハイジアさんに、戦いの訓練に付き合って頂いていたのです!」


 ハイジアが眠そうに「ふあぁ」と欠伸をする隣で、シャルルは上機嫌だ。


「今日はハイジアさんに、死属性の魔法を教えて貰ったのですよー」

「おう、そうか! 良かったな、シャルル!」


 俺は応えながら、シャルルの頭をヨシヨシと撫でる。

 聖騎士の妹がそれでいいのか、と思わないでもないが、まぁ細かい事は別に構わんだろう。


「ほーんと、ちびっ子達は元気よねぇ」

「フレア貴様、妾をちびっ子扱いするでないわ!」

「まぁまぁ。つか早速だが、ビールに合う肴を作ってきたぞー!」


 お隣さん達が仲良くじゃれ合うのを余所目に見ながらデッカい鍋を持ち上げ、用意しておいた携帯コンロの上にドンと置く。


「今日の肴は『海鮮アヒージョ』だ!」

「ほう、これは美味しそうだね、コタローくん!」

「…………ん、待ってた」


 そう言って悪魔王ルゼルが俺に体を密着させ、寄り添ってきた。

 ルゼルの頭の角が、俺の頰に突き刺さる。


「あー!? また今日もルゼルさんが、コタローさんに卑猥な事をしようとしているのです!」

「なんじゃと!? 懲りぬ蝿女め!」


 ルゼルが指で俺の太腿に『の』字を書いた。

 俺はいきなりのボディタッチにアワアワする。


「お、おう、ルゼル。つか近いから!」

「…………嫌?」

「い、嫌っつーか、なんつーか……」

「…………料理も、コタローの魂も、どっちもいい匂いする」

「あらあら。今日もモテモテじゃない、お兄さん」


 フレアがニヤニヤと笑いながら揶揄(からか)ってきた。

 つか、他人事だと思いやがって……


「ア、アイタッ!? つか、いま誰か俺の脚を抓っただろ! イタタタタ」

「知らぬわ、その様な事は!」


 マリベルがツーンとそっぽを向いた。




 コタツテーブルのコンロに置いたアヒージョの鍋がクツクツと沸き立つ。


「では、頂くとしよう!」

「うむ、頂くのじゃ!」

「おう、ジャンジャン食ってくれ!」


 お隣さん達が海鮮アヒージョに手を伸ばす。

 海老とホタテとイカにアサリを具材にした、豪勢なアヒージョだ。

 他にもエリンギなんかも入れてある。


「あら、美味しいわね、これ!」

「………………美味しい」

「うん、これはいいね! スパイシーな味付けがビールによく合うよ!」


 このアヒージョは海鮮の旨味たっぷりだ。

 ガーリックもスライスして入れてある。

 食感だってプリッと弾ける海老に、弾力のあるイカやアサリ、ホタテやエリンギにしても独特な食感が楽しめる具材だ。


 お隣さん達はやいのやいのと賑わいながらアヒージョを摘む。


 俺はみんなのそんな様子を眺めながら、『水曜日のネコ』を開けた。

 缶が開く際の「カコン!」という小気味の良い音が響き渡る。


「んく、んく、んく、ぷはぁー!」


 フルーティーでスッキリとした飲み口が心地良い。

 オレンジの果皮を甘く煮詰めて乾燥させたオレンジピールが配合されている為か、ホップの苦味の他に爽やかな甘酸っぱさも感じられた。


「つか、ハイジア! そこにスライスしてあるバゲットをアヒージョのスープに浸して食ってみろ」

「バゲットとは、これのことかえ?」

「おう、それだ。このアヒージョは、海鮮の出汁がタップリとオリーブオイルに染み出してっから、うんまいぞー?」


 ハイジアは言われた通りにしてバゲットを頬張る。

 プリッとした食感の海老も一緒にだ。

 ハイジアはモグモグと可愛らしく口を動かし、ゴクンと喉を鳴らしてバゲットを飲み込んだ。


「おう、どうだ、ハイジア?」

「ま、まあまあじゃの。こ、この程度の美味、夜魔の森の我が居城でも、毎日の様に食しておったわ!」


 そう言って女吸血鬼は口角をピクピクと震わせる。


「ったく、アンタも素直じゃないねぇ」


 俺は軽く笑いながら、ハイジアに缶ビールを手渡した。


「あ、そうそう。なあ、大家さん」

「うん? どうしたんだい、虎太朗くん?」

「いや、あそこで固まってるマリベルとシャルルに、アヒージョの感想を聞いてやってくれねーか?」

「なんだ、そんな事かい。お安い御用だよ!」


 大家さんがアヒージョを食ってフリーズする二人の女騎士に声をかける。


「ねえ、マリベル殿。シャルルちゃん。アヒージョの方はど――」


 女騎士二人が大家さんに向かってクワッと目を見開く。

 俺は大家さんを生贄に捧げて、女騎士達のアレを回避した。




「ありゃりゃ? つか、もうアヒージョが無くなっちまったな?」

「うむ、あまりもの旨さに、私も少々食べ過ぎてしまったかも知れぬ……」

「ごめんなさい。わたしもなのです」


 目を見開き「うまー!」と声を張り上げながら、バカスカとアヒージョを貪り食っていたマリベルとシャルルが、申し訳無さそうな顔をする。


「なぁに、気にする様なこっちゃねーよ!」


 俺は鷹揚に手を振って二人を(なだ)める。

 しかし、酒の肴が無くなってしまったな。

 どうしたもんか。


「ふむん、まだスープは残ってんな。なら具材を追加して煮込めばいいか……なぁ、みんな? アヒージョまだ食い足りないか?」


 俺の問い掛けにお隣さん達が口々に返答する。


「…………ん、もっと欲しい」

「妾もじゃ!」

「あ、作り足すの? ならあたしも頂こうかしら」

「でも虎太朗くん、具材は残ってるのかい?」


 大家さんがそう俺に確認してきた。


「つか、具材は近所のスーパーにひとっ走りして買って来るっすわ」

「あら、手間をかけちゃうわね」

「なに、いいって事よ。じゃあアンタらはビールでも飲みながら、ちっとばかし待っててくれ」


 そう言って俺は買い出しの為に炬燵から這い出る。

 すると立ち上がった俺の服の裾をマリベルが掴んだ。


「待てコタロー。私も行こう」

「ん? 酒飲みながら待っててもいいんだぜ?」

「いや、元を辿れば私が食べ過ぎた所為でもある。買い物は不慣れだが、なに、荷物持ちくらいは私でも出来よう」

「おう、そうか。なら一緒に買い出し行くか!」

「あ、だったら私も行くのです!」


 俺はマリベルとシャルルを引き連れて近所のスーパーへと買い出しに出掛けた。




 近所のスーパー『サンキューOASIS』にやって来た。


 このスーパーは普通のスーパーなんだが、まれに珍しい輸入食材なんかが置いてある事もあって、商品を見て回るだけでも結構面白かったりする。


 スーパーに着いた途端、マリベルとシャルルは目を輝かせて飛び出していった。

 なんというか微笑ましい奴らだ。


 俺はそんな二人の姿を視界の端に収めながら、ひとり食材の選定を始めた。

 そして俺は陳列棚から一つの商品を手に取り、繁々と眺める。


「コタローさん、どうしたのですか?」


 マリベルと二人して、スーパーの中を物珍しげに見て回っていたシャルルが、声をかけて来た。


「おう、つかちょっと面白い肴を見つけてな」

「ほう、どんな肴なのだ?」


 肩越しにマリベルが俺の手元を覗き込んで来る。

 俺は手に持った商品をマリベルの目線まで持ち上げた。


「これは『オイルサーディン』っつー肴だ」

「へー、珍しいものなのですか?」

「いや、オイルサーディン自体は珍しいもんでもないんだが、こいつはな、『燻製』オイルサーディンなんだよ」


 燻製とオイル漬けってのは元々相性がいい。


 特に有名なのは牡蠣の燻製オイル漬けなんかだろうが、割とどんなもんでも燻製してオイルに漬け込めば旨くなったりする。

 それはオイルサーディンの元となるイワシ然りだ。


 特にこの燻製オイルサーディンは俺も以前食べた事があるが、リピートしても良いと思えるくらいに旨かった記憶がある。


「うし、こいつとキャベツでも買って帰って、アヒージョにするとすっか!」

「はい! よく分からないので、コタローさんにお任せなのです!」

「そうだな。コタローの料理の腕は信用している」


 俺は蒼銀の鎧を纏った二人の金髪女騎士を引き連れて、スーパーの野菜コーナーへと足を向けようとする。


 しかしその俺の背に、何者かの声が投げ掛けられた。


「虎太朗先輩?」

「……ん?」


 俺はその声に反応して振り返る。

 するとそこには、俺のよく見知った女性が立っていた。


「あ、やっぱり虎太朗先輩。……お久しぶりです」

「お、おう。なんつーか、ひ、久しぶりだな」


 それきり俺と女性の会話は途絶える。

 俺は何かを話しかけて会話を続けようと試みるが、微妙な距離感が俺にそうさせない。


「……ふふ、何だか虎太朗先輩、困っちゃってるみたい」


 女性が見慣れた笑顔で微笑む。

 少し儚げな感じもするが、優しい笑顔だ。


 俺が野菜コーナーに体を向けて、顔だけを女性に振り返った姿勢で固まっていると、マリベルが会話に割って入ってきた。


「コタロー、こちらのご婦人は?」


 フリーズした体を再起動させる。


「お、おう、こいつの名前は小都(こと)

「あ、はい。ご紹介に預かりました、小都です」


 小都が両手を揃えてペコリと頭を下げる。


「うむ、私はマリベルだ」

「わたしはその妹のシャルルなのです!」


 マリベルとシャルルが小都に挨拶を返した。


「で、コタロー」

「お、おう……」

「お前とコト殿は、どの様な関係なのだ?」


 俺は何となくマリベルから視線を逸らす。

 つかやましい事は何もないんだが。


「……なんつーか、まあ、あれだ。俺の、な? 元交際相手、って奴だ」


 俺はそう言って、優しげに微笑む女性を女騎士に紹介した。




また女性キャラを増やしてしまいました……


これで男性キャラが、


『虎太朗、大家さん、ニコ、ファブリス』


の4人に対して、女性キャラが、


『マリベル、ハイジア、杏子、フレア、シャルル、シャロン、コマたん、キュキュット、骨、小都』


の11人になっちゃったよー

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