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12 お隣さんと燻製ベーコン

「今日の酒はハイボールにすっかなー」


 ハイボールとなるとウィスキーはI.W.ハーパー。

 これは譲れない俺のこだわりだ。


「ハーパー、ハーパーっと。……あれ?」


 酒棚を物色したがハーパーが見当たらない。

 どうやらハーパーは品切れみたいだ。


「あちゃー。ハーパー切らしちゃってんのか。他のウィスキーつーと……」


 棚にはブラントンとバランタインがある。


「ブラントンはやっぱロックかストレートだよな。バランタインならハイボールでも結構いけるが……」


 俺はもう既に、今日はハイボールという気分になっている。

 俺は思案する。


「ふむ……」


 ハイボールならI.W.ハーパー。

 確かにこれは譲れない俺のこだわりだ。


 だが俺は虎太朗、いわば虎。


 譲れないこだわりすら強固な意思の力で譲る、(マコト)の漢だ。


「……よし! 今日はバランタインでハイボールだな!」


 俺はバランタインの酒瓶を棚から掴み取った。




「ちーっす! 上がるぞー」


 俺はお隣さん家に声をかける。

 勝手に玄関に上がりコタツ部屋に顔を出した。


「よう、マリベル」

「コタローか。おはよう」


 俺は朝の挨拶をしてから炬燵に座る。


「あー、コタツ、あったけぇなー」

「今朝は一段と冷えるからな」

「だな。で、マリベルは何をしてたんだ?」

「私か、私はアニメを観ていた」

「ほう」

「アンズが置いていったアニメでな、『このズバン!』というアニメなのだが、これが結構、勉強になる」

「いや、勉強にはならんだろ」

「そうでもないぞ? 私は『異世界』というものがよく分かっていなかったが、このアニメで、ようやく『異世界』という概念が何となく理解出来てきた」

「あー、成る程なぁ」


 確かにそういう方面の勉強にはなるか。

 俺は感心した。


「つか、ニコは居ないのか?」

「あの猫なら、外を散歩にでも行っているのだろう」

「そっか。そうそう、ウィスキー持って来たんだが、アンタも飲むか、マリベル」

「頂こう」

「おっけー、飲み方はどうする? 俺はハイボールにするつもりだが」

「お前と同じ飲み方でよい」


 俺はウィスキーをソーダで割ってマリベルに渡す。

 次いで自分の分もハイボールを作った。


「んじゃ、かんぱーい」

「ああ、乾杯」

「んくんく、ぷはぁ! うめー」

「んくんく、くはぁ! うむ、旨い! ハイボールは久しぶりだが、シュワシュワする喉越しが、相変わらず面白いな!」

「おう、肴に燻製ベーコン持ってきたけど、食うか?」

「頂こう!」

「よし、なら少し待っていろ」


 俺は卓上七輪に火を入れる。

 そしてスライスした燻製ベーコンを軽く炙った。


 ――ピンポーン


「あ、誰かきたぞ」

「ふむ、私が出よう。コタローは肴の準備を続けるがよい」


 マリベルがそわそわしながら、玄関へと向かった。


 コタツ部屋に燻製ベーコンの良い香りが漂う。


「あ、いい匂ーい!」

「ほう、燻製かね!」


 コタツ部屋に杏子(アンズ)と大家さんが顔を出した。


「よ、おはよう」

「おはようございますー」

「うん、おはよう、コタローくん」

「いま丁度マリベルと飲み始めた所なんだが、二人も飲むか?」

「はい。頂きます!」

「うん、なら私も、一杯貰おうかな」

「うっす、じゃあ二人ともハイボールでいいな?」

「あ、私、着替えてきますねー」

「おう」


 杏子が女魔法使いのコスプレ衣装に着替えて、コタツ部屋に戻ってきた。


「お待たせしました! 爆炎魔法の使い手テグミン! ただいま参上です!」

「……お、おう」

「ほら、杏子、ハイボール置いておくよ」

「では、改めて乾杯といこうか」

「おう、かんぱーい」

「かんぱーい!」

「うむ、乾杯」

「乾杯ッ!」


 俺たちは乾杯で酒盛りを仕切り直した。


「あ、『このズバン!』観てるんですね!」

「……」

「つか結構面白いな、これ」

「ファンタジーアニメだよね、私は大好物だよ!」

「これ二期もあるんですよー」

「……」

「虎太朗くんは、アニメは観るのかい?」

「いや、俺はあんまり観ないっすね。つっても観る機会がないだけで、嫌いじゃないっすよ」

「……」


 一人だけ会話に混ざらず、ソワソワしている女騎士がいる。

 燻製ベーコンが七輪の上でパチパチと音を立てた。


「おう、マリベル、落ち着け」

「な、なんの話だ?」

「つか、ソワソワしてんの丸わかりだぞ」

「わ、私は、別に、ソワソワなぞしておらん!」

「分かった、分かった。いいから、ほら、皿だせ」


 俺は燻製ベーコンを、マリベルの皿に乗せてやる。

 マリベルは「ゴクリ」と喉を鳴らした。


「べ、別にソワソワなどしておらんが、せっかくだしな!」

「いいから食え」

「うむ、……ッ、ではッ!」


 マリベルは燻製ベーコンをパクッと一口頬張り、ムグムグと咀嚼してから、ゴクンと飲み込んだ。


「おう、大家さんと杏子(アンズ)ちゃんも摘んでくれな」

「はーい! うわぁ、美味しそー!」

「ムグムグ……ンまッ! これは旨い! いい肴だよ虎太朗くん!」

「お、好評っすね。燻製ベーコンはハイボールとも合うから、飲んでみてくれ!」

「はーい! 美味ひぃー、しあわせー!」


 二人の評価は上々だ。

 それも当然だろう。

 燻製ベーコンは旨い。

 もともとベーコンは燻製しているものだが、この燻製ベーコンは燻製香を普通のベーコンより強くつけている。

 まさに酒の肴にぴったりのベーコンなのだ。


「マリベル、どうだ? 旨いか?」

「……」

「ん? マリベル? どうした?」

「……」

「おーい、マリベルー」


 マリベルはフリーズしている。

 目の前で手を振るが反応を返さない。


 俺は少し考えて、マリベルの皿に燻製ベーコンをもう一つ置いた。


 ――ヒョイ、パクッ!!


 目にも留まらぬ速さで箸が動き、燻製ベーコンがマリベルの口に消えた。


「なんだ、気に入らなかったのかと思ったぞ」


 俺はマリベルに話しかけた。

 マリベルはクワッと目を見開いて、俺を見ながら叫んだ。


「なんだこの極上の美味は! 噛み締める私の歯を押し返す確かな肉の弾力! 口いっぱいに広がる溶けた脂の甘み! これだけで腰が砕けてしまいそうな旨さだ! だがこの肴の真髄はそこではない。この肴の真髄は香りにこそある! ベーコンを口に含んだ瞬間から咀嚼し飲み込んだあとまで続く豊潤な木々の香り! ベーコンの旨味と豊潤な香りが互いを高め合い、凡そ真っ当な手段では到達出来ぬほどの味の極みにまで、この燻製ベーコンは到達しているッ!!」


 マリベルは早口で唾を飛ばしながら捲し立てた。


「……お、おう。今日はいつもより長いな」

「お前はいったい私をどうするつもりだッ!?」

「どうもしねーよ」


 俺は「ははは」と笑った。


 マリベルはその後も燻製ベーコンに手を伸ばしては、「んーッ! んーッ!」と床を転げ回りながらに悶絶していた。




 コタツ部屋のドアがガチャッと開く。

 女吸血鬼ハイジアが姿を現した。

 ハイジアは眠そうに目を擦りながら口を開く。


「なんじゃ貴様ら、朝から勢揃いしよってからに」

「いやもう昼過ぎだ。寝過ぎだぞハイジア」

「おはようございます、ハイジアさん!」

「ハイジアちゃん、おはよう!」

「貴様、妾をちゃん付けで呼ぶのはやめよ!」

「まあまあ、いいじゃねーか。おう、ハイジア、気付けの一杯、いっとけ!」


 俺はハイジアに酒を差し出す。


「……コタロー、貴様、これはなんじゃ?」

「何って酒だが?」

「それは分かっておる! このグラスになみなみと注がれた、ストレートのウィスキーはなんじゃといっておる!」

「いいじゃねーか、気付けの一杯、いっとけよ!」

「こんなモン呑んだら、また眠とうなるわ!」

「んなことねーって、キュッといっちまえよ、ハイジアたん!」

「ええい! 貴様も気持ちの悪い呼び方で妾を呼ぶでないわ!」


 俺たちはコタツ部屋でギャーギャーと騒いだ。




「ピィギュギイイィィイーーーッ!!」


 リビングから俺たちの喧しさに負けない叫び声が聞こえてきた。


「きた、きた、きた、きたーーッ!!」


 大家さんが立ち上がる。

 ハゲた赤ら顔を一層赤くしてフンッフンッと鼻息を吹いて興奮している。

 正直ちょっと気持ち悪い。


「きたよ、杏子! さあ、虎太朗くん! リビングで魔物退治観戦といこうじゃないか!」

「お父さん、うるさい!」

「おう、魔物来たのか。んじゃ、酒持って見物にいこうかねぇ」

「魔物か。ハイジア、お前がやるか?」

「面倒じゃのぅ、貴様がやれ、マリベル」

「私も面倒なのだが、……まぁ相手を確認してから決めるとするか」


 俺たちはゾロゾロと連れ立ってリビングへと移動する。

 そしてリビングの扉をガチャッと開けて中に入った。


「―猛き炎の槍よ 飛び燃え盛り 我が敵を穿て―」


 詠唱が聞こえる。


炎投槍(フレイムジャベリン)ッ!!」


 炎の槍が俺たちに向かって飛んで来た。


「はわ、はわわーーッ!」

「ちょ、まっ、ええええええーーッ!?」

「うっひょー! 魔法飛んできたーッ!」


 つか、なんだこれ?!

 洒落になってねーッ!


 ハイジアが一歩前に出る。

 ハイジアは「ふんッ」と軽く腕をふり、迫り来る炎の槍を消し飛ばした。


「お、おう、助かった。サンキューなハイジア」

「この程度、造作もないのじゃ」

「で、で、でも、急に攻撃してくるなんて、あの人なんなのーッ?!」

「うっはぁ! 今のみた? 魔法が飛んで来たよ! うっひょー!」


 マリベルが俺たちを庇うように前に出る。


「お前! いきなり魔法を放つなど、危ないであろう!」


 マリベルが肩を怒らせながら声を上げた。




 魔物の声を聞いて訪れたリビング。


 そこには真っ赤な衣装に身を包んだ、女魔法使いがおり、キリッとした目付きで俺たちを睨みつけていた。




燻製旨いですよねー

市販のベーコンやチーズ、ソーセージなんかを軽く燻製し直すだけで、めちゃ旨なお肴に早変わりですよ!

変わりどころでは燻製塩とか燻製醤油とかも。

私はサーモスのイージースモーカーを使っています。

室内でも気軽に燻製が楽しめて、おすすめですよー

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