表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手が届く頃には  作者: testrip
2/13

『夏』 夏が泣く―前編―

10/4に細々と編集。

ストーリーは変わってません。

 この空が、ブラジルとかアメリカにも広がってて、南極にもあるなんて。外国に行った事の無いあたしには理解出来ない。

 学校からの帰り道、あたしはのん気に空を見上げて坂を下っている。まばらに下校する生徒の姿は途切れそうで途切れずに続く。夏休みの登校日って、いらないと思う。


『夏が泣く―前編―』


 空は青すぎて眩しい。

 あたしの幼馴染の千夏(ちなつ)は外国に行った事がある。それはあたしにとって大きな経験の差で、千夏が撮ったオーストラリアの空の写真は、何気にあたしの宝物だったりする。写真には空しか写ってなくて、それが本当にオーストラリアの空なのかは誰にも検証出来ない。だけど、千夏があたしに『オーストラリアの空だよ』と言ったから、私は納得した。これはオーストラリアの空なんだと。

 千夏は昔っからあたしに嘘を吐いた事が無い。

 あたしは、まぁ、うん。ちっちゃな嘘をたくさん吐くタイプだったりするんだけれど。千夏は私に嘘を吐かない。……たぶん、吐いた事は無いと思う。

 坂を下るとそこは十字路で、あたしは左に曲がる。そしてずーっと真っ直ぐ進む。都会の人は田舎の真っ直ぐで平坦な道が長く感じるらしい。

 あたしもたまに退屈になったりするし、怖くなったりする。だけど、千夏は好きらしい。この真っ直ぐで平坦なつまらない道が。四季の変化がよく分かるだとか、安心するとか言ってた気がする。

 確かに、真っ直ぐ進んでいくと段々と道の両脇には畑や田んぼが多くなる。育っている稲や野菜、さらには道端に咲いてる花。四季を感じるなと言う方が無茶なくらいかもしれない。


「だけどなー」


 やっぱりあたしはこの道が、時折怖くなる。進んでも進んでも終わらない気がして、振り向けば引きこまれそうな気がして。特に部活の帰りとかは暗いから怖い。今日はたまたま部活が休みになった。嬉しいような悲しいようなで複雑だ。部活は好きだし、無かったら無いで暇だ。それに昼近いこの時間に外を歩くよりは、部活で冷房の効いた美術室にいた方がいい。

 まだまだ夏真っ盛り。暑さヨロシク日焼け上等。

 いや、あたしは全然暑さにヨロシクもしたくないし日焼けが上等だなんて思わない。暑いのは大嫌いだし何よりすぐ日に焼けて黒くなる体質だから、日焼け止めを塗りたくっている。夏生まれだからって、夏が好きだとか暑さに強いとは限らない。

 どこからともなく聞こえてくる蝉のやかましい声は、慣れれば聞こえなくなるってうちのじーちゃんが言っていた。そしてその言葉を言った夏にじーちゃんは亡くなった。蝉の鳴き声が聞こえる病院で。あたしはそのとき中学三年生で、千夏は高校二年生だった。

 じーちゃんがあたしの高校生姿を見ることは無かった。

 あたしはずっとわんわん泣いて、千夏はずっと手を握ってくれていた。少し震えてて、あたしはもっと泣いた。ずっとじーちゃんの手を握ってたばーちゃんの微笑んでる顔は今でも覚えてる。ありがとうを沢山含んだその笑顔は綺麗だった。死んだなんて信じられなくて、家に運ばれてもずっと眠ったままのじーちゃんが今にも起きてきそうな気がしてた。

 じーちゃん、蝉が鳴いてるの聞こえるだろ。ってずっと心で叫んだ。当たり前のように近くにいる人がいなくなるのは、あんなにも切ないものだとは思わなかった。

 じーちゃんの眠る隣で、あたしは現実を受け入れたくなかった。千夏はその日うちに泊まってくれた。

 そしてじーちゃんが亡くなってからもう一年が経つ。ついこの間一周忌を済ませたばかりだ。

 早いもので千夏は受験生、あたしは千夏と同じ高校に通うぴっかぴかのぺっかぺかの高校一年生。正直言って、あたしは千夏と同じ高校へ行けるなんて思ってもみなかった。成績では中三のとき、学校の底辺を支えていたあたしが偏差値上位の地元の県立校に受かるなんて。うちの玉造たまぞうがワン!と鳴く位の大事件だ。いや、うちの玉造は立派な猫だけどね。

 まあ、あたしが受験に受かった背景には千夏の涙ぐましい努力があるのだけれど。それを言ってはこの話が千夏に全部持っていかれそうだからやめておく。

 ぼーっとしている内にあたしはまた上を向いて歩いていた。青くて眩しくて、少し目を閉じている。ざっ、ざっ、とも何とも言えないような砂の音があたしの耳に届く。暑さで足を上げる気力も無い。なんて言ったら千夏はいっつも『それは言いすぎだよ』と笑う。


「おーい、夏葉なつはー」


 うん?

 前から呼ぶ声がして、あたしは視線を下げた。少し先の方に同級生の姿が見える、一人はぶんぶんと手を振っていてもう一人は自転車を押している。

 このあっついのに元気なこった。とあたしは内心呆れて溜め息を吐いた。二人ともまだ制服で、どこに行くんだろうか。そう思っていると手を振っていた方が、りーが走ってきた。


「吹きに行くの?」


 よっ。と声をかけてから尋ねると、りーは「河川敷行って練習」と言って右手に持っていたトランペットケースを持ち上げて見せた。

 りーも部活休みだったんだな、と思いつつ相槌を打つ。

 ポニーテールのりーは何となく涼しそうに思えた。でも別に、りーは暑いからポニーテールにしてるんじゃなくて、りーはトランペットを吹く時はいつもポニーテールだ。そういえば、りーの顔は大人っぽい。それはセンターで分けられた前髪のおかげで強調されてる。こんなに長いのも前髪って言うんだろうか、あたしにはその辺の境目はよく分からない。りーはあたしよりも少し背が高い、この辺も大人びた印象を受ける要因かもしれない。


里帆りほちゃん早いよ」


 やっと追いついた。という風にこう言った紗綾さやちゃん。困ったように笑うその顔は夏でも白くて雪みたいで、でも温かい表情。短めの髪は紗綾ちゃんの雰囲気もあってか、より一層涼しそうに見える。

 りーとは雰囲気が全然違う。この子は大人しいお嬢様って感じだ。お姫様かな?そんな子とりーみたいな奴が仲良いのは、何かの間違いのような気がしてならない。と、思ったのでこの間りーにそれを言ってみた。

 そしたら、『それを言ったら、夏葉と千夏さんが仲良いのも納得出来ない』と言い返された。

千夏は変人だよ。と言おうとしたけれど、それを言うとあたしが自分で自分を変人に部類してる事になるからやめた。それに千夏の外面は素晴らしく良いから、こんな事言っても絶対信じないし。


「さーやが遅いんだよ」


 横に来た紗綾ちゃんの顔を見て、りーは楽しそうに笑いながら言った。

 りーは紗綾ちゃんの事をさーやって呼ぶ、さーやと言うより『さぁや』って感じで呼ぶ。それはうちのクラスでりーだけで、どうしてそう呼んでるのかは知らない。何でかって訊いたら教えてくれるだろうけど、りーの事だし大した理由は無いだろうと思ってあたしは訊いてない。いつか訊くかもしれないけれど。

 そういえば、何で紗綾ちゃんが自転車押してるんだろ。りーとあたしは歩いて登校している地元の子で、紗綾ちゃんは電車で通学してる少し都会の方の子。紗綾ちゃんの自転車はこんなとこには無いはずだし、それに


「それりーのチャリじゃん」


 何で紗綾ちゃんに押させてんのさ。と付け加えると、りーはあははっとわざとらしく頭を掻いて笑ってみせた。


「じゃんけんしてさーやが負けたんだよ」

「小学生みたいな事するなよー、りーのチャリじゃん」

「だってさーやが二人乗りやだって言うから」

「理由になってないし」


 紗綾ちゃんはまた困ったように笑いながらこのやり取りを聴いていた。

 はぁ。と大げさに溜め息を吐くとりーはへらへらと笑った。

 さーやが、さーやが。りーが紗綾ちゃんを溺愛してるのは、あたしから見れば丸分かりだ。そんなことは多分、りーには自覚が無いしそれに紗綾ちゃんも溺愛されてるなんて気付いてないと思うけど、あたしには分かる。こんなにりーが懐いてる子は、紗綾ちゃんが初めてだ。あたしには懐いてるというよりは、悪友的な感じだし。千夏も好きみたいだけど、二人が会う事は少ないから。

 あたし達の関係はアッサリしてる。お互い干渉もしないし、でも学校では一緒にいる。たまに放課後遊ぶくらい。あたしが休みの日、大抵千夏と一緒にいるから仕方無いと言えば仕方無い。『夏葉と里帆ちゃんは何だか男友達みたいだよね』千夏曰くそうらしい。


「お礼にアイス奢るし」


 りーは何故か威張る様に言った。こいつが物を奢るなんて、天変地異が起きてもありえないと思い、あたしは一蹴する。


「嘘を吐くな嘘を」

「あははっ」


 紗綾ちゃんはやっと困った笑いから本当に笑ってくれた。それを見てりーは「あー、信じてないだろ」と不満を漏らした。

 りーの言う事なんて7割嘘って言っても過言じゃないくらいだ。と言ったら絶対りーは6割だよ!と言い返してきそうだ。結局半分以上嘘かよ。あたしは自分で考えて心の中で笑ってしまった。


「りーは嘘吐きだから信用出来ない」

「里帆ちゃんすぐからかったりするもん」


 ねー。なんて、二人で同時に言ったりすると、りーはうっ。と言葉をわざとらしく詰まらせた。

 関係無いけれどあたしは、そろそろお腹が空いたな。と思い、今お昼ご飯を予想中だ。やっぱり素麺だろうか、でも昨日も素麺だったしな……。


「そんな事言ってるけど夏葉も結構嘘吐くじゃん!」

「あたしのは小さくて可愛いからいーんだよ」


 理不尽だ!とりーは食い付くけれど、紗綾ちゃんに「もう里帆ちゃん、行くよ」と言って先に進まれていた。

 そういえば、紗綾ちゃんも嘘吐かないよな。純粋な子は吐かないのか、なんて思ったけどその思考は一刀両断される。あのへらへら顔の変人が、ぽっと頭に浮かんだからだ。千夏が純粋だなんて絶対に認めない。


「じゃあね、夏葉ちゃん」

「うん、じゃーねー」

「ちょ、さーやー!」


 待ってよー!とりーの声が田舎道に響いていた。二人はは今あたしが歩いてきた道を歩いて行った。

 あたしはしばらく、歩いてく姿をぼーっと見ていた。二人は並ぶと身長差が結構ある。年の離れた姉妹みたいだ。そんな事を言ったら紗綾ちゃんはきっと拗ねるだろうな。


 さっさと帰ろっと。

 素麺が待ってる。結局あたしの本日のお昼予想は素麺で決定した。

 踵を返すと、お腹の空き具合がどうもピークらしい。反射的にお腹を押さえていた。結構大きな音が鳴って、自分でもおかしかった。

 上を見上げると、馬鹿みたいに広くて大きい空が、やっぱり眩しかった。


 つづく。


気合を入れて、空回りするのは私的クオリティです。

きっと次辺りから文に気合が感じられなくなると思います(笑

まだあまりキャラを掴めてませんね^^←


携帯から見る場合の配慮をあまりしていないので、見にくい箇所がございましたら教えてください。


一応登場人物の名前を書いてきます(気分的に


夏葉なつは←一応主人公です。

千夏ちなつ

里帆りほ

紗綾さや


高一達は三人とも同じクラスです。

色々他にも設定はございますが、それは本編でお伝えできれば、と思っております。

文章力が足りない場合はあとがきでお伝えします(苦笑


では、修正等した際はあらすじやあとがきに書きますのでご覧下さい。


失礼しやす←



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ