『秋』 秋触れの
何でこんなことになっているのだろう。
夏葉と一緒にさーやのお見舞いに行く筈だったんだけれど、知らぬ間に夏葉がちびっ子と入れ替わっていた。ミーハーなこの子のことが正直言って得意ではないので、会話にも困る。さーやの家は電車に乗って四十分くらいかかるから、その間この子と二人かと思うと顔がひきつった。
電車は規則正しく進んでいる。椅子に座る二人の間にぎこちなさを感じているのは自分だけだろうか。
「小林さんは夏葉といつから仲良いの?」
出たよ。
顔のひきつりを無理やり笑顔になるように意識しつつ、伊勢谷さんの方を向いた。
「えーっと、中一かな?」
「へー。夏葉って中学のときはどんな子だったの?」
「えーっと」
まだ続くのか。
とはさすがに言えずに伊勢谷さんの方から少し目をそらして、困り気味に続ける。電車が今から快速電車にならないかと願うが、それは絶対に叶わない願いだ。手に持ったお見舞いの品が入ったビニール袋が揺れる。
ローファーの先をみつめて気を静めてから答えた。
「なんか明るかったよ」
「え、あんなに気だるげなのに?」
「はは、確かに。でも中学のときはほんと、明るくてうるさかったんだよ」
電車の窓に映る風景がせわしなく切り替わっていく。すべてを追おうとすれば気分が悪くなってしまう。一瞬いっしゅんの重みはこうやって人間に被さってくる。
思い返せば中学のときの夏葉はいつだって笑っていて、快活だった。今は真逆と言うほどではないが、前ほどやかましくはなくなった。大人になったと言ってしまえばそれまでだけれど、いつからか切り替わった気がする。その切り替わりの一瞬を、私は覚えていない。
「へー。意外だね。小林さんは?」
「え?」
「小林さんは、自分はどんな感じだったの?」
「私は」
変わってないよ。と言うのが一番無難な返事であることは分かっているけれど、あの頃の自分とは決定的に違う部分がある。誰かに咎められる訳でもないが、抱いてしまった恋心は時折こうやって後ろめたさを連れてやってくる。
「変わってないよ。前からこーんな感じ」
「ははっ」
伊勢谷さんは今日は長い髪の毛をゆるくおさげにしていて、何とも可愛らしい。お茶とお菓子はいかが?なんて感じの少女だ。
「髪の毛、可愛いね」
「わっ! 小林さんだけだよそんな風に言ってくれたの。みーんな『子供みたい』ばっかり」
自分もそう思ったとは言えずに堪える。
「ふわっとしてて、いい感じ」
「ありがとう。またやろっかな」
「私はそういう感じ似合わないから羨ましいよ」
髪の毛を指先でくるくると弄る。憧れが形になって現れたそれは、たまに恨めしくなる。髪を伸ばしたって何の意味もない。
「私は小林さんが羨ましいな」
「お互い、無いものねだりだね」
「だね」
目を合わすと、同年齢とは思えないほどキラキラした伊勢谷さんがいる。少しだけ苦手意識が薄れたようで、これからさきの道のりに不安はなくなった。さーやの家まであと一駅。
つづく。




