村に馴染むには
拝啓、日本にいる、お父様、お母様、お元気でしょうか。
先だった不幸をお許しください。
死んだけど、正義は異世界で元気にやっております。
神のせいで半ば強制的に子供を育てる事になりましたが、ランパード夫妻のお陰で何とかやれています。
子供を育てることを決意した俺は日々、悪戦苦闘しながら子育てに奮闘してっ!?
「あ痛っ!? アイン、髪引っ張らないで!」
「うぅ、あうぅ……たぁい!」
「はうっ! 止めて、頚椎損傷するから首を殴るのは止めて!」
俺の背中であらぶっている子供がアインです。
めきめきと成長しているのは良いのですが、準チートな所為かやたらとパワフルに育ち始めました。
「うぁ、ぶぅ……」
「不満そうな声を上げるなよ。こっちは死活問題なんだから、じゃれるなら力を抑えなさい!」
「うっ、うっ、うぇ~~ん!」
「ああ、ごめんごめん。強く言い過ぎちゃったねぇ」
必死にご機嫌取りをする。これ以上ご機嫌を損ねたら、首を絞められて昇天しかねない。
昇天したら、あの神に出会えるのだろうか。会ったら、パンチしてやろう。
アインを育てると決意した日から半年が過ぎようとしていた。
子育てとは如何に大変なことかを日々、知らされている。
ただ、少しずつだがアインの気持ちが分かるようになってきたことが嬉しい。
表情が豊かになっていくに連れて、会話らしきものも増えてきた。何言ってるか、まるっきり分からないけど。
精進な日々を続けている中、目下の悩みがある。
「ほほぉ、元気だな。立派な男に育つだろうて」
「あ、村長さん、こんにちは」
「こんにちは。今日も子供を背負って畑仕事とは感心感心」
雑草をむしっていた所で、村長が話し掛けてきた。
最近、ランパード家の畑で農作業を手伝っている。
宿屋の手伝いももちろんだが、力仕事に関わることはできるだけやろうと思ってのことだ。
「ご面倒をお掛けしているので、これぐらいはしないと」
「良い心がけだな。恩を知り、恩に報いる……。わしの目に狂いはなかったということだ」
そう言うと、村長は高らかに笑った。
嬉しい言葉だが反応に困ってしまう。
「ありがとうございます。こんなもんじゃ足りないと思いますが」
「その気持ちが大事だ。……その優しさが村のみんなにも伝わればいいのだが」
うっ! 村長の言葉が胸に刺さった。
これが目下の悩みである。村民と打ち解けていないのだ。
「できる限り、お話はしているつもりなんですが」
「まあ、もう少しすればみんなも分かってくれるだろう。心を開いて接していくことだな。それでは失礼」
「はい、ありがとうございます」
村長が去ると静かだったアインが暴れ出す。
「うあぅ、あう!」
「ひいっ! 禿げる! 禿げるから、これ以上むしるの止めて!」
俺の毛をむしる事に執着しているアインと格闘していると、こちらに歩み寄る人影が見えた。
「アインちゃんは相変わらず元気が良いな」
「あ、イーサンさん、こんにちは。ハンナちゃんを連れて、お散歩ですか?」
「ああ、狩りが終わったからな。かみさんが面倒見ろってやかましくてな」
「そうでしたか。相変わらず、ハンナちゃんは顔を見せてくれませんね」
イーサンに抱っこされて、胸に顔をうずめている赤ん坊に向けて言った。
言った通り、恥ずかしがり屋なのか人見知りなのか、なかなか顔を見せようとはしない。
ハンナはイーサンの末っ子で、歳は一歳半だ。アインと大きさがあまり変わらないので、勝手にアインも一歳半にしている。
「家では元気なんだけどな。外に出ると、何でかこうなってしまうんだ」
「可愛いじゃないですか。女の子なんですから、照れ屋も良いと思いますよ?」
苦笑いを浮かべたイーサンに向けて、優しく返す。
ハンナは少し垂れ目で、常に潤んでいる瞳がどこか小動物的な可愛さをイメージさせる。将来が楽しみな子供だ。
アインももちろん可愛いし、カッコよくなるから、こっちはこっちで楽しみである。
おや? 少し親バカかな?
「お、そうだ。マサヨシ、これをクレアさんに渡しておいてくれ」
「何ですか、これ? 干物か何かですか?」
水分がないせいだろう。色は茶色く、手触りから硬く、かさついている事が分かった。
どことなく大きなわかめなどの海藻を思わせる。
「ああ、スライムの干物だ」
「おえっ!」
思わずえづいてしまった。あの水分タップりそうなスライムがこんな干物になるなんて。
「おいおい、大丈夫か? 苦手だったのか?」
「だってモンスターですよ? しかもぶよぶよした。正直、食べたくないですよ」
「前からクレアさんに渡しているから、多分、食べているぞ?」
「うぉえっ!」
食事にそんなものが含まれていたとは知らなかった。知らぬが仏とは正しくこのような時に使うのだろう。
よく見ればスープ等に入っているものと色が似ている気がする。そうなると結構な頻度で……。
「そんなにダメなのか? モンスターを狩ったら、何がしかの食料にしているぞ? おかしなことじゃないけどなぁ」
「あ、いえ、大事な食糧ですよね。……ちなみに、スライムは日干しにしたら、こうなるんですか?」
「そうだ。まず、腹を切って内容物を取り出して、中を綺麗に洗ってから日干しにするんだ」
「キモっ!」
聞かなきゃ良かった。これ以降、スライムの干物を見る度に、頭を過ぎった光景がフラッシュバックされるのだろう。
「何だ何だ? 好き嫌いしているとアインちゃんに笑われるぞ」
「……笑われる前には慣れるように努力します」
「そうだな。慣れだ、慣れ。……村のみんなは、なかなか慣れてくれないな」
イーサンが寂しそうにつぶやいた。村長もそうだが、イーサンもよく俺のことを見てくれている。
気軽に話せるのも、お世話になっているランパード夫妻を除けば村長とイーサンぐらいなものだ。
「ですね。でも、慣れですよね。俺も慣れてもらうようにしますので」
「ああ、その意気だ。なに、いつの間にか話せるようになるさ。マサヨシは良いヤツだからな。じゃ、スライムの干物を頼んだぜ」
嬉しい言葉と、嫌な光景をフラッシュバックさせてくれる言葉を残して、イーサンは去って行った。
慣れか。多分、今のままでは難しいかもしれない。別の国から来た人間を、そのまま受け入れる方が珍しいはずだ。
そう考えると村民を責めるようなことはできない。
みんなと打ち解ける方法は、今のところ思いつかない。
村長やイーサンが言う通り、時間が解決してくれるのだろうか。
明確な回答が出ないまま、宿屋へと向かった。




