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旅立ちの日

 ウォルフと別れて、俺とグロウス、レンで我が家に向かった。


「あなた……」

「ジーン、ただいま」


 家の外で待っていたジーンに優しく返した。


「アインが何も言わずに部屋に入って行って……」

「説明は後でするよ。先ずは落ち着こう」


 ジーンの肩に手を置いて、居間へと向かう。

 全員、着座したことを確認した。

 ここまで来て何も話さないのは信用していないのも同然だ。

 分かってほしいから、俺が隠していた真実を話そう。


「グロウス、レン、聞いてくれ。やつらが言った勇者というのはアインのことだ。それは神に定められた運命の子だからだ」

「お父様、いまいち飲み込めないのですが。アインちゃんは優秀だから、勇者と呼ばれたのでは?」

「少し違う。アインは生まれた時から勇者として作られた存在なんだ。……そして、俺はアインを育てるために、別の世界から呼ばれた人間なんだ」


 言った。俺が隠していたことを言ったのだ。

 ジーンは目を伏せている。この話はジーンにしかしたことがない。

 誰もがジーンのように妄言ともいえる話を信じることはできないだろう。

 俺が避けられることを憂いて、口をつぐんで耐えている。


「なるほど。アインちゃんの力は勇者だからこそですか。これで合点がいきました」

「ダーリン、別の世界ってどんなとこ? 色々、教えてほしいなぁ」


 二人はあっさりと言い切った。俺の言葉を受けて、当たり前のように返してきたのだ。


「お、お前たち、俺の話を信じるのか?」

「ええ、当然ではありませんか。お父様の今までの行いから考えれば、信ずるに値します。信ずるなと言う方が難しいでしょう」


 熱い笑みを浮かべたグロウスが言う。


「ダーリンが私に話してくれたってことは、私のことを信じてくれてるんでしょ? それなら、その言葉を信じるよ」


 レンが弾んだ声で言うと、ウィンクした。

 二人は俺のことを信じてくれているのだ。妄想甚だしい話をしたにも関わらず。


「二人共、ありがとう……ありがとう……ありがとう」


 口から出る言葉は陳腐なものだった。だが、本心である。


「お父様のお話は理解できましたが、魔王の考えが読めませんね。ルナちゃんをさらう必要があったのでしょうが」

「それは俺にも分からない。ただ、何もしなければ二人は安全という事だ。信じて良いものか疑問だけどな……」

「そうですね。敵対している相手の話を、うのみにするのは危険ですね」


 全員で唸る。答えが出ない事は全員承知のことだ。

 ただ、考えを整理するという事で今、分かっていることを話さなければ。


 俺が知っている限りの情報を話す。とはいっても、神と会った事とアインの能力しか話すことはないのだが。

 話しをしていると、一つだけ気になる事があった。


「トゥーデス・リッターの一体が言っていたんだけど、第二ステージに突入したと言ったんだ。これだけじゃ、よく分からないけど……。その時のアインは、普段と違ったんだ。荒々しいと言えば良いのか。とにかく、怒りに支配されたような感じだった」

「アインちゃんらしくないですね」

「ああ、それにアインが使った魔法のような光は、俺が最初に見たアインの力だった」


 言って思い出す。スライムに襲われて絶体絶命の時に助けてくれた力と同じに見えた。

 元々、持っている力なのかもしれないが、今まで見せたことのない力だ。


「ふむ……。アインちゃんの中で何かが起こった。そう考えるのが妥当かもしれませんね」

「ああ。それ以外、今だと分からないな」


 全員でため息を吐く。言った通り、ここで考えても何も回答は出ないのだ。

 気になることはもう一つある。それはアインのことである。


「アインはどうするのか。それだけが心配だな」


 アインの自室に目を向けて考える。

 今のアインだと、後先考えず飛び出しかねない。


 魔王を討伐することがアインの運命ならば、ルナを追う事は避けられないことかもしれない。

 だが、追ってしまえば魔王の言葉だと、この世に災厄が訪れることになる。

 アインを止めれば勇者として辛い世界で生きずに済むかもしれない。


「あなた……。アインをどうするの?」


 考えがまとまる前にジーンに声を掛けられた。


「分からない。行ってしまえば大変なことになるかもしれない。……でも、行かなければアインの心に一生闇が付きまとってしまう」


 自分で言って悔しさがこみ上げてくる。

 アインの気持ちを考えれば、ルナを追うべきだろう。だが、親としては行ってほしくない。

 結局、全員が納得できる答えは見つからないだろう。それならば、本人が納得できる答えを選択させてあげたい。


「ジーン。俺はアインに任せようと思う。勇者どうこうじゃなくて、アインが決めた道を歩ませてあげたいんだ」

「……それでいいの?」

「正直、行かせたくないさ。でも、それは親の都合だ。アインは大人になりかけている。子供が一人で立とうとしているのを妨げちゃダメだと思うんだ」


 言い終わると、ジーンは目を伏せた。

 頭では理解していても、心では納得いかないだろう。

 それを分かって俺は言った。


「俺も辛いよ。だけど、辛いままアインに生きてもらうのも、また辛いと思うんだ。それならアインが思うままに動いてほしい。これは俺の都合だけどね」

「私は……分からないわ。でも、アインが辛い顔をしているのは見たくないの。……だから、アインに任せるわ」

「ありがとう、ジーン。あとはアインだな」


 アインの自室に今一度、目を向ける。

 俺たちは覚悟を決めた。あとはアインが何を選択するかだ。

 気づけば日をまたぎ、アインの十五歳の誕生日を迎えていた。


   ・   ・   ・


 ひやりとする風が肌を撫でる。

 家の前の野原で太陽が昇るのを見ていると、後ろからドアが開く音が聞こえた。

 おもむろに振り返ると、リュックを背負ったアインがいた。


 目を伏せて、俺の前まで歩いてくる。

 足を止めて俺の顔を覗き見る。その目からは決意の色が見えた。

 だが、俺たちの下から去っていく後ろめたさがあるのだろう。口を強く結んで、顔を歪めている。


「行くのか?」


 俺の問いにアインは頷いた。


「そうか……。これを持って行きなさい」


 アインへ布にくるまれた物を差し出す。

 受け取ったアインが布を剥ぐと、小ぶりな剣が姿を見せた。


「アイン、抜いてみてくれ」


 鞘から剣を抜くと、白銀の剣が陽の光に照らされて輝きをまとった。


「ミスリルの剣。カゼタチという名前だ。アインの誕生日プレゼントさ」

「パパ、僕……」

「言わなくても分かってるさ。パパもママも覚悟をしている。安心して行ってきなさい」


 一層、顔を歪めて涙を堪えている我が子を見据える。

 離れたくない思いもあるのだろう。それでも、ルナを助けたいという気持ちが勝ったのだ。

 どちらの気持ちを持ってくれている事が、とても嬉しい。


「それと……ママにも挨拶をしなさい」


 家へ向けて指をさすと、アインが振り向く。

 そこにはジーンとグロウス、レンが立っていた。


「アイン……」

「ママ……」


 二人はゆっくりと歩み寄ると、抱きしめ合った。


「アイン……絶対に帰ってきてね。ママはずっと待ってるから」

「ママ、ごめんなさい……ありがとう」


 ジーンは大粒の涙を流し、アインは滝のように涙を流した。

 しゃくり上げて泣くアインをじっと見つめる。


 まだ子供だ。子供なんだ。それでも、危険なことに挑もうとしている。

 たった一人の少女のために、命の危険を冒そうとしているのだ。


「ママ、行ってきます」

「行ってらっしゃい、アイン」


 別れの挨拶を済ませたアインが俺の前に来た。

 どこか清々しい顔で俺を見ている。ジーンの想いを聞いて、更に気持ちを固めたのだろう。

 アインを抱きしめるのも良いが、別れの挨拶にしたくはない。

 男同士の挨拶で送ってやりたい。


「アイン、拳を出して」


 アインは疑問を残した顔で、拳を前に出した。

 その拳に優しく俺の拳をぶつける。


「男の挨拶だ。忘れるなよ、俺たちはいつでもお前が帰ってくるのを待っている。……ルナを連れてな」


 全開の笑みを浮かべて言った。

 呆気に取られたアインも、すぐに満開の笑みで頷いた。


「パパ、行ってきます」

「アイン、行ってらっしゃい」


 朗らかな挨拶を交わして、アインは俺の横を通って行った。

 不思議と悲しくなかった。必ず帰ってくる。何の確証もないが、何故か確信している。

 晴れやかな気持ちでアインの背中を見ていると、グロウスが横に並んだ。


「お父様、私が同行いたしますので、ご安心ください」

「ああ、悪いな。恩に着るよ。……グロウス、お前も無事に帰ってこいよ」

「必ず。皆が笑える世界を作るため、このグロウス、アインちゃんと共に戦いましょう。それでは」

 

 一礼すると、アインを追って走りだした。

 グロウスの姿が小さくなった時、ジーンから声を掛けられた。


「あなたぁ、行きたいんじゃないのぉ?」


 目を見開いた。どこかで思っていたことだ。アインと一緒にいることができる選択。

 それは俺が選ぼうとした選択だった。だが、ジーンを置いて行くことはできない。二人も去られてしまえば、ジーンはより寂しくなるだろう。


「いや、よそう。俺たちは信じて待つだけさ」


 目を閉じて、アインの背中を思い出す。小さい背中がいつの間にか大きな背中へと変わっていた。

 いつかは俺を追い抜く日が来るのだろう。それを楽しみにしている。帰ってきた時には、どのような背中になっているのだろうか。

 目を開けて振り返る。見えなくなったアインに向けて大きく手を振った。


「アイ~ン! 絶対に帰ってこいよ~!」


 アインの進む道が、この朝日のように希望で満ちている事を願った。






















「ごめん、ジーン! 俺、やっぱり行くよ! しばらく我慢してね!」

「もう、そんなことだろうと思ったわん。さ、早く準備しちゃいましょ。あ、レンちゃんも行ってあげてぇ」


 ジーンの言葉でレンが何度も跳ねた。


「行く行く~。ダーリン、婚前旅行だね?」

「結婚なんてするか! 行くんなら、お前も準備しろ」

「うん! 勝負下着持っていこ」


 行く前から疲れてきた。

 部屋に戻って、リュックに必要な物を詰めていく。

 ジーンのことを考えると、出て行くのは寂しい。だが、アインの選択の力になりたい思いが強い。


 この熱い思いを胸に抱いてアインと戦おう。そして、必ずアインと共にこの家に帰ってみせる。

 誰もが望むハッピーエンドを目指して、勇者のパパである俺がやるべきことを胸に刻んだ。


「よし! 出発するとしますか。アイン、待ってろよ」


 部屋の窓から覗く朝日を見つめる。

 俺たちが進む先にどれだけの苦難が待ち受けているのか分からない。


 だが、そんな苦難に負ける俺たちではない。

 進む先は、この朝日のように希望に満ちている。今一度、心を決めてアインのもとへ足を踏み出した。

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