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恋する乙女

 緑の海原を優しい風が撫でると青草が波打つ。

 生徒たちの笑い声が、草のささやきをかき消していた。


 草原で遊びまわる生徒たちとは対照的に、俺は草の上に寝転がって、空を流れる雲を眺めている。

 今日は生徒みんなを連れてピクニックに来ていた。うるさい子供を黙らせるための課外授業という名目だが。

 風の音を耳で楽しんでいると、ガチャガチャと金属音が響いてきた。


「ガチャくん、どうかした?」


 全身甲冑に憑りついたゴーストこと、ガチャくんに声を掛ける。

 ガチャくんは頷くと指を遠くにさした。そこには馬が一頭いた。


「あれ? 野生の馬かな? 珍しいな」

「あ! お馬さんだ! パパ、見に行っていい?」

「ああ、パパも一緒に行こうかな」


 立ち上がると他の生徒たちも気付いたようで、全員でゾロゾロと行く。

 近づくと馬の姿が更に見えるようになった。

 裸馬じゃない。見ればくらを背中に乗せている。


 更に近づくと、馬の足元に何かが見えた。


「あ! パパ! 人が倒れているよ」

「マジで!?」


 急いで駆け寄ると、地面に突っ伏している人がいた。

 体を起こして抱きかかえると、体の軽さ、顔つきから女性であることが分かった。


 女性は黒く長い髪を後ろで結っており、はかまのような服を着ている。

 特に外傷はなさそうだが、呼吸がやや粗い。


「大丈夫ですか!? 目を覚ましてください!」


 体を何度か揺すると、口が微かに動いた。小さく、かすれた声で何かを呟いている。

 何かを知るために顔を女性に近づけて、耳を澄ます。


「……み……み……ず……」

「水!? アイン、水筒持って来て!」


 アインに言うと猛然と駆け、すぐに水筒を持って戻ってきた。


「水です。少しずつ飲んで下さいね」


 女性の口に水筒を近づけ、少しずつ傾けてゆっくりと水を飲ませる。

 大きく喉を鳴らしながら、与えた分だけ飲み干していく。


 女性が大きく息を吐くと、うっすらと目を開けた。

 焦点が合ってないのか開いた目は虚空を見つめるようだった。


 目を閉じていた時から何となくは分かっていたが、目鼻立ちはすっきりしており、凛とした顔をしている。

 年齢は十代か、二十代前半か。あどけない顔ではないが、成熟しきった顔には見えない。

 

 女性の目が少しずつだが焦点が合ってきたように見えた。俺を見つめ返しており、目をぱちくりしている。


「王子様!?」

「はい!?」


 女性の不意な言葉に大声を上げてしまった。女性は何を持って、俺のことを王子と呼んだのだろうか。

 俺に向けている目が輝いているように見える。


「あの、何を言っている」

「きゃっ! 異国の地で、こんな出会いができるなんて!」

「だから、何を」

「やだっ! そんなに見つめないで!」

「人の話を聞いてください!」


 全くかみ合わない会話を大声で終了させた。

 まだ女性は俺に向けた視線の色を変えない。むしろ、強くなった気がする。


「何度も言うようですが、何を言っているんですか? というか、あなたは何者なんですか?」

「そんなに私に興味があるのですね!?」

「ただの質問だよ!」


 何か疲れる人であることは分かった。声を荒げてしまったので水筒の水を一口飲む。


「いやん! 間接キッス!」

「あなた、ホント何なんですか!?」

「恋する乙女です!」

「自分で言っちゃうの!?」


 会話が成立しているようで、成立していないような。

 話すのが面倒になってきたが、恋する乙女が何者なのかをハッキリさせておく必要がある。


「恋する乙女は分かりました。で、あなたのお名前は?」

「レンです! レン・カエイ! レンと呼んでください。呼び捨てで!」

「えっと、レンさん?」

「レンで!」

「めんどくせぇ……。じゃあ、レンは何者なんだ? 見たところ、ここら辺の方ではなさそうだけど?」


 じわじわと精神がすり減っていく会話をしてしまった。自分でもゲッソリしているのが分かる。


「はい! 私はクナ国より参りました。ティターナ王国の王都を目指していたのですが……」

「なるほど、クナ国の人だったのか。で、迷子になって行き倒れか?」


 俺の問いに顔を両手で隠して頷いた。自分の失態を恥じているのだろうか。

 クナ国は隣国だが、ティターナ王国に行くのは大変な道のりである。高い山々を越えるか、長く続く不毛地帯を抜けるしかない。

 どちらにしても大変で危険な旅である。


「ま、大事になる前に見つかって良かったな」

「はい! 運命の出会いに感激です!」


 頬を赤らめながら目を輝かせている。何を勘違いしているのかは分からないが、悪い人物とは思えない。

 このまま、ここに放置するのも後味が悪いので、エルム村まで連れて行こう。


「とりあえず、俺たちの村に行こうか」

「いきなり誘うなんて情熱的!」

「村に行くだけだよ! 馬を連れて早く行こうか。みんな~、今日は切り上げ。帰るぞ~」


 生徒たちに声を掛けると、渋々ながら帰りの準備を始めた。


   ・   ・   ・


 レンを引っ張って村長に顔見せし、宿屋へと連行する。

 その間中、積極的だの、俺さま系だの、何だの言われた。俺の生命力が尽きてしまいそうな程に疲れた。


「あら? マサヨシくん、いらっしゃい。そちらの方は?」

「こんにちは。この子はレンです。すみませんが、この子に料理を出してもらえないでしょうか?」

「分かったわ。あなた~、何かすぐできる料理を作って~」


 クレアが厨房に向かって言うと、ダリルが少しだけ頷いた。

 食事をして一息吐けば、まともな会話ができるだろう。そう信じよう。


「あの! お名前は!?」

「俺? ああ、遅くなってごめん。マサヨシ・ユウキ。みんなはマサヨシって呼んでるけど、好きに呼んでくれて構わないよ」

「じゃあ、ダーリンで!」

「一文字も入っていないんですけど!?」


 俺とレンのやり取りを見てクレアが目を大きくし、空いた口を手で隠している。

 嫌な予感しかしない。この呼び方だと、思われることは浮気者扱いだろう。


「マサヨシくん、二人目の奥さん? やるわねぇ~、こんな若い子を捕まえるなんて」

「そっちか! 違いますよ。勝手にこの子が言っているだけです」


 何故か褒められてしまった。クレアに変な誤解で納得される前に解決しなければならない。

 もし、クレアの口からジーンに伝わろうものなら。宿屋のドアがゆっくりと開いた。


「あ、やっぱりここだったのぉ~。大変だったみたいねぇ~。その子が噂の子かしらん?」


 ジーンとアインが宿屋に入って来た。これは助け舟に違いない。俺より、ジーンに話してもらう方が変な誤解を与えずに済む。


「ダーリン、誰、この人?」

「おまっ!? 何を言ってんだよ!? 勝手に決めんな! ジーン、これには訳が……あるんですよ……ねぇ」


 笑みを浮かべたジーンの頬が痙攣している。これはジーンが怒りを表しているときだ。

 アインもジーンの異変に気づき、身を引いている。


 誤解を解くために一から順に説明をしていく。アインも味方になって、何があったか話してくれている。

 レンは変なことを言わないように、手で口を塞いだ。クレアは興味津々な顔でジーンとレンを交互に見ていた。


「そういうことだったのねぇ~。じゃあ、あなたは惚れられたってことねぇ~」

「結果的には……。ただ、移り気なんてしてないし、何もする気はないよ。信じて?」

「分かってるわよん。ちょっとした焼きもちよん。それはそうと、レンちゃんは何をしに来たの?」


 一同の目がレンに集中する。俺と目が合うと、また顔を手で覆った。この場から消えたくなった。


「私はジーン・ボレルという方を探しに王都を目指していたのです」


 レンの言葉で、ジーンに俺たちの目が向く。

 ジーンは少し考えるように上に視線を向けると、すぐに首を横に振った。

 言うなということだ。


 何故、ジーンを探しているのか分からない内は、下手に喋るのは良い事ではない。


「ふ~ん。で、その人と会って何がしたいんだ?」

「そ、それは……」

「それは?」

「んん~……、ダーリンのためなら……」


 ダーリンという言葉を否定したくなったが、次の言葉を待つために黙る。

 レンが深呼吸をすると、口をゆっくりと開けた。


「私は男なんです」


 へ?

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