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エルム村、攻防戦

「うおぉぉぉ! らあっ!」


 スケルトンに向けて駆け出し、剣を構えて斬りつける


「カタカタカタ……」


 鎖骨から斜めに斬り下ろしたが、それをあざ笑うかのように歯を何度も噛んで音を立てている。


「ふんっ!」


 振り下ろした剣をそのままに、頭がい骨目掛けて斬りあげる。

 肋骨、胸骨、頭がい骨と一振りで次々に切断して行く。

 頭部を真っ二つにすると、耳障りだった音がなくなった。それと同時にスケルトンが崩れて、ゴーストが現れる。


「せいっ! はっ! たぁぁっ!」


 煙を散らすような手応えを感じない剣を振るう。

 ゴーストは断たれる度に悶絶するように震えて、三度目の剣を振るった時に霧散した。


「くそっ! 厄介にも程があるぞっ!」


 愚痴をこぼしながらも気を緩めず、すぐさま次の一体に剣を向け、斬る。

 頭骨に強烈なもろ手突きを放つ。突き刺さった剣を持ち上げて、高々と上がった剣を斬り落とす。

 両断されたスケルトンからゴーストが現れた。


「せいやぁっ!」


 再び、手応えのない剣を繰り出して、ゴーストを散らせていく。

 一呼吸、吐く間もなく次の敵に狙いを定める。


 一体におよそ六回程、剣を振るっている。真剣を使い、なおかつ、この緊張した状況でどれほど戦えるか。

 嫌な想像を頭の片隅でしながらも、斬り続ける。上がる息に垂れる汗、酷使される筋肉。体が警告を出すまでに後、どれくらいの猶予があるだろうか。

 スケルトンが武器を持っていない事が唯一の救いである。


「マサヨシ! 下がれ!」


 ウォルフの声が聞こえた。と同時に、自分の状況を知る。突出し過ぎてスケルトンに包囲されつつあった。

 言葉に従い、スケルトン包囲網から抜け出すと、一斉に俺を追い始めた。


「ちょっ! 俺狙いかよ! アイン!」

「クアッグマイアー!」

 

 悲しいかな、アインに援護を求めると魔法を詠唱した。

 直後、後ろから迫る気配が少なくなった。追いかけていたスケルトンの半分以上が沼に足をとられているのだ。

 再び、前に目を向けると、アインが杖を向けて口を開いた。


「アイシクル・ケージ!」


 アインから発せられた青い光が、スケルトンの上空に撃ち出されると天から大きなつららが降り注ぐ。

 敵を攻撃しつつ、相手の行動を阻害する魔法を使ったのだ。

 これで相対する敵は減った。振り返ると追っ手のスケルトンは二体となっていた。


「これぐらいならさぁっ!」


 二体のスケルトンを一刀のもとに斬り捨てると、浮かび上がったゴーストを切り刻んでいく。

 ゴーストが消えると、やっと一息吐けた。垂れる汗を拭い、呼吸を整える。


「パパ、大丈夫~!?」


 アインの声に振り返って手を上げて答える。とは言っても、あまり長くは戦えないと思う。アインはどうだろうか。

 タフなアインとはいえ、連発してしまえば疲れる。魔法は己の内にある魔力を使っているので限界はあるのだ。


 目をウォルフにやると、一振りでスケルトンを斬り伏せ、返す刀でゴーストを切り裂く。

 あまりの鮮やかさに感嘆してしまう。


 だが、少しずつ村へと押されているのが分かる。ウォルフとて多勢に対しては一人で抑え切れる訳ではないのだ。

 じわりじわりとモンスターの圧力に屈していく。引き際を考えなければならない。

 

「マサヨシ、伏せろ!」


 ウォルフの声に反射的に従った。迫るモンスターを前にして足を止めてしまった。

 理解ができず困惑した頭を切り替えて、体を上げようとした時、そこかしこから旋風が現れた。


 旋風に巻き込まれたモンスターは天高くに上げられ、旋風に見放されると地に吸い寄せられる。

 地面に叩きつけられたモンスターは粉々に砕け、ゴーストが剥き出しとなっていた。


「うぉぉぉぉ!」


 剣をがむしゃらに振るい続ける。気勢を上げ、残った体力を絞り出すように吠えた。

 近くにいたゴーストを全て倒しきると、膝が崩れる。剣を地に突き刺して何とか踏ん張ると、敵の第二波が迫っていた。

 すぐに体勢を整えなければ。だが、体がいうことを聞かず、震えが止まらなくなっていた。


「くそっ! 動けよ、ちくしょう! 動けってのぉ!」


 口だけは威勢がいい。迫り来るモンスターに抵抗するすべもなく、顔を歪めて歯噛みをする。

 耳に聞こえる軍勢の足音によって心が折れそうになった時、金属がかち合った音が聞こえた。

 振り返ると、全身甲冑を着た人が一人だけいた。

 

「え? 援軍ですか?」


 俺の問いに大きく頷いた。歩き、俺の横を通過した時に分かった。中に人がいないことに。


「ウォルフさん、アイン! 気を付けて! そいつはゴーストだ!」


 俺の声を聞いたからか、こちらに顔を向けた。動かない体に喝を入れて、何度も体勢を整えようとしたが、思い通りに行かない。

 殺されるのか。こんな所で死にたくはない。俺が死んでしまえば、ジーンやアインはどうなる。諦めている場合ではないはずだ。

 

「ああぁぁぁぁぁ! おらぁっ!」


 肺の息を全て吐き出して、体に残った僅かな力を振り絞り、姿勢を正した。

 息も絶え絶えだが、動けない訳ではない。死が迫った中での火事場の馬鹿力というものだろう。

 甲冑のゴーストに向けて剣を構えると、俺に向けた顔を前に戻してスケルトンたちに歩み寄った。


 すぐそこまで迫ったスケルトンは甲冑のゴーストに近づく。やつらの仲間なら、ここで合流するのだろうか。

 もしかしたら、甲冑のやつは斥候で村人が逃げた方向を教えているのかもしれない。


 甲冑のやつが手を大きく広げた。何が起きたのかわからず、目を丸くする。

 異常な雰囲気を感じ取ったのか、ウォルフも手を止めて後ろに下がっており、アインも注視している。何が起きているのか。


 スケルトンが甲冑を勢いよく殴った。


「おい! 味方じゃないのかよ!?」


 思わずツッコんでしまった。もしかして仲間割れか。何にせよ、今の状況を活用しよう。

 その時、甲冑がこちらに駆け出した。


「パパ!」

「あ、ああ! きやがれ!」


 吠えた。時に俺を通り過ぎると、俺の影に回りこんだ。まさか、まさかと思うが聞いてみる。


「お前、うちの近くにいるゴーストか?」


 俺の問いかけに、甲冑が何度も頭を下げた。


「お前……。一体、何を考えているんだ?」


 甲冑が地面に指を当てた。ゆっくりと地に何かを書いていく。それは文字だった。


「たすける……? 助けに来てくれたのか?」


 大きく頷く。甲冑が震えて、カチャカチャと音を立てている。こいつは怖がりなのだ。ゴーストなのに。

 だが、怖くてもここに来たのだ。俺たちが何をしたかは分からない。だとしても、こんな鉄火場に来たのだ。弱くても、怖くても、勇気はあるゴーストを見て、笑いがこみ上げてきた。

 ひとしきり笑うと、呼吸を落ち着ける。体は疲れているが、心は奮い立った。弱いながらも己が正しいと信じた道を進んだゴーストのお陰だ。


「ウォルフさん、まだ行けます! アイン、ガンガン魔法を使え。残ったやつは俺が仕留める! ありがとな、ゴースト……。あとは俺たちに任せとけ」


 甲冑から目を逸らすと、改めてスケルトンの大軍を見る。あれほど怖く思ったやつらを、平静と見る事ができた。ウォルフが駆け出し、アインの魔法が再度、火を吹く。

 防戦一方に思えた戦いが、今だと攻勢に思えてくる。たった一つの勇気が俺たちを変えた。ゴーストの思いを手に乗せて、剥き出しのゴーストを斬りつける。


   ・   ・   ・


 軍隊が到着し、モンスターは討伐された。


 あの後、すぐに増援が来たため少し拍子抜けしてしまった。それでも前面に出て戦い、無事に勝利をおさめる事ができた。

 事後処理を行っている軍人から目を逸らすと、地面に伏せていた甲冑が動いて俺を見ている。近づいて声を掛けよう。


「ゴースト、大丈夫か? 今回は助かったよ。お前が時間を稼いでくれたお陰だな。じゃないと、どうなっていたことやら」


 思った事を素直に口にした。甲冑は首を横に振ると、じっと見つめ返した後、駆けて来るアインに目をやる。


「なるほど。お前、良いやつなんだな。ありがとう、アインのために動いてくれてさ」


 四つん這いになった甲冑が立ち上がる。俺に飛びついたアインに甲冑がゴーストであることを伝えると、喜び狂い甲冑に抱きつく。

 そう言えば、この甲冑って。


「他人の家の物を勝手に使いおって」


 ウォルフの声で思い出した。アインがご執心だった全身甲冑だ。

 ゴーストは俺が追い払った後に憑りつくものがないか、村中を探し回ったのだろう。そこで見つけたのが、この甲冑だ。


「ねぇ、じいさ……この鎧、この子にあげちゃダメかなぁ?」

「ん? 何故、そんなことを言う?」

「ゴーストのままじゃ、遊べないから……。鎧があったら、遊べるし文字だって書けるんだ」


 ウォルフに向けてアインが懇願している。ゴーストが遊べないと言ったのは、寂しそうと感じたことからだろう。一緒にいる者がいない中で見つけた、小さな友達。

 はぐれ者だったゴーストにどれだけ嬉しいことだっただろう。その事を考えれば、この甲冑を渡してあげたい気持ちになった。


「いいぞ」


 早っ! まさか、早々に認めるとは。


「じいさ、ありがとう! 良かったね……名前を決めないとね。う~ん、ガチャガチャいうからガチャくんにしよ。これから、よろしくね」


 すごく雑に名前を付られたゴースト改めガチャくんに目をやる。嬉しそうに何度も大きく頷いているので、問題はなさそうだ。


 今回の戦いで自分の道を進むことの大変さがよく分かった。困難な道を進む中、諦めそうになった時、一つの勇気が俺の足を奮い立たせてくれた。

 俺にもアインに何かを与えることができるだろうか。分からないが、アインが地に崩れそうになった時は、俺の何かで救ってあげたい。笑みで輝いているアインを見て、そう思った。

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