迫り来る破壊者
我が家の前に授業を終えた生徒たちが集まっている。
それは木陰に隠れている、ゴーストを見にきた者たちだ。
「わぁ~、本当だ。本当にゴーストがいる」
「ダメだよ、大きな声を出しちゃ。ビックリして逃げたらどうするんだよ?」
盛り上がる生徒と抑える生徒が話しまくるので結局ガヤガヤとしている。
ゴーストが木陰に住み着いて、一か月が過ぎていた。
ここにゴーストがいることについて、アインは口を閉じていたがバレてしまったのだ。
事前に村長に話だけはしていたので、ゴーストがいる件についてお咎めはなかった。
その代わり、人を近づけないように監視をするハメになったのだ。
ゴーストはアインとは仲良くしているが、他の子供たちとは距離を置いている。
いまだに木陰から顔を覗かせているだけで、近寄ろうという気配は感じない。
生徒たちの興奮度がピークに達する前に、この場を解散させようと手を打ち鳴らす。
「はいはい。みんな、今日はここまで。また明日にしなさい。ゴーストも怖がっているだろ?」
「え~! 良いじゃん、減るもんじゃないでしょ?」
「エロ親父っぽいんですけど!? エイミ、そういう言葉は口にしないで」
「でも、アインは遊んでるんでしょ? あたしたちも遊んじゃダメなの?」
エイミの言葉に同調する様に、シュプレヒコールよろしく、遊びたいコールを連発してくる。
「とりあえず、ゴーストがみんなに懐くまでダメ。怖がらせたらダメだろ? 優しくしてあげないと」
「先生も肝試しで怖がらせたじゃん」
「お前たちが求めた涼だよ! 納得できなくても、今日は解散」
生徒たちを追い返していると、血相を欠いたイーサンがこちらに駆けてくるのが見えた。
弓矢を背負っていることから、森からモンスターが降りてきたのかもしれない。
俺に呼び掛けているので、近づいて何事かを確かめる。
「イーサンさん、どうしたんですか? 顔が青いですよ?」
「はぁ、はぁ……マサヨシ! 大変だ! モンスターが、モンスターが村の近くまで」
やはりモンスターが来ているということのようだ。だが、いつも以上に焦っているようだ。森のモンスターであれば、灰色大熊猫でない限り、倒すのは難しくはない。
「森から降りてきたモンスターですよね? 灰色大熊猫ですか?」
「ち、違う! スケルトンの大軍だ! こっちに向かって来ているらしい!」
イーサンの言葉に息を呑む。スケルトンはグロウスに聞いた限りでは、厄介なモンスターだ。簡単に倒すことはできない。
村の男でも戦えない訳ではないかもしれないが、大軍となると話は違う。慌てているイーサンが話を続ける。
「領主様の軍隊が来るまで、まだ時間が掛かるらしい。みんなを連れて非難するように言われたそうだ」
「くっ……、従うしかありませんね。悔しいですけど」
「ああ、仕方がないが」
苦虫を噛み潰したような顔を二人で浮かべていると、警鐘が打ち鳴らされた。
スケルトンの大軍が見える位置まで来ていることが分かると、村が騒がしくなる。
「イーサンさん、皆さんの避難を最優先にしてください。俺は物見に行ってきます」
「分かった。無理はするなよ。みんなを広場に集めたら、領主様のお屋敷に向けて出発する」
イーサンは俺が頷いたのを確認すると、全力で駆けて行った。
領主の軍隊がどれだけ早く来ることができるか。最悪、村が壊されかねない事態なのだ。みんなの生活の基盤を壊したくはないが。
「あなた……行くの?」
振り返るとジーンがいた。その問いに顔を引き締めて頷く。
「動きを確認しにいくだけだよ。ただ……みんなに危険が及ぶようだったら、死なない程度に頑張るよ」
「お願いだから、無理しないでねん。待っているから」
優しい笑みを浮かべたジーンにキスをすると、家に入り剣を手に取って外に駆けた。
・ ・ ・
物見台から草原に目をやる。思ったよりも進行が速い。まだ、村人の避難が済んでいない状況で襲われるのは避けなければ。
戦うにしてもモンスターの数が多いことから、下手をすれば人が死にかねない。戦う算段を立てていると、物見台の下から声が聞こえた。
声を掛けた主はウォルフであった。
「ウォルフさん、早く避難してください。俺も避難しますので」
「お前の顔から察するに、それほど遠くない所まで来ているのだろう? この村が焼かれでもしたら、わしのスローライフが楽しめんくなるのでな」
そう言ったウォルフは右手に持った剣を持ち上げた。家に飾られていた剣であることは分かったが、何故、ここで普段手にしている剣を使わないのか。
「案ずるな。この剣はわしのお気に入りだ。これがあれば、足止め以上のことができる」
「分かりました。……俺も行きます」
「ま、そういうだろうと思っていたが……。危ないと思ったら真っ先に逃げろ。若い命だ、年寄りの前に死なすには惜しいからな」
口角を上げたウォルフに向けて、笑みを浮かべ大きく頷いた。
物見台から下りてウォルフと合流したとき、目に入った。我が家の近くに住んでいるゴーストである。
「あ~っと、君は帰りなさい。俺たちが足止めするから、安全な所に隠れていなさい」
優しく言ったが、ゴーストの答えは首……というか体を横に振る事だった。
何をしたいのか理解できないが、ここで問答をしている暇はない。付いて来るならばそれでも構わない。
「来るのは良いけど、助けられないぞ? じゃあ、ウォルフさん、行きましょう」
ゴーストを引き連れた形で駆け出すと、左程たたずにスケルトンの大軍が目に入った。
村まで十分も掛からない距離まで近づいているのだ。避難が済んでいなければ、混乱して余計な犠牲を生んでしまいかねない。
足止めをするしかない状況であるが、進んでくる軍勢の圧力に怖気づいてしまう。
その時、ゴーストが目に入った。震えて地面で縮こまっている。
「もう……早く帰りなさい」
脱力させられた。そのせいか、体の強張りがとれた気がする。ゴーストのお陰とも言えなくもない。
「ウォルフさん、何かやれそうな気がします。今の内に」
「パパ~!」
ギョッとして振り返る。身の丈ほどある杖を持って、アインがこちらに駆けてきていた。
「アイン! 帰らないとダメじゃないか! 早く、ママの所に行きなさい!」
「ママに言ってきたんだよ? 無茶しないようにって言われた」
ジーンはアインを信用して、送りだしたのだろう。戦わせたくはないが、アインの目からは一歩も引く気はないと感じさせる程に、力強いものを見せている。
戦わせたくないのは親心だろう。だが、アインは自分で戦おうとしている。その意思を尊重することも親の務めだ。
「分かった。だけど、絶対に無理はしちゃダメだからね。俺とウォルフさんが前面で戦うから、アインはサポート。良いね!?」
「うん! 約束する。パパを守りなさいって言われたし」
悲しい言葉に吹き出して笑った。アインを信用しての言葉だろうが、俺の力量もバカにしてもらっては困る。
アインの方が強い可能性は否めないが。
「あれ? 君もいるの? 早く避難した方が良いよ? ここは僕たちが何とかするからさ」
ゴーストに近づき言った。縮こまったゴーストが顔を上げてアインを見つめる。
しばらく見つめると、ふよふよと浮いて村に戻って行った。その姿にアインは手を振って見送る。
息子の優しさに感心していると、地を鳴らす音が聞こえた。
「敵さんのご登場だぞ? 準備は良いな、マサヨシ、アイン?」
腕組みをして前を見据えたまま言った。
「はい、行けます!」
「じいさ、任せて!」
百体以上はいるであろうスケルトンに対して、こちらは三人。だが、ただの三人ではない。守るべきものを持った三人なのだ。
迫り来る破壊者とそれを阻む守護者。三人の戦の幕が切って落とされた




