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ようこそ、エルム村

 なだらかな下り坂を進むと、ほどなくして村へとたどり着いた。


 遠くから見た通り、家から覗く光はさほど多くはない。

 どうやら街道沿いにあるようで、道を挟むようにして建物がいくつか立っている。

 離れた所に家もあるので、ここ等辺一帯を村と言っているのだろう。


「悪いが、村長に君の事を伝えなければならない。宿屋に泊るなら、その後にしてくれ」

「え? どうしてですか?」

「他所の国の者だからな。何者かだけは調べておかないとならんのだ。なぁに、簡単に終わるよ」


 はぁ、と生返事をした。これは少し不味いかもしれない。

 俺一人で旅人なら良いが、赤ん坊連れだ。子連れなんちゃらじゃあるまいし、確実に怪しまれる。

 そうこうしていると周りの家に比べて、一回り大きな赤レンガの家が現れた。


「じゃ、行こうか」

「は、はい」


 男性がドアをノックする。中からしゃがれた声が聞こえた。


「誰だ?」

「村長、イーサンです。旅人を連れて参りました。入ってもよろしいでしょうか?」

「うむ。入りたまえ」


 村長の了承を得ると、イーサンと呼ばれた男性がドアを開ける。

 ぼんやりとした明かりが家から射してきた。

 イーサンが中に入るように手を出したので、軽く会釈をして中に入る。


「あの、失礼します」


 部屋の中には一人の老年と思われる男性が椅子に座っていた。

 俺を見ると手招きをした。


「すまんな。少し目が悪いものでな。君の顔をよく見たい」


 村長の言葉に頷く。

 ろうそくが照らす部屋の中は、どことなく温かみを感じる。

 現代でいえば、レトロな部屋だ。木造りの家具が多いせいもあって、更に心を落ち着かせてくれた。


「珍しいかな?」

 

 村長の言葉で我に返った。


「いえ、そんなことはないです。あのぉ……何を話せば良いのでしょうか?」

「君の思うがままに話して欲しい。まぁ、細かくは聞かないよ」

「えっと。俺は旅……人です。この子を連れて、旅をしてます」


 嘘を吐いた。とはいえ、下手なことを言えば、ただの変人に扱われるのがオチだ。

 今は少しでも警戒されないようにしなければ。


「そうかそうか。村に滞在してもよろしい」

「えっ!?」


 たったこれだけで終わり? アルバイトの面接だって、もう少し長いぞ。


「あの、もう良いんですか?」

「ん? 構わんよ。君は悪さをするようには見えないからね。それに、赤子をひしと抱いておる姿を見れば、赤子泥棒でもなさそうだしの。それに安らかな顔をしておる。君は悪い人間ではない。という事だ」


 優しい声色で村長は言った。

 思わず涙腺が緩んだ。すぐ目に力を入れて堪える。泣いている場合じゃない。

 まだ、これから必要なことがあるのだから。


「イーサン、この者は大丈夫だろう。どこか休む場所を提供してやりなさい」

「はい、分かりました」


 イーサンに連れられて、村長の家を後にした。

 道すがら、イーサンは俺と赤ん坊の顔をまじまじと見てきた。


「本当に珍しい旅人だ。村長があっさりと認めるとはな」

「あ、優しい村長さんで良かったです」


 乾いた笑いをした。あっさりどころではない早さだった。


「優しいか。普段はもうちょっと厳しいんだがなぁ。そうだ、君の名前は?」


 イーサンの問いかけに唾を飲みこんだ。

 何て言えば良いんだろう。ここで変に言うのも。


「あの、結城です。イーサン……さんのフルネームって何ですか?」


 イーサンさんって呼びづらっ!


「ユウキか。俺はイーサン・ブリッケンだ。よろしくな」

「ブリッケンはご家族を示す、お名前ですか?」

「おお。そうだよ。どうかしたか?」


 そっちだったか。英語圏と同じ呼び方なら、そちらに合せよう。


「あ、いえいえ。何でもないです。そ、そうだ。俺は正義・結城です」

「マサヨシ? 不思議な名前だな」


 ですよねぇ。何で、よりにもよって英語圏のような場所に神は送りやがったんでしょうね。

 怒りに打ち震えていると、赤ん坊がぐずりだした。


「おお~、よしよし。大丈夫だよ。大丈夫、大丈夫」


 腕の中で赤ん坊を少し揺する。少しの間つづけると、また寝息を立て始めた。


「可愛いもんだなぁ。この子は君の子かい?」

「は、はい! 俺の子供です、はい」


 イーサンの言葉に体が大きくビクついた。

 また嘘を吐いた。どれだけ嘘を吐けばいいのだろう。心苦しくなってきた。


「君の子に思えない程に可愛いな」


 失礼な! とは言えなかった。確かに可愛いし、俺とは比べものにならない程、カッコよくなりそうだ。

 きっとハーレム能力のせいだろう。ん? もしかしたら、その力によって簡単に受け入れられたのか。それならこの子、マジで神。

 神から押し付けられた子だった。


「名前は何て言うんだい?」


 ハッ!? しまった。完全に失念していた。これには何て答えれば良いのか。

 名無しの権兵衛です。とは言えない。考えろ、考えるんだ、俺。


「あ~……い~……う~ん」

「アーイーウーン?」

「ち、違います! あ、そう! アインです。この子はアイン」


 とっさに出た名前の割には、出来が良い。

 イーサンは頷いているので別段、不思議な名前でもなさそうだ。


「じゃあ、マサヨシとアインちゃんには、ここに泊まってもらおうか」


 イーサンが立ち止まった場所の前には、大きな二階建ての建物があった。

 こんな立派な所で?

 

「あの、ここに泊まっても大丈夫なんですか?」

「ああ。ここは宿屋だからな。とりあえず、今日はここに泊まるといい。話をつけに行くから、ちょっと待ってな」

「はい。ありがとうございます」


 イーサンに向けて深くお辞儀をし、宿屋に入る姿を目で追った。

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