涼を求めて
炎天下の中、校庭で体育の授業を行っていた。
太陽からさんさんと降り注ぐ光によって、肌が焼けるように熱い。産毛が燃えて縮れるのではないかと思う程だ。
過酷な環境の中、生徒たちは楽しそうに叫びながら、逃げ回っている。
「カバディカバディカバディカバディカバディカバディ」
まさかのカバディのブームが到来していた。
そもそもネタで教えただけなのだが、鬼ごっことはまた違った楽しさがあるようだ。
逃げる守備側の生徒を、攻撃側の生徒がカバディと連呼しながらタッチしようと追いかける。
この暑い中、更に暑くなるような光景を見せられて、滲み出る汗が増えている気がした。
子供たちのタフさを目の当たりにして、少年時代の頃を思い出してしまう。エアコンのある世界は最高だったなと、ひしひしと感じている。
ひとしきりカバディに興じた生徒に校内での授業を告げると、ブーイングがそこかしこから上がった。
問答無用で生徒たちを校内に押し込み、算数の授業に取り掛かる。
「せんせぇ~、暑いよ~。お勉強、やめよ~?」
いがぐり頭の少年、ハンスが授業をボイコットし始めた。その言葉を皮切りに、またブーイングが巻き起こる。
確かに、今年の夏は普段の夏より暑い。だからと言って、授業を止める気は更々ない。
「ハンス、暑い中でも頭を働かせないと。暑い日は仕事できません、って言えないだろう?」
「え~! じゃあ、何かすずしくなるような事しようよぉ」
「涼しくなる事? ん~、それをしたら授業を真面目に受けるんだな?」
「う、う~ん」
歯切れの悪い了承なのか、唸っているだけなのか分からないことをハンスは言った。
「受けるかな?」
強めに出る。これで約束をとりつければ、今年の夏の授業は静かに進行できるだろう。
「う~、わかったよぉ」
「よし、他のみんなも良いね?」
一人の約束から全員の約束事に持っていく。ボイコットの主導者となり得るのはハンスだけではない。
我が息子のアインも無言での抗議をしている。何故、魔法の勉強は真剣にやるのに、俺の授業には真剣に取り組まないのだろうか。何か悲しくなってきた。
「先生、良いよぉ。俺、賛成」
「私も賛成!」
「ボクもぉ」
口々に賛同の声が上がった。厄介な人物はこちらの手中に収まった。無言で目を伏せているアインを除けばだ。
「よし、分かった。先生が何か考えてやろう。良いか? 涼しくなったら、約束を守るように」
俺の念押しの言葉に、了承の声が上がった。我が息子を除いて。
・ ・ ・
木剣同士がぶつかり合い、鳴らされる高い音が少し心地よく感じる。
アインが小ぶりの木剣を構えて、ウォルフと対峙している。
「どうした? まったくこちらに届いておらんぞ?」
息が全く乱れていないウォルフとは対照的に、動き飛び跳ねて斬撃を繰り出しているアインは息が上がりつつある。
「無駄な動きが多いな。父親の剣を見ていたのではないのか?」
「うぉぉぉ! じいさー!」
「だから、大振りが……過ぎる!」
木剣同士がぶつかった瞬間、ウォルフの木剣がアインの木剣に絡んで、宙に飛ばした。
「まだまだだな。素振り百本したら、また相手をしよう」
「うぅぅぅ……。一、二、三、四」
ウォルフに従って、アインは素振りを始めた。
魔法の勉強ばかりをしていたので、剣については興味がないと思ってはいたが真剣に稽古に取り組んでいる。
ここでも俺の授業との差があり過ぎて、悲しくなった。
俺がしごかれていたのを見ていたアインが、剣の稽古に名乗りを挙げたのは七歳の頃からだ。それ以降、魔法学校に行く以外は放課後にウォルフと稽古をしている。
八歳になったアインの剣技は俺から見てもまだ稚拙であったが、腕の上達には目を見張るものがあった。これも準チートのお陰であろう。
「マサヨシ、次はお前の番だ。父親らしい所を見せてやれ」
真剣な顔をして、重い言葉を口にされた。思わず身が引いてしまいそうだが、息子の前で醜態は晒せない。気張ってウォルフの前に立つ。
「よろしくお願いします!」
「かかって来い」
ウォルフの言葉通りに足を踏み出して、お互いの間合いに入ると剣戟が始まった。
・ ・ ・
「いやぁ、アインちゃんの上達っぷりには感心しますね。ウォルフ様が手加減をしているとはいえ、切り結んでいるのですから」
グロウスが俺の横に立ち、アインを見つめながら言う。事実なので、俺も頷く。
「すごいよなぁ。俺とは大違いだよ。すぐに抜かれて行くんだろうな」
少しだけ自嘲していると、グロウスが真面目な顔をして俺を見る。真剣な眼差しが怖い。
「お父様の剣技はかなりのものですよ? ウォルフ様もあまり手を抜いておりません。時々、光る様な剣を振るっております」
「そうか? 手加減されてる感が拭えないんだけど?」
「あの方の前では、そう思われることは仕方がないでしょう。私が戦ったとしても、おそらくは簡単に捻られるでしょうし」
剣士として名高いグロウスをもってしても、勝てないと言わしめるウォルフの底なしの強さを知った。
そんな人を師として稽古をつけてもらっている事に、改めて驚きと感謝の念が湧いてくる。
「これはとんでもなく光栄なことかもしれないな」
「ええ、まったくもって、そう思います」
「お前は何時まで経っても、稽古をしてくれないな」
「うっ!」
グロウスが肩を落として、思いっ切りため息を吐いた。また亡霊のような雰囲気を漂わせている。
俺やアインには直接稽古をしてくれるが、グロウスについては口での指導しかしない。その差を悲しく思ってしまう。
「ま、俺の稽古をしてくれて嬉しいよ。いつも、ありがとな」
「いえいえ、お安いご用です。いずれはアインちゃんの相手をしたいものですね」
「……多分、しないと思うぞ?」
「したくなるような強さになってみせます。打ち合った後に芽生える熱い感情を共有したいものです」
「……その考えがある内は、しないだろうな」
グロウスの思惑に思わず身震いしてしまう。身震いをして思った。
「なぁ、グロウス、ちょっと聞きたんだけどさ?」
グロウスに問いかけると頷いたので、話を続ける。
「この国に、肝試しってあるか?」
グロウスが首を傾げて不思議そうな顔をした。




