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魔法使いアイン

 前回の魔法発表会と同様に、スタジアムにて魔法の練習を見る事となった。

 スタジアム内は発表会とはまた違った雰囲気に包まれている。それは親が見ていることが大きいのかもしれない。

 親の前で恥ずかしい姿を見せたくないとの思いが強いのだろう。自分の過去を省みれば、その気持ちも察せる。


 灰色のローブをまとった先生が授業の説明を始めている。

 どうやら説明が終わったのか、生徒が二列に並び、一列目の生徒が杖を構えた。

 杖を向けられた先には案山子のようなものがあり、一人につき一体ずつ並んでいる。


「今回の魔法は相手の行動阻害魔法です。では、最初の魔法はフレイムサークルです。始め!」


 先生の掛け声に応じて、それぞれの生徒が一斉に魔法を唱えた。

 案山子の前に火球が着弾した瞬間、案山子を取り囲むように炎の輪が出来上がると、高々と燃え盛った。

 だが、燃え上がり方には生徒によってばらつきがある。天井にまでつかんと火柱を上げているものもあれば、案山子の視線と変わらない高さのものもあった。


 炎が治まると、参観者から大きな歓声が上がる。我が子の魔法を口々に褒めている。だが、中には不甲斐ないという声も聞こえた。

 思った通りにできた者、思った以上にできた者、思ったよりもできなかった者を、参観者のそれぞれが目の当たりにする機会なのだ。失望する声も上がるのは仕方がないのかもしれない。 

 その歓声に応えるかのように、生徒は客席に目をやる。これも良い悪いがあるので、可哀想に思う生徒もいた。

 

 一列になっていた生徒たちが後ろに下がり、代わりに二列目の生徒が前に出る。

 アインが朗らかな顔をしてこちらを見た。変に緊張はしていないようだ。ただ、まったく緊張感が伝わってこないので、それもどうかと思う。

 そう思って見ていると、アインとやりあったルシーヌも同じ列にいた。


「あらん? ルシーヌちゃんもいるのねぇ~」


 ジーンも気付いたようだ。ルシーヌとアインのやりとりを見て、何か思うことがあったのか少し気にしている感じがした。

 そんなことを考えていると、炎の火柱が上がっていた。しまった、アインの魔法を使った瞬間を見逃した。

 残念に思っていると、アインが放った魔法の炎が高々と昇っている。


「これは……。お父様、すごいですね。この中でも一、二を争うレベルですよ」


 グロウスの呟きに同調しようとした時、もう一つの火柱が目に入る。

 こちらもアインの炎に負けずとも劣らないものだった。使用者を見ると、ルシーヌであった。


「ルシーヌちゃんもすごいのぇ~」

「ラドール卿のご息女だけありますね。成長が楽しみです」


 グロウスの言葉を聞いて二つの意味での楽しみに聞こえて仕方がない。

 嫌な想像をしていると、炎が静まっていく。完全に火が消えると観客席より歓声が上がる。

 他の参観者と同じく、息子を褒め称える声を上げた。

 

 アインもこちらを見て笑みを浮かべている。

 誇らしい息子を見ていると、一人だけ観客席を一瞥することなく後ろに下がった生徒がいた。ルシーヌである。


   ・   ・   ・


 授業が終わると、お昼休みとなった。

 今回は特別に学校の学食で親と共に食事をとれるとのことで、アインと合流して全員で学食に向かう。

 魔法を何度も使用した割には、全然元気なアインを見てグロウスは驚いていた。俺とジーンは苦笑いだ。


 授業のことを語りながら歩いていると、何かによって総毛立つ。

 突き動かされるように振り返ると、先端が尖った炎が迫っていた。


「エアロシールド!」


 アインの声が聞こえると、目の前の空間がねじれた。

 現れたねじれに飛び掛かってきた炎が飛び込むと、その炎が渦を巻いた、いくつもの風に散らされて消えていく。

 火も消え、風が治まると、視線の先にルシーヌの姿があった。

 何と危険な事を。アインがいなかったら、丸焼けになっていたかもしれない。


「ルシーヌちゃん! なにをするの!? パパとママになにかあったらどうするの!?」


 アインが吠えた。かなり怒りを覚えているようで、普段見たことのない顔をしている。

 しかし、ここでもグロウスは除外されているように感じた。


「ふんっ。冗談よ。当たる直前に消す予定だったの。あんたがいるから大丈夫だと思ってたし。それに」

「ふざけないでよ! 危なかったじゃない! もし、失敗したらどうするの!?」

「わ、私がミスをするっていうの!? バカにしないでよ!」


 子供たちの喧嘩が始まりそうだ。そのままにするのは良くはないだろう。手を叩いて注目を引く。


「はいっ、そこまで。アイン、パパは無事だったんだから、これ以上は止めてあげて」

「でも!」

「ありがとう、アイン。パパとママのことを心配してくれて……。守ってくれて、ありがとう」


 アインの頭を何度も撫でると、照れくさそうな笑みを浮かべた。これで、この場は治まるだろう。


「なに? かんたんに引いちゃってさ! 親にほめられた程度で引き下がるなんて、男の子とは思えない!」


 ルシーヌが噛みついた。少し様子がおかしい。ここまで突っかかってくる必要があるのだろうか。

 そう思っていると、アインが一歩前に出た。


「ルシーヌちゃんもパパとママのところに行きなよ。遊びたいなら、また今度にしようよ」


 先ほどの剣幕ではなく、穏やかな顔をして諭すように言った。

 アインの言葉にルシーヌが歯噛みをして顔を歪めた。


「うっ! うるさい! 私だって……私だって!」


 言うと振り返って去っていった。振り返った時に頬に光るものが見えた気がする。

 何が何だか分からないが、とりあえずは落ち着いたので学食に行こう。


 アインに声を掛けようとした時、ジーンがアインの傍に立った。多分、身の心配をするのだろう。

 アインの頭にチョップが繰り出された。


 あまりのことに唖然としている、俺とグロウス。アインも同じだろう。何事かとジーンに視線が集中する。


「アイン、悪い子ねぇ~。今すぐルシーヌちゃんを追いかけなさ~い」

「えっ? でも、ママ」

「いいから行きなさい。あ、そうねぇ~。ランチも二人で食べなさい。言うこと聞かないとダメよぉ」


 ジーンの言葉の意味が分からず、アインは呆気に取られている。


「さっ、早く行きなさ~い。仲直りして、美味しいご飯を食べてねぇ~」

「う~……、わかったよぉ。じゃあ、行ってきます」


 駆け出したアインの背を呆けて見ていることしかできなかった。

 そんな俺を見たジーンは笑みを浮かべた。何があったのか教えてくれるのだろう。


「じゃ、行きましょ」

「えっ!? それだけ? 何がしたかったの?」

「良いの良いのぉ。あとは当事者間でねぇ~」


 さっぱり分からん。とにかく学食に行って昼食をとろう。

 学食に到着し、ハンバーガーを注文し食す。アインの言う通り、分厚い肉から滴る脂と旨味が絶品であった。

 食事を終えて今日の感想をみんなで話していると、遠くにアインとルシーヌがテーブルについたのが見えた。


「あらん? ふふっ、仲直りしたみたいねぇ~」

「ん? ああ、そういうことか。喧嘩したままじゃ気まずいもんね。流石はジーンだ」

「ん~……、それだけじゃないんだけどねぇ~。ま、いいわん。こっちはこっちで喋りましょ」


 アインたちから目を離したジーンが言う。その言葉が気になって、二人を今一度見た。

 困り顔のアインと、顔をぷいっと背けているルシーヌがいる。当たり前の光景に思えるが。

 疑問を残したまま見ていると、ルシーヌが顔を背けたまま少しだけ笑った。

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