親子面接
ミリエルから楽しそうな低い笑い声が聞こえた。
目を伏せているグロウスの姿を見てなのだろうか。
「グロウスさん、どうかなさいましたの? 体調がお悪いのですか?」
少し意地悪な口調でミリエルは言うと、また低く笑った。
顔色が優れないグロウスに耳打ちをする。
「何か怖いな、お前の婚約者」
「ええ、少々ご面倒な方でして……」
か細い声からミリエルに対する恐怖心を抱いていることは分かった。
婚約者と言っても、親が決めた婚約であれば苦手でも仕方がないか。
「ご都合が良いなら、今からでも式場に向かいませんか? 私は一向に構いませんことよ?」
ん? どういうことだ? 親同士が決めた政略結婚ではないのか?
いや、一刻も早く結婚をすることが重要なのかもしれない。何かしらのメリットがあるのだろう。
「私をお探しになって来られたのでしょう? わざわざお探しにならなくても、お声を掛けていただければ、すぐにでも飛んで行きますわ」
おやおや? 何か違うぞ。今の言葉を素直に受け取ればグロウスに対しての感情は良い事になるのだが。
「ああ、魔法の発表会に出ている場合ではございませんわ。さぁ、参りましょう。私たちの愛の巣へと」
「ちょっ! ミリエルさん、お待ちください。今日は予定がありまして……」
「予定……? それはどのようなものでしょうか? 私たちの婚儀よりも優先すべきことなのでしょうか?」
うぉ! 何か俺を冷たい目で見ている。誤解があっては不味いので、とりあえず弁明しておこう。
何か緊張してきた。咳払いをし、笑みを浮かべて声を掛ける。
「えっと、俺はマサヨシ・ユウキと言います。グロウスさんの友……人です。今日は忙しい中、王都を案内してくれているんです」
友人との言葉に少し詰まってしまったが、これで何とか伝わるだろう。
だが、ミリエルの目からは納得した色は見えない。むしろ、怒りすら覚えているように見える。
「グロウスさん、まさか私よりも、そちらの殿方との時間を優先されているのですか?」
「あ、いえ、俺達がお願いしたのもあってですね……」
「優先されたのですね、グロウスさん?」
グロウスに対する視線がレーザー光線のようになっている。光に照射されて眩しいのか、一向に顔を上げようとしない。
このままだと俺にもレーザー光線が向いて、目が火傷しかねないので弁明をする。
「あの、きっとミリエルさんのことを大事に思っているのでしょうが……。ね、ジーン。アインの頼みを聞いてくれた優しい人なんだよね?」
「えっ? ええ、そうよん。優しい人だから、私たちのために時間を割いてくれたんだと思うわねぇ~」
よし。二人掛かりなら行けるであろう。痴話げんか、とも言えないが、一方的な口撃を終わらせることができるはずだ。
ミリエルの目がジーンに向いた。何か嫌な予感がする。
「……この泥棒猫っ」
「えっ、何のことん?」
「グロウスさん、他所で女を作るなんてどういうことでしょうか!? しかも、子供まで!」
なんですと!? どうしてそんな解釈をするのか分からない。また釈明をしなければならない事だけは確かだ。
「あの、ミリエルさん。ジーンは俺の妻で、アインは息子ですよ? グロウスさんとはただの友人関係です」
「……あなたのような人と釣り合ってる気がしないんですけど?」
「失礼極まりねぇ!」
確かに俺にはもったないない人かもしれないが、ここまで真っ向から否定されると俺のハートが砕けてしまいそうだ。
頭に手を当てて大きく息を吐く。
「じゃあ、グロウスさんは置いていきますので、どうぞお好きに」
「お父様!? お待ちください! 私を置いて行かないでください!」
「バカッ! 余計な事を!?」
何てことを言ってくれたんだ。これは確実に悪い方向に話が向くはずだ。向かない訳がない。
横目でミリエルを見る。見なければ良かった。見た者を石化させそうな怪しい光を放っている。
モンスター以上の力を発しているミリエルから目を背けて、グロウスに再度、耳打ちをする。
「おい、とりあえず逃げるぞ。先に俺たちが行くから、その後を追うように逃げてこい」
青ざめた顔のグロウスが何度も頷いた。先ずは俺たちから退散しよう。
「あの……じゃあ、俺たちは去りますので。あとはグロウスと二人でお楽しみください。ジーン、アイン行こう」
ちょいちょいと手招きをする。グロウスを置いて廊下を進み突き当りを曲がって進む。と、後ろから大きな声が聞こえてきた。
「グロウスさん! グロウスさん! お待ちなさい!」
恐らく合流するだろうグロウスを待ちながら、いつでも逃げられるようにアインを抱っこした。
・ ・ ・
学校内を走り回って、何とかミリエルの追跡から逃げおおせることができた。
ハイヒールを履いているとは思えないスピードで追いかけられた時には、死を覚悟してしまった。
「お前、とんでもない人が婚約者なんだな。怖すぎるぞ」
「お恥ずかしい限りです。彼女は根は悪くないのですが、やや思い込みが激しくて」
ああ、そっちの方か。ヤバい系に見初められてしまった訳だ。そう考えると、グロウスが不憫でならない。
「そういえば、彼女は魔法の発表会に出るって言ってたけど?」
「初耳でした。魔法使いと知っていれば、ここには来ませんでしたよ」
「だよなぁ。偶然って怖いなぁ……。って、そうなると彼女が出る発表会に行くのか?」
「始まってしまえば客席は薄暗いので大丈夫かと。その前に行くのは、ちょっと」
正直、行きたくない。前科持ちの俺たちが次に見つかってしまえば、どんな拷問が待ち受けているか分からないのだ。
ただ、アインの魔法見たい熱が爆発するのは避けたい。発表会を見るにしても、始まるまでの時間つぶしをしなければ。
その時、涙を流しながら俺たちの前を去っていく綺麗な身なりの女の子がいた。その後を同じように綺麗なドレスを着た女性が追いかけて行った。
「何だ? 親子喧嘩か?」
「どうでしょうか……。おや、まさか」
「何だ? 何かあるのか?」
「今日は入学試験の面接があっているようですね」
グロウスの視線の先に目をやると、面接会場との立札が部屋のドアの横に立てられていた
「ふーん、どんなことをするんだ?」
「細かくは知りませんが、校長と教諭数名で面接をするようです」
「なるほどねぇ。ま、普通の面接だな。ちょっと見てみないか?」
俺の言葉に全員が賛同すると、部屋の近くまで進む。
部屋の近くには受付の女性と思しき人がバインダーを持って立っていた。
「あら、面接予定の方ですか? それとも一般参加者でしょうか?」
「あ、今日は発表会を見にきただけなんです。どんなものかと気になりまして」
「そうでしたか。今の時間は一般の方でもご参加できますよ? いかがでしょうか?」
そうなのか? 少し気になってジーンに目をやる。
少し悩んだあとに頷いたので参加を決意した。
「じゃあ、この子を見てもらえますか?」
「随分、小さなお子さんですね。では、お父様とお母様もご一緒にどうぞ」
そう言うと受付の女性がドアを開けてくれたので、部屋の中に入る。
部屋の中は廊下と同様に華美なものだった。ただ、木作りの家具が多いためか、廊下よりも温かみを感じる。
部屋を進むと長テーブルの中心にいる老年の男性を挟む形で、中年男性と中年女性が座っていた。
この三人が面接官なのだろう。何か緊張してきた。頭を下げながら三人の前に向かう。
「あの、今日は一般参加も可能とのことで」
「はい。では、お帰りになられても結構ですよ」
「はやっ! まだ一言だけですよ!?」
驚愕していると、ジーンとアインが並んで入ってくる。
老年の男性があごに綺麗に生やした白いヒゲを何度も撫で始めた。
「これは……。失礼、そちらのお子様は、貴女のご子息でしょうか?」
「俺の息子でもあるんだけど!?」
「ぬっ!? あなたのこど」
「その先は知ってるから!」
何故、どいつもこいつも俺のことを疑うのだ。まあ、見比べられればそうもなるか……。
自分の魅力のなさを再確認していると、老年の男性がアインに近づく。アインが引いている。
「これはすごい……。特待生としてこの子を我が学園に入学させてはもらえませぬかな?」
大体、想像していた通りのことで、俺とジーンは苦笑いを浮かべた。




