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花嫁大捜索

 俺の前に顔を赤らめた女性がいる。上目づかいで俺のことをじっと見つめた。


「私と……結婚してください。アインちゃんを育てさせてください」

「ごめんなさい」


 速攻でお断りさせていただく。女性は涙を溜めて俺の前から去っていった。


 これで何人目だろうか。クレアとお嫁さんの話をして以降、急に求愛されるようになった。

 それが俺に対する愛情なら喜べた、素直に喜べるのだが。


 それはアインへの愛情が強く、俺はもののついで扱いだ。

 最初は思わぬ求愛に喜びのあまり胸が跳ね上がったが、話を聞けば聞くほどアインへの思いを告げられてゲッソリしてしまった。

 エルム村だけではなく他の村からも来たりと、ありがた迷惑な日々が続いている。


 今まで発動していたのかよく分からなかったハーレム能力だが、ここに来ていかんなく発揮しているせいで現在、エルム村での俺の立場は不本意ながら、罪作りな男になっている。

 それは俺でなく、アインに付けるべき称号だと思った。


「おいおい、マサヨシ。また断ったのか? この村の娘、全員をふる気じゃないだろうな?」


 イーサンがからかうように言ってきた。その顔にはいやらしい笑みが浮かんでいる。

 完全に外野だから楽しくて仕方がないのだろう。


「イーサンさん……。俺よりもアインがモテているんですから、そりゃお断りしますよ」

「まったく硬いヤツだなぁ。それでも良くないか?」


 良いわけがない。俺に愛のベクトルが向いていないような人と結婚したいとは思えない。


「やっぱり自分が愛されてからですよ。じゃないと、結婚しても先は見えてますよ」


 言って納得してしまう。今の状況はアインのハーレムを作れる程の魅力が、俺の結婚相手探しに向いているのだろう。

 ママが欲しいのもあるかもしれないが、俺に対する同情も入っている気がする。


「確かにそうだなぁ。アインちゃんはすごいな。このままいけば、国中の女の子を夢中にさせるんじゃないか?」


 顔をにんまりとさせ言った。正直、その可能性は大かもしれない。

 羨ましい……わけではない……わけでもないが、神からの力と考えると素直に喜んべない気持ちがある。

 辛い使命を帯びて生まれた子に与えられた力なのだ。本人が喜ぶかは分からない。よく考えれば俺が言ったのが原因だった。


「そうなる気もしますが、罪作りな男にしたくはないですね。女の子を泣かせるような男には育ってほしくはないです」

「絶賛女の子を泣かせている男の台詞とは思えないなぁ」


 イーサンは更に顔をいやらしいものにしている。適当に追い払うと宿屋へと向かった。

 

   ・   ・   ・

 

 宿屋のドアを開けると、食堂でクレアと見知らぬ女性が話をしている姿があった。


 クレアはアインを抱いており、その女性はアインの頬をつんつんと突いている。

 ドアが閉まった音で二人が俺に目をやった。


 その時、ハートを射抜かれた。


 艶のある藍色のロングヘアーをセンター分けにし、大きな目と茶色の瞳、甘い口元で構成されるバランスのとれたフェイス。

 丈の長い白衣を羽織り、タイトでミニスカートなドレスを着ている。その中には惜しげもなく披露する、たわわに実ったメロンのような胸の谷間が目を引きつけ焦がす。


 目を逸らすと、今度はスカートとハイソックスの間にある健康的な太ももに釘付けになる。

 歳は俺より上のようで、落ち着いた色気を醸していた。


 どこを見てもどう見ようとも、この胸のロマンティックは止まらない。誰か止めてと言いたくなるが、何をしても止まらないだろう。

 鬼気迫る表情をしているであろう顔をなんとか緩めて、女性に向けて頑張って作った、いやらしくない笑みを見せる。


「いらっしゃいませ。クレアさん、ただいま帰りました。そちらの女性はお知り合いですか?」


 是非とも知り合いでいてください。と願った。メロンちゃん(勝手にそう呼ぶ)を横目でちらちら見る。

 いや、見たい訳じゃない。勝手に目が引きつけられるのだ。いや、見たいけど、まじまじと見て良いものではない。


「マサヨシくん、お帰りなさい。ええ、そうよ。こちらの方はジーン・ボレルさん。美容整形専門魔法使いなのよ」


 クレアはメロンちゃんの紹介をしてくれた。ジーンか。名前を聞いただけでも何か震えてきた。

 しかし、美容整形専門とは。


「あら~? 不思議そうな顔をしてどうしたのん?」


 甘い~! 甘いよ、この声。メロンちゃん……ジーンの声は聞いている耳をとろけさせるような響きだ。

 声を聞いただけで鼻息が荒くなる。


「あ! いえ、美容整形の魔法使いって初めて聞いたので」

「あ~、そうよねぇ。基本的には王都や都市部にぐらいしかいないものねぇ~」

「そ、そうなんですねぇ」


 一瞬でも気を抜けばメロンに目を向けてしまいそうな状況で、何とか会話を成立させている。

 鼓動が荒くなってきた。


「ジーンさんの魔法ってすごいのよ。頬のしわや、たるみもすぐに無くしちゃうんだから」

「クレアさん、言い過ぎよん。そんなに効果は持続しないから~、まだまだよねぇ~」

「ずっとは無理よね。でも、嬉しいわよ。若返った気持ちになるもの」


 二人の楽しそうな会話を聞きながら、目に力を入れてメロンを視界にいれないようにする。

 目の周りの筋肉が痙攣して、表情がおかしくなりそうだ。


「あっ! ジーンさん、この人がアインちゃんのパパのマサヨシくんよ。教師をしているの」


 クレアの言葉に驚き、次いでアインを見る。

 そうだ、この子の魅力がジーンに伝われば。そうなったら、アイン目当ての女性になってしまうのか。


「教師なのん? すごいわねぇ~。一人で子供を育てているんですってねぇ。良いパパ」


 おうふっ! ジーンの声で褒められると興奮してしまう。表情筋が痙攣しているのが分かる。

 怪しい男に変わりそうな時に気付いた。アインはジーンへ魅力を向けていないのではないかという事に。


 今までであれば、早い内に女性に何らかの変化があった。だが、ジーンにはそれがない。

 それが意味することは二つだ。一つはアインが求めているママではないこと。これは基準が分からないが、アインなりの選定方法があるのだろう。

 もう一つは何らかの理由で、ジーンにはアインの力が効かない。ということだ。


「あの、ジーンさん。アインを見て、どう思いますか?」


 かなり直線的な質問をする。これの返答次第で俺の運命が決まるかもしれない。


「えっ? 可愛いわよねぇ~。将来は良い男になるんじゃないかしらぁ」

「えっと、それぐらいですよね?」

「ええ、そう思うわよん。どうかしたのん?」

「しゃあっ!」


 思わずガッツポーズをしてしまった。俺の行動に二人の女性は何事かと目を丸くしている。

 あぶねぇあぶねえ。この神からのチャンス……この奇跡をものにしない訳にはいかない。


「あの~、ジーンさんってご結婚とかされてます……よね?」

「え? 残念ながら独り身よん」

「しゃっ!」


 またガッツポーズが出てしまった。これは運命としか思えない。

 今度も女性陣が目を丸くしているが、そんなことは知った事ではない。


「あっ! あのっ! 結婚してください! お願いしゃっす!」


 ジーンに向けて最敬礼をした。

 チャンスは最大限に生かせと言われる通り、俺は真っ向勝負で求婚をする。

 この機会を逃せば汚名だけが増えるか、残念な結婚生活を送るかの二択しかない。

 

 食堂内が水を打ったような静けさに包まれた。

 俺は頭を上げない。上げるのが怖いのだ。俺の心が張りつめている中、ジーンの唸り声が聞こえた。


「良いわよん」


 思わず顔を上げジーンを見ると微笑んでいた。

 心が泣いているのか、体の震えが止まらない。このような喜びを感じたことが今までないのだ。

 だが、本当に俺に対する思いかだけは確認しなければ。


「い、良いんですか? 本当に!?」

「二度も言わせるものじゃないわよん? 大丈夫、嘘はついてないわよん」


 神様! 違う違う。ジーンは、ジーンこそが俺の女神様だったのだ。

 まさか、こんなとんとん拍子にいくなんて。いや、運命の出会いとはこういうものなのだろう。引かれ合えば、求め合うというものだ。

 いや、待てよ。もう少しだけ確認は必要だ。


「えっと、何でOKしてくれたんですか?」

「う~ん、目かしらぁ。良い男の目をしてるわよん」


 良い男の目だと? いつの間にそんな目に変わったのかは分からないが、それで了承してくれたのなら余程良い目なのだろう。

 あまりの喜びに、キモい笑みが浮かびそうなのを全力で止める。その時、ジーンが何かに気付いたよう顔をした。


「あっ、でも言っておくことがあるわねぇ」

「えっ!? 何ですか?」


 ここに来て問題発生か? いや、俺たち二人の前に出る障害など容易く乗り越えることができる。


「私、元男なのぉ」


 ん?

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