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無自覚の中の私  作者: TIRU
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二話

私は、朝起きて自分の手首についているこのブレスレットを見ると、気持ちが悪くなる。リバイバルロボットが出来てから国民全員がつけているこのブレスレットは、自分の行動全てをパターン化するおぞましい機械だ。巷では、リバイバルロボットのおかげで暮らしが豊かになるなんて声をよく聞くけど、そんなことはちゃんちゃらおかいしい、と私は思う。リバイバルロボットが、人の暮らしを豊かにする?皆んなは気づいていないのだろうか、ロボットと人間は決して同じにはなれない、なってはいけないのだということを。死んだ人を'死なせない'マシーンが出来上がっているということを。

こんなことを考えながら朝の支度をするのが美里の日常である。美里が赤ちゃんの頃からすでにリバイバルロボットは普及していたが、美里がこの存在に良いイメージを持ったことは無かった。小さい頃は、周りがあまりにもアレの存在を褒め称えているので、今ほど嫌なイメージはなかったが、成長し、知識を蓄えて行くごとにアレへの嫌悪感が増長していった。大学三年生になった今では、朝からリバイバルロボットの存在について心の中で熱論しているのだから、これはもう末期である。美里自身もそう思う。しかし、そう思い通す自分に一種の誇りすらも感じていた。仲の良いはずの映画サークルのメンバーにでさえ、優越感を感じる時もある。三人がリバイバルロボットについて嫌なイメージを持っていない様子を見ると、私だけが核心に触れている気がしていい気分になるのだ。最初、皆んなが自分と違う考えを持っていると分かった時は悲しかったが、だんだんその感情は無くなった。もしかすると、この優越感は自己防衛の一種なのかもしれない。


朝の準備を終え、三人との待ち合わせ場所に向かう。今日は、大学の講義が無いので、大学の最寄駅にあるファストフード店で集合することになっている。普段、講義が無い日に集まることは無いのだが、昨日龍太から集合を命令するメールがきていた。龍太は時々、いや頻繁に部長であることを良いことに威張りちらすことがある。しかし、それは龍太なりのギャグであると映画サークルメンバーは理解しているので、暖かい目で見守っている。(イラつくときは例外)

しばらくして 集合場所であるファストフード店が見えてきた。美里は時計を見ると集合時間の10分前だった。美智香と龍太は大抵遅れてくるので、まずまだ居ないだろう。いるとすれば、おかしんだ。心に小さな期待を秘め店に入る。店内を見回すと、客はあまり居なかったのですぐにおかしんが視界にはいる。向こうも自分に気がついたようで、小さく手を振る。手を振ってもらっただけで、美里の胸の中は熱くなる。もう3年もの間片思いをしているのに、手を振ってもらえただけで幸せになるのは、ある意味悲しいことである。なるべく可愛い顔を心がけ、駆け寄る。普段部室で素の自分を見られているからって、関係ない。

「さすがおかしん、早いね」

「ちょっと前に来たところだから」

わぁ、なんだかカップルの典型的な会話みたいじゃない?!なんてテンションが上がる。我ながら幼稚。

「美里、なんか頼んで来たら?あいつらどうせ遅いだろうし」

「そうだね。おかしんはそれ何頼んだの?」

「ブラックコーヒー」

「おっとなーー!」

おかしんが口を少し緩め笑う。イケメンなので、笑顔がいちいち絵になる。あまり大胆には笑わず、静かに引き笑いで笑う、この笑顔が美里はとても好きだった。

「あっ」

おかしんが窓の外を見て呟く。窓の外を見なくても、2人のうちどちらかがやって来たのだと分かる。2人きりの時間はもうおしまいだ。しばらくして美智香と龍太が2人で現れる。

「やーやー、セーフ!」

龍太が手を横にスライドして笑う。

「龍太と駅で偶然一緒になったの」

美智香はそう言いながら美里の隣に座り、龍太はおかしんの隣に座った。

「で、龍太。今日はなんで集合したんだ?」

「あぁ、それがさぁ…これ!見て見て」

龍太がカバンから出したチラシを三人が覗く。

「自己制作ムービー大会…?なにこれ、まさかコレに出場しようってワケ?」

美智香の怪訝な声に龍太はすぐに反応し、手を輪っかにしてピンポーーン、と言う。

「今まで、映画サークルらしきことなんてなにもしてなかったじゃん?だから」

「映画は4人でしょっちゅう見るジャーン」

「見てるだけじゃん!!」

見ることも立派な活動だと美智香は言い張る気らしい。

「でも、なんでいきなりそんな気になったの?」

「鋭い、美里。実はやまちゃんに提案されたんだ、昨日」

やまちゃんとは、映画サークルによく顔を出す教授で、オススメの映画をよく教えにくる。優しい教授で、メンバーとは仲が良いので、龍太も提案に乗ったのだろう。

「でも4人で映画なんて出来るのかな」

不安そうに呟いた美里だったが、実はそんなに嫌では無かった。劇とか、やってみたいと思ったことがあるからだった。

「出来るよ!余裕!」

龍太はニカニカ笑って言う。こーゆー、後先考えないポジティブなところが龍太のいいとこだ。

「えー、美智香ははんたーい!演技なんて恥ずかしいしぃ。美里は?反対だよね〜?」

「え、私は、別に良いと思うけど…」

美里は声をすぼませながら言った。

「マジか!!え、じゃあおかしんは?」

おかしんは、たまにはいいんじゃない?と言った。

「えぇ〜…。じゃあ、美智香も賛成する!」

美智香はすぐに意見を変えたので、結局満場一致で映画制作は行われることになった。

おかしんが相手役でラブストーリーが出来たらいいのに…とか密かに美里が考えていることは、まだ誰も知らない。


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