4-1-3.力がものを語る世界
翌日、アレックスとギルドの合同鍛錬は一種のサーカスかの如く、見物人が多く集まっていた。それは英雄のひとり「竜王殺し」がどれだけ有名なのかが伺える。
しかしそれ以上に話題を呼んだのは、アーシャ十字団の錬金術師メルストとの一騎打ちだった。ルマーノの町はふたりの決闘話でもちきりとなっていた。
「あのアレックスが決闘!? 対戦相手は誰だ!」
「アーシャ十字団の錬金術師さ。ほら、前にクモ型魔物の糸で作った強靭な鎧やら安価に作れる石鹸やらを錬成して話題になった……」
「いろんな功績を王国から讃えられてるらしいが、十字団でも特に素性がよくわからない奴だって聞くぞ。実際俺は一度も会ってないしな」
「俺知ってるぜ、まだ毛も生えてないような黒い髪の男でよ」
「目も黒かったぞ。髪も目も黒い奴なんてなかなかいない」
「そういや、なんか小さい村の呪いだか不治の病だかを治したって最近また有名になったらしいな。国王様から正式に名誉錬金術師として勲章を得たらしい」
「とはいえ、あの竜王殺しにケンカ売るとは愚の骨頂だろ」
「いや、それが、アレックスから申し込んだとか」
「冗談だろ? まぁ、どうせ一瞬でカタが付くだろうよ。役職の時点で勝負は目に見えている」
ルマーノの町の中央区――総合ギルド・ルマーノ支部にて、冒険者たちの会話は盛り上がっていた。だが、バルクの酒場に集う男たちとは異なり、メルストの知名度はギルドの中では低く、評判はさほど良くはない。国一番を争う英雄と比較されること自体酷な話でもあるが。
「な、なんだか想像以上に大事になってますね」
決闘の応援ゲストとして、仮設置された席の一番前を用意された十字団一同。今回の決闘のトリガーを引いた者かつ、決闘者に賭けられた報酬でもあるルミアもそこに腰を下ろしていた。
どこか偉そうに腕を組み、目の前の決闘会場となる大広場を眺めつつ、観客として席に座っている町の人たちの声を聴く。
「とーぜんでしょ。あたしの結婚がかかってんだから」
「それはねーだろバカ猫。にしてもあの野郎、俺を出し抜いて竜王殺しと勝負するたぁ、ナメてんにも程があんぞ」
アレックスと対峙したかったのか、戦闘狂のジェイクは舌打ちをした。
「……どっちも、エゴが、すごい」
そう冷静に返すフェミルだが、ヘルムの上に魔導師のフードを被り、それでも尚周囲の視線が気になってやまないようだ。無表情だが脅えているようにも見えなくもない。
「あれ、だんちょーは?」とルミアは見渡す。
「ロダンさんはお仕事で王都の方に」
「また? 年取る程忙しくなってるよねだんちょーって」
「決闘のお話をしたら、とても関心を寄せてましたよ。アコードの次の世代を担うであろう英雄アレックス様と、未知数のメルストさんの戦いは、どのコロシアムよりもおもしろい展開になりそうだとおっしゃってました」
「よく言うぜあんのクソジジイが」
ジェイクが鼻で笑ったところで白い翼が快晴を一瞬だけ覆い隠した。
「は~い、この箱に署名と賭ける金額を入れてくださ~い」
ギルド前の大広場。駅逓局に務める少女のユウは眠気まなこをこすりつつ、白鳩竜のビーンの背に乗って投票用紙を配っている。再び集めたそれを投票箱に入れていた。ギルド恒例の、どちらか勝つか賭け勝負をしているのある。
「うわーメルストさんのところに全然入ってこないねー。あー、ルミアちゃんだ。十字団のみんなはどうするのー?」
ベレー帽をかぶり直し、十字団の席の前に降りたユウは投票用紙を配る。
「あたしは断然メル君」
「黒髪童貞もいけ好かねぇが、あのスカした野郎よりはまだマシか」
「じゃあ、私も……メル、で」
「うーん、どちらでしょうか。メルストさんは紅魔竜や島鮫を素手で屠りましたけど、ポーラー様はあの竜王を討伐した手練れですし……剣の腕を考えると……」
「エリちゃん今までメル君の何を見てきたの? 迷うところないよ?」
「いえ、ここは平等に物事を観なければならない場なので。私情は挟めません」
キリっと反論するが、なんか違うようなとルミアは少し呆れたそぶりを見せた。
「私情あってこそ勝負の賭け事だと思うけど。というかメル君に勝ってもらわなきゃあたしが困るのよさ!」
「つーかお前が首を縦に振りゃ済んだことだろうがよ。早よ出てけや」
「うっさいわね、あたしがいなかったら十字団壊滅まっしぐらでしょ。そもそも離れたくないし!」
「あっ、みなさん! メルストさんが会場に来ましたよ! ほらあそこです! メルストさーん!」
決闘の場を前にやはり気持ちが昂っているのだろうか、感化されやすいエリシアは広場の奥で見つけたメルストを見かけるなり大きく手を振った。もはや大賢者としての振る舞いが見られない。
「エリちゃん先生、メル君に投票すれば?」
「あ、ちなみに大賢者様は審判代表だからねー」
へ? と初めて聞いたような顔をする。構わずユウは「さっきギルドで決まったことだし、まぁあとで竜王殺しさんにお願いされると思うけど。ひいきはできないね~」とのんびりした調子で話した。
残念ながら、呼ばれたことに気づいてはいないメルストであった。
*
少し時間がたったところで、快晴の空に大きな角笛の音が響き渡る。
『それでは最後の特別公演、いえ、これが今日いちばんの一大行事にして大勝負となりましょう! かの英雄"竜王殺しのアレックス"が! なんと決闘を申し込んだァ!』
改めるかのように、ギルド会員にして駅逓局所属の青年チェッカーが司会進行役として拡音響石を取り付けた杖を手に、大広場と集った町の人々へ声を張り上げる。それが起爆剤となり、あちらこちらから歓声が上がった。
「うっわー仰々しいにもほどがあるでしょ、これ俺が悪役になるやつじゃん」
人だかりで埋まったギルド前、唯一ぽっかりと穴が空いたように誰一人足を踏み入れていない決闘会場――大広場の端で、ボクシング選手のように誰かばれないよう大きなローブを羽織り、人混みに紛れているメルストはうんざりとしていた。
まさかここまで規模が大きくなるとは。普通誰もいない河川敷で泥臭く殴り合うのが一対一じゃなかったのか、と一昔前の決闘を思い浮かべていた。
(けどさすがに求婚を賭けた決闘ってのは伏せているよな。女性ファンを減らさないことを考えたらふつうは言わないもんだと……俺の考えが汚れてるだけか?)
黄色い歓声がやけに耳につく。目を向けると可愛らしければスタイルも良い若い女性が数多く集まっている。いわゆるファンというものだろう。自分も前世、女の子に囲まれてきゃーきゃーと言われたい人生だったと妬みの目を向ける。
あの美少女たちを選んだ方がルミアよりよっぽど安全だぞ、と言いたくもなるが人の好みに付け入るほどメルストは子供ではない。思春期ではあるが。
『皆様もご存知の通り、アレックス・ポーラーは数多の種類と数の龍をたった一人で狩り続け、ついには巨人の国"ケイオネスの手"に生息する巨神こと竜王ゼルス・ドーマをその焔聖剣で討ち取った大英雄!
この町に住むかつての大英雄の一人ロダン・ハイルディン軍王を継ぐといっても過言ではない実力は皮肉にもォ! アーシャ十字団に牙を向けた!』
なんとも大げさな言い方だ。演技っぽく見えるも暑苦しく司会は黒い髪を揺らし、青い目を輝かせ、声を響かせる。
『これは軍王を超えるという意味なのか否! これはひとりの女を求めた故に始まった愛の決闘! そこに己の心を突き刺し、堕とした乙女がいたならば! しかしそこに別の男がいるならば! 漢のすべてを賭け! 奪い合うがこの世界の摂理だァ!』
男どもの盛り上がりと同時、大広場へと踏み出した赤髪の剣士。盛り上がる歓声と共に、高らかに腕を掲げ、ギルド入口前の特等席にいるルミアにクールな笑みを向ける。
(おいおい冗談だろアレックス。まっすぐすぎるぞアレックス。メートル原器もビビってへし折れるぐらいストレートだぜ)
信じられないあまり心の声がアメリカン口調になったメルストの予想通り、ルミアは死んだ目を向けていた。嫌なのはわかるが、おまえは少し謙虚というものを覚えろと思ったところで、そろそろ出る幕だと広場の方へ身を寄せた。
『さぁその決闘相手はなんとロダン軍王……ではなく! ラザード国王より特例で名誉秘学博士号を修得したアーシャ十字団の異才な錬金術師! メルスト・ヘルメスだァ!』
意を決して大広場の石畳へと足を踏み出す。アレックスのときの歓声とは比にならないが、多少の拍手と歓声が聞こえてきた。知る人ぞ知るようだ。
『えー……さて、今回の竜王殺しの英雄とアーシャ十字団の名誉秘学博士との決闘について、まずギルド長よりお話を――』
(俺の説明雑っ!)
村を救った名誉は竜王を討ち取った名誉には敵わなかったか。力がものを語る社会の片鱗を感じた瞬間であった。最も、主婦や職人には人気があるがギルドとほぼ関わりがないのも原因だろう。
フェミルでさえ「日中の活動のみかつ、言葉を交わさないこと」を条件に、傭兵や護衛兵としてギルドのパーティに派遣されている。ギルドにとって、アーシャ十字団の中で最も情報量が少ないのはメルストだった。紹介することもないのだろう。
「ぶはっ、あんなひょろっこいガキ相手って、アレックスさんは笑わかせにきてるのか? こんなの一瞬でカタがつくだろ。女一人でわざわざここまで大袈裟にしなくたって」
「けどあの錬金術師って、エリシア大賢者様やあの怪物ふたりと同じ十字団なんだろ? 話じゃ今年加入したハイエルフの槍騎士も続いて活躍しているようだし、団長はあの元英雄ロダンだ。そいつらの中にいるから、やっぱりそれなりに強いんじゃ……」
「そうそう、数か月前によ、バルクの酒場にきた盗賊たちも軽くあしらったんだぞ。俺はこの目でしっかりと見たからな。若いくせしてとんでもねぇ野郎だったぜ」
「大賢者様や団長らが強いってだけの話だ。その話が本当だとしても話の次元が違うし、ともかく"竜王殺し"には敵いっこない。山を丸呑みするほどデカくて、息吹一つで島を焦土にする竜王を、たった一人で討ち取った男だぞ」
「た、確かに……あのアレックスが敗けるとこなんて全く想像できない」
「というか錬金術師だったら精々サポート側だろ。名誉だか博士だかしらねぇけど、前衛出れるほど力は無いさ」
聞こえてくる賛否両論の声。自分のことほど耳に入ってくるものだが、多少の批判でも気にはしなかった。当然の意見だし、自分もそれは認めていた。
だがこれは人々を説得して多数決をする社会的な勝負ではない。一対一、つまりひとりだけ相手して、それに勝てばいいだけのこと。前世ならば前者の方がまだ後者よりは得意分野だった。しかし今は力がある。まったく勝ち目がないわけではないとは思ってはいた。
十字団の座る席が目に入る。ここに来てから半年近く経つ。それなりに応援してくれたらいいなと微かな期待を向けていたが、それが夢のまた夢だったことを痛感した。
ジェイクは腕を組んだままこちらに(どちらに向けているか定かではないが)眼を飛ばしている。フェミルは周りに乗じてぱちぱちと弱い拍手を送っているが、ぼーっとしてただ見ているだけだ。
「メルくーん!!」
唯一激励してくれたルミアに、手を振り返そうとした。だが目を向けると、なにやらジェスチャーで応えようとしており、その顔つきは殺意の塊に等しい。まるで廃棄物同等の下衆に向けるような目つきは、若い女の子がしていい顔ではない。
『骨一本』『残らず』『灰にしろ』
(おまえらちょっとはマシな応援しろよ!)
トドメにクビを切るジェスチャーを向けられるが、まさかアレックスに対しての憎悪のメッセージだとは当人は思うまい。
(というかどこまで嫌ってるんだよ。アレックスさんに実家でも焼かれたの?)
世間外れした曲者たちにとって、世間一般に人気のある人種は好まない傾向が強いのだろうか。あるいは単にアレックスという人間の性格が嫌いなだけか。
「ルミアさんがグッドサインを……! 必死になった顔で応援してくれているのもかわいらしい」
(おまえの目ん玉どんだけ都合いいもん映してんだよ! 前世に欲しかったわその病的なほどまでのポジティブシンキング)
ルミアの隣に立っていたエリシアも応援したがっているようで、うずうずとしていた様子がメルストの目に映る。審判員の代表のため、片方に応援することができないのだろう。
軽い四面楚歌だろうが、構うものかと戦う相手に目を向けた。
「む……見たところ、随分と軽装じゃないか。本気で私に勝つ気はあるんだろうな!」
アレックスでさえ、煮えたぎるような溶岩色の鎧と外套をまとっている。メルストは黒地のシャツとズボンに外出用の白い術服しか着ていないようにも見える。武器も腰に提げた剣くらいしか見当たらない。
「アコード王国の最高峰を相手に手を抜くような真似はしませんよ。こっちだって(ルミアのせいで)けじめつけに来たんです」
「……ふっ、確かにそうだ。むしろ逃げ出さなかっただけ褒めるべきか」
「勝負をしないよりはまだ良いでしょう。やるからには全力で勝ちにいきますから」
すると、会場周りから笑い声が聞こえてくる。小馬鹿にしたようなそれに、あえてメルストは聞き流した。
「ぶっははは! あいつ本気でいってんのか! アレックスに勝つ気でいるぞ!」
「アレックス様ー! そんな陰気な勘違い男一瞬でやっちゃってー!」
笑われるのは心地よくないが、思えば確かに第三者からすれば勝負をするまでもない話だ。そう考えると、この男はメルストをひとりの男として平等に見ているのかもしれない。
(陰気なって、確かに俺は典型的な理系男子だったけども――ヤバいルミアの耳に入ったか、フェミルあいつの爆撃を止めて! てかジェイク笑ってんじゃねーよ! なにが『ごもっとも』だよ!)
女観客に向けて口径の大きいパルスガンを向けたルミアだが、メルストの意志が通じたかのように、フェミルが背後から首裏へのチョップで止めてくれた。ここからでも容赦ない音が聞こえてきたが、ルミアは怯んでいるだけで、気絶すらしていない。
観客の声を背に、アレックスはふっと静かに笑った。
「無謀な勇敢さ……愚勇ともいえるな。まぁ、その決意は嫌いじゃあない」
滲み出る余裕の笑み。絶対な勝利が目に見えているのだろう。
「ちなみにですけど、この勝負であなたが勝ったとして、ルミアが付き合うことを拒んだ場合、どうする気ですか」
「……? 何を言っている。勝者は強者、勝った者に惚れぬ女はおらんだろう」
(こいつ……、そういう環境で育ってきたのか)
ある意味、別の大海を知らぬ蛙だと、メルストは少しだけ、目の色を変えた。
「おいメルスト!! 一発ガツンとかましたれ!」
そろそろ聞き慣れた歓声の中に、期待していなかったはずの声が向けられたことに気が付く。
「バルクさん?」
獣人特有の毛色と獣耳をもつ壮年の巨漢。十字団の家のすぐ近くにある、バルクの酒場の獣人店長が会場の一番前に立っていた。彼の後ろには、そこの酒場でよく目にする町の男たちが声援をかけていた。
「こんだけ支持が少なけりゃあ、ド派手にお見舞いした分だけ相当キモチイイどんでんが返ってくるもんだぜ! 相手が英雄だろうと、俺達はテメェの勝利に賭けてんだからよ」
「おまえがどんだけ強いか見たこともねぇけどよ! なんとなくおまえなら面白い方法で勝ってくれそうな気がすんだ!」
「期待してっぞー、十字団のTHE裏エース!」
「黒髪の兄ちゃん! おまえに賭けてんだから負けたら罰金だからな!」
「俺もだー! 今月分ぜんぶ賭けてんだぞ! 絶対勝てよ絶対に!」
「ウソでしょ」
よく見ると、バルクの横に双子娘のセレナとエレナがメイド服姿のまま来てくれていた。つんとしたエレナはただ見ているだけだが、目が合った途端、獣人のもつふわふわの尻尾が激しく振った。セレナに至っては必死に応援しているが、こんな大勢の歓声の中では、その臆病さを含んだ声はかき消されてしまう。
(きっかけがきっかけだったからあんまり乗り気じゃなかったけど、応援してくれる人がここまでいるなら……燃えてきた)
ここでギルド長や大賢者の話が終わったことに気が付く。まともに聞いていた人は半々だろうか、ろくに聞いていなかったメルストはばつが悪い顔をした。
『――これより一騎打ちをはじめます! 対戦者"竜王殺し"アレックス・ポーラー様と"アーシャ十字団"メルスト・ヘルメス様は魔法陣の中に』
別の司会の声。蒼い塗料で描かれた半径8mほどの大きな魔法陣の中に、ふたりは足を踏み入れる。
「"展開・ポリウーコスの塔"」
エリシアの魔法陣は仄かに光り出し、決闘場の沿線が青く激しく燃えだし、メルストとアレックスの姿は一度蒼炎に阻まれた。炎は大量の火の粉を吹き出し、天高くまで昇りつめては虚空に消え込んでいく。
蒼炎が瞬時に消え去り、現れたのは円柱状に張った大賢者の透過結界。それは両者を安心させた。これで観客の安否を気にせず全力を注げられる。
『ルールを説明いたします。武器や戦術等の規制は無し、お互いベストの手法で無制限の戦闘を行ってください。ただし、決闘者以外からの協力および介入は禁止とさせていただきます』
(無制限って……全力でやれって言いたいのはわかるけど)
目つぶしや金的攻撃もアリってことかとメルストは苦い顔をする。
『どちらかが敗北を認めた場合および意識喪失や損傷で立ち上がれない等、戦闘不能と審査員および最終審判を務めさせていただく大賢者様が判断した場合に、試合を終了とさせていただきます。また、10分以上試合が継続した場合、ヘルメス様の勝利とさせていただきます』
(せめてもの情けってやつか。いや、10分以内に決着をつける気だな)
逃げるが勝ちともいうが、こんな限られた範囲内で逃げ回るのも難しい。
ともあれ、こんなルールを制定するとはなんとも強気だ。勝たせる気が一切ない。
「戦い方は君次第だ。逃げ回るのも良し、10分持ち堪えるのもよし、私を倒すのも……まぁないだろうがそれもひとつの選択だ」
アレックスが剣を抜く。それだけで観客がざわつき、黄色い歓声も上がってくる。
竜の炎に劣らない、神の業火を生み出す炎剣。あらゆる炎を操り、また断ち斬ることができるとも云われる伝説級の聖剣だが、竜王を討伐できたの9割その剣のおかげだろとメルストは疑ってやまない。
同じように、メルストもダグラスの鉄剣を抜く。だが、刃の色は従来の銀閃に輝く鉄色ではない。それは漆色に光沢を放っており、刀身も少し長い。本当に鍛冶屋のダグラスが鍛錬した剣なのかと疑うほどだ。
「黒い剣か、珍しいな」「何でできているんだ?」「自分で錬金したんだろう。あの聖剣に敵うわけでもないのに」
珍妙な剣に、周囲はざわつきの色へと染まる。アレックスも眉をひそめるが、その視線は黒い剣に向けられていない。
「……? 剣で良いのか? 誰しも自己防衛用に剣は持っているものだが、君のはどうも剣術に長けているようには見えない」
十字団ならば、何かしらの武器の扱いに優れていると思っていたようだが、その握り方だけで素人までとは言わずとも、アレックスの期待には至らなかった。しかし、メルストは構うことなく、真剣に返す。
「不慣れですけど、剣には剣で応えなきゃ失礼だと思っただけです」
「フン、良い心がけではないか。ルミアさんと結婚前提でお付き合いしているだけある」
「だからそういうのじゃないですって」
そう言い返したところで、審判の声が響いた。
『両者は位置についてください』
中央へと進み、互いに剣を構えた。
突如空気が変わる。滾るように熱く、しかし凍てつくような闘気。首や喉に鋭い痛みが走ったような感覚。メルストのみならず、観客の誰しもが息をのんだ。剣を握る手に汗がにじむ。
改めて、竜王殺しという異名の意味を知らされる。
「ルミアさん……見ていてくれ」
アレックスが呟いたのを最後に、しんとした空気が張りつめた。そして、
「では――開始!」




