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双黒のアルケミスト ~転生錬金術師の異世界クラフトライフ~  作者: エージ/多部 栄次
第一部四章 錬金術師の波瀾万丈録 王国侵略編
73/214

4-0-2.爆炎機甲の破壊少女

戦闘メインです。単に書きたかっただけです(笑)


 ――カチッ

 

 無数の爆炎が町を、大地を粉砕する。

 次々と巻き起こる巨大な爆発は魔物を飲み込み、咀嚼し、残骸へと吐き捨てる。

 魔物の巨体だけではない。都市の一部だった瓦礫も雨のように降り注がれていく。


「いっ、今のは……っ?」

 神官の少女はまた魔物の襲撃でもあったのかと、呆然と不安が表情に混じる。大賢者のエリシアを見るも、苦笑まじりに唖然としていた。

「これは少々……予想外でしたね」

「あの馬鹿っ、町の人のこと考えてねぇだろ!」


 予想以上の威力と被害に、顔を腕で防ぐメルストもようやく焦りを見せた。仮に巻き込まれたとしても蒼炎の防護魔法が護ってくれるだろうが、考慮してないのもそれはそれで問題だ。



「ンーッ、今日もサイッコーの出来だね!」


 そんなことを一切考えず、金髪を一つに結った華奢な少女は腰に提げた工具の金属音を鳴らし、爆発具合を見てただ感心している。


「……やっぱ80個の中型だけじゃ全滅できないかー。大型3個なら一発だったのに。ま、試したいものはまだまだあるからいっか!」


 時計塔から爆炎を、その紫の瞳で眺める少女は爆発愛好家の機工師"ルミア・ハードック"。見た目とは裏腹に先端技術を担う技術者なだけあって、その容姿は故郷に倣ったスチームパンクの服装。故に、この国では異様だろう。

 手に持っていた有線付属の起爆スイッチを離し、ゴーグルをつけると、何のためらいもなく塔から飛び降りた。


 ルミアの視界には魔物の数と位置しか映っていない。頭上高く飛ぶ飛焔竜へと手甲具のついた蒸機組の腕(パンクアーム)を伸ばす。


 ――捉えた(ロックオン)


 先端に針の付いたワイヤーが飛び出、竜の鱗の隙間を縫い、首を貫いた。途端、その巨体が痙攣をおこす。電流で痺れているのだろうが、鉤爪状へと展開された針は竜の首から離れない。

 落下速度を弱め、電撃を流すワイヤーを切ったルミアは、近づいた地上へと――巨獣鬼の群の中へと空から突っ込む。

 3m~5m体27頭、6~10m体11頭、3m以下およそ40頭。

 なかなかの密集具合だ。が、どうってことない。


「あーらよっとぉー!」


 着地はせず、代わりに手甲からのガス爆発で落下の衝撃をはね返した。反動で真横へと回転しながら吹き飛んだ身体は、その推進力を武器に、巨獣鬼を爆速で滑らかに切り裂いていく。


 彼女の両手にはふたつのソードブレイカーが握られており、巧みな剣技もあってか、鋼の肉体を持つ巨獣鬼の脈や柔い部分を瞬時に見極めて、一瞬で仕留めていく。

 減速すれば腕や脚部に武装した爆射機ライトジェットで魔物を散らしつつ加速し、殺傷力を高める。驚異的な動体視力と精密な視力に加え、重心や人体の常識範囲内の動きを無視し、しかし無駄なく駆使できる彼女ならではの成せる業だろう。


「あーもう、切れ味もう悪くなったの?」


 ついに、凍る地面に足を着ける。呆れながらも両のソードブレイカーの刃先を魔物に向けた。


 射出。弾丸の如き速度で放たれた刃は魔物の開いた口を穿ち、頚椎けいついを貫く。

 装填。予備のカッターを装着する。向かってくる猛威に目を向けず、踵から爆発を生じさせ、蹴り一発、そのまま回転を活かし二度、斬りつけた。

 乱射。驚異的な跳躍力で遠方から飛び掛かってくる魔物の動きはとうに把握されており、ソードブレイカーと共に装着されている拳銃を始め、腕に仕込まれている爆撃銃で撃ち落とす。その反動を活かし、宙を舞う。魔物の群に鎌鼬かまいたちが通り、身を怯ませる――その足元に十数のりゅうの玉がねた。


「はいドーン♪」

 爆撃の合唱が再び奏でられる。高威力の爆炎と衝撃波を背に、激しい風が金髪をなびかせる。


 たったひとりの銃撃戦。それは酷なほどまでに、彼女の独壇場となっていた。

「ん~気持ちいーね! これこそ芸術の爆発というか。ここのところずっと平和で退屈で溜まってたし、最高最高……ん?」


 楽しそうなルミアの目の前に空から突進してきたのは一頭の腕が発達した竜。

「やばっ」


 剣を納め、両腕のガス爆発で竜を攻撃しつつ、吹き飛ぶ自分は回避。射出させたワイヤーで方向転換し、滑る街道に足を着ける。

 建物に怪物の巨躯が突っ込むも、すぐに起き上った。


 その間にルミアは空へガスペイント弾を放つ。警鐘レベル2の黄色。

 それはSOSでもあるのだが、ルミアの意図は"大賢者エリシアへの応援要請"――武器の支援だ。


「さっすがに力勝負じゃ勝てる気がしない。けど!」


 大賢者は気づいてくれた。ルミアの上体や脚部に蒼い炎がどこからともなく生じ始める。


 転移魔法。それを確認する前に、ルミアは勝利を確定し、竜の方へと駆け出していた。

 優に5mを越える陸地型の飛焔竜ドラゴンは上体を大きく発達させ、ハンマーのような両腕をより膨張させた。


「それはひとりだけの話!」


 纏う蒼炎から切り抜け、ルミアの身に転移装着されていたのは機械がむき出しになった機動ジャケット。"蒸機装甲スチームスティール・アームズ"という名前があるが、それは名付けた開発者ルミアだけが知る話。


 両手足の部位からスチームが噴き、背中の動力盤は歯車のように激しく回りながら熱と光を放つ。

 地面に穿たれた竜の殴打を瞬発的な速度で避け、その腕を横から殴った。ヴゥン、と機動音を唸らし放たれた一撃はまさに爆撃そのもの。力が一点に集中している分、熱量はなくとも威力はそれ以上だろう。


 竜の重心が崩れたところで、脚部の人工サルコメア筋肉スプリングスを膨らませ、ジェット噴射と共に竜の懐へともぐり込む。両腕の鈍重な爆撃機装アームズはパンチングやプレスにも向いている。


 爆発で加速し、爆発で肉体を穿うがつ。爆破と衝撃波のリズミカルな轟音タイミングを刻み、重々しい拳や蹴りを放ち続ける。

 だが、それも長くは続かず、竜は両腕を構え、ルミアを潰さんばかりにのしかかる。


「ちょ、冗談はやめ――」

 巨大な竜の両腕をその巨大な兵機腕アームズで掴む。重さに耐えるべく、全身の人工筋肉は最大に膨らみ上がり、胴、肘、脚部のスチームジェットが豪快に噴き出す。

 バギィ! と地面がひび割れた。


 金属が軋む音はルミアの身体を通じて感じ取れた。長くはもたない。数秒もしない内、マシンごと自分の骨格も壊れるだろう。


「くぅっ、こ、れはっ、マジで……もたな……」

 グググ……、となんとか身を支えて竜の両撃を機械の腕で対抗している。苦しそうなルミアの表情だが、にやりと一変、余裕の笑みを見せた。


「なーんて、にゃっ」

 発した声と同時、ルミアの腕をまとっていた蒸機装甲はガチャンと外側へ展開し、竜の両腕を固定した。竜は抵抗しようにもなぜだか僅かしか動けない。ルミアの脚部から全方位の建物や地面へに放たれた何本ものワイヤー、そして竜の腕に流れている強い電撃が、思うように逃げれない要因になっている。


 ルミアの頭上には赤色のガスペイントが打ち上げられていた。肩から同じ色の煙が漂っているそれは、危険レベル3の警告色。

 掴んでいる両腕の上から、蒼炎が燃え上がる。前腕に固定して出てきたのは――


「ゲームセットさね。最っ高の爆発げいじゅつをプレゼントしてやんよ!」


 対竜爆撃砲ドラゴンキャノンと、彼女は名付けていた。

 竜の口と形容できる、巨大な砲口から解放されたエネルギーはまさに竜の吐く炎(ドラゴンブレス)そのもの。なにもかもを塵へと還し、地の果てまで業火で焼き尽くす。


 竜の息吹をふたつも浴びた竜は、胸部から上が消し飛んでいた。ドグンドグン、とむき出しになった紅蓮の心臓が動いているのを目にする。


「っ、あーなるほど」

 このタイプは。


 ルミアがそう察したときに、竜の肉体は再生をはじめていた。ぐしゅぐしゅ、と肉が動き、細かい泡を湧き出しては、繊維状の何かが絡み始める。


 しかし、それをルミアは許さない。一発の銃撃はコアである竜の心臓に命中し、炸裂した。


「ウチは再戦コンティニューを受け付けてないんで、そこんとこよろしくね☆」


 竜の巨体が倒れ――その背後に群がっていた巨獣鬼に、ルミアはウインクする。

「さーてと。こんだけやっても、まだやる気? あたしは全然かまわないけど、もうちょっと賢い選択はしても……あーそうだね、学習する頭もないかー」


 片腕で構えた長銃を向け、皮肉どころかむき出しの悪意を吐き捨てる。どうせ挑発すら通じないだろうと思っていたが、その予想は一つの例外によって返される。


「ガキがふざけたことを……ッ、たかが下等種族の人間が俺達に敵うはずがねぇだろがァ!」


 前線にいた4m級の巨獣鬼が吼える。

 人間の言葉を話したことに意外性を持ったが、別に珍しいことではない。


 人間にも天才がいるように、魔物にも何らかの過程で知識を身に着け、飛躍的に知能が上昇したという特異個体が確認されている。それが今回、言語という知識を身に着けたに過ぎないが、盗賊あたりから習得したのだろう。言葉がなっていない。


「そーいう慢心が敗けフラグを作るのよさ。にしても流暢に喋れるだけの知能あるやつもいるんだね。なんにしろ、腕っ節が怪物級なだけの、本能のままに暴れる盗賊とそう変わりないけど」

「随分デカい口を叩くじゃねぇか。腹立たしい……舐めんじゃねぇぞ人間風情がァ!」

「舐めてはないさね。取り扱いを知ってるだけ」

「ハァ?」

「ウチにも一匹、怪物がいるからね」


 呆れた口ぶりでルミアの背後――真っ赤な爆発が生じた。しかしルミアはそこに爆弾など仕掛けてもなければ撃ち込んでもない。

 その爆発は血肉でできていた。


「手ごたえねぇなぁおい。所詮ザコはどこまでいってもザコか」


 赤茶色の短髪に翡翠の三白眼。気だるそうな姿勢は、酒で酔っているからか。

 血にまみれた服と剣が、長身の男をより狂瀾に魅せる。だが、その剣士は盾も兜も持たず、身の守りは薄っぺらい胸当てのみ。ギルドや騎士団の誰もが非常識だというだろう。死んでも文句は言えない身なりだが、ふしぎと、この男に死の予兆は感じられない。


 ジェイク・リドル。かつて不死身の殺戮鬼として数多くの悪行で手を染めてきた青年だ。


「こっちに来ないでくれる? 血生臭いし、これはあたしが相手するんだから」

 露骨に嫌な顔をするが、ジェイクは歩みをやめない。


「はぁ? 知ったことかよ、テメェがここにいるのが悪いんだろが」

「おい……人間の分際で俺たちを無視するたぁ、いい度胸じゃねーか!」

 一頭の巨獣鬼が吼える。棍棒を叩き付けた衝撃を走る勢いにして、ジェイクとルミアへ襲い掛かる。


「思い違いもいいとこだろ家畜風情が」


 豹変。

 血に濡れた両手剣を拭くことすらせずに、街道の硬い地面に突き刺した。それは剣を扱っているというより、鋼鉄の塊を力任せに振り回しているといっても過言ではない。


「"四空掌握・波伝(はづたり)――樹絃ジュゲン"!」


 刺した剣は始点。

 衝撃波――大地に大樹が生えたかのように、無数に岐れるヒビが魔物の群の足元へと伝わる。


 その罅は空間を裂く不可視の針。地面を裂いた罅は一部に過ぎず、多くは空間へ――魔物や建物を貫通した。

 勝手に穴が空き、罅割れるように伝い、魔物の血が滴る。氷空を翔ける竜でさえ、鋼皮の翼や四肢に無数の穴が空き、地響きを立てて落下する。


「ちょっ、あたしまで巻き込む気!?」

 危うく魔物と同じ運命をたどりそうになった。ルミアの言葉は通じているのだろうが、無視された。


「にしても……また一段と成長レベルアップしたわね」

 "四空掌握魔法術"。

 空間を実体化させて操る魔法を、この男はいとも簡単に扱っている。視界に移る、およびそのまた先にいるであろう魔物すべてを捉えたと直感が物語ったとき。


「"暴芽バクガ"」


 不可視の大樹は、その枝葉を太くさせ、大きな果実をつける。

 引き抜けないように、抵抗がないように。体内に及んだ針は爆発的な速度で風船の如く膨張し、魔物を異形へと変貌させる。

 剥いた目。狂瀾に満ちた笑みはひび割れた地面のように顔を裂いた。


「――ルルルルルァア!!!」

 数十の鬼と龍を、不可視の紐と一本の剣で結び留め、引っ張った。


 豪速でジェイク一点に牽引・接近してくる虫の息の肉塊たち。まさに雪崩のような光景だが、引き抜いた剣で、それらをすべてさばいてみせた。

 ぶつ切りになる肉風船は、膨張部位から破裂していき、爆風を生み出す。降り注ぐは赤い雨。鉄臭いみぞれが、粘々しい音を立てて都市を白灰から鮮明な赤へと染み込ませる。

 崩落の音を立て、半壊した周辺の建物もすべてが、赤に染まった。


 ――ヒャッハハハハハハハァ!!!


 血に酔う、という言葉がある。

 無差別に斬り捨て、血の雨を浴びる中。狂ったように哄笑する様は、まさにこの男のためにある言葉だろう。開けた大口で降り注ぐ血肉を飲み、


「足りねぇ。まだ足りねぇなァ!」

 ふらりと脱力し、千鳥足になる――途端、その姿は消え去る。地面に小さなクレーターを残し、それは辛うじて保っていた半壊の建物のひざを崩した。


 蒸機装甲を解除テイクオフして盾代わりに血を防いでいたルミアは、上から落ちてくる瓦礫に気が付き、間一髪で避けきる。

「あぶなっ、ねえちょっとぉ! ……あーもう、ホントにあの馬鹿は無茶だけするんだから!」


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